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エピローグ
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「はい、どうぞ」
「……ジェイドったら、もうお茶なんて淹れなくてもいいのに」
話し合いが終わり、ジェイドが用意したというメイドたちは、明日から来てくれることになった。部屋に戻ると、ジェイドがお茶を淹れてくれたのだが、皇子様だと知っているのに彼に淹れてもらうなんて、恐れ多いんですけど?
「僕がやりたくてやっているんだから、いいんだよ」
ジェイドは皇子であることを明かしたため、今日付けで私の従者ではなくなった。それなのに、お茶を淹れたいらしい。上手く淹れられるよう頑張っているうちに、楽しくなっちゃったのかな。ジェイドの淹れるお茶はおいしいから、私は嬉しいけれど。
男爵との交渉も一段落したので、私は紅茶を飲みつつ、気になっていたことを訊いてみることにした。
「あのね、ジェイド。悪役令嬢になるはずだったマルグリット様には、今もまだ従者はいないって、昨日言ってたよね? 私、ジェイドが実は隣国の皇子だって聞いた時、それならやっぱりジェイドが隠しキャラだったんじゃないかって思ったんだけど……でも、ジェイドが悪役令嬢の従者になるなんて、ありえないよね?」
私がそう切り出すと、ジェイドはなんでもないことのように言った。
「いや。たぶん、その隠しキャラっていうのは、僕のことだと思うよ」
私は、ぎょっとしてジェイドを見た。
「えっ!? で、でも、ジェイドは悪役令嬢じゃなくて、ヒロインである私の従者をしてて……私が前世の記憶を取り戻したせいでジェイドを呼んじゃったから従者になっただけで、私が男爵に連れていかれた後、他の人の従者になる必要なんてなかったよね?」
「それはどうかな。確かに生活に困ることはなかっただろうけど、僕はあの時、なんとかしてアリスの元へ行きたくて仕方がなくて、むしろどうしてアリスは僕を呼んでくれないのかって、頭がおかしくなりそうだったからなぁ」
「……え?」
頭がおかしくなるなんて、ジェイドってば大げさな。まぁ、それほど恋しく思ってくれたということかもしれないけれど、だからって、どうして悪役令嬢の従者になる必要があるの?
「男爵には顔を知られているから、彼が僕をアリスに近づかせるようなことはしないだろうとわかっていた。それなら、僕は少しでもアリスに会える可能性を求めて、同い年の令嬢の従者になろうと考えるかもしれない、とは思うからさ」
え……そこまでする? 当時十歳の子供が、護衛たちの庇護を蹴って数か月一緒に暮らしただけの私に会うために、ほんの少しの可能性を手繰って、わざわざ公爵家の従者になるなんて。
そしてふと、あることに気づく。乙女ゲームの攻略対象は、大雑把にではあるが、キャラが系統別に分類できる場合が多い。『恋する魔法学園のアリス』の場合は、こうだ。
第一王子は、正統派王子様系。公爵子息は、クール美人系。宰相子息は、ツンデレ系。騎士団長の養子は、わんこ系。もしジェイドが隠しキャラなら、何系なのだろうかと考えると。
「もしかして、ヤンデレ系……?」
「? 何?」
「あ、その……もしかして、ジェイドって結構愛が重い方なのかなって」
そう言ってみると、彼はニコリと表面的な笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。そして自然な動きで私の頤に手をかけ、視線を絡めとられる。ジェイドと間近で目が合って、急激に顔に熱が集まってきたと思えば、彼は私の耳元で低く囁いた。
「今すぐわかるように、じっくり教えてあげようか?」
「ひぇ……っ。え、遠慮しておきます……っ」
急に攻撃力の高すぎるアプローチはやめて! 心臓が潰れるかと思ったんですけど!?
「それは残念。じゃあ、少しだけ教えるね」
「え……」
気づいたら、目を閉じたジェイドの顔が、これ以上ないくらい近くにあった。そして、一瞬、ふにっと唇に柔らかな感触。
呆然と固まっていると、ジェイドはさっきとは違う、愛し気な笑顔を向けてくれた。
いつか本当に心臓が潰されてしまうかもしれない、と思った午後だった。
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「……ジェイドったら、もうお茶なんて淹れなくてもいいのに」
話し合いが終わり、ジェイドが用意したというメイドたちは、明日から来てくれることになった。部屋に戻ると、ジェイドがお茶を淹れてくれたのだが、皇子様だと知っているのに彼に淹れてもらうなんて、恐れ多いんですけど?
「僕がやりたくてやっているんだから、いいんだよ」
ジェイドは皇子であることを明かしたため、今日付けで私の従者ではなくなった。それなのに、お茶を淹れたいらしい。上手く淹れられるよう頑張っているうちに、楽しくなっちゃったのかな。ジェイドの淹れるお茶はおいしいから、私は嬉しいけれど。
男爵との交渉も一段落したので、私は紅茶を飲みつつ、気になっていたことを訊いてみることにした。
「あのね、ジェイド。悪役令嬢になるはずだったマルグリット様には、今もまだ従者はいないって、昨日言ってたよね? 私、ジェイドが実は隣国の皇子だって聞いた時、それならやっぱりジェイドが隠しキャラだったんじゃないかって思ったんだけど……でも、ジェイドが悪役令嬢の従者になるなんて、ありえないよね?」
私がそう切り出すと、ジェイドはなんでもないことのように言った。
「いや。たぶん、その隠しキャラっていうのは、僕のことだと思うよ」
私は、ぎょっとしてジェイドを見た。
「えっ!? で、でも、ジェイドは悪役令嬢じゃなくて、ヒロインである私の従者をしてて……私が前世の記憶を取り戻したせいでジェイドを呼んじゃったから従者になっただけで、私が男爵に連れていかれた後、他の人の従者になる必要なんてなかったよね?」
「それはどうかな。確かに生活に困ることはなかっただろうけど、僕はあの時、なんとかしてアリスの元へ行きたくて仕方がなくて、むしろどうしてアリスは僕を呼んでくれないのかって、頭がおかしくなりそうだったからなぁ」
「……え?」
頭がおかしくなるなんて、ジェイドってば大げさな。まぁ、それほど恋しく思ってくれたということかもしれないけれど、だからって、どうして悪役令嬢の従者になる必要があるの?
「男爵には顔を知られているから、彼が僕をアリスに近づかせるようなことはしないだろうとわかっていた。それなら、僕は少しでもアリスに会える可能性を求めて、同い年の令嬢の従者になろうと考えるかもしれない、とは思うからさ」
え……そこまでする? 当時十歳の子供が、護衛たちの庇護を蹴って数か月一緒に暮らしただけの私に会うために、ほんの少しの可能性を手繰って、わざわざ公爵家の従者になるなんて。
そしてふと、あることに気づく。乙女ゲームの攻略対象は、大雑把にではあるが、キャラが系統別に分類できる場合が多い。『恋する魔法学園のアリス』の場合は、こうだ。
第一王子は、正統派王子様系。公爵子息は、クール美人系。宰相子息は、ツンデレ系。騎士団長の養子は、わんこ系。もしジェイドが隠しキャラなら、何系なのだろうかと考えると。
「もしかして、ヤンデレ系……?」
「? 何?」
「あ、その……もしかして、ジェイドって結構愛が重い方なのかなって」
そう言ってみると、彼はニコリと表面的な笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。そして自然な動きで私の頤に手をかけ、視線を絡めとられる。ジェイドと間近で目が合って、急激に顔に熱が集まってきたと思えば、彼は私の耳元で低く囁いた。
「今すぐわかるように、じっくり教えてあげようか?」
「ひぇ……っ。え、遠慮しておきます……っ」
急に攻撃力の高すぎるアプローチはやめて! 心臓が潰れるかと思ったんですけど!?
「それは残念。じゃあ、少しだけ教えるね」
「え……」
気づいたら、目を閉じたジェイドの顔が、これ以上ないくらい近くにあった。そして、一瞬、ふにっと唇に柔らかな感触。
呆然と固まっていると、ジェイドはさっきとは違う、愛し気な笑顔を向けてくれた。
いつか本当に心臓が潰されてしまうかもしれない、と思った午後だった。
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