半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第一章

聞こえた声 サーシャ視点

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「……ディオ? ねぇ。もしかして、聞こえているの?」
 
 その呼びかけに、反応はなかった。
 でも、きっとそうだ。彼には、私の声が届いているのだ。私は、今一番彼に伝えたいことを口にした。
 
「……愛しているわ、ディオ」
 
 彼のまぶたが、わずかに動いた気がした。私はもっとしっかり自分の気持ちを伝えようと、さらに言い募る。
 
「私は、他の人と結婚するあなたのそばにいることなんてできないと思ったから、皇太后陛下がくれた魔道具を使って、あなたから離れようと決めたの。最後に会った時、あなたとあの人の結婚を受け入れると私は言ったけど、本当は、ずっと私だけを見ていてほしかった。お似合いの竜人族の女性と結婚するあなたのそばにいることなんて、とてもできなかったの……」
 
 彼の目からこぼれた涙を、そっと指で拭う。
 冷たい頬を伝う涙なのに、それは不思議と温かかった。
 
「約束を守らなくてごめんなさい。この十年、あなたを忘れたことなんて一日もなかった。あの時からずっと、今でも、あなただけを愛しているわ」
 
 彼の目から次々と涙はこぼれてくるのに、その目が開くことはなかった。でも、これ以上何を言えばいいのかわからない。

 どうすれば、この気持ちが伝わるだろう。
 
「……お願い。起きて、ディオ」
 
 私は、そっと身を乗り出して目を閉じ、彼の唇に自らのそれを触れ合わせた。
 すると、ずっと握ったままだった彼の手が、ピクリと動くのを感じた。
 
「……ディオ?」
 
 目を開けると、わずかに開いた彼のまぶたから、金色の目が覗いていた。
 
「サー……シャ」
「ディオ……っ!」
 
 ガバッと、彼に抱きついた。
 目が痛いくらいに涙が出てきて、彼の毛布に染みを作っていく。
 
「サーシャ……」
「ディオ、ディオ……! 起きっ、起きたのね。もう大丈夫なのね? ディオ!」
「サーシャ……もっと、顔をよく、見せて。……本当に、戻ってきて……くれたんだね」
 
 温かみを取り戻し始めた彼の指が、私の頬を撫でた。存在を確かめるかのように、ゆっくりと。

 私はその手に手を添えると、自分から頬を擦り寄せた。彼の大きな手が、徐々に熱を取り戻していくのをしっかりと感じる。
 
「……信じられない。サーシャ、君にまた会えるなんて。愛していると、言ってもらえるなんて」
「私はあの時からずっとずっと、変わらずあなたを愛しているわ。……ねぇ、あなたも、本当は同じ気持ちだったの?」
 
 彼と額を合わせながら、そう尋ねた。彼の金色の目から、またひとすじ涙がこぼれた。
 
「同じどころか……この通り、私は君がいないと生きていけないほど、君を愛している。私の、生涯ただ一人のつがい。もう決して、離れないでくれ」 
 
 そう言って、ディオは私を抱き寄せた。
 まだ力が入らないのか、背中にまわされた彼の腕に込められた力は、それほど強くない。
 ディオは少し顔をしかめると、すぐに私から手を離した。
 
「ディオ! まだ起き上がっては……」
 
 ディオが体を起こそうとするので、心配になって止めるけれど、彼はフッと笑った。
 
「もう……これくらいなら、大丈夫だよ。それに、横になったままじゃ、君をちゃんと抱きしめることもできないじゃないか」
「……バカね」
 
 そう言って体を起こしたディオが、私を両手で強く抱きしめた。まだ少し冷たい彼に、私の体温が移ればいい。そう思って、私も強く彼を抱きしめる。
 
「サーシャ……大人っぽくなったね。十年も経ったんじゃ、当然だけど」
「えっ! わ、私、老けたかしら……?」
 
 竜人族の彼とは違い、私は年相応に年を取っている。優しい言い方をしてくれたが、彼の記憶にある十六歳の私と比べたら、かなり見た目が変わっているのは間違いない。
 
 思わず身を離そうと少し彼を押し返すが、ディオはしっかりと私を腕の中に閉じ込めて離さなかった。
 
「まさか。さらに魅力的になっていて驚いたよ」
「ディ、ディオ……」
 
 カァっと顔に熱がともる。
 ディオは今でも、いとも簡単に私をドキドキさせてしまうのだ。
 
「あの、ひ、人を呼んできましょうか? さっきここまで案内してくれたロドルバン様はあなたをとても心配していたし、あなたはまだ休んでいた方がいいんじゃ……」
「大丈夫だから、もうしばらくこうさせてくれ」
「ディオ……」
 
 首元に感じる、彼の息遣いさえも愛しい。
 彼が生きて話をしていることが嬉しくて、私も再び強く彼を抱きしめた。
 
「……それに、君とちゃんと話をしたい。十年前の、あの時このとを」
 
 ディオが固い声でそう言った。
 私は彼の腕の中で、しっかりと頷いたのだった。
 
 
 
 
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