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読んだものは
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「……」
既視感が気のせいと言える範疇を超えてきたように思えるが、私が今考えていることはありえないことなので、やっぱり、きっと何かの間違いだ。
もう少し読んでみようと、私は無心で本に綴られた文章の続きを目で追った。
【少女はとてもよく似合う白いドレスを身にまとっていた。やや幼く見えるが、今日デビュタントを迎えた令嬢のようだ。それならば、彼女のことをもっと知りたいと思っても許されるだろうかと、そんなことを考えてしまう自分に驚いた。話してみれば、どうやら会場で同い年の令嬢たちに容姿をからかわれたようだった。幼く見えることを揶揄されたようだが、恐らく一際目を引く彼女の愛らしさに嫉妬した者たちの仕業だろう。必死で泣くまいと、強くあろうとする健気な姿や、私の言葉で元気が出たと笑う姿に、目が釘付けになってしまった】
「~~~~っ!?」
私は本から思わずバッと目を逸らした。視線の先にあった、机の角を意味もなくじっと見つめる。
頭が混乱しているし、顔に熱が集まってきて、とてもあつい。少し心を落ち着ける必要がある。
……この本は、一体なに? まさか、これを書いたのはカイン様なの!?
でも、おかしい。カイン様が、こんなことを考えていたはずがない。だってカイン様は、私とダンスを踊るのも嫌なほど、私を嫌っているはずだから。
もしかしたら、これはあの日の様子を見ていた誰かが書いた、創作の物語かもしれない。そう言われた方が、むしろ納得できる。
そう思い、私はもう少し続きを読んでみることにした。
【会場までのエスコートを申し出て手を差し出したが、おずおずと乗せてきた彼女の手の小ささ、そして白さと柔らかさに驚愕した。手に少し触れているだけなのに、なぜか悪いことをしているような気分になる。女性をエスコートすることには多少慣れていたはずだが、もし握りしめたら彼女の指が折れてしまうのではないかと、恐ろしくなった。彼女より幼い、十歳の姪にさえこんなふうに思わないのに、私はどうかしてしまったのだろうか】
「……」
やけに心理描写がしっかりしている。
これを書いたのはきっと、とても想像力豊かな人なのだろう。
私は頬に集まる熱に気づかない振りをしながら、文章の続きに視線を落とす。
【彼女の手を傷つけることなく、なんとか保護者の元へと連れて行くことができた。彼女は伯爵家の令嬢らしい。自分の相手としておかしくはない家格の令嬢であったことにホッと胸を撫で下ろした。その時点で、自分が彼女を望んでいるという事実を否定するのは難しくなっていた。だが、彼女は見るからにか弱く繊細な少女だ。十も年上の無骨な男にそのような目で見られていると知れば、驚き怯えるに違いない。この想いは秘めておかなくては】
「……」
これは、本当に創作の物語だろうか。それとも、私は今、自分に都合のいい夢を見ているのだろうか。
夢の続きを見てみたくて、私はさらにページをめくる。
【なんということだ。早く相手を見つけるようにと常々父から言われてはいたが、まさか私に了承を得ることもなく、勝手にあの少女との婚約を取り付けてしまうとは! 態度に出していたつもりはないというのに、息子の想いなどお見通しということらしい。……あのたぬき親父め! 既に婚約を結んでしまったとなれば、解消するわけにもいかない。彼女の名誉にかかわる。婚約者となったからには会わないわけにはいかないというのに、私が知るどの令嬢よりも華奢で儚げな彼女に私のような大男が触れれば、彼女の骨が折れてしまうのではないだろうか!? だが、彼女はものすごく可愛い。直視すれば抱きしめたくて仕方なくなるので、とても危険だ。彼女には極力触れないよう、常に目を合わせないよう、気をつけなくてはなるまい】
「……!」
私は顔どころか、体中が沸騰するような羞恥に襲われた。
……まさか、カイン様がつれない態度を取っていたのは、そんな理由だったの!?
でも、可愛いとか抱きしめたくなるとか、そんなことを考えていたようにはとても見えなかった。そうだとしたら嬉しすぎるけれど、これは本当に、カイン様の書いたものなのだろうか。私たちの婚約の経緯を知る誰かの、思い込みや妄想の産物という線もまだ捨てきれない。
そう考えたが、確かに、思い当たることがないわけではない。
近寄らないように、触れないように私を避けるくせに、毎月必ず会いに来てくれる。都合が悪くなれば、代わりの日を設けてまで。
週に一度の花束やドレスなど、定期的に贈り物もしてくれる。私が恥をかかないよう、様々な面で心を配ってくれていた。
私は彼に近づきたくて、でもいつも拒絶されて、悲しくて不満に思っていた。でもそれは、私に触れたら傷つけるかもしれない、と彼が思っていたからなのだろうか。
……私はガラス細工でもなんでもなく、ただの、カイン様の婚約者なのに。
そんな不満を心の中でこぼしながら口を尖らせるが、頬の熱は一向に引いてくれない。
……ここに書かれていることを、信じてもいいのかしら?
