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第一章
お父さんとお話し
しおりを挟む儀式のあとすぐに、ノアは崩れるようにして意識を失ってしまった。
なんとか受け止めることができたが、とても疲れていたようで、名前を呼んでもポンポンと背中をたたいても、全然覚まさなかった。
いきなり倒れたので驚いたけれど、ノアがわたしの眷属になったからか、あまり心配にはならなかった。
ノアはもう大丈夫だと、なんとなくわかっていたからだ。
父がすぐさまノアをわたしから引っぺがすように持ち上げて、「重いだろうから、私が運ぼう」と言ってどこか引きつった笑顔を見せた。
別に重くはないけれど、人の姿に戻ったノアはわたしよりも大きいので、もしかしたら引きずってしまうかもしれない。
そう思い、わたしはノアを父に任せて、みんなで塔を出たのだった。
塔を出ると、大勢集まっていた人たちの一人が、慌てて父からノアを受け取った。「ゆっくり休めるようにしてやってくれ」と父に言われて、しっかりと頷いたその人がノアを連れていくのを目で追っていると、父が目の前に屈んで声をかけてきた。
「……キアラ。今日は、私の部屋で一緒に寝ないか?」
わたしはきょとんと父を見返した。
ついこの前までいつも母と一緒に眠っていたわたしだが、貴族は普通、幼い頃から一人で寝るものなのだと教わったばかりだ。
「お父さんと一緒に寝るの?」
「ああ。嫌か?」
目線を合わせ、わたしの頭を撫でながらそう訊いてくる父の顔には、心配の色が浮かんでいる。ただ一緒に寝たいとかではなく、何か話があるのかもしれない。
「ううん。お父さんと一緒に寝るの、楽しみ!」
「グハッ……」
「お父さん?」
父がいきなり口元を押さえて顔をそむけてしまった。どうしたのだろうと思ったが、父は「いや、大丈夫だ。キアラが可愛くてびっくりしてしまったんだ」と言って、ちょっとだらしない顔をしていた。
その夜、わたしは寝る準備を済ませると、父の部屋へやってきた。扉の前を守る騎士がノックをすると返事があったので、彼が扉を開けてくれる。わたしはお礼を言うと、中へ入った。
「お父さん!」
「キアラ、よく来たな」
初めて入った父の部屋は、わたしの部屋よりもっと大きくて豪華だった。でも、落ち着いた雰囲気で、とても素敵な部屋だ。
父は大きなベッドの上で何やら書類を見ていたようだが、わたしを見るやそれをサイドテーブルへ置き、手招きをした。
「えっと、お邪魔します?」
「遠慮するな、キアラ。ほら、おいで」
あまりにも立派な寝室なので少し恐縮していると、父はわたしをヒョイッと抱き上げてベッドへ乗せてしまった。
「お仕事をしてたの?」
「あぁ、書類の確認をしていただけだよ。もう終わったから、気にしなくていい」
「そっか……」
広いベッドに、母よりもずっと大きな父。
なんだかドキドキしてしまう。
でも、父がわたしを見る目には、母と全く同じ愛情が込められているので、わたしは思わずにへっと笑ってしまった。
でも、父はそんなわたしを見て、悲しげに眉を下げた。
「キアラ……こんなに大きくなるまで見つけてあげられず、苦労をかけてしまって、本当に済まなかったな」
そう言って、父はわたしの頬を親指で軽く撫でた。
「それは最初に謝ってもらったし、今はすっごく良くしてもらってるわ。それに、わたしにはお母さんがいたから平気だったもの」
実際、領主が母にちょっかいをかけてきたから困っていただけで、それまでは何も問題なく暮らしていた。父も母も悪い人たちに騙されていただけだし、父のせいで苦労したなんて全く思っていない。
「だが、皇帝の娘だと知られないよう、キアラにはずっと獣人族だと偽っていたとサーシャから聞いた。竜人族とはどういうものなのかも教えてやれないまま、キアラにあの儀式をさせてしまうことになったのは、私の落ち度なのだ。後悔してもしきれない」
父が辛そうにそう言うので、わたしはギュッと寄ってしまっている父の眉間をぐりぐりと押してやった。
「キ、キアラ?」
「わたしは、絶対に今日のことを後悔なんかしないわ。もしお父さんが心配するようなことがあっても、ノアを助けるんじゃなかったなんて、思うはずがないもの。だからもう、そんなふうに言わないで?」
父がわたしを心配してくれていることはわかるけれど、自分の行動の責任くらいは、自分で取る。この先何が起こったとしても、今日のことで父が自分を責めることなど、何もないのだ。
「……そうか。だが、これからのために、キアラに伝えておきたいことがいくつかある。聞いてくれるか?」
父がやっと笑顔を見せてくれたので、わたしも笑って頷いてみせた。
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