【完結】取り柄はズル賢い事だけです

pino

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1章 金の無い客

1.俺はルナ

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 俺、岩切千太郎いわきりせんたろうは某高級デートクラブで「ルナ」って源氏名で働いて生計を立てていた。間違っても本名で呼ぶなよ?古臭い名前だから気に入ってねぇんだ。
 初めは金に困ってたから入った世界だけど、次第に目標が出来た。だから貯金をしている。結構貯まって来たけど、更に貯めておこうと最近は休みなくフル出勤で荒稼ぎをしている所だ。
 
 何の為に貯めているのかだって?
 そりゃもちろん愛する人の為に決まってんだろ。
 俺の愛しい人、夏川伊吹なつかわいぶきは同僚の男だ。かなりの美形で、俺好みのメリハリのあるサバサバタイプ。正に俺に相応しい容姿、性格をしているんだ。
 でも俺が惚れたのはそこじゃない。
 俺の事を一人の人間として見て接してくれたからだ。

 昔から俺は素行が悪く、付き合う奴らも柄の悪い奴らばっかで周りからは嫌煙されて来た。女顔ってので舐められるのが嫌で顔にピアスを付けたりもした。
 高校卒業と同時に親と揉めてそのままこの都会に出て来たんだけど、田舎とは違う空気感に俺は清々しい気分にすらなった。
 誰も俺を気にする人がいなかったからだ。みんな忙しそうに足早に歩く姿には初めは圧倒されたけど、しばらくすればそれにも慣れて俺も都会の空気に馴染んでいった。
 だけど、生活は苦しかった。高校は出ていても派手な髪色にピアス、おまけにまともな敬語すら使えない俺はどこに行っても相手にはされなかった。ただ、唯一の救いは女には困らなかった事。俺が声を掛ければ甲高い声で喜び平気で股を開くアホ達。俺はそんな女達の家を転々として何とか生き延びていた。
 でも、俺の性格上長居はできなかった。初めこそしおらしくしている女達は一度寝れば勘違いして彼女面して来た。寝る場所の確保の為に耐えていたけど、俺はさも自分の物のような扱いをされて心底嫌気がさしていた。

 そんな中何となく見つけたデートクラブのサイトに目が行った。「ふーん、こんな仕事もあるんだ」ぐらいに思っていたけど、俺が見ていたデートクラブにはメンズも在籍してると知って興味が湧いた。
 こういう危ない系って稼げそうだよな。それに学も何も無い俺でも出来るんじゃないか。

 そして俺はそのデートクラブに在籍し、23歳になった今ではメンズ部門でNo.2にまで上り詰めた。俺は自分の容姿には自信があったからそこまで感動はしなかったけど、何ヶ月経っても一年超えてもNo.2止まり。決してNo.1にはなれなかったんだ。

 その理由は伊吹がいたからだ。
 まぁ伊吹ならトップ張ってても納得って感じだけど、やっぱりNo.1なだけあって内面も最高だった。
 俺にとっては初めて俺の事をちゃんと見てくれて親身になって目を見て話してくれた人だ。そんな人の下に付けるのなら文句はねぇ。

 俺はいつか伊吹を手に入れて養ってやると心に誓った。
 ただ、伊吹を落とすに当たって懸念点があった。それは伊吹がノンケであって、男には興味がないって事だ。
 仕事では性別不問で客取ってるけど、話してて分かるんだ。こいつはゲイじゃないって。

 俺は男でも女でも金の為ならどっちでもイケる口だけど、伊吹は違った。伊吹の客は圧倒的に女性客が多かった。男性客も受けてるけど、あくまでも仕事として接している。多分本人は友達と遊ぶような感覚で仕事してるのかもな。
 そもそも伊吹と俺とでは仕事のやり方が違う。それはどのキャストにも言える事だけど、俺は一線は引くものの金さえ貰えれば何でもやった。通常のデートに加えて全てのオプションも開放していたし、その後の延長やホテルに誘われれば個人的に金を受け取って相手している。店を通さずに個人同士でやり取りをして会うような店外なんかも当たり前のようにやっていた。
 一方伊吹はそこは真面目で、店で提供するデート以上の事は一切しなかった。オプションもNGだし、ホテルや店外とかの話も聞いた事がない。それでもトップを守り続けてるのは本当に凄いと思った。

 老若男女、女性客からの圧倒的支持と、たまに訪れる男性客との時間で伊吹は誰よりも地道に安定して稼いでいた。

 すげぇよ伊吹。さすが俺が見込んだ男だ。
 初対面の俺にも仕事のアドバイスとかくれたり、困ったりしてたら親身になってくれるぐらい漢気もある奴だよ。
 だけどよ、最近のお前はどうだ?
 客相手にうつつ抜かしてねぇか?
 俺に「客の言う事は9割は嘘」「飲まれる前に適度に相手して次に繋げ」って教えてくれたのはお前じゃねぇか。

 事務所で時間を潰してた俺の耳に入って来た伊吹の情報に激怒していた。



 
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