半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第一章

パーティの始まり

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 招待状を持った貴族たちがやっとホールへ入りきる頃には、会場内の空気はすっかり期待に満ちていた。
 
 皇帝はいつ現れるのかと、階段上の入り口に自然と大勢の視線が集まっている。
 
 そんな中、ついに待ち望んだ声が、高らかに上がった。
 
「ディオルグ・ヴァン・バルドゥーラ皇帝陛下のご来臨です!」
 
 皇帝の来場を告げる声に、ざわめいていたホールの音一切が止んだ。
 
 長い赤髪に、切れ長の金眼。
 十年間、体調不良だったことを微塵も感じさせない逞しい体躯に、少し視界に入っただけで思わず目が離せなくなる、圧倒的な存在感を生まれながらその身に宿すカリスマ性。
 
 大勢の記憶に残る面影そのままの皇帝が、ようやくその姿を現したのだ。
 
 彼が会場内を見回して薄く笑みを浮かべると、ようやく息をすることを許されたというように、何人もの貴族がハァと深く息を吐いた。
 皇帝の健在と拝謁の喜びに浸る大勢の貴族たちが一人、また一人と、胸に手を当て皇帝に礼とっていった。
 
「皆、急な招待であったにも関わらず、集まってくれたことを感謝する」
 
 ディオルグがよく通る声でそう話すと、皆ゆっくりと頭をあげて彼を見た。健康そうな皇帝の姿に安堵しながら、多くの貴族たちが耳を傾ける。
 
 そんな衆目の様子を確認すると、彼は穏やかな声で話を続けた。

 定例通りである時節の挨拶を簡単に終えると、ディオルグは早々に本題へ移った。
 
「招待状に記した通り、今日は重大な発表がある」
 
 そう言ってディオルグが目を細め、今しがた自分が入ってきた入り口に視線を向けた。
 
 すると、そこからふわりとしたベールを頭につけた亜麻色の髪の美しい女性と、まだ幼く可愛らしい少女が現れた。少女は、皇帝と同じ色合いの髪と目をしている。
 
 ザワッ、と一斉に会場内がどよめきに満ちた。
 
 二階の入り口から入場できるのは、皇族だけと決まっている。それを鑑みれば、皇帝の二人を見る慈しむような眼差しを見ずとも、彼女たちがどのような存在であるかは誰もが理解できた。
 
「紹介しよう。私のつがいである愛しい伴侶サーシャと、私たちの大切な娘、キアラだ」
「な……!」
「つ、つがい……!?」
「陛下の娘ということは、つまりあの方は皇女殿下ということでは……!?」
 
 ディオルグの宣言により、一層ざわめきが大きくなる。多くの視線が、皇帝の伴侶と娘に注がれた。そのうちのほとんどは、事実であれば皇女となるキアラへと向けられている。
 
 なるほど、色合いや幼いながらに堂々と大衆を見据える胆力は、皇帝に似ていると言えなくもない。しかし竜人族の特徴をまるで持たない彼女へ、いくつか疑心の籠もった視線が向けられたのも事実だった。
 
 しかし、そんな輩も、次の瞬間には息を呑んだ。
 
 そんな不躾な視線に対して、にこりと微笑んだ彼女の笑顔があまりにも可愛らしく魅力的であり、またそれは皇帝が先ほど見せた微笑みを彷彿とさせるものだったからだ。
 
「皇女殿下……」
 
 誰かの発した小さな呟きは、多くの貴族たちの胸の中に、納得という形でストンと落ちた。
 
 驚きと感嘆にシンと静まり返る貴族たちを満足げに見回した後、ディオルグは続けて話し始めた。

「突然のことで皆が混乱するのも無理はない。私が伏せっていたこの十年に何があったか、簡単にではあるがオルディンから説明がある。オルディン」
「かしこまりました」
 
 いつの間にか階段下に待機していたオルディンが、書類を片手に朗々と説明を始めた。
 
 十年前に皇帝はつがいを得ていたが、皇太后ととある一派の陰謀によって離れ離れとなり、そのせいでこれまで姿を見せられなかったこと。
 
 その罪により皇太后は皇族の鬼籍から抹消し、皇族の墓所からは永久的に追放とすることを告げた。
 
「皇帝陛下のつがいに手を出すということは、即ち皇帝陛下を害することに他なりません。詳細は現在も調査中ですが、この件に関与した者は徹底的に調べ上げ、必ず相応の罰を受けて頂くことになるでしょう」
 
 オルディンの宣言に、どこかから、ヒュッと息を呑む音が聞こえた。
 
 
 
 

 
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