17 / 31
事件録4-3
しおりを挟む
「塚本先輩!ちょっと止めてください!」
「な、何だよ?!」
公園に向かうはずだったパトカーを塚本は一時停止し、平端を凝視した。
「いきなり何だ、何を見て…」
塚本は、平端の視線の先を見た。そこにあったのは、中学校。公立ではなく、私立の中学校だった。小中一貫校の、この近辺ではそれなりに成績が高い子どもでないと入学できない学校だ。一部の生徒たちは、体育の授業をしているのか、トラックを走ったり、走り幅跳びをしたりと、陸上競技をしているようだ。
「あの中学校がどうした。」
「……葵ちゃんが、怯えてます。この中学校に近づいてから、ずっと。」
「怯えてる…?」
平端は、小学校を出た後は普通にしていた葵が、公園に向かう道中に少しずつ異変が出始めていた。どうしたのかと思っていたら、中学校の目の前まで近づいてきた時、まるで地震がきた時に取る防御策のような仕草で伏せ、体を震わせていた。
「後ろで、ずっと頭を抑えて震えてるんですよ。何かあるのかも…。」
「……お前は車を公園まで運転してけ。俺は中学校に話を聞きに行く。」
「え、先輩私も行きます…」
「馬鹿野郎、葵が怖がってんだろ。早く中学校から離れて、公園へ行け。今の葵にはお前しかいねぇんだ、早く行け。」
塚本のいつもと違う気迫の指示に押され、平端は運転席に変わり、公園へ向かって行った。
(先輩…無茶しなきゃいいけど。)
そんな心配が葵に伝わったのか、中学校を離れても不安そうな顔をしている葵。しまった、と平端はいつもの調子で心の中で、葵ちゃん、今から公園行くよ、と呟くと、葵は不安そうな顔から一変して嬉しそうに頷いた。
一方、塚本は私立中学の中に入り、あくまでこの近辺で起きた事件の周辺捜査、と伝え、職員室まで通してもらった。教頭が対応し、一連の事件についてはある程度知っているようだった。
「犯人が捕まるまでは、部活動も中止させて、早く家に帰らせるようにしています。被害に遭っている子はどの子も小学生らしいですが、だからと言ってうちの学校の生徒は安心、というわけではないと思いますし…」
「それが一番かと。犯人検挙には今、警察の全勢力をあげて捜査を行っていますので…。」
「ですが、刑事さん。周辺捜査とはいえ、うちの学校に来られるということは、何か関係が…?」
「や、それが…、」
塚本は、改めて平端を連れてこれば良かったか、と内心焦りを感じた。何せ、この中学に足を運んだのも、死んだ葵が恐怖心を見せたという、非現実的な理由だ。学校に立ち寄った、現実的な理由を塚本は必死で練り上げた。
「今回の被害者は、下校途中で公園に行って遊んでたそうで。その公園に向かう途中で、この中学校が見えたので、お邪魔した次第です。周辺捜査には念を入れてますので。」
少し怪訝に思われたかもしれないが、急ごしらえで作った理由にしては上出来だろうと塚本は内心胸を撫で下ろした。教頭は、そうですか…、と呟き、少し考える仕草をして黙り込んだ。
「どうされました?何か気になることでも?」
「ああ、いえ。気になるというほどのことでもないんですが…。」
「些細なことでも結構です、話してください。」
「…あの市民公園は、この近辺の小学生たちがよく使っていますので、上級生である中学生の生徒たちには、思いやりを持って公園を利用するように、とは伝えているんです。」
「中学生が遊具を占領していたら、小学生の子どもたちは何も言えませんからね。」
「ええ…、ただ、うちも私立で試験と面接で入学するとはいえ、性格までは推し量ることは難しいのです。なので、たまに生徒の中には、普段大人しい顔をしていても、裏では何をやってるかわからない、という子がいるのも事実でして…。」
塚本は、教頭の話から、少年犯罪の可能性を考えた。確かに、エアガンであれば手に入れることは容易。改造などはインターネットで調べれば、いくらでも出てくる。玉の入手方法はわからないが、調べれば出てくるかもしれない。
「そのお話しぶりからいくと、気になる生徒がいるんですか?」
「あ、いえ、そういうわけでは…。ただ、」
教頭はそこまで話をすると、塚本の携帯が鳴った。ちょっと失礼します、と携帯に手をかけると、平端からの着信。通された部屋を出たところで、平端の着信をとった。
