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3章 引退を考える今日この頃
47.息子と父親 ※尚輝side
しおりを挟む※尚輝side
日曜日、今日は朝から家で勉強をしていると、珍しく家にいたお父さんが部屋に入って来た。
俺はお父さんと二人で暮らしている。母さんは俺が幼い頃に亡くなっている。
それからはずっとお父さんが一人で俺を育ててくれた。とは言え一社を担う人だから俺に付きっきりって訳にはいかない。
ほとんどの時間はお手伝いさんと過ごして来たけど、仕事以外の時間は全て可能な限り俺に費やしてくれていた。
幼くして母親を亡くした俺を寂しい思いをさせないようにと常に考えてくれているお父さんの事はとても好きだ。
「尚輝、勉強はどうだ?」
「うん、順調だよ。どうしたの?」
「少し話せないかと思ってな」
「ちょうど休憩しようと思ってたんだ。リビングに行くよ」
ニコニコ笑顔のお父さんにそう言われ、俺は立ち上がり二人でリビングへ行く。
リビングには赤ちゃんの頃の俺から大人になるまでの写真が飾られている。デザインせいの高い壁掛けの棚には母さんに抱かれる幼い頃の俺もいる。記憶にない母さんを見るのはこうして写真でしか出来ないんだ。
リビングのテーブルに座って待っていると、お父さんが二人分のコーヒーを淹れて持って来てくれた。
「お父さんが家にいるなんて珍しいね、仕事は忙しくないの?」
「いや、午後になったら出るつもりだ。いつも寂しい思いをさせてすまないな」
「ううん。お父さんが頑張ってるの知ってるから、俺の事は気にしないでよ。それよりもお父さんも体に無理はしないでね」
「尚輝は本当に良い子だなぁ♡」
「だってお父さん頑張り屋だから」
この通り俺達親子はとても仲が良い。
普段会えない分、こうして一緒に過ごせる時は可能な限り側にいた。
「ところで尚輝、この前高額な買い物をしただろ?」
「あ……ごめんなさい。ダメだった?」
「いやいや、ダメなもんか!尚輝には好きに使うようにカードを渡してあるんだ。だけど、ほら、親として何に使ってるのか把握しておかないとだろ?額が大きいからな」
お父さんに指摘されたのは伊吹さんにプレゼントした腕時計の事だと思う。
確かに自分でもやり過ぎたかなと思った。でも、どうしても伊吹さんに良く思われたくて少し背伸びしたんだ。普段は自分でも買わないような高級腕時計、ちゃんとしたやつなら喜んでくれるかなって思ったんだ。
俺はその腕時計をどうしたのか、心配しているお父さんに正直に話す事にした。
「実は好きな人がいるんだ。その人にプレゼントしたんだ」
「何!?好きな人だと!?」
「うん。まだ片想いなんだけどね」
父親にこう言う話は初めてしたけど、気恥ずかしいものなんだな。俺はお父さんには何でも話せると思っていたけど、そうでも無い事を今知ったよ。
そして想像よりも驚いているお父さんは、何かを考えるような顔をした後に、ニッコリ笑ってこう言った。
「よし、今度その人も一緒に三人でディナーでもしよう♪」
「えっ!」
「そうか~、尚輝ももうそんな年か~。で、どんな人なんだ?尚輝の好みを私に教えておくれ♪」
コーヒーを飲みながら楽しそうにしているお父さんだったけど、俺は焦っていた。
どうしよう、俺の好きな人は同性の人なんだけど……
しかも仕事もグレーな感じだし、正直に話したら伊吹さんの印象が悪くなりそうだよな。
でも、お父さんには嘘を吐きたくないし……
「お父さん、俺の好きな人は……男性なんです」
「……男性だと?」
言ってしまった!
お父さんの立派な眉毛がピクッと引き攣っている。やっぱり息子がゲイだなんて知ったらショックだよな……ごめんねお父さん、でも俺は伊吹さんの事本気なんだ。
「俺、ゲイなんだ。昔から同性にしか惹かれた事が無くて、今回心から好きだと思える人に出会ったんだ。今まで隠していてごめんなさい」
「あ、えっと……そうだな、俺の方こそ驚いてしまってすまない。いつかは素敵な女性を嫁に貰って来るものだと思い込んでいたものだったから……尚輝、お前が謝る事はないんだよ。お前が好きになったのなら男性だろうと、女性だろうと……その、いいんじゃないのか?」
「お父さん……」
言葉ではそう言ってくれるけど、無理してるのが分かる。そりゃそうだ、一人息子である俺にしかお父さんの後継者にはなれないし、俺の次の後継者は俺が伊吹さんを好きでいる限り産まれない。
つまりお父さんの会社は俺の代で途絶えるんだ。それか全く違う人に継いでもらうかだ。
きっとお父さんは可愛い孫を見るのとか楽しみにしてたんじゃないかな。ごめんね、本当にごめんなさい。俺程の親不孝はいないよね。
「そうか、男が好きか。よし、会わせなさい」
「え!?」
「どちらにせよ尚輝の好きな人なら見てみたいんだよ。さぞかし素敵な人なんだろう?写真とかないのか?ん?」
「あ、会わせるのは難しいかと……本当にまだ俺の一方的な片想いだから、あまり迷惑になるような事はしたくないから」
「尚輝の好意が迷惑だと?そんな訳あるか!尚輝に好かれて嫌がる者などいない!父さんが話を付けてやるから会わせなさい」
「や、やめてよ!お父さんが話を付けるだなんて……そんな事をして伊吹さんに嫌われたらお父さんのせいだからな!」
「ハッ!!!」
しまった。お父さんが伊吹さんに対してそんな事をするなんて言うもんだから、つい興奮して大きな声を出してしまった。
お父さんはショックを受けたような、驚いた顔をして固まった。
「お父さん、大きな声を出してごめんなさい。でもそんな事しないで欲しいんだ。俺は本当に伊吹さんの事が好きなんだ」
「尚輝……お父さんよりも大切な人が出来たんだな。分かったよ、二人の事はもう何も言わないよ。だけど、私は父親として尚輝の事を心から愛しているんだ。父親らしい事はしてあげられてないけど、それだけは分かって欲しいんだ」
「うん。とても良く伝わってるよ。俺もお父さんが大好きだよ♪あの、もし伊吹さんも俺の事を好きになってくれたら、許してくれるって事?」
「もちろんさ♪両想いになれたら伊吹くんに会わせてくれるんだろう?その時を楽しみにしているよ」
「ありがとう!俺頑張る♪」
どうなるかと思ったけど、お父さんに話して良かったな♪
俺がずっと周りに言えなくて悩んでいた事を、お父さんに話せるようにまでなったのは紛れもない伊吹さんのおかげだ。
俺にとってプラスでしかない伊吹さんを想って俺は嬉しくなって心から笑顔になれた。
いつか必ず両想いになってみせる!
俺は伊吹さんと幸せになるんだ!
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