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番外編 二人で小旅行
2.※朱里side
しおりを挟む夕方になり、予約していた宿に到着すると、千くんは思ったよりもはしゃいでいた。昼間観光した竹林やその他の観光名所でもそうだったけど、どうやら千くんはこうしてどこかへ出掛けるのは初めてらしい。だから何を見ても新鮮で面白いんだそうだ。
急だったからどこの宿も埋まっていてやっと取れた。そんな宿はそこそこ良い旅館らしく、俺は貯金を叩いた。いいんだよ。こう言う時の為に貯めて来たんだから。千くんが喜んでくれるなら本望さ!
「朱里!ここって高いのか?それともどこの宿もこんな感じなのか!?」
「ううん。ここは高い方だよ。俺こんなとこ泊まった事ないもん」
家族や友達として来た旅行ではもっとランクの低い所ばかりだったからね。
でも千くんにはこっちの方が似合うよね。俺がもっと稼げるようになったら露天風呂付きの部屋を予約しようと密かに思っている。
「へー、朱里やるじゃん♪さすが俺の嫁だ♪」
千くんはたまにおかしな事を言い出す。もう慣れたけど、こうやって恋人である俺の事を「嫁」と言う時がある。
嬉しいんだけど、身長は千くんの方が低いし、顔付きも女性のように綺麗な千くんの方が嫁に近いのでは?と思うんだ。それに、エッチの時も千くんが女の子役だしね。
「千くんは俺を嫁にもらいたいの?」
「ああ。近い将来俺は今の店を辞めて普通に働く。俺がお前を養ってやるんだ」
「わお、千くんて亭主関白なんだね~」
「男なら誰でもそう思うだろ。好きな奴には不自由させたくないってさ、俺が守ってやるからな♪」
「かっこいいね♪頼りにしてるよ~」
千くんみたいな綺麗な人にそんな事を言われたら世の中の女性は皆喜んで付いてっちゃうだろうな~。
でも俺も男だ。千くんと同じように好きな人の事は大切にしたいって思うんだ。
「俺ももっと頑張って千くんの事を守れるようになるからね。千くんに頼られる男になるからね」
俺がそう言うと千くんはニッと笑って部屋から出て行った。慌てて後を追うと、廊下でキョロキョロしていた。
「どこへ行きたいの?」
「風呂だよ。さっき浴衣着てる女がいたからどこかに風呂があるんだろ?」
「それなら一階にあるみたいだよ。準備して一緒に行こう♪」
俺が教えてあげると、千くんは嬉しそうに頷いた。
事前に館内マップを調べて頭に入れておいて良かった。
ここの旅館には普通の大浴場と、露天風呂があって、その二つには指定された時間だったら好きな時に自由に使えるらしい。あとは貸切風呂があって、それは予約しないと使えないんだ。今回は残念ながら間に合わなかった。
やっぱりこういうのは前もって準備しないとダメだね。
一階にある大浴場に行くと、既にたくさんの人達が利用していて時間的にも少し混雑していた。
「千くん、ここ空いてるよ~」
「朱里!俺ここやだ!」
「え?でもお風呂はここしかないよ」
「無理!何で知らないおっさん達と同じ風呂に入らなきゃならないんだよ!」
「ちょ、千くん声大きいって!」
千くんのワガママ発動で、俺は周りの人達の事も考えて一度千くんと廊下へ出る事にした。
でもこればかりは仕方の無い事だしなぁ。お風呂に入らない訳にもいかないし。
「千くんごめんね?俺がもっとしっかりしていれば貸切も予約出来たんだけど、今回は我慢してくれないかな?」
「貸切もあんのかよ。まぁいいよ。でもあの中に入るのは無理だ!ジジイの汚ねぇ体は仕事で散々見てんだよ。休みの日に見せんじゃねぇ」
「……あ、こうしない?時間をズラして入ろうよ!みんなご飯前に入っちゃおって感じだから混んでると思うんだ。10時30分まで使えるから遅い時間に来てみようよ」
「はぁ、仕方ねぇな。そうするか~」
ふぅ、何とか怒りを収めてくれたか~。
俺はスタスタと歩いていく千くんの後を追いながら、モヤっとした気持ちを無理矢理取っ払う。
そうだよね、千くんはお客さんとただおしゃべりしたりご飯食べたりするだけじゃないよね。
そういう世界では人には言えないような事をしてるのは分かってたんだ。
だけど、千くんの口からそう言う話が出る度に俺は嫌な気持ちになった。でも気にしたらダメだと思って忘れるようにしてたんだ。
本当は千くんには今の仕事を辞めて欲しいと思っているんだ。
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