乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子

文字の大きさ
15 / 15

エピローグ

しおりを挟む
「はい、どうぞ」
「……ジェイドったら、もうお茶なんて淹れなくてもいいのに」

 話し合いが終わり、ジェイドが用意したというメイドたちは、明日から来てくれることになった。部屋に戻ると、ジェイドがお茶を淹れてくれたのだが、皇子様だと知っているのに彼に淹れてもらうなんて、恐れ多いんですけど?

「僕がやりたくてやっているんだから、いいんだよ」

 ジェイドは皇子であることを明かしたため、今日付けで私の従者ではなくなった。それなのに、お茶を淹れたいらしい。上手く淹れられるよう頑張っているうちに、楽しくなっちゃったのかな。ジェイドの淹れるお茶はおいしいから、私は嬉しいけれど。

 男爵との交渉も一段落したので、私は紅茶を飲みつつ、気になっていたことを訊いてみることにした。

「あのね、ジェイド。悪役令嬢になるはずだったマルグリット様には、今もまだ従者はいないって、昨日言ってたよね? 私、ジェイドが実は隣国の皇子だって聞いた時、それならやっぱりジェイドが隠しキャラだったんじゃないかって思ったんだけど……でも、ジェイドが悪役令嬢の従者になるなんて、ありえないよね?」

 私がそう切り出すと、ジェイドはなんでもないことのように言った。

「いや。たぶん、その隠しキャラっていうのは、僕のことだと思うよ」

 私は、ぎょっとしてジェイドを見た。

「えっ!? で、でも、ジェイドは悪役令嬢じゃなくて、ヒロインである私の従者をしてて……私が前世の記憶を取り戻したせいでジェイドを呼んじゃったから従者になっただけで、私が男爵に連れていかれた後、他の人の従者になる必要なんてなかったよね?」
「それはどうかな。確かに生活に困ることはなかっただろうけど、僕はあの時、なんとかしてアリスの元へ行きたくて仕方がなくて、むしろどうしてアリスは僕を呼んでくれないのかって、頭がおかしくなりそうだったからなぁ」
「……え?」

 頭がおかしくなるなんて、ジェイドってば大げさな。まぁ、それほど恋しく思ってくれたということかもしれないけれど、だからって、どうして悪役令嬢の従者になる必要があるの?

「男爵には顔を知られているから、彼が僕をアリスに近づかせるようなことはしないだろうとわかっていた。それなら、僕は少しでもアリスに会える可能性を求めて、同い年の令嬢の従者になろうと考えるかもしれない、とは思うからさ」

 え……そこまでする? 当時十歳の子供が、護衛たちの庇護を蹴って数か月一緒に暮らしただけの私に会うために、ほんの少しの可能性を手繰って、わざわざ公爵家の従者になるなんて。

 そしてふと、あることに気づく。乙女ゲームの攻略対象は、大雑把にではあるが、キャラが系統別に分類できる場合が多い。『恋する魔法学園のアリス』の場合は、こうだ。
 第一王子は、正統派王子様系。公爵子息は、クール美人系。宰相子息は、ツンデレ系。騎士団長の養子は、わんこ系。もしジェイドが隠しキャラなら、何系なのだろうかと考えると。

「もしかして、ヤンデレ系……?」
「? 何?」
「あ、その……もしかして、ジェイドって結構愛が重い方なのかなって」

 そう言ってみると、彼はニコリと表面的な笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。そして自然な動きで私の頤に手をかけ、視線を絡めとられる。ジェイドと間近で目が合って、急激に顔に熱が集まってきたと思えば、彼は私の耳元で低く囁いた。

「今すぐわかるように、じっくり教えてあげようか?」
「ひぇ……っ。え、遠慮しておきます……っ」

 急に攻撃力の高すぎるアプローチはやめて! 心臓が潰れるかと思ったんですけど!?

「それは残念。じゃあ、少しだけ教えるね」
「え……」

 気づいたら、目を閉じたジェイドの顔が、これ以上ないくらい近くにあった。そして、一瞬、ふにっと唇に柔らかな感触。

 呆然と固まっていると、ジェイドはさっきとは違う、愛し気な笑顔を向けてくれた。
 いつか本当に心臓が潰されてしまうかもしれない、と思った午後だった。







ーーーーーーーー

お読みくださり、ありがとうございました!
よろしければ、いいねやお気に入り登録、エールをくださると嬉しいです(*^^*)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生しましたがモブが好き放題やっていたので私の仕事はありませんでした

蔵崎とら
恋愛
権力と知識を持ったモブは、たちが悪い。そんなお話。

魔王様は転生王女を溺愛したい

みおな
恋愛
 私はローズマリー・サフィロスとして、転生した。サフィロス王家の第2王女として。  私を愛してくださるお兄様たちやお姉様、申し訳ございません。私、魔王陛下の溺愛を受けているようです。 *****  タイトル、キャラの名前、年齢等改めて書き始めます。  よろしくお願いします。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます

下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。 悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。 悪役令嬢は諦めも早かった。 ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。 ご都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

地味令嬢、婚約者(偽)をレンタルする

志熊みゅう
恋愛
 伯爵令嬢ルチアには、最悪な婚約者がいる。親同士の都合で決められたその相手は、幼なじみのファウスト。子どもの頃は仲良しだったのに、今では顔を合わせれば喧嘩ばかり。しかも初顔合わせで「学園では話しかけるな」と言い放たれる始末。  貴族令嬢として意地とプライドを守るため、ルチアは“婚約者”をレンタルすることに。白羽の矢を立てたのは、真面目で優秀なはとこのバルド。すると喧嘩ばっかりだったファウストの様子がおかしい!?  すれ違いから始まる逆転ラブコメ。

【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。 生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。 このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。 運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。 ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいました

みゅー
恋愛
『転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります』のスピンオフです。 前世から好きだった乙女ゲームに転生したガーネットは、最推しの脇役キャラに猛アタックしていた。が、実はその最推しが隠しキャラだとヒロインから言われ、しかも自分が最推しに嫌われていて、いつの間にか悪役令嬢の立場にあることに気づく……そんなお話です。 同シリーズで『悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい』もあります。

処理中です...