半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第一章

クロ

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 そう問いかけてみるも、プーニャはまるで固まっているかのように動かない。
 
「大丈夫? 怖かったのかな。怪我はないみたいだけど……って、あぁ、そっか!」
 
 わたしはそっとプーニャを地面に下ろすと、少し距離を取った。プーニャは、わたしのことが怖いのかもしれないと思ったのだ。
 
 なぜならわたしは昔から、小動物にやたらと嫌われてしまう体質だったからである。
 
 触れられそうな距離まで近づくと、小動物にはいつも、怯えるようにして逃げられてしまうのだ。
 まだ村に住んでいた時に、卵を産む家畜のポッコを飼っているお家にお邪魔したことがあるのだが、あの時は大変だった。
 
 わたしが敷地に入った途端、ポッコたちが狂ったように鳴き始めて、わたしと少しでも距離を取ろうとバサバサ翼をはためかせて暴れ出し、騒音はすごいわ羽は散らかるわで大騒ぎだった。
 
 それ以外にも、ペットにするような小動物には、まともに触れたことがなかった。
 村の人が飼っているプーニャを触ろうとして、全速力で逃げられたこともある。「ブギャー」という聞いたこともない鳴き声をあげながら部屋から出ようと壁を引っかくプーニャのかわいそうな姿は、今でも忘れられない。
 
 それは、狩猟用に育てられた動物であってもあまり変わらなかった。
 わたしが近づくと、まるでわたしが危険生物であるかのように、ワンワンギャンギャンと吠えられてしまう。しかも、飼い主が宥めても、全然言うことを聞いてくれないのだ。こんなことは初めてだと言われてしまった時は、結構落ち込んだ。
 
 目の前のプーニャは、つやつやした黒い毛並みに薄い水色の目がうるうると潤んでいて、とても可愛い。
 わたしは残念な気持ちでプーニャを見つめた。きっとこの子も、硬直が解けたらすぐに逃げてしまうだろう。

 そう思っていたのに、ようやく硬直が解けたらしいプーニャは、少し視線をさまよわせたあと、なんとゆっくりとわたしに近づいてきた。その事実に、今度はわたしの方が固まってしまう。
 
 ……えっ!? 嘘。この子、わたしのことが怖くないの!?
 
 奇跡かもしれない。
 一応魔獣とはいえ、わたしを怖がらない小動物がいるなんて!
 
 もしかして、わたしが落下から助けたということがわかっているのだろうか。だから、怖がらないのかもしれない。
 
 どこまで近づいてきてくれるかはわからないが、わたしはおもむろにしゃがみ込み、プーニャが来てくれるのを待った。
 
 手を伸ばせばすぐにでも触れられる距離まで近づくと、プーニャはちょこんとお座りをした。じっとわたしを見つめる目が、なんだか観察されているように感じた。
 
「……えっと、触ってもいい?」
 
 恐る恐るそう尋ねてみると、プーニャはそっと立ち上がった。やっぱり行ってしまうのかなと思ったけれど、プーニャはなんと、わたしの足に体を軽く擦りつけてきた。
 
「はわわわわ! かっ、可愛いー!!」

 そっと手を差し出すと、プーニャは少し迷うようなそぶりを見せたあと、ポフッとわたしの手にあごを乗せた。完全に奇跡が起こっている。いくら助けたからとはいえ、わたしを怖がらないどころか、懐いてくれるだなんて。
 
 わたしのところに落ちてきたことといい、これは、きっと運命の出会いだ。
 これを逃せば、この先わたしに懐いてくれるプーニャになんて、きっと一生出会えないに違いない。
 
「ねぇきみ、良かったら、わたしのおうちに来る!?」
 
 うちにペットを飼う余裕がないのはわかっているけれど、この機会は逃せない。
 
 ……それに、きっとお母さんも、ずっと一人でいるよりこの可愛いプーニャと待っている方がいいに決まっているわ!
 
 わたしが目を見つめながらそう聞くと、プーニャはわたしの手にあごを乗せたままこちらを見上げていた目をそっと閉じて、わたしに軽く体重を預けてきた。
 
 ……これはきっと、「いいよ」ってお返事よね!?
 
「きゃあ、やったー!」
 
 わたしはプーニャを抱き上げた。それでも、プーニャは全く逃げる様子を見せない。
 
 ……この子、本当にすごいわ!
 
「いい子ね、えーと……クロ。あなたのこと、クロって呼ぶわね!」
 
 そう言うと、プーニャが若干顔をしかめたような気がしたが、すぐ諦めたように力を抜いた。もしかしたら、名前が気に入らなかったのかもしれない。
 
 ……真っ黒だからクロって、わかりやすくていいと思うんだけどな?
 
「クロ、わたしはキアラよ。よろしくね!」
 
 そう言うと、クロがコクリと頷いた。
 
「えっ、もしかして、わたしの言ってることがわかるの!?」
 
 わたしは驚いてクロを見つめるけれど、今度は、クロは何の反応もしなかった。
 
 ……気のせいだったのかしら?
 
 そもそも、プーニャに人間の言葉がわかるわけないわよね。
 
 そう思ったわたしは、空から落ちてきた不思議なプーニャ、クロを腕に抱えて、るんるんと弾む気持ちで家路についたのだった。
 
 
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