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第一章
過去の真実 サーシャ視点
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「……従兄妹?」
「そうだよ。婚約者なんかじゃない。ルイーダは、私の従兄妹だ」
ディオが語ったのは、信じられない内容だった。
名前も知らなかった金髪の女性は、ルイーダという名前のディオの従兄妹で、婚約者などではなかったらしい。
「でも、皇太后陛下や彼女本人も、婚約者だと言っていたのよ?」
「母上とルイーダが共謀して嘘をついていたんだろう。昔から母上が私を彼女と結婚させたがっていることは知っていたが、キッパリと断っていたし、その後何も言わなくなったから諦めたと思っていた。私の落ち度だ」
ディオが辛そうに顔を歪めた。
「でも……あの時、あなたも確かに、結婚すると言ったわよね?」
私に何も言わずに結婚を決めて、ごめんとまで言っていた。忘れられるはずがない。
しかし、ディオは軽く首を横に振ると、気まずそうに視線を伏せてこう言った。
「違うんだ。私はルイーダと結婚するつもりなんて、全くなかった。私が結婚しようとしていたのは……君だったんだよ。サーシャ」
「……え?」
私が目を見開いて驚くと、彼は弱々しく苦笑した。
「情けないよね。私の立場をどう明かすか、君は皇帝の私を受け入れてくれるのかどうかと不安で、なかなかプロポーズできずにいたら、母上が勝手に結婚の日取りを決めたと言い始めたんだ。まだ君に了承も得ていないのにと、私は焦った。街中で皇帝の結婚が噂になっていると聞いて、余計に言い出し辛くなってしまった。しかも、君との結婚を認めてやったのだから、仕事をきっちりこなせと母上に言われて、しばらく忙殺の日々を送らされていたんだ。……母上は、私を応援してくれているものだとばかり思っていたのに……」
彼は辛そうな声でそう言っていたが、私はそれをどこか遠くで聞いているような感覚だった。
……ディオが、私と結婚するつもりだった? あの人ではなく、私と?
彼との会話を、よく思い出してみる。
私は彼に、結婚の準備を進めているのは本当かと尋ねて、彼は謝罪とともに肯定した。君に何も言っていないのにごめん、と。
「……あの時謝っていたのは、私に了承も得ず、私との結婚を進めていたからだったの……?」
「そうだよ。結局自分から皇帝だと明かさず、きちんとプロポーズもしていないのに、君に受け入れてもらえたと勘違いして……本当に情けなくて馬鹿だった。……本当は、最後に会ったあの日、花束を渡して、ちゃんとプロポーズするつもりだったんだ」
「そんな……私、すっかり勘違いして……!」
あの日、ディオは花束を持ってきて、言いたいことがあると言った。気まずそうな彼の様子から、あの人との結婚の話だと思って、話を逸らしたのは私だ。
……まさか、私にプロポーズをするための花束だったなんて。
そしてその後、私から結婚の話かと切り出して、彼はそうだと答えた。
しかも私は、彼の、この結婚をどう思うかという問いに対して、いいと思うと答えてしまったのだ。
彼がそう決めたのなら応援しなければと思って、必死でそう言ったというのに、彼の考える結婚相手が彼女ではなく、私だったなんて。
「君は悪くない。きちんと言わなかった私も悪かったが、一番の原因は母上とルイーダだ。……母上は元々、少なからず私の行動を縛る傾向があったが、私の実母であるし、複雑な身の上もあって大目に見ていたんだ。しかし、私のつがいであるサーシャに手を出したのだ。母上やルイーダには、今後しっかりと報いを受けてもらおう」
少し低くなった声から、彼が本気で言っているのだと伝わってくる。
私はそれを、止めようとは思えなかった。このすれ違いが彼女たちに起因することは間違いないし、そのために受けたこの十年の苦痛を考えれば、簡単に許すこともできそうになかった。
「サーシャ。十年前に言えなかった言葉を言わせてほしい」
ディオの真剣な眼差しが私を射抜く。