「なんだ、どうした。」
「先輩!すぐ署に戻ってください!!重要参考人が現れたそうです!!」
「なんだと?!」
「無線で連絡が入りました。今どこにいます??」
「さっきの中学校だ、署に戻るぞ!」
「わかりました、迎えに行きます!」
塚本は、教頭の話に少し気になる部分はあったが、署に戻ることが最優先と考え、教頭に挨拶をして学校を飛び出した。校門前には既に平端が控えており、車に乗り込んだ。
「このタイミングで何で出てきた、どういうことだ。」
「本部から無線が入ったんです。2人目の被害者の周辺を洗っていた班からの無線で、犯行現場付近で職務質問をしたらその途中で、自宅に逃げ込んだそうです。そこで、捜査官たちが踏み込んだら…」
「改造されたエアガンやらが出てきたってことか。」
「それ以上の情報は、まだ入ってません。署で取り調べを受けてると思います。」
そうか、という一言を最後に、塚本は署に着くまで口を開かなかった。その表情には、怒りが隠しきれていない。
葵は塚本が車に来てから、少し怯えた表情をしているが、平端が大丈夫だよ、と声をかけ、安心させた。
(これで、事件が終わってくれるといいんだけど…)
平端も、署に戻るまで一切喋らず、ひたすら車を走らせた。
「な、何だよ?!」
公園に向かうはずだったパトカーを塚本は一時停止し、平端を凝視した。
「いきなり何だ、何を見て…」
塚本は、平端の視線の先を見た。そこにあったのは、中学校。公立ではなく、私立の中学校だった。小中一貫校の、この近辺ではそれなりに成績が高い子どもでないと入学できない学校だ。一部の生徒たちは、体育の授業をしているのか、トラックを走ったり、走り幅跳びをしたりと、陸上競技をしているようだ。
「あの中学校がどうした。」
「……葵ちゃんが、怯えてます。この中学校に近づいてから、ずっと。」
「怯えてる…?」
平端は、小学校を出た後は普通にしていた葵が、公園に向かう道中に少しずつ異変が出始めていた。どうしたのかと思っていたら、中学校の目の前まで近づいてきた時、まるで地震がきた時に取る防御策のような仕草で伏せ、体を震わせていた。
「後ろで、ずっと頭を抑えて震えてるんですよ。何かあるのかも…。」
「……お前は車を公園まで運転してけ。俺は中学校に話を聞きに行く。」
「え、先輩私も行きます…」
「馬鹿野郎、葵が怖がってんだろ。早く中学校から離れて、公園へ行け。今の葵にはお前しかいねぇんだ、早く行け。」
塚本のいつもと違う気迫の指示に押され、平端は運転席に変わり、公園へ向かって行った。
(先輩…無茶しなきゃいいけど。)
そんな心配が葵に伝わったのか、中学校を離れても不安そうな顔をしている葵。しまった、と平端はいつもの調子で心の中で、葵ちゃん、今から公園行くよ、と呟くと、葵は不安そうな顔から一変して嬉しそうに頷いた。
一方、塚本は私立中学の中に入り、あくまでこの近辺で起きた事件の周辺捜査、と伝え、職員室まで通してもらった。教頭が対応し、一連の事件についてはある程度知っているようだった。
「犯人が捕まるまでは、部活動も中止させて、早く家に帰らせるようにしています。被害に遭っている子はどの子も小学生らしいですが、だからと言ってうちの学校の生徒は安心、というわけではないと思いますし…」
「それが一番かと。犯人検挙には今、警察の全勢力をあげて捜査を行っていますので…。」
「ですが、刑事さん。周辺捜査とはいえ、うちの学校に来られるということは、何か関係が…?」
「や、それが…、」
塚本は、改めて平端を連れてこれば良かったか、と内心焦りを感じた。何せ、この中学に足を運んだのも、死んだ葵が恐怖心を見せたという、非現実的な理由だ。学校に立ち寄った、現実的な理由を塚本は必死で練り上げた。
「今回の被害者は、下校途中で公園に行って遊んでたそうで。その公園に向かう途中で、この中学校が見えたので、お邪魔した次第です。周辺捜査には念を入れてますので。」
少し怪訝に思われたかもしれないが、急ごしらえで作った理由にしては上出来だろうと塚本は内心胸を撫で下ろした。教頭は、そうですか…、と呟き、少し考える仕草をして黙り込んだ。
「どうされました?何か気になることでも?」
「ああ、いえ。気になるというほどのことでもないんですが…。」
「些細なことでも結構です、話してください。」
