71 / 72
4章 まさかの目覚め!?
70.時を待つ狐 ※ルナside
しおりを挟む※ルナside
俺の所属するデートクラブの事務所でダラダラしてると、誰かからの電話対応をしていたスタッフのミカちゃんが固まっているのに気付く。
いつも落ち着いていて電話対応やパソコンに向かいクールに仕事をこなしてるイメージだけど、何かあったのかと思った。
「……分かったわ。それじゃあ予約入れてくれてるお客様にはこちらからお断りしておくから」
そう言って電話を切るミカちゃん。
内容的に相手はキャストっぽい。急に休みたいとか言われて焦ってる感じ?でも、そんなのはこの業界じゃ普通じゃね?
相手も人間だけど、こっちだって人間だ。同じ人間相手に仕事してりゃ嫌になる時だってあるだろうよ。
ミカちゃんは綺麗な顔を曇らせて少し離れた席にいる店長にこう言った。
「店長。今伊吹から連絡がありまして……それが、土曜日の出勤を取り消して欲しいと……」
「「何だと!?」」
俺と店長は同時に同じセリフを言った。
あの伊吹が一度出した出勤を取り消すだと!?しかも土曜日とか伊吹の太客の日じゃねぇか!
「代わりに日曜日出勤するそうです」
「待ってよ!伊吹の土曜日って言えばもういつもの客が予約入れてなかった!?」
「はい。これから連絡しますけど、いつものように代わりのキャストを勧めるかどうか迷ってしまいます」
「いや、勧めても断られるだろうからしなくていいよ。この前の遅刻といい、伊吹の奴一体何を考えてるんだ」
店長は焦ったようにミカちゃんに指示していた。
伊吹は店長のお気に入りだからな~。今まで仕事に対してドタキャンなんてした事ない伊吹がそんな事言うもんだから心配なんだろ。
俺だって心配だ。訳あって伊吹との連絡は控えてるってのに、クソ、あいつ何しようとしてんだよ。
まさか本気で辞める気なのか?
しかも土曜日って……ハッ!!店外か!?
「店長~、これって店外しようとしてんじゃね?呼び出して説教でもしたら?だって土曜日の客って伊吹の太客だろ?タイミング的にもおかしいって。他の伊吹の客も怪しむと思うし、伊吹の人気落ちたら店にとっても大損害じゃん」
「それもそうだけど、店外に関してはうちは禁止してないから無闇には叱れないよ。それにしても伊吹がこんな事をするなんて初めてだ。事情は聞いてみるよ」
「お言葉ですが、伊吹もそろそろ身を固める覚悟を決めたのかと」
「「伊吹が!?」」
クソ!また店長と被ったじゃねぇか!!
それだけミカちゃんの言う事は衝撃的だった。
いや、薄々そうじゃねぇかとは思ってたさ、伊吹が土曜の客に惹かれてるのは察してたよ。
だからってそんなの許せるかよ。相手は客だし、何より伊吹は俺のだ!
大人な女性であるミカちゃんは落ち着いた様子で言葉を続けた。
「お二人が伊吹を気に入ってるのは分かりますけど、伊吹には伊吹の人生があるんです。キチンと話を聞いて暖かい目で見守ってあげるのも我々の仕事です。勿論間違えていたなら叱りますけどね」
「だけどよ、ミカちゃん。今伊吹が一人の客にそんな事になったらこの店大丈夫なのかよ?最近新人入ってねぇし、ただでさえ少ないメンズの勢いが無くなるぞ」
「そこはルナ貴方に期待しているわ♪」
「はぁ?俺は伊吹がいねぇなら続ける意味はねぇよ」
「ルナ、どう言う事だ?」
「俺は伊吹がいるから続けてるだけだ。貯金もしてるし、伊吹が辞めるってんなら俺も辞めるぞ。これは始めた頃から決めてたんだ」
「伊吹が辞めるだと!?そんなの聞いてないぞ!今すぐに呼び出そう!」
あ、やべ。伊吹には口止めされてんだった。
でも伊吹もこんな休み方してんだし、店長達が変に思うのも仕方ねぇってなるだろ。
とりあえずフォローしておくか。
「店長、早まるな。呼び出すのは賛成だけど、ハッキリ辞めるとは言ってなかったからな。でも今回の件といい、伊吹が何かを考えてるかは聞いといた方がいいと思うぜ」
「分かっているよ。いきなり問い詰めたりはしないようにする。ルナ、最近伊吹と会ってるのか?」
「いや、この前連絡したきり~。俺も忙しいから今は連絡してなーい」
「そうか、一応ルナも気に掛けておいてくれよ。私達よりもルナとの距離の方が近い所があるからな」
「あ?俺キャストだぞ。スタッフじゃねぇんだけど」
「そうね、ルナ貴方にもまだまだ頑張って貰わないとね♪」
「ミカちゃーん、俺最近めちゃくちゃ頑張ってね?褒めて~」
「凄い凄い♪この調子でお客様を楽しませてちょうだい♪」
「あ~伊吹の奴、電話に出ないぞ!こうなったら家まで行くか!」
店長はバタバタと外で出る支度をし出す。
ちょうど外から戻って来たスタッフが慌てる店長を見て不思議そうな顔をしていた。
まったく伊吹の奴、俺が頑張ってる時に何してんだよ。
俺も店長と一緒に行きたかったけど、ぐっと堪えてスマホを取り出し営業メッセージを始める。
今は我慢だ。伊吹の好きにやらせてやる。
所詮客は客だ。伊吹が客を好きになったとしてもいつか後悔する時が来る。
そん時に俺が伊吹を嫁に貰ってやるんだ。
それまで俺はひたすら稼ぐ事に集中するんだ。
✳︎✳︎✳︎完✳︎✳︎✳︎
20
あなたにおすすめの小説
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
【完結】少年王が望むは…
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~
天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。
「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」
「おっさんにミューズはないだろ……っ!」
愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。
第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜
星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; )
――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ――
“隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け”
音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。
イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる