半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第一章

採集へ

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「行ってきます、お母さん!」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「クロもいるし、大丈夫よ!」
 
 今日も今日とて、クロと一緒に森で採集である。
 
 クロと一緒に森へ行くようになってから、狩りや採集がとてもやりやすくなった。
 
 狩りの時には囮になって相手の注意を逸らしてくれたり、複数の相手を分断してくれたりする。クロには攻撃力がないから結局みんなわたしが倒すことにはなるけれど、それが驚くほど簡単にできるようになった。
 
 クロがいると、気がついたら、わたしはただ獲物を殴ればいいという状況になっているのである。
 
 わたしがクロと同じことをやれと言われても、絶対にできない。難しいことを考えるのは苦手だ。それに比べて、クロは本当に賢いのだ。
 
 それに、採集に関しても、クロは有能だ。
 クロがピクリと耳を動かして勝手にどこかへ行ってしまう時は、大抵何かいいものを見つけた時なのである。
 
 この間も、甘酸っぱくて美味しいコルの実がいっぱい生っている場所を見つけてくれたので、たくさん摘んで持って帰ることができた。そのままでも美味しかったけれど、今は傷まないよう母が煮詰めてジャムにしてくれている。
 
 一体どうやって見つけているのか、クロはかなり離れたところから、よくそういうものを見つけてくれる。わたしも鼻は利く方だと思うのだが、わたしが全く気づかない距離からも、クロは見つけてしまうのだ。
 
 プーニャなのに、クロは狩猟用の動物や魔獣なんかよりもずっと役に立つ、すごい子なのである。
 
「あなたは本当に不思議な子ね、クロ?」
 
 わたしがそう言って見つめると、クロはわたしを半目で見つめ返してきた。なんだか「おまえもな」と言われている感じがするのは、気のせいだろうか。
 
 とにかくそういうわけで、わたしはすっかりクロと森へ行くのが当たり前になっていた。
 
「うーん、今日はあっちの方へ行ってみようか?」
 
 クロにそう聞いてみる。
 クロはゆらゆらとしっぽを動かしながら、パチッと一回瞬きをした。よくわからないけれど、たぶん「いいよ」ってことだと思う。
 
 しばらくずんずんと森を進んでいたわたしたちだけれど、たまにクロが勝手に軽く方向転換をする。別に目的地があるわけではないのでいいのだが、クロは何か目指すものがあるのだろうかと思ってしまう。
 
 途中で食べられそうな山菜やキノコを採りながら、クロの先導でどんどんと森の奥へ進んでいく。
 
「クロ、そろそろお昼ごはんにしよう!」
 
 わたしは服の左右についている大きなポケットから、袋をふたつ取り出した。このポケットは、採集へ行くわたしのために母がつけてくれたものだ。大きいけれど目立たないよう、わざわざ内側につけてくれるという、母の思いやりが詰まったデザインなのである。
 
 ふと気づくと、クロがじっと、わたしがポケットから取り出した昼食を見ていた。クロもお腹がすいていたのかもしれない。
 
 適当な木の根っこに腰を下ろし、先ほど採ったばかりの小さな果実や、持ってきた干し肉やパンをかじる。
 クロは干し肉が大好きだ。いつも、とてもよく食べる。
 
「美味しいね~」
 
 ぽかぽかした木漏れ日を浴びながら食べるごはんは最高である。今はクロが一緒だからか、一人でいたときよりも美味しく感じる気がする。
 
「お母さんも、ちゃんと食べてるかな?」
 
 手に持っているパンを見つめながら、ふと思う。
 そろそろ小麦もなくなりそうだと、母が言っていた。
 また、誰かから分けてもらうことはできるだろうか。
 
 ……あぁもう、あのあんぽんたん領主のせいで、どうしてわたしたちが、こんなに困らされないといけないのよ!
 
 領主よりももっと偉いという、皇帝とかいう人がちゃんとお仕事をしているから、こんな小さな村でも人々は飢えることなく暮らせているのだと、母が昔教えてくれた。
 
 でも、その皇帝があのブーゴン男を領主にしているせいで、わたしたちはこんな目に遭っているのだ。やっぱり、その人もあんぽんたんだと思う。
 
 お金が手に入らないから、わたしたちは村で必要なものを買うことができない。でも、たとえお金があったとしても、領主の命令なので、どのみちわたしたちはまともに物を買えなかっただろう。
 
 わたしたちに同情して物々交換に応じてくれていた人たちも、一人、また一人と背を向けていった。
 
 もう、パンを食べることもできなくなるかもしれない。
 わたしは残った最後の一口を大事に噛みしめながら、どうすればこの状況を良くできるのかと考えて、むむっと眉を寄せた。
 
 でも、わたしの頭では、いい考えなどなかなか浮かばない。
 
「あー、もう無理! 難しいことを考えるのって苦手だわ」
 
 わたしは、頭を抱えて脱力した。

 すると、そんなわたしの様子を気にかけてくれたのか、クロが足元に体を寄せてきた。
 もしかしたら、慰めてくれているのかもしれない。
 
「ありがとう、クロ」

 クロにはいつも愚痴を聞いてもらっているので、賢いクロはきっと、わたしたち家族の置かれた状況をおおかた理解しているのだろう。
 わたしはにっこり笑って、クロのなめらかな毛並みを、たくさん撫でてあげたのだった。
 
 
 
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