「…あの市民公園は、この近辺の小学生たちがよく使っていますので、上級生である中学生の生徒たちには、思いやりを持って公園を利用するように、とは伝えているんです。」
「中学生が遊具を占領していたら、小学生の子どもたちは何も言えませんからね。」
「ええ…、ただ、うちも私立で試験と面接で入学するとはいえ、性格までは推し量ることは難しいのです。なので、たまに生徒の中には、普段大人しい顔をしていても、裏では何をやってるかわからない、という子がいるのも事実でして…。」
塚本は、教頭の話から、少年犯罪の可能性を考えた。確かに、エアガンであれば手に入れることは容易。改造などはインターネットで調べれば、いくらでも出てくる。玉の入手方法はわからないが、調べれば出てくるかもしれない。
「そのお話しぶりからいくと、気になる生徒がいるんですか?」
「あ、いえ、そういうわけでは…。ただ、」
教頭はそこまで話をすると、塚本の携帯が鳴った。ちょっと失礼します、と携帯に手をかけると、平端からの着信。通された部屋を出たところで、平端の着信をとった。
「なんだ、どうした。」
「先輩!すぐ署に戻ってください!!重要参考人が現れたそうです!!」
「なんだと?!」
「無線で連絡が入りました。今どこにいます??」
「さっきの中学校だ、署に戻るぞ!」
「わかりました、迎えに行きます!」
塚本は、教頭の話に少し気になる部分はあったが、署に戻ることが最優先と考え、教頭に挨拶をして学校を飛び出した。校門前には既に平端が控えており、車に乗り込んだ。
「このタイミングで何で出てきた、どういうことだ。」
「本部から無線が入ったんです。2人目の被害者の周辺を洗っていた班からの無線で、犯行現場付近で職務質問をしたらその途中で、自宅に逃げ込んだそうです。そこで、捜査官たちが踏み込んだら…」
「改造されたエアガンやらが出てきたってことか。」
「それ以上の情報は、まだ入ってません。署で取り調べを受けてると思います。」
そうか、という一言を最後に、塚本は署に着くまで口を開かなかった。その表情には、怒りが隠しきれていない。
葵は塚本が車に来てから、少し怯えた表情をしているが、平端が大丈夫だよ、と声をかけ、安心させた。
(これで、事件が終わってくれるといいんだけど…)
平端も、署に戻るまで一切喋らず、ひたすら車を走らせた。
0
あなたにおすすめの小説
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
『☘ 好きだったのよ、あなた……』
設楽理沙
ライト文芸
2025.5.18 改稿しました。
嫌いで別れたわけではなかったふたり……。
数年後、夫だった宏は元妻をクライアントとの仕事を終えたあとで
見つけ、声をかける。
そして数年の時を越えて、その後を互いに語り合うふたり。
お互い幸せにやってるってことは『WinWin』でよかったわよね。
そう元妻の真帆は言うと、店から出て行った。
「真帆、それが……WinWinじゃないんだ」
真帆には届かない呟きを残して宏も店をあとにするのだった。
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ワシの子を産んでくれんか
KOU/Vami
ライト文芸
妻に先立たれ、息子まで亡くした老人は、息子の妻である若い未亡人と二人きりで古い家に残された。
「まだ若い、アンタは出て行って生き直せ」――そう言い続けるのは、彼女の未来を守りたい善意であり、同時に、自分の寂しさが露見するのを恐れる防波堤でもあった。
しかし彼女は去らない。義父を一人にできないという情と、家に残る最後の温もりを手放せない心が、彼女の足を止めていた。
昼はいつも通り、義父と嫁として食卓を囲む。けれど夜になると、喪失の闇と孤独が、二人の境界を静かに溶かしていく。
ある夜を境に、彼女は“何事もない”顔で日々を回し始め、老人だけが遺影を直視できなくなる。
救いのような笑顔と、罪のような温もり。
二人はやがて、外の世界から少しずつ音を失い、互いだけを必要とする狭い家の中へ沈んでいく――。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる