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番外編 二人で小旅行
5.※朱里side
しおりを挟む22時頃、大浴場へ行くとさっきとは打って変わって人気が無く、ほぼ貸切状態だった。
あと30分しか使えないからあまりゆっくりは出来ないけど、この状況に千くんは満足気だった。
「朱里!見ろ!貸切だ♪」
「そうだね。あ、ちゃんと体洗ってから入らないとダメだよ~」
真っ裸ではしゃぐ可愛いその姿を見てると、さっきの狂った行動が嘘のようだった。
いや、嘘であって欲しいよ。だってスマホを壊したんだよ?あれって高いんだよ?それにこのご時世、スマホが財布代わりにもなるし、電話やメッセージだけじゃなくても、持ってないと不便な物だよ?
壊してしまった原因は俺にもあるから少しは出さないとって考えてるんだけど、これからはもっと耐えないと俺が破産してしまう。
「はぁ……」
湯船に浸かりながら一人で反省会をしていると、千くんがはしゃいで抱き付いて来た。
「朱里~♪旅行って楽しいな~♪」
子供のようにキャッキャ騒いで喜ぶ千くんは本当に可愛いくて、今こうして一緒に過ごせている事が奇跡なのに、素直に喜べずにいた。
本当は千くんと付き合えてる事に感謝しなきゃいけないのに。どんな事も耐えて千くんの気持ちに応えなきゃいけないのに。
でも、本当にこのままでいいのか正直分からないんだ。
「朱里?なんか暗くね?」
「千くん、真面目な話なんだけどさ」
「うん。何ー?」
本当に分かってるのか、俺の横に座って足をバタバタと動かしてお湯で遊ぶ千くん。
「俺は迷ってるんだ」
「何にー?」
ここで千くんは遊ぶのを辞めて俺の方を見た。
濡れた髪を掻き上げて、綺麗な顔がいつもより良く見えてドキドキした。
ああ、やっぱり好きだな。
この長いまつ毛に意地悪そうなキツい目付きやスッと通った鼻筋。薄い唇は笑うと口角が上がって可愛いんだ。
誰がどう見ても完璧な美人の千くん。ただ性格は本当にめちゃくちゃだ。付き合ってからより見えて来たけど、このままだと俺がダメになっていつか捨てられる。そんな気がしてならないんだ。
やっと叶った恋なのに、絶対に離さないって決めたのに、こんなにも簡単に不安になるなんて……
こんな思いをするのならいっその事「ルナくん」のままの方が良かったのかもしれない。
深入りしたらダメだったのかもしれない。
簡単に高嶺の花に触れてしまったから怪我をしたんだ。
「なぁ朱里~」
「……え?」
「俺と付き合ってくれてありがとうな。こんなの初めてだから全部が新しくて毎日が楽しいんだ。そりゃムカつく事もあるけど、朱里ならって思えて抑えられるってゆーか。とにかく大好きっ♡俺、絶対お前の事幸せにしてやるからな♡」
「……千くんっ」
本当にいきなりだった。俺の悩んでる事を知らない筈なのに、千くんは「へへ」と照れたように笑いながら気持ちを伝えてくれた。
そんな千くんがとても愛おしくて、泣きそうになった。
でも泣かない。だって千くんに怒られるからな!
「千くんがそんな風に思ってくれてるなんて思わなくて、俺じゃやっぱりダメかもって思っちゃったんだ。ごめん。千くんて破天荒過ぎてついていけないって不安になっちゃった」
「あー、そんな事だろうなとは思ったよー」
俺が本音を打ち明けると、千くんは思っていた反応とは違って、落ち着いて天を見上げた。
「てかむしろ俺と付き合えるのって朱里ぐらいじゃん?自分でも凄ぇ性格してんなって思うし。ただもう少し思ってる事言ってもいいんじゃねぇのって思う。俺はお前が思ってるよりも好きだし、大切に想ってるんだから」
「本当に?俺、このままで大丈夫かな?」
「俺が言ってんだから大丈夫だ!よし、良い機会だからなんか俺に文句言ってみろ♪今なら黙って聞いてやる♪」
「ほ、本当にー!?」
これは大チャンスだ!
でも言いたい事はいっぱいある。文句って訳じゃないけど、お願いならたくさんあってどれにしようか決めきれないよ~!
「何でもいいぞー?ほら早くしろー?」
「あ、じゃあ他の人とエッチな事しないで欲しい!」
「何だ、そんな事か。全然余裕~。つかお前と再会してからしてねぇよ?する気も起きんわ」
「セフレがいっぱいいるって言ってたよ?」
「ああ、あれか!あれは嘘だよ。元々俺は金が発生しねぇと相手が誰だろうと相手にしてないからな。セフレなんかいるもんか」
「そうだったの!?ずっとモヤモヤしてたのにー!」
「だからすぐに言えばいいんだって。お前から見て俺ってどう見えてるか知らないけど、別にセックスが好きって訳じゃねぇから。稼ぎたかったから体売ってただけだし?あ、でも朱里とのセックスは大好き♡」
「そ、そうなの?」
「本当に好きな奴とするのってこんなに気持ち良くて幸せな気持ちになれるんだって思ったよ。だから俺はもう朱里以外とはする気はない」
これは嬉しいぞ!千くんとは旅行の前に初めてエッチをしたんだけど、そりゃもう勉強しまくったよ。だって俺って童貞だったからね!
でも千くんにそう思っててもらえたのは本当に安心した。
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