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1章 金の無い客
5.拉致決定
しおりを挟む日付が変わるか変わらないかってぐらいの時間に、俺は力無くもたれる朱里を支えながら一生懸命に駅を目指して歩いていた。
居酒屋からはそう遠くない筈なのにめちゃくちゃ遠く感じた。
「しっかりしろ朱里!終電逃すぞ!」
「えへへ~♪ルナくんが怒った~♪」
まさか本当に酒に弱かったとは……
あの後マジでウォッカ一気飲みをやらせたらこの様だ。
明日も仕事だってのを気にしてたから何とか電車に乗せようと俺は必死で朱里を引っ張って歩いていた。
「怒られてんのに笑ってんじゃねぇよ!ここに置いてくぞ!」
「ふふ♪なんだかんだ優しいよなぁ♪意外と面倒見がいいんだね♪」
「……確かに俺らしくねぇよな」
俺は歩くのを辞めて駅の階段の前で立ち止まる。
酔っ払った朱里は、機嫌良さそうに笑っていた。
俺は面倒見が良いとは思えない。確かに年の離れた弟がいるけど、仲良く遊んだ事もなければ慕われてる訳でもない。むしろ荒れていた俺を恥じてひたすら避けられてたんだ。
俺は少し考えた後、パッと朱里を離してスマホを取り出す。俺に放り投げられて地面に尻餅を付いた朱里はボーッと俺を見ていた。
「ルナくん?どうしたの?」
「予定変更~。これから朱里を拉致しまーす」
「拉致ぃ?どゆ事ぉ?」
「お前は黙って拉致られてればいい。おし、空いてんな。予約っと♪」
俺はお気に入りのラブホを検索して部屋を予約する。時間的にどこも埋まってたけど、かろうじて部屋を取る事が出来た。土日だったらアウトだったな。
俺は会社の寮のアパートに住んでるから家に連れ込むのは出来なかった。あまり騒ぐと管理会社がうるせぇからな。
朱里は明日も仕事だって?んなの知るか。
今日はとことん俺に付き合ってもらうぞ。
予約も出来た事だし早速タクシーを捕まえて朱里を押し込み運転手に行き先を伝える。朱里はウトウトし始めていた。
「おいおい、まだ寝るなよ。ヤる事ヤッてからだぞ」
「うーん、今日もいっぱい歩きましたよ~」
「あ?お前どんな仕事してんだよ。登山家かよ」
「あはは♪この格好で山登る訳ないでしょ♪ルナくんてばおもしろーい♪」
「何でもいいけど寝るんじゃねぇ」
笑い上戸かよ。いるよなー、酔うと何言っても笑う奴。
俺は酔った事が無いから気持ちは全く分からなかった。
でも何となくだけど、朱里といるのは嫌じゃないんだ。一回会った事があるって言っても俺からしたらほぼ初めてに近い筈なのに、どこか初対面じゃない気がするからか。
いや、綺麗な顔してるとことか、おせっかいなとことか、そして酔って笑うとことかどこかの誰かに似てる気がするからだ。これで寝たらますますあいつに似てるんだけどな……
と、ここで俺の肩にズシッと重さが加わった。
見るとさっきまでヘラヘラ笑ってた朱里が俺にもたれて寝息を立てていた。
「うわぁ、マジで伊吹かよ」
俺の肩を枕にして幸せそうに眠る朱里は、どことなく伊吹と重なる部分があった。
だから俺からホテルに連れ込もうとしたりしてるのかもな。
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