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第二章
消えた聖女
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昨日の前夜祭は、多少予定外なことや不愉快な事件があったものの、全体的に見れば成功裏に終わった。
獣人族差別禁止法に堂々と違反した聖女は、今日の聖火点灯式への参列と、聖女としての行事への参加を向こう三年禁止され、所属教会へは抗議と警告文が送られることになった。これで、あの司祭だったという男性は、何らかの責任を取らされることになるだろう。
親友があんなに怯えるほど傷つけられたのだから、わたしとしてはもっと厳しく罰してほしいところだが、現実としてはこんなものだろう。
本当に、これでちゃんと反省してくれるといいのだけれど。
さて、それはそれとして。
今日は、ついに建国祭初日です!
夕方に聖火を点灯させるのに合わせて、パレードは午後から始まる。けれど、午前中は暇なのかと言えばそうではない。なぜって、パレードとは、世界中から来るたくさんの人々への顔見せと挨拶なのだ。
つまり。準備が、とっても、大変なのです!
前夜祭で夜遅くまで動いていたので、朝はとても眠い。ほとんど眠りながらお風呂へ入れてもらい、しっかりと洗われる。それが終われば、丁寧に化粧を施され、飾り付けられ、皇女キアラ・ヴァン・バルドゥーラが作られていく。
「完璧です。これぞ最高傑作……」
「はわわわわ……素敵すぎます、キアラ様!」
「あはは。ありがとう」
昨日と違うピンクのドレスは、あちこちに造花がつけられている。髪を巻いたりして、昨日よりも華やかに仕上がっているのは、パレードでは遠くから見る人が多いからだ。目立つように、これくらい煌びやかにしたほうがいいらしい。
わたしは首もとに光るネックレスに、そっと触れた。するとそれを見たリリアンが、ニコニコと声をかけてくる。
「そのネックレスとイヤリング、今日のドレスにも合うデザインで、よかったですね!」
「えっ? あ、うん、そうね!」
昨日ノアにもらったネックレスに、無意識に触っていたみたいだ。どうしてだろうと首を傾げる。
これをつけているだけで、なんだか嬉しい気持ちになる。まるでそういう魔法がかけてあるみたいだなと思いながら、そんなわけないよねと、小さく笑った。
軽く昼食を済ませようと、サンドイッチをつまんでいると、部屋のドアがノックされた。
「あら、どなたでしょう?」
リリアンがドアの方へと向かう。
もうすぐパレードが始まるというのに、来客の予定などあるはずもない。
なんだか嫌な予感がする。
やってきたのは、確かいつもセラについてもらっているメイドだった。困ったような、焦ったような顔で、恐る恐る話し始める。
「あの、お忙しいところ、申し訳ございません。皇女殿下は、こちらにいらっしゃいますか? セラ様について、お聞きしたくて……」
「皇女殿下はおられますが、セラ様ですか?」
……まさか、セラに何かあったの?
「セラが、どうかしたの?」
「恐れ入ります。先ほど、庭園へセラ様を呼び出されたかと思うのですが、その後セラ様がどちらへ行かれたか、ご存知ではないかと思いまして……」
ドクン、と心臓が音を立てた。
「……いいえ、わたしは呼んでいないわ」
そう言うと、メイドは顔色を失くして、両手でバッと口元を押さえた。
「そ、そんな。皇女殿下からの伝言を伝えに来た新人のメイドが、皇女殿下が呼んでいるから、セラ様に庭園まで来るよう伝えてほしいと、確かに言っていたのですが……」
サッと血の気が引いた。
「それで、セラは一人で向かったの?」
「は、はい。一緒に行こうとしたのですが、今日の準備があるから忙しいでしょうとおっしゃって、お一人で向かってしまわれて……。でも、なかなか帰ってこられないので、心配になって庭園へ行ってみたのです。でも、誰の姿も見当たらなかったので、おかしいと思い……皇女殿下ならば、何かご存知ではないかと……」
誰かがわたしの名前を使って、セラを呼び出したことは明白だった。そしてセラは、その後その誰かに、何らかの危害を加えられて身動きが取れない状態にされている可能性が高い。
「も、申し訳ございません! 私……」
「謝るのは後よ。セラを、助けに行かなくちゃ!」
獣人族差別禁止法に堂々と違反した聖女は、今日の聖火点灯式への参列と、聖女としての行事への参加を向こう三年禁止され、所属教会へは抗議と警告文が送られることになった。これで、あの司祭だったという男性は、何らかの責任を取らされることになるだろう。
親友があんなに怯えるほど傷つけられたのだから、わたしとしてはもっと厳しく罰してほしいところだが、現実としてはこんなものだろう。
本当に、これでちゃんと反省してくれるといいのだけれど。
さて、それはそれとして。
今日は、ついに建国祭初日です!
夕方に聖火を点灯させるのに合わせて、パレードは午後から始まる。けれど、午前中は暇なのかと言えばそうではない。なぜって、パレードとは、世界中から来るたくさんの人々への顔見せと挨拶なのだ。
つまり。準備が、とっても、大変なのです!
前夜祭で夜遅くまで動いていたので、朝はとても眠い。ほとんど眠りながらお風呂へ入れてもらい、しっかりと洗われる。それが終われば、丁寧に化粧を施され、飾り付けられ、皇女キアラ・ヴァン・バルドゥーラが作られていく。
「完璧です。これぞ最高傑作……」
「はわわわわ……素敵すぎます、キアラ様!」
「あはは。ありがとう」
昨日と違うピンクのドレスは、あちこちに造花がつけられている。髪を巻いたりして、昨日よりも華やかに仕上がっているのは、パレードでは遠くから見る人が多いからだ。目立つように、これくらい煌びやかにしたほうがいいらしい。
わたしは首もとに光るネックレスに、そっと触れた。するとそれを見たリリアンが、ニコニコと声をかけてくる。
「そのネックレスとイヤリング、今日のドレスにも合うデザインで、よかったですね!」
「えっ? あ、うん、そうね!」
昨日ノアにもらったネックレスに、無意識に触っていたみたいだ。どうしてだろうと首を傾げる。
これをつけているだけで、なんだか嬉しい気持ちになる。まるでそういう魔法がかけてあるみたいだなと思いながら、そんなわけないよねと、小さく笑った。
軽く昼食を済ませようと、サンドイッチをつまんでいると、部屋のドアがノックされた。
「あら、どなたでしょう?」
リリアンがドアの方へと向かう。
もうすぐパレードが始まるというのに、来客の予定などあるはずもない。
なんだか嫌な予感がする。
やってきたのは、確かいつもセラについてもらっているメイドだった。困ったような、焦ったような顔で、恐る恐る話し始める。
「あの、お忙しいところ、申し訳ございません。皇女殿下は、こちらにいらっしゃいますか? セラ様について、お聞きしたくて……」
「皇女殿下はおられますが、セラ様ですか?」
……まさか、セラに何かあったの?
「セラが、どうかしたの?」
「恐れ入ります。先ほど、庭園へセラ様を呼び出されたかと思うのですが、その後セラ様がどちらへ行かれたか、ご存知ではないかと思いまして……」
ドクン、と心臓が音を立てた。
「……いいえ、わたしは呼んでいないわ」
そう言うと、メイドは顔色を失くして、両手でバッと口元を押さえた。
「そ、そんな。皇女殿下からの伝言を伝えに来た新人のメイドが、皇女殿下が呼んでいるから、セラ様に庭園まで来るよう伝えてほしいと、確かに言っていたのですが……」
サッと血の気が引いた。
「それで、セラは一人で向かったの?」
「は、はい。一緒に行こうとしたのですが、今日の準備があるから忙しいでしょうとおっしゃって、お一人で向かってしまわれて……。でも、なかなか帰ってこられないので、心配になって庭園へ行ってみたのです。でも、誰の姿も見当たらなかったので、おかしいと思い……皇女殿下ならば、何かご存知ではないかと……」
誰かがわたしの名前を使って、セラを呼び出したことは明白だった。そしてセラは、その後その誰かに、何らかの危害を加えられて身動きが取れない状態にされている可能性が高い。
「も、申し訳ございません! 私……」
「謝るのは後よ。セラを、助けに行かなくちゃ!」
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