48 / 276
48
しおりを挟む
「婚約してたのはモリシャン侯爵家のスカーレットっていう女よ。覚えてる? 学園で私達の一個上で兄と同い年の」
「あぁ、なんとなく...ほとんど接点はなかったから、遠目で見た印象しかないけど...なんて言うか深窓の令嬢って雰囲気が漂っていたような...」
「見た目はね。猫被ってたみたいで、それにみんな騙されたんだけどね。我が兄も私も含めて両家の関係者全員がね」
「なるほど...」
「相手が侯爵家ということでウチとも家格は釣り合うし、政略目的な面でもお互い都合が良かったんで、婚約は割とスンナリ決まったのよね。兄もスカーレットのことを第一印象で好感を持てる人だって言ってたから。私もそうだったし」
「フムフム...」
「交際も順調だったみたいで、二人が学園を卒業するのを待って結婚式を挙げる。その段取りに追われていたある日のことだったわ。間近に迫った卒業と結婚式の用意で慌ただしくしている最中、モリシャン侯爵が泡食って我が家に駆け込んで来たの」
『スカーレットが侍従の男と駆け落ちした』
「......」
「そこからはもう大変だったわよ。想像出来るでしょ? 土下座しながら平謝りするモリシャン侯爵を宥めながら、すぐ今後どうするかの協議に入ったわ。まずは結婚式の取り止め。招待状を送った家に対する説明。モリシャン侯爵への慰謝料請求などなど。中でも真っ先にやる必要があったのは、結婚がお流れになった経緯の説明よね。これにはモリシャン侯爵が『あんな娘とはもう親でもなければ子でもない。不慮の事故で死んだことにして欲しい』って涙ながらにそう言うもんだから、結局その通りにすることにしたのよ。お互いの家にとっても、そうした方が政治的なダメージが少ないだろうって打算的な意味合いもあったんだけどね。そう言った理由で、我が兄は結婚式の直前で婚約者を馬車の事故で喪った悲劇の主人公になった訳よ」
「...なんて言うか...クリフ様もさぞやお辛かったことでしょうね...」
酷い裏切りに遭ったんだもんね...
「いや全然?」
「へっ!?」
「なんか寧ろ憑き物が取れたみたいな感じでスッキリしてたわよ? 少なくとも表面上は」
「そ、そうなんだ...」
私は拍子抜けしてしまった。
「それでそのスカーレット嬢は今どこに?」
「噂では隣国に渡ったらしいわよ」
「モリシャン侯爵は探さなかったの?」
「一応探しはしたみたいだけど、結局見付からなかったようね」
「そうなのね...」
この時の私はホッとしたのと同時に、なんだか良く分からないが不安な気持ちにもなったのだった。
「あぁ、なんとなく...ほとんど接点はなかったから、遠目で見た印象しかないけど...なんて言うか深窓の令嬢って雰囲気が漂っていたような...」
「見た目はね。猫被ってたみたいで、それにみんな騙されたんだけどね。我が兄も私も含めて両家の関係者全員がね」
「なるほど...」
「相手が侯爵家ということでウチとも家格は釣り合うし、政略目的な面でもお互い都合が良かったんで、婚約は割とスンナリ決まったのよね。兄もスカーレットのことを第一印象で好感を持てる人だって言ってたから。私もそうだったし」
「フムフム...」
「交際も順調だったみたいで、二人が学園を卒業するのを待って結婚式を挙げる。その段取りに追われていたある日のことだったわ。間近に迫った卒業と結婚式の用意で慌ただしくしている最中、モリシャン侯爵が泡食って我が家に駆け込んで来たの」
『スカーレットが侍従の男と駆け落ちした』
「......」
「そこからはもう大変だったわよ。想像出来るでしょ? 土下座しながら平謝りするモリシャン侯爵を宥めながら、すぐ今後どうするかの協議に入ったわ。まずは結婚式の取り止め。招待状を送った家に対する説明。モリシャン侯爵への慰謝料請求などなど。中でも真っ先にやる必要があったのは、結婚がお流れになった経緯の説明よね。これにはモリシャン侯爵が『あんな娘とはもう親でもなければ子でもない。不慮の事故で死んだことにして欲しい』って涙ながらにそう言うもんだから、結局その通りにすることにしたのよ。お互いの家にとっても、そうした方が政治的なダメージが少ないだろうって打算的な意味合いもあったんだけどね。そう言った理由で、我が兄は結婚式の直前で婚約者を馬車の事故で喪った悲劇の主人公になった訳よ」
「...なんて言うか...クリフ様もさぞやお辛かったことでしょうね...」
酷い裏切りに遭ったんだもんね...
「いや全然?」
「へっ!?」
「なんか寧ろ憑き物が取れたみたいな感じでスッキリしてたわよ? 少なくとも表面上は」
「そ、そうなんだ...」
私は拍子抜けしてしまった。
「それでそのスカーレット嬢は今どこに?」
「噂では隣国に渡ったらしいわよ」
「モリシャン侯爵は探さなかったの?」
「一応探しはしたみたいだけど、結局見付からなかったようね」
「そうなのね...」
この時の私はホッとしたのと同時に、なんだか良く分からないが不安な気持ちにもなったのだった。
42
あなたにおすすめの小説
行動あるのみです!
棗
恋愛
※一部タイトル修正しました。
シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。
自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。
これが実は勘違いだと、シェリは知らない。
死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。
乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。
唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。
だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。
プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。
「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」
唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。
──はずだった。
目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。
逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい
麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。
しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。
しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。
第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。
【完結】知らないですか、仏の顔も三度まででしてよ?
詩河とんぼ
恋愛
侯爵令嬢のレイラ・ローニャは、筆頭公爵家子息のブラント・ガルシアと婚約を結んだ関係で仲も良好であった。しかし、二人が学園に入学して一年たったころ突如としてその関係は終わりを告げる。
ティアラ・ナルフィン男爵令嬢はブラントだけでなく沢山の生徒•教師を味方にし、まるで学園の女王様のようになっていた。
レイラはそれを第二王子のルシウス・ハインリッヒと一緒に解決しようと試みる。
沢山のお気に入り登録、ありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡
小説家になろう様でも投稿させていただいております。
婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました
Blue
恋愛
幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。
王子の転落 ~僕が婚約破棄した公爵令嬢は優秀で人望もあった~
今川幸乃
恋愛
ベルガルド王国の王子カールにはアシュリーという婚約者がいた。
しかしカールは自分より有能で周囲の評判もよく、常に自分の先回りをして世話をしてくるアシュリーのことを嫉妬していた。
そんな時、カールはカミラという伯爵令嬢と出会う。
彼女と過ごす時間はアシュリーと一緒の時間と違って楽しく、気楽だった。
こんな日々が続けばいいのに、と思ったカールはアシュリーとの婚約破棄を宣言する。
しかしアシュリーはカールが思っていた以上に優秀で、家臣や貴族たちの人望も高かった。
そのため、婚約破棄後にカールは思った以上の非難にさらされることになる。
※王子視点多めの予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる