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第一章
帝都へ
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わたしたちは今、イオに乗って、帝都へ向かっている。
わたしの父は皇帝だと母が言ったとたん、ルーシャスさんは今にも倒れそうなほど真っ青な顔になって、「すぐに帝都へ向かいます!」と言って胸に右手を添え、母に敬礼した。
そして突然、「つがい様、キアラ様、急ぎ出立のご準備をお願い致します」と言い残し、宿屋を出る手続きをするため慌ただしく部屋を出ていったのだ。
……わたしのお父さんって、皇帝だったのね。
昔、母からこの世界で一番偉くてすごいのは皇帝だと聞いたことがあった。その時の母がやけに懐かしそうな顔をしたのは、そのせいだったらしい。
わたしの父が偉い人だと、わたしも偉くなってしまうのか、ルーシャスさんがわたしに「様」をつけて呼び、敬語を使うようになったことにもびっくりした。本当は止めてほしいけれど、そんなことをお願いする間もなく、現在、絶賛移動中である。
「……ごめんなさいね、キアラ。ずっと黙っていて……」
母が、わたしの後ろから申し訳なさそうな声でそう言った。
今回の乗り方は、わたしの背中に母を柔らかい布でしっかりと固定し、イオの背中の前方に乗り、セラをルーシャスさんが鞍に乗って抱いているという状態だ。ちなみに、クロはいつもの場所である。
なぜ前回と乗り方が変わったのかと言うと、ルーシャスさんがそう決めたからだ。
皇帝陛下のつがいに、軽々しく触れるわけにはいかないらしい。これまではずっと母を抱いて移動してくれていたというのに、これほど態度が変わるなんて、皇帝のつがいってすごい。
……つがいなんてわたしにはまだよくわからないけど、わたしも竜人族なら、いつかそういう相手ができるのかな?
「お母さん。どうして、ずっと黙ってたの? わたしは別にお父さんのことなんてそんなに気にしてなかったからいいんだけど、ルーシャスさんが言っていたみたいに、わたしのお父さんが皇帝だって言えば、領主はきっとお母さんに手を出さなかったでしょ?」
「……それだけは、どうしてもできなかったの。もしそうしたら、私はあなたと暮らせなくなっていたでしょうから」
「えっ、どうして?」
わたしがびっくりして後ろを振り向くと、母は悲しそうな顔をして説明してくれた。
「父親が皇帝だということは、あなたは皇女だということなのよ。本来なら、大勢の人たちに傅かれ、敬われるような存在なの。人間族の平民である私なんかが母親ではあるけれど、それは変わらない事実だわ。だから、あなたが皇帝の娘であることが知られれば、きっとあなたを皇族として育てるために皇城へ奪われてしまう。私には、それを止められるだけの力がないから……」
母は、わたしを奪われたくなかったのだと言った。だから誰にも知られないよう、わたしにさえ嘘を吐いていたのだと。
「ごめんなさい。私は自分勝手な理由で、あなたを皇女として扱ってくれる人たちから、あなたを遠ざけていたのよ……」
「ううん。わたしもお母さんと暮らせなくなるのは嫌だから、自分勝手なんかじゃないわ! わたしも、皇女になるより、お母さんと一緒にいたいもん!」
わたしがそう言うと、母は泣き笑いのような顔になった。
「でも、わたしが皇女になったら、どうしてお母さんと離れることになるの? お母さんもお城で一緒には暮らせないの? お城って、大きいんでしょ?」
「私は……」
母が一瞬、グッと言葉に詰まった。
「キアラ。以前、私が話したことを覚えてる? お母さんは、お父さんのことが大好きだったって」
「うん、覚えてるわ。でも、お父さんはそうじゃなかったのよね?」
「そう。……そう、思っていたの。だから、一緒にはいられないって思ってた。……でも、もしかしたら、お母さんが間違っていたのかもしれないわ」
そう言って、母はわたしを強く抱きしめるように、震える腕にギュッと力を込めた。
わたしの父は皇帝だと母が言ったとたん、ルーシャスさんは今にも倒れそうなほど真っ青な顔になって、「すぐに帝都へ向かいます!」と言って胸に右手を添え、母に敬礼した。
そして突然、「つがい様、キアラ様、急ぎ出立のご準備をお願い致します」と言い残し、宿屋を出る手続きをするため慌ただしく部屋を出ていったのだ。
……わたしのお父さんって、皇帝だったのね。
昔、母からこの世界で一番偉くてすごいのは皇帝だと聞いたことがあった。その時の母がやけに懐かしそうな顔をしたのは、そのせいだったらしい。
わたしの父が偉い人だと、わたしも偉くなってしまうのか、ルーシャスさんがわたしに「様」をつけて呼び、敬語を使うようになったことにもびっくりした。本当は止めてほしいけれど、そんなことをお願いする間もなく、現在、絶賛移動中である。
「……ごめんなさいね、キアラ。ずっと黙っていて……」
母が、わたしの後ろから申し訳なさそうな声でそう言った。
今回の乗り方は、わたしの背中に母を柔らかい布でしっかりと固定し、イオの背中の前方に乗り、セラをルーシャスさんが鞍に乗って抱いているという状態だ。ちなみに、クロはいつもの場所である。
なぜ前回と乗り方が変わったのかと言うと、ルーシャスさんがそう決めたからだ。
皇帝陛下のつがいに、軽々しく触れるわけにはいかないらしい。これまではずっと母を抱いて移動してくれていたというのに、これほど態度が変わるなんて、皇帝のつがいってすごい。
……つがいなんてわたしにはまだよくわからないけど、わたしも竜人族なら、いつかそういう相手ができるのかな?
「お母さん。どうして、ずっと黙ってたの? わたしは別にお父さんのことなんてそんなに気にしてなかったからいいんだけど、ルーシャスさんが言っていたみたいに、わたしのお父さんが皇帝だって言えば、領主はきっとお母さんに手を出さなかったでしょ?」
「……それだけは、どうしてもできなかったの。もしそうしたら、私はあなたと暮らせなくなっていたでしょうから」
「えっ、どうして?」
わたしがびっくりして後ろを振り向くと、母は悲しそうな顔をして説明してくれた。
「父親が皇帝だということは、あなたは皇女だということなのよ。本来なら、大勢の人たちに傅かれ、敬われるような存在なの。人間族の平民である私なんかが母親ではあるけれど、それは変わらない事実だわ。だから、あなたが皇帝の娘であることが知られれば、きっとあなたを皇族として育てるために皇城へ奪われてしまう。私には、それを止められるだけの力がないから……」
母は、わたしを奪われたくなかったのだと言った。だから誰にも知られないよう、わたしにさえ嘘を吐いていたのだと。
「ごめんなさい。私は自分勝手な理由で、あなたを皇女として扱ってくれる人たちから、あなたを遠ざけていたのよ……」
「ううん。わたしもお母さんと暮らせなくなるのは嫌だから、自分勝手なんかじゃないわ! わたしも、皇女になるより、お母さんと一緒にいたいもん!」
わたしがそう言うと、母は泣き笑いのような顔になった。
「でも、わたしが皇女になったら、どうしてお母さんと離れることになるの? お母さんもお城で一緒には暮らせないの? お城って、大きいんでしょ?」
「私は……」
母が一瞬、グッと言葉に詰まった。
「キアラ。以前、私が話したことを覚えてる? お母さんは、お父さんのことが大好きだったって」
「うん、覚えてるわ。でも、お父さんはそうじゃなかったのよね?」
「そう。……そう、思っていたの。だから、一緒にはいられないって思ってた。……でも、もしかしたら、お母さんが間違っていたのかもしれないわ」
そう言って、母はわたしを強く抱きしめるように、震える腕にギュッと力を込めた。
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