【完結】取り柄はズル賢い事だけです

pino

文字の大きさ
33 / 38
番外編 二人で小旅行

2.※朱里side

しおりを挟む

 夕方になり、予約していた宿に到着すると、千くんは思ったよりもはしゃいでいた。昼間観光した竹林やその他の観光名所でもそうだったけど、どうやら千くんはこうしてどこかへ出掛けるのは初めてらしい。だから何を見ても新鮮で面白いんだそうだ。
 急だったからどこの宿も埋まっていてやっと取れた。そんな宿はそこそこ良い旅館らしく、俺は貯金を叩いた。いいんだよ。こう言う時の為に貯めて来たんだから。千くんが喜んでくれるなら本望さ!


「朱里!ここって高いのか?それともどこの宿もこんな感じなのか!?」

「ううん。ここは高い方だよ。俺こんなとこ泊まった事ないもん」


 家族や友達として来た旅行ではもっとランクの低い所ばかりだったからね。
 でも千くんにはこっちの方が似合うよね。俺がもっと稼げるようになったら露天風呂付きの部屋を予約しようと密かに思っている。


「へー、朱里やるじゃん♪さすが俺の嫁だ♪」


 千くんはたまにおかしな事を言い出す。もう慣れたけど、こうやって恋人である俺の事を「嫁」と言う時がある。
 嬉しいんだけど、身長は千くんの方が低いし、顔付きも女性のように綺麗な千くんの方が嫁に近いのでは?と思うんだ。それに、エッチの時も千くんが女の子役だしね。


「千くんは俺を嫁にもらいたいの?」

「ああ。近い将来俺は今の店を辞めて普通に働く。俺がお前を養ってやるんだ」

「わお、千くんて亭主関白なんだね~」

「男なら誰でもそう思うだろ。好きな奴には不自由させたくないってさ、俺が守ってやるからな♪」

「かっこいいね♪頼りにしてるよ~」


 千くんみたいな綺麗な人にそんな事を言われたら世の中の女性は皆喜んで付いてっちゃうだろうな~。
 でも俺も男だ。千くんと同じように好きな人の事は大切にしたいって思うんだ。


「俺ももっと頑張って千くんの事を守れるようになるからね。千くんに頼られる男になるからね」


 俺がそう言うと千くんはニッと笑って部屋から出て行った。慌てて後を追うと、廊下でキョロキョロしていた。


「どこへ行きたいの?」

「風呂だよ。さっき浴衣着てる女がいたからどこかに風呂があるんだろ?」

「それなら一階にあるみたいだよ。準備して一緒に行こう♪」


 俺が教えてあげると、千くんは嬉しそうに頷いた。
 事前に館内マップを調べて頭に入れておいて良かった。
 ここの旅館には普通の大浴場と、露天風呂があって、その二つには指定された時間だったら好きな時に自由に使えるらしい。あとは貸切風呂があって、それは予約しないと使えないんだ。今回は残念ながら間に合わなかった。
 やっぱりこういうのは前もって準備しないとダメだね。

 一階にある大浴場に行くと、既にたくさんの人達が利用していて時間的にも少し混雑していた。
 

「千くん、ここ空いてるよ~」

「朱里!俺ここやだ!」

「え?でもお風呂はここしかないよ」

「無理!何で知らないおっさん達と同じ風呂に入らなきゃならないんだよ!」

「ちょ、千くん声大きいって!」


 千くんのワガママ発動で、俺は周りの人達の事も考えて一度千くんと廊下へ出る事にした。
 でもこればかりは仕方の無い事だしなぁ。お風呂に入らない訳にもいかないし。


「千くんごめんね?俺がもっとしっかりしていれば貸切も予約出来たんだけど、今回は我慢してくれないかな?」

「貸切もあんのかよ。まぁいいよ。でもあの中に入るのは無理だ!ジジイの汚ねぇ体は仕事で散々見てんだよ。休みの日に見せんじゃねぇ」

「……あ、こうしない?時間をズラして入ろうよ!みんなご飯前に入っちゃおって感じだから混んでると思うんだ。10時30分まで使えるから遅い時間に来てみようよ」

「はぁ、仕方ねぇな。そうするか~」


 ふぅ、何とか怒りを収めてくれたか~。
 俺はスタスタと歩いていく千くんの後を追いながら、モヤっとした気持ちを無理矢理取っ払う。

 そうだよね、千くんはお客さんとただおしゃべりしたりご飯食べたりするだけじゃないよね。
 そういう世界では人には言えないような事をしてるのは分かってたんだ。
 だけど、千くんの口からそう言う話が出る度に俺は嫌な気持ちになった。でも気にしたらダメだと思って忘れるようにしてたんだ。

 本当は千くんには今の仕事を辞めて欲しいと思っているんだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...