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1章 金の無い客
2.知らなかったんだけど?
しおりを挟む事務所の待機部屋のソファでゲームしてたら店長に呼ばれた。面倒くせぇからそのまま話してと言うと他の待機の子達を見ながら「伊吹の話なんだ」と小声で言った。
あ?伊吹関連だと?クソ店長め、俺が伊吹の名前が出れりゃ食い付くと思いやがって。でも気になるから行くけどな!
店長は俺を連れて事務所の奥の面談部屋に入った。なんだよ、ガチな話かよ。ここで少し不安になったから俺から話を切り出した。
「おい店長、伊吹になんかあったのか?」
「まぁ座って。実はルナにも話しておかなきゃと思ってね」
ニコニコ笑顔の店長は奥の椅子に座って、手前に俺を座らせた。
「この話はまだ周りには内緒にしておいて欲しいんだ。約束出来る?」
「あ?うっせぇな。さっさと話せよ」
「本当に君は口が悪いね~。これは俺も昨日伊吹から聞いたばかりなんだけど、伊吹がね、今月いっぱいで辞める事になったんだ」
「辞めるだと!?聞いてねぇぞ!」
いや、伊吹が俺に話さないってのはおかしな事じゃない。俺は伊吹の事が大好きだけど、伊吹は俺の事を煙たがってるからな。
理由は俺の性格だろうな。店長が言うように口は悪いわ、自己中だわで、自分の評判は自分が良く知ってるから気にしてねぇけどな。
「まぁまぁ、そこで俺も二人には話し合いの場を設けようと思っているんだ。辞める事は伊吹の自由だけど、やっぱり二人はライバルでもあり仲の良い友達でもあったから、このままだとルナに不満が溜まる一方だろ?」
「もう十分溜まって溢れてんだよ!おいその話し合いはいつ出来るんだよ!?」
「それはこれからお互いの予定を考えて決め……」
「俺はいつでもいい!伊吹に合わせる!もし予約があるんならキャンセルだ!」
「コラコラ、それは俺が許さないよ~。とりあえず落ち着きなさいって。なるべく早めにセッティングするから。それともう一つ、伊吹は辞めたらここのスタッフになるよ。上には今日話したから正式に決まるのは後日だけど、そうしたらルナとの時間も増えるんじゃない?良かったじゃない♪」
「ああ!?伊吹がスタッフだぁ!?」
次から次へと出て来るムカつく話に俺は暴れ出しそうだった。
伊吹が辞めるような話をしてたのは知ってたけど、ここのスタッフになるなんて話は全く聞いてなかった。
何で、どうしてそんな事になってんだよ!
クソ、俺が伊吹に勢い余ってプロポーズしちまったからか?俺を拒絶する為にこの仕事も辞めるってのかよ。
俺は伊吹から何も言われなかったのと、自分の思い通りにいかない気持ちに腹が立ってただ店長を睨むしか出来なかった。
「ルナ、気持ちは分かるけど、伊吹の事を好きなら認めてあげて応援してあげるのも大事なんじゃないか?君は自分磨きも頑張っていて、出勤率も良いし根性もある。だけど、周りの人が皆んな自分が思った通りに動くと思っちゃダメだ。君に足りない部分、これからは妥協や謙遜が必要だと思うよ」
「……分かったよ。話ってそれだけ?俺もう帰るわ」
「えっ?急に?ちょっと本当に分かってくれたぁ?」
「分かったってば。伊吹によろしくな~」
クソ店長に言っても意味がないってのはよーく分かったよ。
だから俺はこれから伊吹んとこに行って直接話し合おうと思った。
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