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3章 次の嫁はお前に決めた
21.俺様の苦手な事
しおりを挟む「千くん、今日は本当にありがとう♪俺にこんなに良くしてくれるなんて、嬉しいよ」
「いや、何締めようとしてんの?これから飯食うんだけど?」
「そんなつもりは無い!今日一緒に過ごして千くんの事を知れて良かったなぁって」
「ふーん。改めて知ってどう思った?」
あらかた注文を済ませて朱里に向き直って聞くと、機嫌良さそうに話を続けた。そんな朱里を見ているだけでも俺も楽しくなれた。
「やっぱり凄い人だなって思ったよ。いろんな意味でね」
「だろー?俺ってすげぇんだわ」
「俺は千くんのおかげで変われたんだ。見た目だけじゃなくて中身も。今日見せた通りあんなだったから仕事柄かなり苦戦してて、向いてないのかなって悩んでいたんだよ。そんな時に千くんに会ったんだ。あの時やっとの思いで予約して会って、本当に良かったと思ってるよ」
「良かったな。今じゃイケメンになってバリバリ働いて忙しそうだもんな。この調子で稼ぎまくれよ」
ここで大我じゃない店員がドリンクとつまむ物を持って来た。生搾りなのかキウイジュースがめちゃくちゃ美味しかった。
「あのさ、やっぱり予約して会うべきなのかな?千くんと再会するまではいつかはまた予約しようとは思ってたけど」
「いや、しなくていいよ。今日はパァッと使っちまったけど、俺は倹約家な方だ。こう見えてかなり貯金してんだ。家も店の寮だし、普段からこんな生活してねぇよ?」
「そうなの?」
「よく勘違いされるけど、元々俺はクソ貧乏だったんだよ。親から勘当されてて、身一つで都会に出て来たけど、やっぱり金が無いとキツかったな。今の店に入る前の俺はいろんな女の家を転々として媚び売って何とか凌いでたんだよ」
「信じられない!千くんが媚を売るなんて出来るの?」
「No.2舐めんな。演技ならNo. 1だった伊吹より上だぞ」
「す、凄いや」
「俺は自分でも思うぐらい性格悪いんだよ。金になりそうな奴には目一杯良く見られようとして、大金出されりゃ股も開く。その反対で金にならない奴には貰った以上の事は一切しねぇ。初回の朱里にしたようにお茶してお喋りして終わりだ」
「それじゃあ俺とはもう会ってくれないのかな?」
「はぁ?何でそうなるんだよ?」
噛み合わない話にイラッとした。
すると朱里はシュンとして思ってる事を話してくれた。
「だって千くんは俺の事暇つぶしとしか思ってないだろ?こうして会ってくれるのは次はいつになるのかなって思ったらやっぱり予約するしかないのかなって、でもしなくていいって事は会ってくれないって事なのかなって……」
「お前馬鹿なの?暇つぶしの相手に何十万もするネックレス買ってやるかよ。俺は自分から誰かに貢いだりしねぇ。こうやって飯奢るとかもしねぇから」
「そ、それじゃあ俺の都合の良いように考えちゃうって!でもそれが勘違いだったら……」
「勘違いじゃないから」
「千くん、それって!」
「俺ん中で朱里はもう俺のものだ。だからもう弱気な事言うなよ……ムカつくから!」
「わ、分かった!いや、待って?曖昧だとまた不安になるからハッキリさせて!?」
「あーもう、俺こういうの苦手なんだよ。俺が俺のだって思ったらもうそうなの!お前は今まで通りしつこく好き好き言ってりゃいーの!」
「嫌だ!俺も千くんに好きって言われたい!」
「朱里お前っ!」
俺に叱られると思ったのか目をギュッと閉じて黙り込む朱里。
こいつマジでヤバい。
何がヤバいってさ……
「可愛い過ぎ♡お前のそういうとこ嫌いじゃない♡」
「!!」
俺が目一杯優しい声で言ってやると、目を開けて真っ直ぐに俺を見て来た。
そして更に朱里が満足するまでハッキリさせてやろうと思った。
「朱里が好きだ。お前を側に置いて置きたいって思ってる」
「嬉しい……」
「んー、言いにくいんだけどさ~」
「何?何でも言って!」
朱里の不安がなくなるような事が言いたいのに、なかなか口に出せずにいる俺。ダセェなぁ。本当にこういうのは苦手っつーか、俺が言う側じゃなかったっつーか。
でも朱里を手放したくないのは本当だから言うしかない。
頑張れ俺。
何度もキウイジュースを飲んで誤魔化しながら朱里に俺の想いを伝える。
「……俺と付き合ってよ?いいだろ?」
やっと出たのがこれ。
あーダメ。恥ずかし過ぎて死にたい。
いや、シチュエーションがまずいんだ。焼肉屋で、普通に夕飯食ってる時だぜ?もっとロマンチックな場面だったら流れで言えたかもなんだ。
俺は火照る顔を両手で隠して羞恥に耐えてると、朱里の嬉しそうな声がして心からホッとしていた。
「はい♡是非お付き合いさせて下さい♡よろしくお願いします♡」
「ヤバ。可愛い……」
頬を赤らめて返事をする朱里に見惚れる俺。
俺は今日、次の嫁を見つけた。
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