あなたの声を聴かせて

紅羽 もみじ

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事件録4-2

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 再び現場を訪れた平端と塚本は、現場近辺の住人に聞き込み、現場周辺の様子を調べて回っていた。とはいっても、葵が発見された現場は河川沿いに広がる土手の、しかも歩行路から死角になるところで発見された。ランニングやペットの散歩で歩いている住人はいても、民家は現場から少し離れている。その日、土手沿いに走っている人や通りすがりの人間に話を聞いても、事件があったことは耳にしているが、それ以上のことは知らない、という返答しかない。

「…まぁ、この辺じゃ碌な情報出てこねぇか。」
「ただ、葵ちゃんがここで発見されたってことは、葵ちゃんの家か、もしくは学校から近いってことですよね。そこも当たってみましょ。葵ちゃんの反応も何かみられるかも。」

 葵は、現場近辺の土手をじっと見つめては、ぽかんとした顔をしている。まだ、自分が死んでいるということに実感がないようであった。
 塚本と平端は車に乗って現場を離れ、葵が通っていた小学校に向かうことにした。

「……なぁ、平端。」
「何ですか?」
「その、被害者は…、現場を見ても、怖がったりしねぇのか。」
「んー…そんな様子は、なかったですね。むしろ、土手をじーっとみつめるくらいで。死んでるってことには気づいてるかもしれませんけど、理解はできてない可能性がありますね。だって、私とは会話こそできませんけど、意思疎通はできてますし。」
「……それが、いいことなのか、悪いことなのか、わかんねぇな。」
「プラスにとらえましょ。もし、私が霊を感知できなかったら、葵ちゃんはずっと現場でうろうろして、一人ぼっちでした。そうならなかったことは、葵ちゃんにとって、マイナスではないですよ。」
「…そうだな。できるなら、葵ちゃんに伝えてくれ。俺も味方だって。悪いやつを捕まえて、仇を取ってやるからって。」
「…大丈夫です、伝わってますよ。」

 葵は、初めこそ塚本のことを怖そうなおじさん、と見ていたようだが、今はそのような素振りはみせない。平端自身、塚本は今、子どもに手をかけた犯人を捕まえることに必死で余裕がないだけだということはわかっている。それが葵にも伝わり、何となくではあるが、いいおじさん、という印象を持ってすっかり懐いたようであった。
 葵が通っていた小学校に着くと、運動場は休み時間なのか子どもたちが遊び回っていた。葵もその様子に楽しそうな笑顔を見せ、いつの間にか平端のそばを離れて遊具に一目散に駆け出して行った。

「……葵ちゃん、遊具を楽しそうにみてますよ。」
「そうか…、これから、もっと友だちと遊ぶはずだったろうに。」
「行きましょう、先生に話聞きに。」

 平端と塚本は学校に足を踏み入れ、職員室へ向かった。葵は遊具を見つめることをやめて、再び平端の後をついてきた。

「まさか、葵ちゃんが殺されるなんて…」

 担任の女性教諭は、涙ぐんで話をした。葵は担任の先生が好きだったのか、先生を目の前に楽しそうに笑っている。その対照的な様子が、平端に輪をかけて居た堪れなさを感じた。

「あの日、葵ちゃんは帰りに友だちと公園で遊ぶんだ、と言って、楽しそうに帰っていきました。」
「公園、というと、学校から犯行現場に向かうまでのところにある、市民公園ですか?」
「そうだと思います。この近辺に、低学年の子の足で行ける公園はそこしかありませんから…」
「公園から、葵ちゃんの家に帰るまでは、この土手を通る必要はあるんでしょうか?」
「その土手は、通学路でもあったので…、通っているんじゃないかと。」

 担任から大体の話を聞き、平端と塚本は職員室を出た。次はその公園に向かってみるか、と2人が足を運んだ時。

「お父さーん!!」

 元気そうな声で塚本を呼ぶ子どもの声が背後から聞こえた。

「優斗…」
「やっぱり!お父さんだ!」

 塚本は困惑しつつも子どもの顔を見られた嬉しさを滲ませ、近寄ってくる我が子の頭を撫でた。

「お父さん、仕事できたの?」
「あぁ。先生に聞くことがあってな。ちゃんと真面目に勉強してるか?」
「ちゃんとしてるよ。隣のお姉さんも、刑事さん?」
「こんにちは。平端と言います。」
「こんにちは。…ねぇ、お父さん。」
「何だ?」

 優斗は聞きづらそうにしながらも、気になる気持ちの方が強いのか、重たそうな口を開いた。

「……葵ちゃんのことで来たの?」
「お前、知ってんのか。」
「兄弟学級で、僕、葵ちゃんとペアだったんだ。よく、遊んだりもしたよ。」

 兄弟学級とは、学年の違う生徒同士をつなげ、生徒同士の交流を図ることと、上級生が下級生の面倒を見ることを通して成長を図るためのものだ。今はほとんど行っている学校こそ少ないが、平端たちが訪れた学校は続いているようだ。

「僕と葵ちゃん、あと僕の友だちとその下の学年の子達でよく帰り道とか遊んでた。」
「帰り道?」
「うん…、あの日も一緒に帰って、公園に寄ってから帰ったんだ。…公園に行かなかったら、葵ちゃん、死なずに済んだのかな…」

 優斗は、葵の死を公園に遊びに連れて行った自分たちの責任では、と思っているのだろう。塚本は俯く優斗に一瞬、怒りを滲ませながらも、すぐに切り替え、優斗を諭すように、そんなことはない、と頭を撫でた。

「お前たちは、いつものように公園で遊んだだけだ。悪いのは、葵ちゃんに手をかけた犯人。決してお前のせいじゃない。お父さんが絶対に捕まえてやるから、安心しろ。ただ、先生も声をかけてるようだが、しばらくは真っ直ぐ家に帰れよ。お父さんとの約束、守れるか?」
「……うん、守る。だから、お父さんも絶対捕まえてね。」
「任せとけ。」

 その言葉に安堵したのか、優斗は元気に頷いて教室に戻って行った。塚本はそれを見送ると、足早に校舎を出る。平端と葵もそれに続いた。

「葵ちゃん、優斗くんに会えて、嬉しそうでしたよ。仲が良かったんですね。」
「……そうか。」

 葵は、優斗が塚本と喋っている間、嬉しそうな笑みを浮かべて2人を見ていた。優斗と葵は本当に仲が良かったらしく、葵が無意識に発する優斗との思い出が平端にも伝わった。

「ただ、ちょっと心配ですね。あの日も、先輩の息子さんは葵ちゃんと他友人を連れて、公園に行って遊んでたんですよね?」
「……犯人が、見てたかもしれんな。そこで標的を葵に絞って、犯行に及んだのかもしれん。」
「推測の域を出ませんから、一先ず頭の片隅に置いておく、ということで。葵ちゃんから時々、生前の記憶が伝わってくるんですが、犯人らしき人はみてないようで。相当計画を練って犯行に及んでる可能性もあります。」
「一刻も早く、ホシをあげるぞ。」

 塚本は、パトカーを走らせ、葵たちが遊んでいたという公園に向かった。
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