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3章
天下無敵の伊織さんは健在でしたか!
しおりを挟む公園の出口に向かって歩いて行く俺と伊織。
後少しでお別れの時間だ。
伊織は俺の手をギュッと強く握って話し出した。
「あのな、俺貴哉といると何でもしてあげたくなっちゃうんだ。何でも買ってあげたくなっちゃうし、貴哉の為なら周りも見えなくなっちまうんだ。でもそれは貴哉にとっても俺にとっても良くない事だって分かったんだ。このままじゃ貴哉の側にいてもまた辛い思いをさせるだけなんだ」
「……うん」
「次会う時は今日よりマシになってると思うんだ。その次に会う時はもっともっとマシになってる。そんでいつかまたお前を俺のものにするんだ」
そう言って振り向いた伊織は、前によく見せていた自信満々で余裕のある笑顔の伊織だった。
「今は早川に預けてるけど、絶対に取り戻しに行くから。そん時にもし貴哉が早川がいいって言ってもすぐに俺の方が良くなるぐらい良い男になるから♪だから楽しみにしててくれよ」
「……伊織、俺……」
「あ、これも言わせて?俺の事忘れないでな♡」
「バカ!忘れる訳ないだろ!」
「バカってひでぇな♪」
「バカだよお前はっ俺はお前が良い男って奴になるまで待ったりしねぇからな!俺は俺の好きにやる!だから遅過ぎて俺に相手にされなくても文句言うんじゃねぇぞ!」
言ってやった。もうヤケクソだ。
本当はもっと会いたいし、連絡だって取りたい。でも素直になれなくて可愛くない言い方になっちまう。
そんな俺の気持ちが伊織に伝わったのか、怒ったりせずに優しく笑ってくれた。
「文句は言っちゃうかもな~?今日だってちゃっかり桃山とデートしてるし~?」
「今文句言える立場だと思ってんのか?それに桃山はすげぇ世話してくれたよ。今のお前より頼りになるかもな!」
「へー、貴哉は早川じゃなくて桃山か~。面白いじゃん♪ま、早川でも桃山でも俺の敵じゃないね」
「おー、懐かしい!天下無敵の伊織さんは健在でしたか!」
「当たり前だろ♪貴哉を誰よりも愛してるのはこの俺だ。早川でも桃山でもねぇ。てか俺とお前の関係は保留ってだけで早川には預けてるだけだ。そこ勘違いすんなよ」
「おまっ!サラッと愛してるとか言うんじゃねぇよ!」
「あはは、何かお前といるとこうなっちまうな~」
伊織はずっと楽しそうに笑っていた。
つられて俺も笑った。
ずっとこの時間が続けばいいのに。心からそう思うぐらいに今がとても楽しかった。
ここで伊織と別れたら次に会えるのは大分先になりそうだ。まだ冬休み前だってのに、会えるのは年明けの学校が始まってからかよ。
伊織と再会した駐車場に近付くにつれて楽しさの中に寂しさが増す。
「なぁ、明日から学校来ないんだろ?それみんな知ってるのか?」
「あー、担任の柴ちゃんには話した。あと、怜ちんとなっちには言った。そんぐらいかな」
「お前のファンが悲しむな」
「ファンと言えば聞いたぞ!お前にも出来たんだってな?さすが俺が惚れた男だぜ♪」
「なんで嬉しそうなんだよ」
「そりゃ嬉しいだろ。俺の男にファンが出来るとか」
「お前の事だからやきもち妬くと思ったけどな」
「ファンにやきもち?そりゃねぇだろ。ファンはファンだ。貴哉を応援する奴らを何でそんな目で見るんだよ」
「じゃあ空は?」
「妬く。あいつはファンじゃなくてガチだからな」
「…………」
確かに俺はファンと聞いて喜んだかも知れない。だってファンは、俺の事褒めてくれたり、お菓子くれたりするだけだもん。なるほどな、ファンってのは一線を越えて来ないって訳か。
俺が伊織を見ながら黙って納得してると、ニッと意地悪そうに笑った。
「貴哉が妬いて欲しいんなら妬くけど?」
「いらね。俺はお菓子貰えなくなるのやだからお前がファンに何かしたら俺がファンを守る!」
「はは、貴哉らしい~」
そんなたわいない話をしてたら人気の少ない駐車場に到着する。伊織の原付が置いてあり、タクシーを呼んでくれた。すぐに来てくれるって。
本当に伊織と過ごせたのは数十分だった。
とても一瞬の事のように感じたけど、会えて良かった。多分ここで会えなかったら俺は伊織との記憶や思い出が段々と薄れて吹っ切れていたかもしれない。
これが良い事なのか悪い事なのかは今は分からないけど、会えて良かったと思っている。
タクシーが目の前に停まって、乗り込む前に伊織に振り向いてジッと見つめる。
ここで別れたらしばらく会えなくなる。そう思ったら「じゃあな」って言う言葉がなかなか出て来なかった。
察した伊織が俺に近付いて来てスッと左手を伸ばして俺の付けてたネックレスを触って一緒に付いてたペアリングを大事そうに手に取った。
伊織の左手にも同じ物が付いているのが見えて俺の心はキュッとなる。
「必ず迎えに行く。これからは毎日連絡するから」
「伊織ぃ……返事返さなくても怒るなよなっ」
「了解♡」
最後に伊織は優しくキスをして俺をタクシーに乗せた。きっと伊織も時間がないんだろう。伊織の兄貴はすぐ怒る人らしいからな。
俺はタクシーに乗った後、ずっと下を向いて見送る伊織を見れずにいた。
離れてる間に伊織への気持ちは落ち着いていて、空との事ばかり考えていたけど、やっぱり伊織の事も大切なんだって思った。
俺がこのペアリングを首から外せない理由はただ面倒くさいってだけじゃなかったのを再確認した日だった。
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