あなたの声を聴かせて

紅羽 もみじ

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最終事件録1-4

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最終事件録1-4
 署から出た2人は、凛子のもう1人の友人、理恵の元へ向かっていた。その前に再び朝香の家にも行き、凛子と誠司の夫婦仲について聞いてみたところ、愚痴程度の話は聞いたことがある、と言っていた。ただ、それ以上の情報を得ることはできず、理恵も何か聞いているかもしれない、と朝香の話から、2人は理恵の住む県外の家へ行くことにした。

「愚痴くらいしか聞いたことがないって言い切りましたよね、朝香さん。」
「まぁでも、夫婦関係がうまくいっていない、ってことを深刻に相談することがなくとも、おかしくはないと思うけどな。何か気になんのか。」
「んー…それはそうかもしれないですけど。」
「でも、気になるんだろ?」
「はい、凛子さんの霊から感じる思念と表情が、どうにも腑に落ちないんですよ。」
「そうか、いいよ。とことん付き合ってやる。」
「……塚本先輩、さっきも言いましたけど…」
「お前に気を遣って言ってんじゃねぇよ、俺も腑に落ちねぇから付き合うって言ってんだ。素直に従っとけ。」
「……わかりました。」

 2人は県外で働く理恵の元へ向かうため、車を走らせた。車の後部座席付近には、凛子の霊が虚しい思念を発しながら悲しげな顔で俯いている。

(殺されて悲しい、っていうことだったら十分理解できるんだけど、何だろう。何に虚しさを感じているんだろう…、何というか、理解してもらいたかったのに、伝わらなかった、っていうようなそんな感じの…)

 凛子が発する虚しさの奥にある理由を思案し続けたが、結局答えが出ることはなく、気がついたら理恵の自宅に到着していた。
 理恵は仕事から丁度帰ったところらしく、身なりは仕事に行くための格好とメイクのまま、2人を迎えた。部屋は綺麗に片付けられており、理恵の几帳面さが感じられる部屋だった。

「お仕事でお疲れのところすみません。」
「いえ、刑事さんたちもお仕事ですもんね。私のことは気にしないでください。」
「今日は、少し聞きたいことがあってきました。そこまでお時間は取らせませんので。」

 平端はそう断ると、凛子の夫婦関係について聞くため、理恵に質問を投げた。

「凛子さんは、数年前にご結婚されていたそうですが、夫婦仲について、何か話を聞いたことはありませんでしたか?」
「…と言いますと?」
「実は、凛子さんの配偶者に夫婦仲について聞いたところ、衝突することはあっても、基本的に仲は良かった、と証言されたんですが、周辺住民からは時折、言い争う声がここ最近も聞こえてきていた、という話がありまして。何か、相談でなくても愚痴とか聞いたことはなかったかなと。」

 そう言うと、理恵は少し顔を曇らせ、何から話すべきか、と思案しているようだった。

「凛子の旦那さん、誠司さんは、私たちの通ってた高校の同級生でした。クラスでも人気者で、スポーツ万能で。常に女子たちから注目される存在でした。」
「同級生ということは聞いてましたが、そんな存在だったとは初耳ですね。」
「今思えば、凛子はその頃から、誠司さんのことが好きだったのかもしれません。高校の頃は、女子たちが水面下で取り合いしてましたから、その輪に入って、万が一誠司くんと付き合うってなれば、嫉妬の標的になることはわかりきっていたので、遠くから見ているだけでしたけど…」
「なるほど…、卒業してからは、誠司さんやその女子たちと接触する機会はありましたか?」
「いえ、ほとんどなかったです。みんな進路はバラバラでしたし…。凛子の勤務先に誠司さんが来たのは、本当に偶然だったんだと思います。」

 理恵は、深くため息をついて、話を続けた。

「運命のようなタイミングで再会して、結婚したときは、凛子は本当に幸せそうでした。ですが、少しずつ合わない部分が出てきたのか、夫婦関係について愚痴を言い始めるようになって。でも、凛子自身は何とか乗り越えようと努力してました。…それも、死んでしまって叶わなくなってしまいましたけど。」
「そうですか…。理恵さんからみて、誠司さんはどんな人ですか?」
「それは、どういう…?」
「ああ、いえ。深い意味はないんですが、それだけ人気者だったなら、理恵さんも想いを寄せてる時期とかあったのかなと。」
「…目の保養、程度です。高校時代は、勉強に部活と忙しかったですから。恋愛とかは、ほとんど経験ありませんでした。」
「そうでしたか、その頃から理恵さんは何事にも全力で取り組んでいらっしゃったんですね。」

 平端は、少し怒ったような理恵の口調に、違和感を感じた。ここまで潔癖に、恋愛ごとを避ける理由がわからなかった。

(いわゆる、風紀委員タイプなのか、それとも、何か別に理由があるのか…)

 理恵と話す間、凛子の霊は車にいた時と同じような悲しそうな顔と、虚しさの思念を振りまいていた。仮に理恵に殺されていたとしたら、少なからず恨みの念やマイナスな面が出てくると思ったが、その様子もなさそうであった。
 2人は理恵宅を後にし、署に戻ることにした。塚本は、運転席で珍しく、表情を曇らせていた。

「……何かありました?塚本先輩。」
「いや、何かというより…。俺の勘だがな。」

 塚本は小さくため息をついて、重たく口を開いた。

「部屋見たろ。…生活感に欠ける部屋だとは思わなかったか?」
「うーん…、整頓されてるな、とは思いましたけど。」
「俺は、お前みたいに霊の思念は読めねぇが、部屋の雰囲気から、何かしら感じ取ったりすることはあるんだよ。長年の経験からな。」
「……何か、気になることが?」
「部屋の壁とか、台所なんかは使い込まれてたから、長いこと住んでることには変わりないんだろうよ。だが、その一方でリビングを見たら、机、テレビ、小さい洋服ダンスくらいしかなかった。ああいう部屋に住んでる人間は、俺の経験則上、注意してみることにしてるんだ。」
「理恵さんが、犯人だと?」
「……いや、というより」

 塚本は、重たい口調で吐き出した。

「……あれは、近いうち自殺を考えてる人間の部屋に、近い。」
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