35 / 38
番外編 二人で小旅行
4.※朱里side
しおりを挟む夕飯を食べた後、そろそろ大浴場へ行ってみようと言う事で支度をしている時に、千くんがスマホをジーッと見た後何か文を打っているような素振りをしていた。
この時俺はなんとなく分かった。きっとお客さんとやり取りしてるんだろう。今までも千くんはポチポチいじっているけど、俺は見て見ぬふりをしていた。
本当は俺といるのに他の人とそんなやり取りして欲しくないんだよ。でも仕事だからって割り切ってるんだよ。
でもさ、旅行の時ぐらいは……
ハッ!いけない!こんなんじゃ千くんに怒られちゃう。俺はお風呂の帰りに何か買おうと思ってお金を少しだけ袋に入れて用意していた。
「ねぇ千くん、下に売店あったから帰りに寄って……」
きっと千くんもお酒飲みたいよね。
いつものように声を掛けながら千くんを見ると、スマホを耳に当ててまるで誰かと電話をしているような姿があった。
「あ、俺だよ。ううん。今ちと遠出してんだ……うん。月曜は出勤するから……」
何で俺といるのに他の人と普通に電話してるの?辞めてよ千くん。千くんは俺と付き合ってるんだよね?
千くんは俺のものなんだよね?
俺は居ても立っても居られなくなり、電話を続ける千くんに近付いてスマホを取り上げる。
俺の行動に驚いた千くんは目を丸くして見ていた。
その瞬間、俺はしまったと思った。
千くんに嫌われちゃう!
「ご、ごめん!本当にごめっ」
「朱里、お前……」
頭の中がぐちゃぐちゃになった。
嫉妬して子供みたいな事をして千くんの邪魔をして、嫌われたくないからって慌てて謝るとか、俺何してるんだろ……
違うんだよ。俺は千くんに俺だけを見て欲しいだけなんだよ。
自分でもどうしたらいいのか訳が分からなくて、謝りながら千くんを見ると、そこにはとても優しく笑う千くんがいた。
ここまで優しい笑顔の千くんは見た事がないってぐらいにとても綺麗で、時間が止まったような感覚に襲われた。
次の瞬間、スマホを持つ俺の腕を引いてもう片方の手で抱き寄せながらキスをして来た。
一瞬の出来事だったけど、俺はそれが嬉しくて涙が出そうだった。
嫌われなくて良かった……
「朱里ぃ♡俺が他の客と電話してんの嫌ぁ?」
俺をからかうようにそんな事を聞いて来た千くんはまるで小悪魔のようだった。
「嫌だよ!だって千くんは俺のだもん!」
「かーわい♡お、まだ通話中じゃん。そんじゃ電話の相手に言ってやれよ?俺の男に手ぇ出してんじゃねぇって」
「え……ええ!?」
俺の手にあるスマホの画面を見てそんな事を言い出す千くん。ってかまだ繋がってたのか!早く切らないと全部聞かれちゃう!
「千くんっ!俺先に行ってるから!電話してていいから!」
「あ?んだよそれ!さっきの可愛いのは何だよコラ!」
「だって、千くんの大事なお客様でしょ?仕事に支障がでたらやだもんっ」
「あーハイハイ。そんじゃさっきのは嘘って訳?俺は仕事なら他の人とイチャイチャしてもいいんだぁ?」
「うっ……それは嫌だけどっ……」
「朱里さ~、お前俺に遠慮し過ぎ。てか俺の事舐めてんだろ?こんな事ぐれぇで仕事に支障が出る訳ねぇだろ!」
言いながら千くんは俺の手からスマホを奪うとそのまま畳の上に置いて、綺麗に片付けられたテーブルを持ち上げて少しだけズラして自分で置いたスマホの真上まで持って行き……
「待って待って!千くんそれはヤバい!」
「うるせぇ!おりゃ!」
千くんの掛け声と共にテーブルの足がスマホの画面をバキバキと激しい音を立てて割った。
自分のスマホを自分の手で壊すなんて信じられない!千くんはどこまで破天荒なんだ!?
て言うか何でいきなりこんな事し出したんだ!?
テーブルを退かしてバキバキに割れたスマホを持ち上げて見ると、電源が落ちていた。きっと画面だけじゃなくて内部にも損傷があったんだろう。
「嘘……何でこんな事……」
「何でって朱里が嫌がるからだよ。これならもう誰とも電話出来ないじゃん?」
「だからってここまでする必要はないんじゃ……」
「俺からしたら朱里が嫌だって思う事の方が嫌だわ。ま、スマホは仕事上必需品だから帰ったら買い替えるけどさ~。これぐらいお前の事愛してるってこった♡」
壊れたスマホをちらつかせながら千くんは立ち上がってお風呂の準備を始めた。
俺の為にスマホを壊したって言うのか?
他の人と電話をしてヤキモチを妬く俺の為に?
う、嬉しいけど、これはこれでますます嫌だって言えないじゃないか!
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる