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第一章
助けに行こう!
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「……あんの、ブーゴン男……!」
怒りで目の前が真っ赤になったような気がした。頭に血が上って、母を連れ去った奴をぶん殴ることしか考えられなくなる。
「……カップは二つ用意されていたみたいだね。恐らく予定通り、領主はここへ来たんだろう。こぼれている中身の量からして、少しの間二人はここでお茶を飲んでいたみたいだから、たぶん初めは話をして穏便に連れ出そうとしたんじゃないかな。でも、キアラのお母さんの抵抗にあって、無理矢理連れて行ったと考えるのが妥当だと思うけど……」
トーアが冷静にこの場の状態を分析して出した結論も、わたしと同じらしい。でも、たとえそれが違っていたとしても関係ない。わたしの本能が言っている。
わたしの大事な人に手を出したのは、あのブーゴン男だと。
「領主の屋敷に行ってくるわ」
「ま、待って、キアラ!」
すぐさま身を翻したわたしを、トーアが焦った様子で止める。
「行ってどうするつもりなの?」
「決まってるわ。領主をぶん殴って、お母さんを取り戻すの」
わたしがそう言うと、トーアは目を剥いた。
「でも、領主様の屋敷にはきっと、衛兵や領主の護衛の人たちがたくさんいるよ?」
「そんなの関係ないわ。邪魔する奴らは、わたしがみんなやっつけてやるもの」
「そ、それだけじゃないよ。領主様を攻撃したら、帝国の軍人たちがやってきて、ひどい罰を受けるんだ。だから……」
「でも、このままお母さんを放っておくなんてできないわ!」
浮かんできた涙を必死にこらえながら、トーアに向き直る。わたしの叫びに、トーアはグッと言葉を詰まらせた。
「……ごめんね。トーアがわたしのことを心配してくれているのはわかってるわ。でも、他に方法はないでしょう?」
わたしの服を掴むトーアの手をそっと外し、わたしは今度こそ、サッと身を翻して走り出した。
「キアラ!」
「キアラさん!」
トーアとセラの声が追いかけてきたけれど、止まるつもりはなかった。母がひどい目に遭っているかもしれないのに、あとで自分が罰せられることなんて考えられない。早く、母を助けに行かなくては。
領主がどこに住んでいるかは知っている。
いつかこんなことがあるかもしれないと考えていたわけではないけれど、敵の居場所くらいは知っておくべきだと思ったから、ずっと前に調べておいたのだ。
「待ってなさい、領主。お母さんは、必ず返してもらうんだから……!」
わたしはそう呟きながら、領主の屋敷への道を全速力で走った。
《オレも行く》
走るわたしの前に、クロがサッと飛び出した。
「クロ! でも、今回はきっと危ないから……」
クロがいてくれると心強いけれど、危険なことに巻き込みたくはない。いつもの狩りとは違って、たくさんの武装した人たちと争うことになるかもしれないのだ。
けれど、わたしの言葉をクロはフンと鼻で笑いとばした。
《友達を助けるのは、当たり前なんじゃないのか?》
「……!」
クロの話を聞いた夜、わたしがクロを助けたいと言ったことをそのまま返されているのだと、すぐにわかった。
「……ありがとう、クロ」
わたしは苦笑しながら、クロにお礼を言ったのだった。
怒りで目の前が真っ赤になったような気がした。頭に血が上って、母を連れ去った奴をぶん殴ることしか考えられなくなる。
「……カップは二つ用意されていたみたいだね。恐らく予定通り、領主はここへ来たんだろう。こぼれている中身の量からして、少しの間二人はここでお茶を飲んでいたみたいだから、たぶん初めは話をして穏便に連れ出そうとしたんじゃないかな。でも、キアラのお母さんの抵抗にあって、無理矢理連れて行ったと考えるのが妥当だと思うけど……」
トーアが冷静にこの場の状態を分析して出した結論も、わたしと同じらしい。でも、たとえそれが違っていたとしても関係ない。わたしの本能が言っている。
わたしの大事な人に手を出したのは、あのブーゴン男だと。
「領主の屋敷に行ってくるわ」
「ま、待って、キアラ!」
すぐさま身を翻したわたしを、トーアが焦った様子で止める。
「行ってどうするつもりなの?」
「決まってるわ。領主をぶん殴って、お母さんを取り戻すの」
わたしがそう言うと、トーアは目を剥いた。
「でも、領主様の屋敷にはきっと、衛兵や領主の護衛の人たちがたくさんいるよ?」
「そんなの関係ないわ。邪魔する奴らは、わたしがみんなやっつけてやるもの」
「そ、それだけじゃないよ。領主様を攻撃したら、帝国の軍人たちがやってきて、ひどい罰を受けるんだ。だから……」
「でも、このままお母さんを放っておくなんてできないわ!」
浮かんできた涙を必死にこらえながら、トーアに向き直る。わたしの叫びに、トーアはグッと言葉を詰まらせた。
「……ごめんね。トーアがわたしのことを心配してくれているのはわかってるわ。でも、他に方法はないでしょう?」
わたしの服を掴むトーアの手をそっと外し、わたしは今度こそ、サッと身を翻して走り出した。
「キアラ!」
「キアラさん!」
トーアとセラの声が追いかけてきたけれど、止まるつもりはなかった。母がひどい目に遭っているかもしれないのに、あとで自分が罰せられることなんて考えられない。早く、母を助けに行かなくては。
領主がどこに住んでいるかは知っている。
いつかこんなことがあるかもしれないと考えていたわけではないけれど、敵の居場所くらいは知っておくべきだと思ったから、ずっと前に調べておいたのだ。
「待ってなさい、領主。お母さんは、必ず返してもらうんだから……!」
わたしはそう呟きながら、領主の屋敷への道を全速力で走った。
《オレも行く》
走るわたしの前に、クロがサッと飛び出した。
「クロ! でも、今回はきっと危ないから……」
クロがいてくれると心強いけれど、危険なことに巻き込みたくはない。いつもの狩りとは違って、たくさんの武装した人たちと争うことになるかもしれないのだ。
けれど、わたしの言葉をクロはフンと鼻で笑いとばした。
《友達を助けるのは、当たり前なんじゃないのか?》
「……!」
クロの話を聞いた夜、わたしがクロを助けたいと言ったことをそのまま返されているのだと、すぐにわかった。
「……ありがとう、クロ」
わたしは苦笑しながら、クロにお礼を言ったのだった。
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