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第一章
いじめっ子再び
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「キ、キアラ。これ、どうしたの……?」
母がカゴいっぱいの黄色い実を見て、驚きの表情を浮かべている。それもそうだろう。今日の収穫は、クロのせいでこれだけになってしまったのだから。
「クロがとっても気に入ったみたいで、カゴに他のものを入れるのを許してくれなかったの。これを見つける前にせっかく採った山菜とかも、全部捨ててきちゃったのよ。でも、これもすごく美味しいから、お母さんも気に入ってくれると思うんだけど……」
呆れているのかなと思い、母の様子を窺いながらそう言うと、母は首を横に振った。
「そうじゃないわ。むしろ、それで良かったと思う。クロ、あなた本当に、驚くほど賢いわね」
母がクロを撫でながら褒めるのを、わたしは首を傾げながら見つめた。
「え、どういうこと?」
「キアラ。これはね、ファムルという高級食材なのよ」
「高級食材?」
……お金で買うと、すごく高いってことよね。でも、それがどうしたの?
別に、わたしたちは売るためにこれを持って帰ってきたわけではない。売ろうと思っても、きっと誰も買ってくれないだろうから、値段が高くても関係ないと思う。
いくら美味しくても、こればっかりだと飽きてしまうだろうし、やっぱり、もっと色々なものを持って帰って来た方が良かったのではないだろうか。
「そうよ。美味しい上に、滋養強壮にも良い。寿命が延びるとまで言われているわ。それなのになかなか手に入らないから、幻の果実とも呼ばれているのよ」
「へぇー……」
よくわからないが、これがとてもすごい果物だということはわかった。
でも、母はわたしがまだこの果物のすごさを理解できていないと、もどかしそうな顔をする。
「キアラ。本来なら、自生しているファムルを見つけるのは、とても難しいことなのよ。風通しのいい場所にしか生らないからすぐ鳥に見つかって食べられてしまうし、高い場所にしか実らないから、採るのだってとても大変なの」
母にそう言われて、ファムルが生っていた場所を思い出す。
確かに、あの岩壁は反り返っていたから、上から見ても鳥には見つけにくかったのかもしれない。
それに、わたしは軽くジャンプすれば採れたけれど、うんと見上げるほど高い場所にあった。
普通の人は採れない高さなのだと言われれば、きっとそうなのだろう。
「そうなんだ。じゃあ、味わって食べないとね!」
わたしがそう言うと、母はなぜかガクリと項垂れた。
「……そうじゃないわ、キアラ。重要なのは、これがほとんどの人が欲しがる、貴重な果物だってことなのよ」
「ほとんどの人が欲しがる……あっ!」
やっと、母が何を言いたいのかわかった。
……つまり、これとなら、村の人たちも色々なものと交換してくれるかもしれないということよね?
「でも、うまくいくかしら? クレーターベアのお肉を持って行った時に、もう来ないでってカーラおばさんにも言われちゃったし……」
いくら珍しい高級食材だからって、これは別になくても困らない、ただの果物だ。なかなか捕れないクレーターベアの肉とだって交換してくれなかったのに、そんなことがあるのだろうか。
わたしが疑わしい表情でファムルを見ると、母は自信ありげな笑みを浮かべた。
「きっと大丈夫よ。全部持って行ったら、たぶんわたしたちが食べる分は残らないと思うわよ?」
◇
母に見送られ、カゴいっぱいのファムルを持って、クロと一緒に村へやって来た。一応わたしたちのぶんの三つだけは家に置いてきたけれど、本当に、こんなにたくさん交換してもらえるのだろうか。
母に言われた通り、一番人通りがある広場のような場所で、よいしょ、とカゴを下ろした。
カゴにかけておいた布を取ると、ファムルのいい香りが鼻をくすぐる。
「おい、厄介者。また来たのかよ」
「いいかげんに諦めろよな、みっともねえ」
……げ。
振り向かなくてもわかる、嫌味な二人の声が後ろから聞こえてきた。わたしはため息をグッとこらえる。
「……ハンス、ブロウ。わたしは忙しいの。用がないなら、話しかけないでくれない?」
「なっ、なんだと!?」
「厄介者のくせに、生意気だぞ!」
それしか言うことがないのだろうか。本当に、なぜこれほど彼らがつっかかってくるのかわからない。
わたしは、今度こそため息を吐いてしまった。
その時、二人とはまた別の方向から声をかけられる。
「よぉ、キアラじゃねぇか。またなんか持ってきたのか? お前さんも懲りねぇな」
「あっ、ラルゴおじさん」
母がカゴいっぱいの黄色い実を見て、驚きの表情を浮かべている。それもそうだろう。今日の収穫は、クロのせいでこれだけになってしまったのだから。
「クロがとっても気に入ったみたいで、カゴに他のものを入れるのを許してくれなかったの。これを見つける前にせっかく採った山菜とかも、全部捨ててきちゃったのよ。でも、これもすごく美味しいから、お母さんも気に入ってくれると思うんだけど……」
呆れているのかなと思い、母の様子を窺いながらそう言うと、母は首を横に振った。
「そうじゃないわ。むしろ、それで良かったと思う。クロ、あなた本当に、驚くほど賢いわね」
母がクロを撫でながら褒めるのを、わたしは首を傾げながら見つめた。
「え、どういうこと?」
「キアラ。これはね、ファムルという高級食材なのよ」
「高級食材?」
……お金で買うと、すごく高いってことよね。でも、それがどうしたの?
