【完結】取り柄はズル賢い事だけです

pino

文字の大きさ
5 / 38
1章 金の無い客

4.お前誰だっけ?

しおりを挟む

 駅前のすぐに入れる居酒屋にて、ビールジョッキを片手に一気に飲み干すと男は驚いて見ていた。


「あ?何見てんだよ。お前も飲めよ」

「いや~、あまり無茶な飲み方は体に良くないよ?お酒は楽しく飲まないと♪」

「うるせぇ。年下の癖に俺に説教してんじゃねぇよ」

「すみません……」


 俺が睨んで言うと、またしょんぼりしてビールをちびちび飲み始めた。
 店ん中に入って改めて良く見たら、マジでイケメンじゃん。伊吹程じゃねぇけど綺麗な顔してるし、スタイルも悪くねぇ。本当に俺の客か?俺がこんなイケメンを忘れるとか有り得るか?
 でも俺の源氏名知ってたし、一回会ってるって言ってるしな。俺が入店したての数年前に一回会っただけで忘れてるだけか。


「俺はよ、ある男にプロポーズしたんだけど、あまり良い答えが貰えなかったんだ。だから振り向いて貰えるようにもっと頑張ろうって、仕事もフルで入れてんだけどよ……そいつ、他の男になびいちまったんだ」

「プ、プロポーズ?そうだったんだね。それで暴れてたんだね」

「そうだよ!ずっと想い続けて来たのに!それなのに、俺にはいろいろ秘密にするし、何で裏切るような事するかな!俺、悔しくてっ」


 俺は感極まって、また酒を一気したくなり、自分の空になったジョッキを避けて男のジョッキを奪ってそれを飲もうとした。すると男は俺の手首を掴んで止めた。
 俺が睨むと、今度は強気な表情で俺を見ていた。


「ルナくん、ヤケになったらダメだよ。その人が今の荒れたルナくんの姿を見たらどう思うかな?悲しむんじゃないかな?」

「お前……って伊吹はそんなタマじゃねぇ!むしろ悲しむどころか呆れて放置だわ!伊吹はそう言う残酷な男なの!」

「伊吹って、ルナくんと同じデートクラブの?」

「あ、やべ」


 ここまで話すつもりじゃなかったのに、つい口滑らせちまった。もしかして、伊吹の客でもあるのか?だとしたら厄介だな。


「何、お前伊吹も指名してんの?」

「してないしてない!俺はこういうお店はやってないし、ルナくんの一回切りだよ!前にも言ったでしょ?俺お金持ってないから、やっとの思いでルナくんを指名出来たって」

「……マジ?」

「マジです!」


 嘘でも本当でもどっちでもいいけどよ。
 俺はこいつの事覚えてねぇんだよな。
 だからそんな事言われても……悪い気はしねぇよな?


「ハッキリ言っておくけど、俺は売れっ子で毎日何人も相手にしてんだ。お前の事は全く覚えてない」

「そ、そうだよね……俺、初回の1時間だけだったし、ルナくんが人気なのは分かってるから……」

「はぁ!?お前1時間だけしか予約してなかったのかよ!?そんなんで俺に声掛けるとか図々しい奴だなぁ」

「ごめんなさーい!でも、本当にお金無くて~、あの後もずっとルナくんに会いたくてお金貯めてたんだけど、いろいろな支払いとか友達の結婚式とか重なってなかなか会いに行けなかったんだよぉ」

「はい言い訳おつ~。罰としてテキーラ一気な?すみませーん注文いいですかー?」

「ええっ!ダメだよ!俺あまり強くないし、明日も仕事なんだってば!」


 俺が勝手に罰ゲームを決めて店員を呼ぶと、焦って身を乗り出す男。
 はは、こいつなかなか面白いじゃん。
 うん、酒に酔えない俺にはちょうどいいつまみかもな。


「お前気に入った。名前教えて」

「あ、本当に覚えてなかったんだね!」

「うるせぇ。俺の記憶力を馬鹿にしてねぇでさっさと教えろ」

「そんなつもりは……えっと、花森朱里はなもりあかりです。改めてよろしくね♪」


 笑顔で名前を教えてくれた男だったけど、名前聞いてもピンとこねぇわ。てか朱里って……


「朱里……」

「わぁ、女の子みたいって思ったでしょ?良くからかわれるんだよ~」

「いや、いいんじゃん?かっこいいよ」


 俺は自分の名前が好きじゃないから、それに比べれば全然良いと思った。男で朱里とか普通にかっこいいじゃん。
 俺が素直に言うと、朱里はとても嬉しそうに頬を赤めて笑った。


「ルナくん、それね、初めて会った時にも言ってくれたんだよ♪俺はそれが嬉しくて、だからずっとルナくんの事が忘れられなかったんだ」

「……悪い、覚えてねぇわ」

「それでもいいんだよ♪ルナくんが変わってなくて嬉しい♪」


 本当に嬉しそうに笑う朱里は、俺がどんなに無茶な事や乱暴な事を言っても最後には笑ってくれた。
 顔も良くて中身も良いとかこんな男に会ってたら忘れないようなもんだけどな。

 それだけ俺は客は金ズルとして仕事してたって事だ。なのに伊吹のやつ、客なんかに惚れやがって……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...