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3章 次の嫁はお前に決めた
15.忘れましょ
しおりを挟む土曜日のラストの客との別れ際に俺はふと思った。
俺、何でこんな事してんだろう。って。
金貰って擬似恋愛して、好きでも無い奴と数時間一緒に過ごして、帰ってまた次の日も同じ事の繰り返し。
当たり前だったそんな生活が、何だかとても無意味で虚しく感じた。
ああそっか、俺はこの仕事をやろうと思ったのは金に困ってたからだ。女の家を転々として毎回彼女面する女共がウザくなったからサクッと稼ごうと思ったんだ。
正直俺にはデートクラブとか向いて無いと思ったよ。だけど三年近くもやって来れたのはやっぱり伊吹がいたからなんだ。
あいつが初めに声を掛けてくれたから。
あいつが俺に仕事を教えてくれたから。
あいつが俺に人間の暖かさを教えてくれたからだ。
今日何度も見た自分の店のホムペ。
そこにはいつもトップに出て来た伊吹はいなかった。代わりに俺と数名の男女のキャストがピックアップされていた。
もうNo. 1はいない。実質俺がそうなんだろうけど、そんな風には到底思えない。
客と別れて一人で歩きながらスマホを見て、自分の写真を見て思う。
ピンクの髪色に前下がりボブは肩まで伸びている。釣り上がった目にスッと通った鼻筋。他の女に負けないぐらいの綺麗な肌は正しく美人って言葉が似合っていた。俺ってこんな顔だっけ?店長修正し過ぎじゃね?俺いじらなくても全然イケるし。
「…………」
自分の髪を見ながら思う。
何で伸ばしてるんだっけ?
そんな事も分からなくなるぐらいにスマホに写る気取ってる自分が他人のように思えた。
ただそれだけ。何も無くなった。それだけ。
だから怒りとか悲しみとかはもう無い。
俺はまた無になっただけだ。
今思えば何であんなに伊吹に固執していたのかさえ不思議なぐらい。
初めて俺に優しく親身になってくれただけで、よくよく考えたら初めの一回切りだったんだ。それだけであんなに懐いてた自分が馬鹿らしくさえ思う。
戯れて嫌がられても、居留守使われても、暴言を吐かれてもそれでも伊吹伊吹って言えたのは何でだろう?
俺の生活から伊吹が消えた今、夢でも見ていたんじゃないかってぐらいおかしな話だった。
「ふん、柄じゃねぇだろってな」
自分で言って笑えた。
俺はずっと一人だった。
それなのに誰かに執着してアホみたいに尻追っ掛けて、勝手に将来の事を決め付けて浮かれて……
「あーやめやめ!もう忘れよ!明日は1日オフだし気分転換したいな~」
無理矢理思考を変えようと明日の事を考える。
店は年中無休だけど、内勤に移った伊吹は仕事か?そもそもあいつにスタッフなんて出来るのかよ。
ってまた考えてんじゃねぇか。
「はは、本当に俺ってあいつの事好きなんだな~」
切り替えようとしてもやっぱり伊吹の事を考えちまう自分が笑えた。
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