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3章 次の嫁はお前に決めた
19.特別認定してやる
しおりを挟む夕方のたくさんの人々が行き交う街中で、俺と朱里は向かい合って立ち尽くしていた。
朱里にこれからの選択肢を与えてその答えを待つ俺。
プレゼントしたばかりのネックレスを見て離れて行くなと願ってしまった。
「ルナくん、一つ俺の願いを聞いて欲しいんだ」
「願い?」
ずっと難しい顔をして黙っていた朱里はやっと口を開いてそんな事を言って来た。
なんだってんだよ。内容によってはキレるぞ。
「確かにルナくんの言う通り、俺は自分の理想を押し付けていたのかもしれない。勝手にルナくんと言う人物を作り上げて舞いがって、本当のルナくんに触れてこうしてビビって……」
「で?」
「俺は貧乏で見た目も性格もルナくんには釣り合わない男だ。それでも俺はルナくんが好き。その気持ちは変わらないんだ」
泣きそうな顔で言う朱里の言葉に我が耳を疑った。
あんなに酷い事を言った俺にもまだ好きだと言ってくれるそんな朱里が、とても眩しくて大きな男に見えたんだ。
まるで伊吹と出会った時のような感覚に俺は懐かしさで瞳が潤んだ。
「だからこれからも側にいさせて欲しい!どんなルナくんにも付いて行くから!怒られないように頑張るから!」
「朱里……願いってのは何だよ?一応聞いてやる」
少し気を許したら泣いてしまいそうで俺はいつも通り強がる姿勢を意識して続けた。
今ならどんな願いでも聞いちまいそうだ。
俺が聞くと、朱里はいつものようにニコッと笑って言った。
「ルナくんの本当の名前を教えてくれないか?そろそろ本名で呼びたいなぁって」
「!」
まさかそんなお願いをされるとは思わなくて俺は目を見開いて驚いた。
こいつはどこまでも斜め上を突いてくるな!
はは、負けたよ。
俺は絶対に誰にも本名は教えないようにしていた。理由は自分の名前が嫌いだからだ。
俺が少し迷ってると、朱里は顔色を伺うように両手を胸の前に出して言った。
「あ、あの、嫌ならいいんだよ?図々し過ぎたよね!ルナくんはルナくんだし、名前は呼びたいけど、ルナくんが嫌ならいいからっ」
焦る朱里が一生懸命で、健気で愛おしくて可愛いかった。
ああもう完敗だ。ここまで俺のツボを突いてくる奴は早々いねぇわ。だから俺もこうしてオフの日に美容室にまで行って会ってるのかもな。
俺は一度ため息をついて、強気な笑顔を作って、それから財布から自分の免許証を取り出してビシッと朱里に見せてやった。
車は持ってねぇからペーパードライバーだけど、顔写真付きの身分証があった方が便利だから作った免許証がまさかこんな風に役立つとはな。
「俺の本当の名前は岩切千太郎だ。ちなみに俺は自分の古臭い名前が大っ嫌いだ。だから俺から名前を教えたりしねぇし、呼ばせもしねぇ。伊吹にもな」
「嘘っ!えっ!いわきりせんたろう?」
「嘘じゃねぇこれが証拠だ」
「あ、ありがとう!でも、呼んじゃダメなんだよね?めちゃくちゃ呼びたいんだけどっ!」
「好きに呼べばー?お前は特別だ♡」
「ルナくん♡ありがとう♡あ!ちょっと待って!」
喜ぶ朱里を置いて背中を向けて歩き出す俺を追い掛けて来る朱里。
伊吹にも呼ばせないってのは本当だ。あいつは俺の本名を知ってるからたまにふざけて呼ぶけど、その度に俺が怒ってるからな。
さて、朱里には許可したけど、いざ呼ばれたら俺はどんな反応するんだろうな?
キレる?喜ぶ?それとも何とも思わない?
どちらにせよ楽しみだわ。
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