既視感が気のせいと言える範疇を超えてきたように思えるが、私が今考えていることはありえないことなので、やっぱり、きっと何かの間違いだ。
もう少し読んでみようと、私は無心で本に綴られた文章の続きを目で追った。
【少女はとてもよく似合う白いドレスを身にまとっていた。やや幼く見えるが、今日デビュタントを迎えた令嬢のようだ。それならば、彼女のことをもっと知りたいと思っても許されるだろうかと、そんなことを考えてしまう自分に驚いた。話してみれば、どうやら会場で同い年の令嬢たちに容姿をからかわれたようだった。幼く見えることを揶揄されたようだが、恐らく一際目を引く彼女の愛らしさに嫉妬した者たちの仕業だろう。必死で泣くまいと、強くあろうとする健気な姿や、私の言葉で元気が出たと笑う姿に、目が釘付けになってしまった】
「~~~~っ!?」
私は本から思わずバッと目を逸らした。視線の先にあった、机の角を意味もなくじっと見つめる。
頭が混乱しているし、顔に熱が集まってきて、とてもあつい。少し心を落ち着ける必要がある。
……この本は、一体なに? まさか、これを書いたのはカイン様なの!?
でも、おかしい。カイン様が、こんなことを考えていたはずがない。だってカイン様は、私とダンスを踊るのも嫌なほど、私を嫌っているはずだから。
もしかしたら、これはあの日の様子を見ていた誰かが書いた、創作の物語かもしれない。そう言われた方が、むしろ納得できる。
そう思い、私はもう少し続きを読んでみることにした。
【会場までのエスコートを申し出て手を差し出したが、おずおずと乗せてきた彼女の手の小ささ、そして白さと柔らかさに驚愕した。手に少し触れているだけなのに、なぜか悪いことをしているような気分になる。女性をエスコートすることには多少慣れていたはずだが、もし握りしめたら彼女の指が折れてしまうのではないかと、恐ろしくなった。彼女より幼い、十歳の姪にさえこんなふうに思わないのに、私はどうかしてしまったのだろうか】
「……」
やけに心理描写がしっかりしている。
これを書いたのはきっと、とても想像力豊かな人なのだろう。
私は頬に集まる熱に気づかない振りをしながら、文章の続きに視線を落とす。
【彼女の手を傷つけることなく、なんとか保護者の元へと連れて行くことができた。彼女は伯爵家の令嬢らしい。自分の相手としておかしくはない家格の令嬢であったことにホッと胸を撫で下ろした。その時点で、自分が彼女を望んでいるという事実を否定するのは難しくなっていた。だが、彼女は見るからにか弱く繊細な少女だ。十も年上の無骨な男にそのような目で見られていると知れば、驚き怯えるに違いない。この想いは秘めておかなくては】
「……」
これは、本当に創作の物語だろうか。それとも、私は今、自分に都合のいい夢を見ているのだろうか。
夢の続きを見てみたくて、私はさらにページをめくる。
【なんということだ。早く相手を見つけるようにと常々父から言われてはいたが、まさか私に了承を得ることもなく、勝手にあの少女との婚約を取り付けてしまうとは! 態度に出していたつもりはないというのに、息子の想いなどお見通しということらしい。……あのたぬき親父め! 既に婚約を結んでしまったとなれば、解消するわけにもいかない。彼女の名誉にかかわる。婚約者となったからには会わないわけにはいかないというのに、私が知るどの令嬢よりも華奢で儚げな彼女に私のような大男が触れれば、彼女の骨が折れてしまうのではないだろうか!? だが、彼女はものすごく可愛い。直視すれば抱きしめたくて仕方なくなるので、とても危険だ。彼女には極力触れないよう、常に目を合わせないよう、気をつけなくてはなるまい】
「……!」
私は顔どころか、体中が沸騰するような羞恥に襲われた。
……まさか、カイン様がつれない態度を取っていたのは、そんな理由だったの!?
でも、可愛いとか抱きしめたくなるとか、そんなことを考えていたようにはとても見えなかった。そうだとしたら嬉しすぎるけれど、これは本当に、カイン様の書いたものなのだろうか。私たちの婚約の経緯を知る誰かの、思い込みや妄想の産物という線もまだ捨てきれない。
そう考えたが、確かに、思い当たることがないわけではない。
近寄らないように、触れないように私を避けるくせに、毎月必ず会いに来てくれる。都合が悪くなれば、代わりの日を設けてまで。
週に一度の花束やドレスなど、定期的に贈り物もしてくれる。私が恥をかかないよう、様々な面で心を配ってくれていた。
私は彼に近づきたくて、でもいつも拒絶されて、悲しくて不満に思っていた。でもそれは、私に触れたら傷つけるかもしれない、と彼が思っていたからなのだろうか。
……私はガラス細工でもなんでもなく、ただの、カイン様の婚約者なのに。
そんな不満を心の中でこぼしながら口を尖らせるが、頬の熱は一向に引いてくれない。
……ここに書かれていることを、信じてもいいのかしら?
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