半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第一章

ずっと一緒に サーシャ視点

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「ディオ……」
 
 嬉しい。
 愛する人からの、十年越しのプロポーズが嬉しくないはずかない。

 でも、彼は皇帝だ。
 わたしのような、人間族の平民が彼の伴侶であっていいはずがない。それは、十年前も今も変わらないのだ。

「もちろん、私もそうしたい。でも、ディオ……私たちが結婚するには、いくつも問題があるわ」

 私はそう言って眉を下げたけれど、彼は少し首を傾げただけだった。

「何が問題なんだ?」

 彼の問いかけに、私は驚いて目を瞬く。
 本気で言っているのだろうか。

「私とあなたでは、身分が違いすぎるわ!」
「君は私のつがいなんだ。身分の差なんて関係ない。つがいと結ばれるなと言うような竜人族なんて、いるわけがないんだからね」
「……そう、なの?」
「確かに、母上のような血統主義の、凝り固まった思想を持つ者がいないわけではない。だが、表立って反対する者はいないはずだよ」

 つがいとは、竜人族にとってそれほど重要視されるもののようだ。

「……それでも、私には、皇后になれるような教養もないのよ?」
「これから学べばいい。勉強するのが嫌なら、それでもいい。私が皇帝を辞めたっていいんだ。だから、私の伴侶になると言ってくれ、サーシャ」
「や、辞めるなんて、駄目よディオ……!」

 十年もディオを支え続けたのは、きっとロドルバン様だけではないだろう。皇帝の帰りを待っていた人がたくさんいるから、あんな状態の彼がまだ皇帝でいられているのだ。

 それなのに、目覚めてすぐ、私のために皇帝を辞めてなんて言えるはずがない。ディオも、決して皇帝を辞めたい訳ではないはずだ。

「……今から学ぶのでも良いなら、もちろん頑張りたいわ。私でも良いと言ってくれるなら、あなたと結婚したい。でも、私たち、寿命もかなり違うわよね? あなたは、それでもいいの……?」

 十年経っても変わらない彼と、成長して見た目が変わった自分の姿を見て、わかっていたはずのことをより強く認識した。

 今は一緒にいられても、わたしはすぐに年を取って、また彼を置いて行くことになるだろう。

 私はギュッと胸元で握りしめた手に力を込めて、目を伏せた。種族が違うということは、共に生きていく上で簡単な問題では決してない。

「心配いらない。竜人族には、こういう時のための、特別な方法があるんだ」

 けれど、ディオはそう言って、ニッと口元に笑みを浮かべた。

「特別な方法?」
「ああ。竜人族には、生命力を共有するという、一生に一度だけ、一人に対してしか使えない特別な魔法がある。それを使えば、つがいと寿命で分かたれることはなくなるんだよ」
「い、一生に一度って……ディオ。それを、私に使ってもいいの……?」

 震える声でそう言う訊くと、ディオはフッと笑った。

「君に使わなくて誰に使うの」

 当然のように彼がそう答えたので、私の目からはまた勝手に涙がこぼれた。

「じゃあ……私はこれからも、あなたのそばにいていいの?」
「もちろん。君も望んでくれるなら、もう決して離さない」
「ディオ……!」
 
 私はディオに力いっぱい抱きついた。彼も、しっかりと私を抱きしめてくれる。

「私、勉強を頑張るわ。あなたの隣にいられるよう、うんと努力する。だから、私とずっと一緒にいて」
「もちろんだ。……サーシャ。プロポーズの返事を、ちゃんと聞かせてくれないか?」

 顔を上げれば、愛しい人の微笑む姿がある。それだけで、胸が痛くなるほど嬉しい。それなのに、これからもずっと一緒にいられるなんて。こんな幸せが、また私に訪れるなんて。

「……私を、あなたの奥さんにしてください。愛しているわ、ディオ」
「サーシャ!」
 
 笑顔でそう返せば、ディオにすぐさま頭を引き寄せられ、私たちは再び唇を重ね合わせた。
 幸せで、胸がいっぱいになる。こんなに満たされた気持ちになるのは久しぶりだった。

 私はその時のことを思い出して、ふと気づいた。
 まだ、彼に言っていない、大切なことがある。
 
「あの、ディオ。私、あなたに言わないといけないことがあるの」
「ん? 何?」
 
 彼から頬にキスを受けながら、私はとても大切なことを切り出した。
 
「あのね、私たちには、娘がいるの。あなたと私に似た、キアラという、とっても可愛い素敵な子よ」
「…………え?」
 
 どうやら彼は、キアラがいた時はまだ意識がなかったらしい。目を見開いてしばらく動かなくなったディオが可愛くて、私はクスッと笑ってしまった。
 
「あの子にも、早く父親の元気になった姿を見せてあげましょう」
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