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紅羽 もみじ

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最終事件録1-2

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最終事件録1–2
 平端には、先ほど墓参りを共にした月島優子、癌で亡くなった木曽谷直美という2人の友人がいた。高校時代からの友人で特に仲が良く、大学では各々別の学校へ進学したが、進学後も親交が絶えることはなかった。

「直美、今度海外留学行くんだって?」
「え、あんた大丈夫なの?道に迷ったら下宿先に戻れなくなってこっち帰って来れなくなりそう。」
「大丈夫!方向音痴でも、なんとかなるもんよ。」
「その自信はどこから湧いてくるの…」
「ちゃんと防犯対策しなさいよ。こっちと外国じゃ、犯罪率が桁違いなんだからね。」
「はいはい、未来の刑事さん。気をつけまーす。」

 3人は、大学の長期休みや授業の空きコマが合えば、何をするでもなく、カフェに入ってだべったり、ショッピングにいくなり、大学生活を謳歌していた。平端はこの段階で、卒業後は警察官になる、と決めており、大学で学ぶ講義も法律学や犯罪学に関するものを受講していた。優子と直美からは、この頃から『未来の刑事さん』というニックネームまでつけられたほどであった。
 大学卒業後は、平端は晴れて警察官になるための試験に合格、内定。優子は市役所職員、直美はアパレル関係の企業に内定した。平端はその後、警察学校に入ったため、一時期2人と会う機会は激減したが、卒業し、警察官として勤務する頃にはまた、3人の親交は復活。社会人としての生活は、3人にとって決して楽なものではなかったが、その度に3人で愚痴を言い合ったり、ストレス発散にと遊びに行ったりしていた。
 社会人としての生活が始まって3年経とうとした時。いつも通り3人で集まろうとしていた時に、直美が急遽予定をキャンセルする、と2人に連絡が入った。平端は警察官としての職務に追われて、2人から誘われていた予定を急遽断る、ということはままあったが、直美がキャンセルすることは珍しいことだった。

「まぁ直美も民間企業で、結構大きいブランドの会社だしね。忙しいんだろうな。」
「また、日本酒片手に愚痴大会だ。あの子、仕事は楽しいって言ってたけど、上司が怖い人でって言ってたもんねえ。」
「その時は、鬼殺し用意して聞いてやろうよ。つまみも用意してさ。」

 平端と優子は、直美の予定キャンセルに関して、珍しいとは思いつつも、社会人になったらこういうこともあるよね、という感覚で受け取っていた。しかし、このキャンセルを機に、直美は2人の誘いにのることがなくなっていき、流石に2人も心配し始めた。

「…そこで、その友達が癌だってことがわかったのか。」
「そうですね。多分、心配かけまいとしたんでしょう。優子がおかしい、って言って2人で直美の実家を訪問するまで、直美が癌で入院しているなんて、かけらも知りませんでしたから。」
「…お前を責める意味ではねぇが、その直美って子は、強い子だな。その若さで癌だって言われて、怖かったろうに。」
「怖いのもそうですけど、反面早く治して、元の生活に戻してから、私たちに笑い話として話してやろうとか考えてたらしいです。過去のことにしてしまえば、心配かけることもありませんし…。」

 直美の実家で、直美が癌で入院しているという話を聞いた2人は、急いで病院に向かった。そこには、少し顔色を悪くした直美が、ベッドに横たわっていた。

「直美!!」
「優子、声大きい。…直美、…癌だって、聞いた。」
「真江、優子…」

 直美は、2人の突然の来訪に驚きつつ、しばらくぶりに会う2人の友人の顔を見て、嬉しそうに微笑んだ。

「ごめん、隠すつもりはなかったんだけど…。心配するかなって。」
「思いっきり隠してるでしょうが。それに、何回誘っても断ってくるんだから、その時点で心配になるわよ。」
「そりゃそうか…。ごめんね。」
「いいよ、そんなの。…それより、治るの?」
「うん、初期の段階で見つかったから、手術で摘出できるって。来週手術だから、摘出して、経過観察して、大丈夫そうなら再来月には退院できるって。退院が決まったら、2人には連絡しようと思ってたんだけど、その前にバレちゃったね。」
「そっか…手術で治るんだったら、よかった。」
「もう、今度こんな隠し事したら、愚痴大会で鬼殺し用意してやらないから。」
「それはやだなぁ。」

 3人は、しばらくぶりに顔を合わせて笑い合った。直美の言う通り、翌週手術を受け、経過観察した結果、体内の癌細胞は発見されず、退院する頃には入院前と同じくらいの元気さを取り戻していた。3人は快気祝いと称して直美の家に集まり、今までの分まで取り戻すように積もる話をとことん話した。

「…それから、直美の癌が再発したのは、29歳の頃でした。もう少しで、癌が再発する危険のある5年を折り返そうとしていた時だったのに。直美は、私と優子の3人で遊んでいた時に、急に倒れたんです。そして、搬送先で癌が再発していたことがわかりました。」
「…若い者ほど、治りもいいが癌の進行も早いからな。」
「ドクターもそう言ってましたね。しかも、転移した場所が運悪くリンパで。…余命は長くない、と聞かされました。」

 平端と優子は、冷水を頭から浴びたような衝撃に襲われた。そして、医者から聞いた話は頭で理解できていても、もう短くない未来、1番の友人である直美が死んでしまう、という事実を受け入れきれなかった。
 平端と優子は、努めて明るく直美の病室で話をするようにした。直美もそれに応えるように、笑顔で話を聞いていた。病院でもできうる限りの治療が行われたが、癌の進行が止まることはなく、30歳を迎えた誕生日の翌日、容体が急変し、そのまま息を引き取った。

「直美が亡くなる前日、誕生日だからってお祝いに行ったんですよ。直美もいつもと変わらず元気そうで。でも、次の日には病室ですでに動かなくなっていました。…私は、後悔しましたよ。」
「…いろんなところ行って、話したかっただろうよ。」
「それも、ありました。…でも1番後悔したのは、直美が病室で書いていた日記を見た時でした。」

 直美の死後、病室の引き出しから日記が見つかったと、直美の母親から2人に連絡があった。直美の実家に行って、日記を見せてもらうと、見舞いに来る2人への感謝が綴られる一方で、少しずつ自分の体を蝕む病魔への恐怖心が吐き出すように書き連ねられていた。
 直美の母の思いとしては、2人に感謝の意味を込めて、日記を読んでもらいたかったとのことだったが、平端は直美の苦しみに気づいてあげられなかったという深い後悔を抱いた。

(もっと、直美の気持ちに寄り添ってあげられたら…、怖かったよね、辛かったよね…。気づけなくてごめん…。)

「…そこからですね。もとから霊は見えてたんですけど、霊の思念を感じるようになったのは。」
「…そうか。」
「生きてる人間の気持ちに気づけなかった癖して、霊の気持ちを読めるようになって。…これは、私自身がかけた呪いみたいなものです。」

 平端は、自分を責めるように言葉を吐き捨て、塚本は、かける言葉が見つからず、黙したままだった。そして、今回の被害者の友人宅へ到着した頃には、平端はいつもの調子に戻り、さ、早く犯人を捕まえましょ、と塚本を急かすように車から連れ出した。
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