【完結】取り柄はズル賢い事だけです

pino

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4章 俺も初体験

25.俺流の励まし方

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 朱里との電話を切ってから30分後、一人のイケメンが入って来て俺のテンションが上がった。
 恋人の朱里だ。仕事終わりだからスーツ着てっけど、急いで来たのかネクタイ曲がってるし。
 店ん中には俺と伊吹しかいなかったから真っ直ぐにこちらへ歩いて来た。


「よう、早かったな♪」

「取引先からそのまま来たからね」


 俺は隣に座った朱里の曲がったネクタイを直してると、ある事に気付いた。こいつ、俺があげたネックレス付けて無くね?
 ちゃんと確認しようと直したネクタイごとワイシャツの襟を引っ張ると、朱里が苦しそうな声を出した。


「ちょ、千くん痛いって!」

「テメェネックレスどうした!?何で付けてねぇんだああ!?」

「さすがに仕事中は外してるって!今日は特に大事なお客様と会ってたからっ!ほらちゃんと持ち歩いてるから許して!」


 朱里は慌ててバックからプラスチックのケースを取り出してパカッと開けて中身を見せてきた。そこには確かに男があげたネックレスが入っていた。
 チッ、今回は多めに見てやるか。

 俺が納得した事に安心した後、朱里は俺の前に座る伊吹をチラッと見てペコッと頭を下げた。伊吹は俺と朱里のやり取りを見てポカンとした顔をしていた。


「初めまして!花森朱里って言いますっ」

「あ、どうも……夏川伊吹です」

「凄~い!本物の伊吹さんだ!千くん本当に仲良かったんだねっ」

「まぁな」

「千くんもだけど、本当にお人形さんみたいに綺麗ですね~」

「だろー?こいつ顔だけが取り柄だから♪」

「ルナっ」


 俺の言葉に伊吹が少し怒ったように何かを言おうとしていた。気にしてる事をとでも言いたいのか?ふん、俺はそんなの気遣えるような男じゃねぇよ。本当の事を言ったまでだ。


「伊吹さ、お前は何も出来ないって思ってるけど、自慢の顔があるじゃん。お前の顔はマジで誰にも負けないぐらい綺麗だ。取り柄なんてそれだけありゃ十分じゃん♪仕事が出来ないのがなんだよ。朱里なんて見た目がクソ過ぎて仕事出来なかったんだぜ?今じゃクソイケメンになって大活躍らしいけど~」

「千くんてば酷い~」

「それもこれも伊吹、お前のお陰なんだぜ♪お前がいてくれたから俺がちゃんとキャストやれてて、朱里が見付けてくれた。そんで俺との出会いがあったからクソダサだった朱里を変えてやれたから出世した。伊吹がいなかったら俺と朱里は出会ってなかったし、ここの二人はクソのままだったっつー訳。だからお前には感謝してるよ。ありがとよ伊吹」

「ルナ……」

「えっと、千くんから伊吹さんの話は良く聞いてるので、伊吹さんがどんなけ凄い人なのかは知ってます♪千くんをちゃんとキャストとして育ててくれてありがとうございます♪」


 俺と朱里がそれぞれお礼を言うと、伊吹はまた目を潤ませていた。
 これ以上泣かれたら困るからそろそろ行くとするか。


「伊吹、泣くのは土曜の男の前だけにしろよ。それと本当のお前は顔だけじゃねぇから!どんなに仕事出来なくてもちゃんと見てる奴はいるから。つかよ、入って一週間やそこらで失敗もせずに出来る奴なんているかよってんだ。失敗してもいいじゃねぇか。嫌なら辞めちまえ。それでも残るって選択をしたんならちゃんと最後までやり遂げろ。いいな?よし朱里デート行くぞ~」

「伊吹さん!仕事でミスしたらヘコみますよね!俺もいつも上司に叱られて……」

「おい朱里!くっちゃべってないでさっさと来い!」

「ああはいはい!伊吹さん!お互い頑張りましょう!」

「うん。ありがとう朱里くん。ルナの事、よろしくな」


 俺は言いたい事だけ言って喫茶店のドアを出たから伊吹がどんな顔をしていたのかは分からない。
 ただ、最後に朱里に挨拶をしていた声だけは聞こえたよ。

 多分あの伊吹の声は笑ってる筈だ。
 あれだけ愛した男の声を聞き間違える筈がないからきっとそうだ。

 俺は朱里の手を引いて清々しい気持ちで歩き出した。


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