彼が言おうとしている言葉への期待に、否応なしに胸が高鳴った。
「サーシャ。……私と、結婚してくれないか?」
「そうだよ。婚約者なんかじゃない。ルイーダは、私の従兄妹だ」
ディオが語ったのは、信じられない内容だった。
名前も知らなかった金髪の女性は、ルイーダという名前のディオの従兄妹で、婚約者などではなかったらしい。
「でも、皇太后陛下や彼女本人も、婚約者だと言っていたのよ?」
「母上とルイーダが共謀して嘘をついていたんだろう。昔から母上が私を彼女と結婚させたがっていることは知っていたが、キッパリと断っていたし、その後何も言わなくなったから諦めたと思っていた。私の落ち度だ」
ディオが辛そうに顔を歪めた。
「でも……あの時、あなたも確かに、結婚すると言ったわよね?」
私に何も言わずに結婚を決めて、ごめんとまで言っていた。忘れられるはずがない。
しかし、ディオは軽く首を横に振ると、気まずそうに視線を伏せてこう言った。
「違うんだ。私はルイーダと結婚するつもりなんて、全くなかった。私が結婚しようとしていたのは……君だったんだよ。サーシャ」
「……え?」
私が目を見開いて驚くと、彼は弱々しく苦笑した。
「情けないよね。私の立場をどう明かすか、君は皇帝の私を受け入れてくれるのかどうかと不安で、なかなかプロポーズできずにいたら、母上が勝手に結婚の日取りを決めたと言い始めたんだ。まだ君に了承も得ていないのにと、私は焦った。街中で皇帝の結婚が噂になっていると聞いて、余計に言い出し辛くなってしまった。しかも、君との結婚を認めてやったのだから、仕事をきっちりこなせと母上に言われて、しばらく忙殺の日々を送らされていたんだ。……母上は、私を応援してくれているものだとばかり思っていたのに……」
彼は辛そうな声でそう言っていたが、私はそれをどこか遠くで聞いているような感覚だった。
……ディオが、私と結婚するつもりだった? あの人ではなく、私と?
彼との会話を、よく思い出してみる。
私は彼に、結婚の準備を進めているのは本当かと尋ねて、彼は謝罪とともに肯定した。君に何も言っていないのにごめん、と。
「……あの時謝っていたのは、私に了承も得ず、私との結婚を進めていたからだったの……?」
「そうだよ。結局自分から皇帝だと明かさず、きちんとプロポーズもしていないのに、君に受け入れてもらえたと勘違いして……本当に情けなくて馬鹿だった。……本当は、最後に会ったあの日、花束を渡して、ちゃんとプロポーズするつもりだったんだ」
「そんな……私、すっかり勘違いして……!」
あの日、ディオは花束を持ってきて、言いたいことがあると言った。気まずそうな彼の様子から、あの人との結婚の話だと思って、話を逸らしたのは私だ。
……まさか、私にプロポーズをするための花束だったなんて。
そしてその後、私から結婚の話かと切り出して、彼はそうだと答えた。
しかも私は、彼の、この結婚をどう思うかという問いに対して、いいと思うと答えてしまったのだ。
彼がそう決めたのなら応援しなければと思って、必死でそう言ったというのに、彼の考える結婚相手が彼女ではなく、私だったなんて。
「君は悪くない。きちんと言わなかった私も悪かったが、一番の原因は母上とルイーダだ。……母上は元々、少なからず私の行動を縛る傾向があったが、私の実母であるし、複雑な身の上もあって大目に見ていたんだ。しかし、私のつがいであるサーシャに手を出したのだ。母上やルイーダには、今後しっかりと報いを受けてもらおう」
少し低くなった声から、彼が本気で言っているのだと伝わってくる。
私はそれを、止めようとは思えなかった。このすれ違いが彼女たちに起因することは間違いないし、そのために受けたこの十年の苦痛を考えれば、簡単に許すこともできそうになかった。
「サーシャ。十年前に言えなかった言葉を言わせてほしい」
ディオの真剣な眼差しが私を射抜く。
彼が言おうとしている言葉への期待に、否応なしに胸が高鳴った。
「サーシャ。……私と、結婚してくれないか?」
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