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1章 金の無い客
8.利用してやんよ
しおりを挟む俺は朱里の事を抱き締めて目を閉じる。
今こうしていられるのが伊吹とだったら良かったのに。そしたら迷わず押し倒していただろう。
目を開けて俺はそっと朱里の体を押す。
「やっぱり辞めようぜ。なんか気分じゃなくなったわ」
「ルナくん……あの、俺が童貞だから?それとも好きって言うのが重いから?」
俺が怒ってると思ったのか朱里は体を起こしながら焦っているようで、不安そうに聞いて来た。
そんな姿を見たら笑えて来て、キスしてやった。
「ま、そんなとこ!俺とヤリたかったら童貞捨ててきな♪そん時は特別に相手してやるからよ♪」
「そんな……俺の好きな人はルナくんなんだよ?ルナくんとしかしたくないよ」
しょんぼりする朱里にもう一度キスをする。
キスに慣れたのか、俺の腕を掴んで朱里からもして来た。
俺は舌を出して朱里の唇をペロッと舐めると、朱里の口が少し開き、俺は中へと舌を入れる。
すると、朱里の生暖かい舌とぶつかって、自然と絡め合った。
初めは戸惑っていたけど、必死で俺に合わせようとしてるのが伝わって来た。
俺の腕を掴む手が震えてたんだ。
「はぁ、朱里?」
「……なに?」
「キスも初めて?」
「うん。へ、下手だった!?」
「いや、悪くねぇよ。でももっと激しい方が俺は好き♡」
「激しいって、これ以上凄いのってどうやるの?」
本当に初めてなのか疑いたくなるような見た目してんのに、恥ずかしそうに聞いて来るその姿を見てたら俺は教えてやってもいいかなと思えた。
ただの気まぐれだ。
本当に気まぐれ。
ちょうど伊吹とも上手くいかなくてモヤモヤしてたのもあったから俺も誰かとこうしてる方が気が楽なのもあった。
朱里を利用してるとも取れる俺の考えは、目の前のイケメンにはどう捉えられてるのかは分からなかった。
「朱里、目瞑ってみ」
「うんっ」
俺が指示すると、真っ直ぐに言う事を聞く朱里。俺はそんな朱里の頭を掴んで引き寄せて強引に激しいキスをする。
朱里がビクッと反応するのか分かったけど、俺はそのまま続けて朱里の下半身に手を伸ばす。硬くなった朱里のアレに触れると、もう一度ビクッとして唇を離した。
目の前にある朱里の顔は赤く染まり、困惑しているようだった。その表情がもどかしくてしばらく魅入ってしまった。
「ルナくんっ?」
「どした?」
「その……触られたら……なっちゃうよ……」
「あん?聞こえねぇよ」
恥じらいながら小さい声で言うもんだから意地悪してやった。眉毛を引っ下げて困ってる顔にキスしてやる。頬、瞼、顎、そして唇を舐めて再び目を合わせると瞳を潤ませた。
「好き……ルナくんが好きですっ」
ここでまた告白されるとは思わなくて俺は一瞬驚いちまった。
こいつは本当に調子狂わせるの上手いよな。
まるで伊吹みてぇで嫌いじゃねぇや。
「はは、お前いつまで言い続ける気だ?俺には他に好きな奴が……」
「分かってる!ちゃんと応援するから、だから好きでいてもいいだろ?迷惑掛けないから」
言葉と共に抱き締められた。予想外な行動に、俺はバランスを崩して朱里に押し倒される形でベッドに倒れる。
いつもならしつこい告白は相手にしない俺だけど、朱里ならもう少し相手してやってもいいかと思える。
たった一度会っただけの俺を好きだと言って、更に金持ってない癖に、俺を落とせると思ってんのかよ。
朱里は自分から好きになった人じゃないと嫌だと言うけど、俺だってそうだ。
自分から好きになった伊吹の事しか愛せねぇ。
だから朱里の片想いは永遠に実る事はねぇんだよ。
「いいよ。好きにしろよ。お前が音を上げるまで見ててやらぁ」
「うわぁ、嬉しい♪ルナくんありがとう♪」
俺は遊びのつもりでそう言ったんだ。
金が無いなら俺の吐口にしてやるだけだ。
それなのに朱里はすげぇ嬉しそうに笑いやがる。
アホみてぇに喜ぶ朱里を見てると俺まで笑えた。
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