私を愛してくれない婚約者の日記を読んでしまいました〜実は溺愛されていたようです〜

侑子

文字の大きさ
6 / 7

読んだものは

しおりを挟む
「……」
 
 既視感が気のせいと言える範疇を超えてきたように思えるが、私が今考えていることはありえないことなので、やっぱり、きっと何かの間違いだ。
 
 もう少し読んでみようと、私は無心で本に綴られた文章の続きを目で追った。
 
【少女はとてもよく似合う白いドレスを身にまとっていた。やや幼く見えるが、今日デビュタントを迎えた令嬢のようだ。それならば、彼女のことをもっと知りたいと思っても許されるだろうかと、そんなことを考えてしまう自分に驚いた。話してみれば、どうやら会場で同い年の令嬢たちに容姿をからかわれたようだった。幼く見えることを揶揄されたようだが、恐らく一際目を引く彼女の愛らしさに嫉妬した者たちの仕業だろう。必死で泣くまいと、強くあろうとする健気な姿や、私の言葉で元気が出たと笑う姿に、目が釘付けになってしまった】
 
「~~~~っ!?」
 
 私は本から思わずバッと目を逸らした。視線の先にあった、机の角を意味もなくじっと見つめる。

 頭が混乱しているし、顔に熱が集まってきて、とてもあつい。少し心を落ち着ける必要がある。
 
 ……この本は、一体なに? まさか、これを書いたのはカイン様なの!?
 
 でも、おかしい。カイン様が、こんなことを考えていたはずがない。だってカイン様は、私とダンスを踊るのも嫌なほど、私を嫌っているはずだから。

 もしかしたら、これはあの日の様子を見ていた誰かが書いた、創作の物語かもしれない。そう言われた方が、むしろ納得できる。
 
 そう思い、私はもう少し続きを読んでみることにした。

【会場までのエスコートを申し出て手を差し出したが、おずおずと乗せてきた彼女の手の小ささ、そして白さと柔らかさに驚愕した。手に少し触れているだけなのに、なぜか悪いことをしているような気分になる。女性をエスコートすることには多少慣れていたはずだが、もし握りしめたら彼女の指が折れてしまうのではないかと、恐ろしくなった。彼女より幼い、十歳の姪にさえこんなふうに思わないのに、私はどうかしてしまったのだろうか】
 
「……」
 
 やけに心理描写がしっかりしている。
 これを書いたのはきっと、とても想像力豊かな人なのだろう。
 
 私は頬に集まる熱に気づかない振りをしながら、文章の続きに視線を落とす。
 
【彼女の手を傷つけることなく、なんとか保護者の元へと連れて行くことができた。彼女は伯爵家の令嬢らしい。自分の相手としておかしくはない家格の令嬢であったことにホッと胸を撫で下ろした。その時点で、自分が彼女を望んでいるという事実を否定するのは難しくなっていた。だが、彼女は見るからにか弱く繊細な少女だ。十も年上の無骨な男にそのような目で見られていると知れば、驚き怯えるに違いない。この想いは秘めておかなくては】
 
「……」
 
 これは、本当に創作の物語だろうか。それとも、私は今、自分に都合のいい夢を見ているのだろうか。
 夢の続きを見てみたくて、私はさらにページをめくる。
 
【なんということだ。早く相手を見つけるようにと常々父から言われてはいたが、まさか私に了承を得ることもなく、勝手にあの少女との婚約を取り付けてしまうとは! 態度に出していたつもりはないというのに、息子の想いなどお見通しということらしい。……あのたぬき親父め! 既に婚約を結んでしまったとなれば、解消するわけにもいかない。彼女の名誉にかかわる。婚約者となったからには会わないわけにはいかないというのに、私が知るどの令嬢よりも華奢で儚げな彼女に私のような大男が触れれば、彼女の骨が折れてしまうのではないだろうか!? だが、彼女はものすごく可愛い。直視すれば抱きしめたくて仕方なくなるので、とても危険だ。彼女には極力触れないよう、常に目を合わせないよう、気をつけなくてはなるまい】

「……!」
 
 私は顔どころか、体中が沸騰するような羞恥に襲われた。
 
 ……まさか、カイン様がつれない態度を取っていたのは、そんな理由だったの!?
 
