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告白、二人。
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もっと先を読めばきちんと確証が得られるだろうかとも思うが、これがカイン様の書いたものであるならば、これ以上読むのも気が引ける。ここまで読んでおいて何を、とは自分でも思うけれど。
そんなことを考えていると、部屋の外がにわかに騒がしくなってきた。
なんだろう、と廊下につながる扉を見つめていると、やがてバタバタと騒がしい足音が近づいてきて、すぐにバタンと大きな音をたてて勢いよく扉が開いた。
「……っ!」
扉の奥に現れたのは、見たこともないほど焦った様子のカイン様だった。その後ろには、楽しそうな笑みを浮かべた公爵夫妻と執事の姿も見える。
「カイン様?」
「セ、セレナ嬢。もしや、それを……それを見たのか?」
私が手に持っている本を指してそう言うカイン様は蒼白で、まるでこの世の終わりのような顔をしている。
頼むから否定してくれ、と言わんばかりに彼の声が震えていることからしても、どうやらこれは彼が書いたもので間違いないらしい。そう確信して、彼とは対照的に、私の胸は喜びでいっぱいになる。
私は恥ずかしさと気まずさと申し訳なさがないまぜになった複雑な気持ちで、小さく返事をした。
「えぇと、その……はい。すみません」
「あぁ……」
私の答えを聞いて、カイン様が膝から崩れ落ちた。
◇
目の前には、どんよりと項垂れたカイン様。
公爵家の面々と和気あいあいとした夕食を終えたあと、私は公爵家の馬車で、カイン様に送ってもらっていた。
夕食の間、カイン様は頑なに私の方を見ようとせず、少し気まずい思いをしていたが、それを公爵様が一喝した。
『カイン。私たちが奸計を巡らせたことは悪かったと思っているが、それはお前の態度が目に余るものだったからこそだとわかっているか? 大事なことを履き違えて惚れた女性を傷つけるなど、男の風上にも置けん行為だと胸に刻み込め』
そう言った公爵様は、父親らしい威厳と愛情に溢れていた。
どうやら、カイン様が自身の想いを綴ったあの本の存在を知った公爵様が、執事に命じて私があの本を読むよう誘導したらしい。想い合っているのにすれ違い続けている私たちの関係を見るに見かねたようだ。
カイン様はグッと拳を握りしめると、覚悟を決めたように私を見た。
「セレナ嬢ーー」
「好きです」
「はっ?」
ぽかんと口を開けて私を凝視したまま、カイン様が固まった。
私はスッと背筋を伸ばし、恥ずかしさに怯みそうになる自分を叱咤して、精一杯に想いを伝えた。
「日記を見てしまってごめんなさい。公爵様はわたくしを避けるカイン様を叱っていたけれど、それはわたくしも同じでした。嫌われているのかもしれない、想いを伝えても拒絶されたらどうしようと怖くて、今まで、あなたのことが好きだと言えませんでした。わたくしはあなたに立派だと褒めていただいたのに、その言葉に相応しい行動が取れていなかったのです」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
視線を逸らして少しうつむいたまま一気に言い募ると、カイン様から待ったがかかった。
恐る恐る視線を上げると、そこには見たこともないほど顔を真っ赤にしたカイン様がいた。
「カイン様……?」
「いや、待ってくれ。それは本当か? 私の気持ちを知って、気を遣ってそう言ってくれているのではないか? 君がまさか、剣術バカと名高く女心など微塵もわかっていないと言われる私のことを好いてくれているなど……」
……そんなこと、誰に言われているんですか、カイン様。
「違います。わたくしは初めて会ったあのデビュタントの夜から、カイン様を、その、お慕いしております。ですから、婚約が決まったと聞かされた時は、とても嬉しかったのです」
「なっ、いや、えぇっ!?」
真っ赤になって目を見開き、慌てているカイン様が、なんだかとても可愛く思えた。十歳も年上の大人であるカイン様に、こんな一面があったなんて、今まで知らなかった。
「……初めて会った時から思っていたが、あなたは本当に格好いいな。それに比べて、私はなんと情けないのだろうか。女性に先に言わせてしまうなんて」
「え?」
項垂れながら独り言のように呟かれたカイン様の言葉は、あまりよく聞こえなかった。何と言ったのだろう、と彼の顔を覗き込もうとすると、彼も私を窺うように、少しその顔があげられた。
「セレナ嬢。その、手に……触れてもいいだろうか」
私はコクリと頷いて、スッと右手を差し出した。
恐る恐る、カイン様が私の手を取って、壊れないのを確かめるように、ゆっくりと握った。まだ私の骨を折ってしまうことを警戒しているらしい。
「その、先程の君の言葉が本当なら……私が未熟なばかりに、今まで辛い思いをさせたと思う。本当に申し訳ない。……許して、もらえるだろうか」
私の様子を窺うカイン様の大きな体が、なんだか今は小さく見える。それがおかしくて、私はクスッと笑って返事をした。
「これからはわたくしの目を見て話をして、ダンスも一緒にたくさん踊ってくれるなら許してあげます」
バッと顔をあげたカイン様と目が合った。その目が、嬉しそうに柔らかく細められる。
「ありがとう、セレナ嬢。私も、あなたが好きだ。愛している。成人したら、すぐに私と結婚してほしい」
かつてないほど甘い彼の表情と声音に、胸が激しく高鳴るのを感じた。
耳を赤くしながらそう言った彼の真剣な眼差しが、今もまっすぐに私を見ている。
嬉しすぎて言葉に詰まり、「喜んで」となんとか答えた私の頬もきっと、赤く染まっているに違いなかった。
そんなことを考えていると、部屋の外がにわかに騒がしくなってきた。
なんだろう、と廊下につながる扉を見つめていると、やがてバタバタと騒がしい足音が近づいてきて、すぐにバタンと大きな音をたてて勢いよく扉が開いた。
「……っ!」
扉の奥に現れたのは、見たこともないほど焦った様子のカイン様だった。その後ろには、楽しそうな笑みを浮かべた公爵夫妻と執事の姿も見える。
「カイン様?」
「セ、セレナ嬢。もしや、それを……それを見たのか?」
私が手に持っている本を指してそう言うカイン様は蒼白で、まるでこの世の終わりのような顔をしている。
頼むから否定してくれ、と言わんばかりに彼の声が震えていることからしても、どうやらこれは彼が書いたもので間違いないらしい。そう確信して、彼とは対照的に、私の胸は喜びでいっぱいになる。
私は恥ずかしさと気まずさと申し訳なさがないまぜになった複雑な気持ちで、小さく返事をした。
「えぇと、その……はい。すみません」
「あぁ……」
私の答えを聞いて、カイン様が膝から崩れ落ちた。
◇
目の前には、どんよりと項垂れたカイン様。
公爵家の面々と和気あいあいとした夕食を終えたあと、私は公爵家の馬車で、カイン様に送ってもらっていた。
夕食の間、カイン様は頑なに私の方を見ようとせず、少し気まずい思いをしていたが、それを公爵様が一喝した。
『カイン。私たちが奸計を巡らせたことは悪かったと思っているが、それはお前の態度が目に余るものだったからこそだとわかっているか? 大事なことを履き違えて惚れた女性を傷つけるなど、男の風上にも置けん行為だと胸に刻み込め』
そう言った公爵様は、父親らしい威厳と愛情に溢れていた。
どうやら、カイン様が自身の想いを綴ったあの本の存在を知った公爵様が、執事に命じて私があの本を読むよう誘導したらしい。想い合っているのにすれ違い続けている私たちの関係を見るに見かねたようだ。
カイン様はグッと拳を握りしめると、覚悟を決めたように私を見た。
「セレナ嬢ーー」
「好きです」
「はっ?」
ぽかんと口を開けて私を凝視したまま、カイン様が固まった。
私はスッと背筋を伸ばし、恥ずかしさに怯みそうになる自分を叱咤して、精一杯に想いを伝えた。
「日記を見てしまってごめんなさい。公爵様はわたくしを避けるカイン様を叱っていたけれど、それはわたくしも同じでした。嫌われているのかもしれない、想いを伝えても拒絶されたらどうしようと怖くて、今まで、あなたのことが好きだと言えませんでした。わたくしはあなたに立派だと褒めていただいたのに、その言葉に相応しい行動が取れていなかったのです」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
視線を逸らして少しうつむいたまま一気に言い募ると、カイン様から待ったがかかった。
恐る恐る視線を上げると、そこには見たこともないほど顔を真っ赤にしたカイン様がいた。
「カイン様……?」
「いや、待ってくれ。それは本当か? 私の気持ちを知って、気を遣ってそう言ってくれているのではないか? 君がまさか、剣術バカと名高く女心など微塵もわかっていないと言われる私のことを好いてくれているなど……」
……そんなこと、誰に言われているんですか、カイン様。
「違います。わたくしは初めて会ったあのデビュタントの夜から、カイン様を、その、お慕いしております。ですから、婚約が決まったと聞かされた時は、とても嬉しかったのです」
「なっ、いや、えぇっ!?」
真っ赤になって目を見開き、慌てているカイン様が、なんだかとても可愛く思えた。十歳も年上の大人であるカイン様に、こんな一面があったなんて、今まで知らなかった。
「……初めて会った時から思っていたが、あなたは本当に格好いいな。それに比べて、私はなんと情けないのだろうか。女性に先に言わせてしまうなんて」
「え?」
項垂れながら独り言のように呟かれたカイン様の言葉は、あまりよく聞こえなかった。何と言ったのだろう、と彼の顔を覗き込もうとすると、彼も私を窺うように、少しその顔があげられた。
「セレナ嬢。その、手に……触れてもいいだろうか」
私はコクリと頷いて、スッと右手を差し出した。
恐る恐る、カイン様が私の手を取って、壊れないのを確かめるように、ゆっくりと握った。まだ私の骨を折ってしまうことを警戒しているらしい。
「その、先程の君の言葉が本当なら……私が未熟なばかりに、今まで辛い思いをさせたと思う。本当に申し訳ない。……許して、もらえるだろうか」
私の様子を窺うカイン様の大きな体が、なんだか今は小さく見える。それがおかしくて、私はクスッと笑って返事をした。
「これからはわたくしの目を見て話をして、ダンスも一緒にたくさん踊ってくれるなら許してあげます」
バッと顔をあげたカイン様と目が合った。その目が、嬉しそうに柔らかく細められる。
「ありがとう、セレナ嬢。私も、あなたが好きだ。愛している。成人したら、すぐに私と結婚してほしい」
かつてないほど甘い彼の表情と声音に、胸が激しく高鳴るのを感じた。
耳を赤くしながらそう言った彼の真剣な眼差しが、今もまっすぐに私を見ている。
嬉しすぎて言葉に詰まり、「喜んで」となんとか答えた私の頬もきっと、赤く染まっているに違いなかった。
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感想ありがとうございます!
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