別に、わたしたちは売るためにこれを持って帰ってきたわけではない。売ろうと思っても、きっと誰も買ってくれないだろうから、値段が高くても関係ないと思う。
いくら美味しくても、こればっかりだと飽きてしまうだろうし、やっぱり、もっと色々なものを持って帰って来た方が良かったのではないだろうか。
「そうよ。美味しい上に、滋養強壮にも良い。寿命が延びるとまで言われているわ。それなのになかなか手に入らないから、幻の果実とも呼ばれているのよ」
「へぇー……」
よくわからないが、これがとてもすごい果物だということはわかった。
でも、母はわたしがまだこの果物のすごさを理解できていないと、もどかしそうな顔をする。
「キアラ。本来なら、自生しているファムルを見つけるのは、とても難しいことなのよ。風通しのいい場所にしか生らないからすぐ鳥に見つかって食べられてしまうし、高い場所にしか実らないから、採るのだってとても大変なの」
母にそう言われて、ファムルが生っていた場所を思い出す。
確かに、あの岩壁は反り返っていたから、上から見ても鳥には見つけにくかったのかもしれない。
それに、わたしは軽くジャンプすれば採れたけれど、うんと見上げるほど高い場所にあった。
普通の人は採れない高さなのだと言われれば、きっとそうなのだろう。
「そうなんだ。じゃあ、味わって食べないとね!」
わたしがそう言うと、母はなぜかガクリと項垂れた。
「……そうじゃないわ、キアラ。重要なのは、これがほとんどの人が欲しがる、貴重な果物だってことなのよ」
「ほとんどの人が欲しがる……あっ!」
やっと、母が何を言いたいのかわかった。
……つまり、これとなら、村の人たちも色々なものと交換してくれるかもしれないということよね?
「でも、うまくいくかしら? クレーターベアのお肉を持って行った時に、もう来ないでってカーラおばさんにも言われちゃったし……」
いくら珍しい高級食材だからって、これは別になくても困らない、ただの果物だ。なかなか捕れないクレーターベアの肉とだって交換してくれなかったのに、そんなことがあるのだろうか。
わたしが疑わしい表情でファムルを見ると、母は自信ありげな笑みを浮かべた。
「きっと大丈夫よ。全部持って行ったら、たぶんわたしたちが食べる分は残らないと思うわよ?」
◇
母に見送られ、カゴいっぱいのファムルを持って、クロと一緒に村へやって来た。一応わたしたちのぶんの三つだけは家に置いてきたけれど、本当に、こんなにたくさん交換してもらえるのだろうか。
母に言われた通り、一番人通りがある広場のような場所で、よいしょ、とカゴを下ろした。
カゴにかけておいた布を取ると、ファムルのいい香りが鼻をくすぐる。
「おい、厄介者。また来たのかよ」
「いいかげんに諦めろよな、みっともねえ」
……げ。
振り向かなくてもわかる、嫌味な二人の声が後ろから聞こえてきた。わたしはため息をグッとこらえる。
「……ハンス、ブロウ。わたしは忙しいの。用がないなら、話しかけないでくれない?」
「なっ、なんだと!?」
「厄介者のくせに、生意気だぞ!」
それしか言うことがないのだろうか。本当に、なぜこれほど彼らがつっかかってくるのかわからない。
わたしは、今度こそため息を吐いてしまった。
その時、二人とはまた別の方向から声をかけられる。
「よぉ、キアラじゃねぇか。またなんか持ってきたのか? お前さんも懲りねぇな」
「あっ、ラルゴおじさん」
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