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翌日、ハンスが出勤して来たので業務引継を再開した。
その休憩時間のことだった。アランがやって来てこう告げた。
「お嬢、どっか外に出る予定とかある?」
「いえ、今んとこ特に無いわ。なんで?」
「いやぁ、ウィリアムのヤツがね、この近くをウロ付いてんだわ」
「はぁっ!? なにやってんのよ、あの男は!?」
私は飲んでいたお茶を危うく吹き出すところだった。
「恐らくだけどさぁ、お嬢に叩き出されて屋敷の中に入れないから、お嬢が外に出て来るのを待ってるんじゃないかなぁ」
「だからなんでよ!?」
「諦め切れないんじゃないの? もう一度お嬢に泣き付けばなんとかなるとか思ってたりしてんじゃね?」
「あんだけ拒否したってのに!? バッカじゃないの!? 空気読めないにも程があるでしょうが!」
「まぁそこら辺りがウィリアムのウィリアムたる所以というか」
「そんな哲学的な話は要らないわよ。さっさと追い払って来てよ?」
「追い払ったんだけど、しばらくするとまたやって来るんだよねぇ」
「そうなの? ホントにしつこい男ね...」
私は頭を抱えてしまった。
「なにか仕出かしたって訳じゃないから、官憲に訴える訳にもいかないよねぇ」
「そうね...ただそこに居るだけだって言われたら、特に罪には問えないもんね...」
「どうする? この事もパトリックに知らせて連れ帰って貰う?」
私はちょっと考えてから、
「いえ、もうちょっと様子を見ましょう。その内にウィリアムも諦めて帰るかも知れないし。少なくともパトリックの身元調査が終わるまでは、出来るだけパトリックには会わない方が良いと思うのよね」
「あぁ、なるほどね。分かったよ。俺の方もなるべく早く調査を終わらせるからさ」
「お願いね」
「その代わりお嬢はしばらく外出しないでね?」
「分かったわ」
◇◇◇
更に翌日、今日はアランが休みだ。例のパトリックに関する身元調査を進めさせている。
「ハンス、ちょっと休憩しましょう」
「畏まりました。お茶をお入れしますね」
「お願い」
今日も今日とて業務引継の真っ最中だ。私はハンスが出て行った後、カーテンの隙間から外を眺めてみた。
ちなみにハンスにはウィリアムのことを敢えて伝えていない。ハンスが知れば問答無用で排除しようとするだろうから。それこそ刃傷沙汰に及んででも。私のことを思うあまり、暴走するかも知れないハンスには言わない方が良いと判断した。
いくらクズだとは言っても、ウィリアムの血が流れるのを見るのはさすがに寝覚めが悪いと思ったからだ。
「まだ居るか...蛇のようにしつこい男だな...」
屋敷を出てすぐの並木道の影に身を潜めたウィリアムの姿が確認できる。私はため息を吐くしかなかった。
その休憩時間のことだった。アランがやって来てこう告げた。
「お嬢、どっか外に出る予定とかある?」
「いえ、今んとこ特に無いわ。なんで?」
「いやぁ、ウィリアムのヤツがね、この近くをウロ付いてんだわ」
「はぁっ!? なにやってんのよ、あの男は!?」
私は飲んでいたお茶を危うく吹き出すところだった。
「恐らくだけどさぁ、お嬢に叩き出されて屋敷の中に入れないから、お嬢が外に出て来るのを待ってるんじゃないかなぁ」
「だからなんでよ!?」
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「あぁ、なるほどね。分かったよ。俺の方もなるべく早く調査を終わらせるからさ」
「お願いね」
「その代わりお嬢はしばらく外出しないでね?」
「分かったわ」
◇◇◇
更に翌日、今日はアランが休みだ。例のパトリックに関する身元調査を進めさせている。
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