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2章 さよなら俺のお前
11.面談部屋
しおりを挟む伊吹と一緒に面談とかする部屋へ入ると、俺を奥へ座らせた。そして伊吹は俺と対面する形で座った。
俺は正面にいる伊吹をジッと見て離さないでいると、気まずそうに笑っていた。こうして伊吹と同じ空間にいるってのに全然嬉しくねぇや。少し前なら伊吹がいたら疲れなんか吹っ飛んでたのによ。
俺と伊吹の間に流れる静寂。先に沈黙を破ったのは伊吹だった。
「ルナ」
「ん?」
「時間取らせて悪いな」
「別に。今日はオフだから気にすんなよ」
「そう言ってもらえると嬉しいや」
伊吹は安心したように笑った。
その顔はとても綺麗でこれから始まる話し合いによって、それが見れなくなる気がしてずっとこのまま時が止まればいいのにと思ってしまった。
多分だけど、俺と伊吹は今日で終わる。
俺ってこういう勘は鋭いんだよな。昔からずっとそう。相手の考えてる事や言いたい事とかが分かっちまうんだ。直接聞こえて来るとかじゃねぇ、ただなんとなくな。
ずっと伊吹は俺の嫁にするって思ってたけど、無理なのは薄々分かってたんだ。
でも俺には伊吹しかいないから無理矢理にでも俺のだって思い込んでたんだ。
「やけに穏やかだな。辞めるってなった途端に随分丸くなりやがって」
「っても俺ももう25歳だしな~。そろそろ落ち着かないとだろ」
「伊吹はいつも歳を気にしてるよな」
「そりゃ気にするって。ここで働いていてもどんどん若い子入って来るし、俺って結構年長な方だぜ?」
「確かにな。でもそれは実年齢だけで言ったらの話だろ。見た目で言ったらお前は若ぇよ」
「えー、中身は?」
「もっとガキ」
「はぁ?ルナに言われたくねぇなぁ」
俺が捻くれた事を言っても伊吹は笑っていた。
いつもならもっと言い返してくる癖に。そんな伊吹が何だか寂しく思い、俺は黙ってスマホをいじり出す。
どうやら朱里は食事中らしく返事が来なくなった。仕方ないから他の客達に営業メッセージでもしようと思う。
それからしばらくして店長がやって来た。
「いや~、遅くなって悪かったね!」
「待たせ過ぎだコラ。下にいるとか嘘だろ」
「え?ああ、ミカさんに聞いたの?下にいたんだけど、マスターに捕まっちゃってさ~。ちょっと話してた」
店長が言うマスターってのはこの事務所がある雑居ビルの一階にある古い喫茶店の店主の事だ。
とても気さくな人で俺も良く入り浸るんだけど、そこの珈琲がまた美味いんだ。
そんな事を言いながら店長は俺と伊吹の前にそれぞれ可愛いくラッピングされた手のひらサイズの箱を置いた。
うわ、ガチで俺の分の菓子まであんのかよ。
「あ、このロゴって神楽の?」
「正解~♪今日会議があったから帰りに寄って来たんだ~♪和菓子の名店神楽の名物大福だよ~♪」
「ここの大福美味いよな♪」
伊吹は嬉しそうに包みを開けて箱の蓋を開けていた。俺は箱には手を付けずにそんな二人をただ見ていた。
「苺大福だ!おいルナ、お前好きだったよな?」
「好きだけど、今はいい。帰ったら食う」
「そっか……」
俺の反応に気まずそうにする伊吹。
ここで店長が話を切り出した。
「よし、早速本題に入ろうか」
「てかさっさと話せよ。いつも前置きが長ぇんだよ」
「そうは言っても今回の話はとても大事な事だから、ルナも落ち着いて聞いて欲しいんだ」
俺が苛ついてるとでも思ったのか店長は機嫌を伺うように話していた。
あー、この気を遣われる感じムカつくわ~。俺一人が我儘言って困らせてる感じ。
てか話があるのはテメェらの方だろうが。
こんな菓子なんかで機嫌取ろうとしやがって。
俺は店長を睨んで次の言葉を待った。
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