 でも、可愛いとか抱きしめたくなるとか、そんなことを考えていたようにはとても見えなかった。そうだとしたら嬉しすぎるけれど、これは本当に、カイン様の書いたものなのだろうか。私たちの婚約の経緯を知る誰かの、思い込みや妄想の産物という線もまだ捨てきれない。
 
 そう考えたが、確かに、思い当たることがないわけではない。
 
 近寄らないように、触れないように私を避けるくせに、毎月必ず会いに来てくれる。都合が悪くなれば、代わりの日を設けてまで。
 週に一度の花束やドレスなど、定期的に贈り物もしてくれる。私が恥をかかないよう、様々な面で心を配ってくれていた。
 
 私は彼に近づきたくて、でもいつも拒絶されて、悲しくて不満に思っていた。でもそれは、私に触れたら傷つけるかもしれない、と彼が思っていたからなのだろうか。
 
 ……私はガラス細工でもなんでもなく、ただの、カイン様の婚約者なのに。

 そんな不満を心の中でこぼしながら口を尖らせるが、頬の熱は一向に引いてくれない。
 
 ……ここに書かれていることを、信じてもいいのかしら?
 
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?

宮永レン
恋愛
 没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。  ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。  仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

嘘告されたので、理想の恋人を演じてみました

志熊みゅう
恋愛
 私、ブリジットは魔王の遺物である“魔眼”をもって生まれ、人の心を読むことができる。その真っ赤な瞳は国家に重用されると同時に、バケモノと恐れられた。平民の両親に貴族の家に売られ、侯爵令嬢として生きてきた。ある日、騎士科のアルセーヌから校舎裏に呼び出された。 「ブリジット嬢、ずっと前からお慕いしておりました。俺とお付き合いしてください。」 (ああ、変な賭けしなきゃよかった。どうして、俺が魔眼持ちに告らなきゃいけないんだ。)  ……なるほど、これは“嘘告”というやつか。  私は魔眼を活かして、学園卒業後は国の諜報員として働くことが決まっている。でもその前に少し、普通の女の子らしいことがしたかった。 「はい、分かりました。アルセーヌ様、お付き合いしましょう。」  そんな退屈しのぎに始めた恋人ごっこが、やがて真実の愛に変わる!?  嘘告から始まる純愛ラブストーリー! ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/11/6) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/11/6) ☆小説家になろうの週間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/11/12) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/11/12)

旦那様に「君を愛する気はない」と言い放たれたので、「逃げるのですね?」と言い返したら甘い溺愛が始まりました。

海咲雪
恋愛
結婚式当日、私レシール・リディーアとその夫となるセルト・クルーシアは初めて顔を合わせた。 「君を愛する気はない」 そう旦那様に言い放たれても涙もこぼれなければ、悲しくもなかった。 だからハッキリと私は述べた。たった一文を。 「逃げるのですね?」 誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。 「レシールと向き合って私に何の得がある?」 「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」 「レシール・リディーア、覚悟していろ」 それは甘い溺愛生活の始まりの言葉。 [登場人物] レシール・リディーア・・・リディーア公爵家長女。  × セルト・クルーシア・・・クルーシア公爵家長男。

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

地味令嬢、婚約者(偽)をレンタルする

志熊みゅう
恋愛
 伯爵令嬢ルチアには、最悪な婚約者がいる。親同士の都合で決められたその相手は、幼なじみのファウスト。子どもの頃は仲良しだったのに、今では顔を合わせれば喧嘩ばかり。しかも初顔合わせで「学園では話しかけるな」と言い放たれる始末。  貴族令嬢として意地とプライドを守るため、ルチアは“婚約者”をレンタルすることに。白羽の矢を立てたのは、真面目で優秀なはとこのバルド。すると喧嘩ばっかりだったファウストの様子がおかしい!?  すれ違いから始まる逆転ラブコメ。

姉の八つ当たりの対象の持ち主となっていましたが、その理由まで深く考えていなかったせいで、色々な誤解が起こっていたようです

珠宮さくら
恋愛
オルテンシア・バロワンは、幼い頃から迷惑していることがあった。それは、姉がオルテンシアが持っているものに何かあると八つ当たりすることだった。 そんなことをするのは、いつも妹であるオルテンシアの持ちものにだけで、そこまで嫌われているのかと思っていたのだが……。

無愛想な婚約者の心の声を暴いてしまったら

雪嶺さとり
恋愛
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを世界で一番愛しているんだ……っ!?」 「え?」 伯爵令嬢ルーシャの婚約者、ウィラードはいつも無愛想で無口だ。 しかしそんな彼に最近親しい令嬢がいるという。 その令嬢とウィラードは仲睦まじい様子で、ルーシャはウィラードが自分との婚約を解消したがっているのではないかと気がつく。 機会が無いので言い出せず、彼は困っているのだろう。 そこでルーシャは、友人の錬金術師ノーランに「本音を引き出せる薬」を用意してもらった。 しかし、それを使ったところ、なんだかウィラードの様子がおかしくて───────。 *他サイトでも公開しております。

処理中です...