【完結】取り柄はズル賢い事だけです

pino

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番外編 二人で小旅行

4.※朱里side

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 夕飯を食べた後、そろそろ大浴場へ行ってみようと言う事で支度をしている時に、千くんがスマホをジーッと見た後何か文を打っているような素振りをしていた。
 この時俺はなんとなく分かった。きっとお客さんとやり取りしてるんだろう。今までも千くんはポチポチいじっているけど、俺は見て見ぬふりをしていた。
 本当は俺といるのに他の人とそんなやり取りして欲しくないんだよ。でも仕事だからって割り切ってるんだよ。

 でもさ、旅行の時ぐらいは……

 ハッ!いけない!こんなんじゃ千くんに怒られちゃう。俺はお風呂の帰りに何か買おうと思ってお金を少しだけ袋に入れて用意していた。


「ねぇ千くん、下に売店あったから帰りに寄って……」


 きっと千くんもお酒飲みたいよね。
 いつものように声を掛けながら千くんを見ると、スマホを耳に当ててまるで誰かと電話をしているような姿があった。

 
「あ、俺だよ。ううん。今ちと遠出してんだ……うん。月曜は出勤するから……」


 何で俺といるのに他の人と普通に電話してるの?辞めてよ千くん。千くんは俺と付き合ってるんだよね?
 千くんは俺のものなんだよね?

 俺は居ても立っても居られなくなり、電話を続ける千くんに近付いてスマホを取り上げる。
 俺の行動に驚いた千くんは目を丸くして見ていた。

 その瞬間、俺はしまったと思った。
 千くんに嫌われちゃう!
 

「ご、ごめん!本当にごめっ」

「朱里、お前……」


 頭の中がぐちゃぐちゃになった。
 嫉妬して子供みたいな事をして千くんの邪魔をして、嫌われたくないからって慌てて謝るとか、俺何してるんだろ……
 違うんだよ。俺は千くんに俺だけを見て欲しいだけなんだよ。

 自分でもどうしたらいいのか訳が分からなくて、謝りながら千くんを見ると、そこにはとても優しく笑う千くんがいた。
 ここまで優しい笑顔の千くんは見た事がないってぐらいにとても綺麗で、時間が止まったような感覚に襲われた。

 次の瞬間、スマホを持つ俺の腕を引いてもう片方の手で抱き寄せながらキスをして来た。
 一瞬の出来事だったけど、俺はそれが嬉しくて涙が出そうだった。

 嫌われなくて良かった……


「朱里ぃ♡俺が他の客と電話してんの嫌ぁ?」


 俺をからかうようにそんな事を聞いて来た千くんはまるで小悪魔のようだった。


「嫌だよ!だって千くんは俺のだもん!」

「かーわい♡お、まだ通話中じゃん。そんじゃ電話の相手に言ってやれよ?俺の男に手ぇ出してんじゃねぇって」

「え……ええ!?」


 俺の手にあるスマホの画面を見てそんな事を言い出す千くん。ってかまだ繋がってたのか!早く切らないと全部聞かれちゃう!


「千くんっ!俺先に行ってるから!電話してていいから!」

「あ?んだよそれ!さっきの可愛いのは何だよコラ!」

「だって、千くんの大事なお客様でしょ?仕事に支障がでたらやだもんっ」

「あーハイハイ。そんじゃさっきのは嘘って訳?俺は仕事なら他の人とイチャイチャしてもいいんだぁ?」

「うっ……それは嫌だけどっ……」

「朱里さ~、お前俺に遠慮し過ぎ。てか俺の事舐めてんだろ?こんな事ぐれぇで仕事に支障が出る訳ねぇだろ!」


 言いながら千くんは俺の手からスマホを奪うとそのまま畳の上に置いて、綺麗に片付けられたテーブルを持ち上げて少しだけズラして自分で置いたスマホの真上まで持って行き……


「待って待って!千くんそれはヤバい!」

「うるせぇ!おりゃ!」


 千くんの掛け声と共にテーブルの足がスマホの画面をバキバキと激しい音を立てて割った。
 自分のスマホを自分の手で壊すなんて信じられない!千くんはどこまで破天荒なんだ!?
 て言うか何でいきなりこんな事し出したんだ!?

 テーブルを退かしてバキバキに割れたスマホを持ち上げて見ると、電源が落ちていた。きっと画面だけじゃなくて内部にも損傷があったんだろう。


「嘘……何でこんな事……」

「何でって朱里が嫌がるからだよ。これならもう誰とも電話出来ないじゃん?」

「だからってここまでする必要はないんじゃ……」

「俺からしたら朱里が嫌だって思う事の方が嫌だわ。ま、スマホは仕事上必需品だから帰ったら買い替えるけどさ~。これぐらいお前の事愛してるってこった♡」


 壊れたスマホをちらつかせながら千くんは立ち上がってお風呂の準備を始めた。
 俺の為にスマホを壊したって言うのか?
 他の人と電話をしてヤキモチを妬く俺の為に?

 う、嬉しいけど、これはこれでますます嫌だって言えないじゃないか!

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