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2章 さよなら俺のお前
12.話してみろよ
しおりを挟むそう広く無い部屋に男が三人、部屋に合わせたサイズのさほど大きくないテーブルに俺と伊吹が対面して座り、その間を取り持つように店長が座っていた。店長の反対側は壁に付けられてるから消去法で後から来た店長はそこに座るしか無かった。
「ルナにはこの前話したけど、伊吹は今月いっぱいでキャストを辞める事になった」
「知ってる。で?他の話って?」
今度は伊吹を見ると、助けを求めるかのように店長をチラッと見た。それを見て代わりに店長が笑顔のまま話し始めた。
「辞めた後だけど、伊吹はここのスタッフとして残ってくれる事になったんだ」
「何だと?」
これには驚いた。土曜の男の話になるかと心構えしていたらまさかの伊吹の次の就職先を聞かされたんだ。それもうちの店のスタッフになるだと?
俺は本当なのかと伊吹を見ると、真っ直ぐに俺を見て頷いていた。
「初めは迷ってたんだ。だけど、キャストの経験を生かして裏方に回るのも有りかなって。ミカさんみたいにキャスト達の相談役とかにならなれるかもだし」
「……ふーん」
「ふーんって、ルナは伊吹がスタッフになるのどう思う?」
「別にいいんじゃねぇの?伊吹の人生だし好きにやれよ」
「……え」
「嘘……」
俺が思った事を言うと、二人は目を見合わせてキョドキョドしていた。
二人のその反応に少しイラっとして不機嫌な声を出すと二人で笑っていた。
「あ?何だよそれ?」
「いやいや、ルナの事だからもっとうるさくなるかと思ったからさ~」
「俺も思った!」
「別に伊吹の仕事については文句言わねぇよ」
「それは仕事以外についてなら文句言うかもって事?」
「……場合によってはな」
店長に確認されたから素直に答えると、伊吹がしっかりと俺を見て何かを喋り出そうとしていた。
あ、来る。土曜の男の事だ。
多分こっちが本題だろ。なんとなくだけど、二人の反応で分かるんだよ。菓子や他の話題で釣って、俺の気分を和ませた後に最後にでけぇの持って来るやり方。
そのやり口がまた腹立つんだけど、俺はポーカーフェイスを貫く事にした。
だってさ、こんなけ俺が伊吹の事を想ってんのにポッと出の客に靡いちゃうんだぜ?金だって用意してるし、伊吹の為なら時間だって作れるし、何も不自由はさせないつもりだ。俺は見た目にも中身にも自信はある。
それなのに、よりによって客なんかに……
「ルナ、この前会った時にプロポーズしてくれたよな。ありがとうな」
「……ん」
ちゃんとプロポーズとして受け取ってくれた事が嬉しかった。俺が言う事だから冗談だと流されるのを覚悟していたからだ。
俺と伊吹の関係はずっとそんな感じだった。俺が一方的に伊吹の事を好きなだけ。伊吹の邪魔をしないように尽くして付かず離れずの間をキープしていたんだ。
「だけど、俺は受ける事は出来ない。ごめんな?」
「何で?」
「それは……好きな人が出来たからだ」
来た。
本当の本題に突入した。
ここからは店長は笑顔のまま黙って聞いていた。なるほどな、初めから店長は俺と伊吹のやり取りの証人としてここにいる訳だ。第三者。仕事に関しては口を出すけど、本題の方は伊吹自身に任せるって訳か。
けどまぁそんなのはどうでもいい。
そろそろ俺も決着付けないととは思ってたんだ。
伊吹の事が好きだからこそこれ以上ムカついたりしたくねぇ。少しでも俺の方へ傾くってんなら説得だってしてやる。
何よりも相手が客だってのが許せねぇ。
俺は伊吹をジッと見てちゃんと話そうと思った。
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