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ep250 フルーツ盛り沢山、報告盛り沢山
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「ほらっ、ご主人様! はやく!」
「わかったわかった」
元気いっぱいのセラミナに引っ張られ、お休み満喫中のスラムの人たちにあいさつする。
「た、ただいま~」
するとみんなの視線が一気に集まる。は、恥ずかしいな。
「……タネズさま!」
「使徒様! おかえりなさいませ!」
「あっ、ケイの兄ちゃんだぁ~!」
あっという間に老若男女のスラム民たちが集まって、歓迎してくれる。僕を蔑む目は一個もない。よかった。あと、みんな元気そうだ。初めて会った時は病気と餓えでボロボロだったけど、今はハツラツとしている。
「うん、ただいま。みんな何してるの?」
「お休みを頂けたので、皆で集まって何するかを話し合っていました」
「結局決まってないですけど、こうやって大勢で集まって話せるだけで楽しいです!」
「でも、せっかくなのに何もしてないのがもったいないんですよね」
未亡人の奥様や、一家を支える少女たちがニコニコと笑っている。たぶん一番上でも三十歳いってなさそうなんだよな。そんな人たちがこんな苦労して……助けになってあげたい。
ここらへんは娯楽もないからやることも限られるよなあ。
……いや、ここらへんに限らず娯楽があんまなさそうだよな。なんか娯楽施設でも作ってあげたほうがいいのかな。
「そっかそっか。まあ休日なんてリフレッシュできればいいんだよ。心身ともに息抜きできればね。さて、君たちはいい子にしてた?」
うずうずと今にも爆発しそうな子どもたちに話をすると、案の定元気いっぱいに反応した。
「いい子にしてた!」
「お母さん達のしごとてつだったよ!」
「おせんたくてつだった! マイア姉ちゃんのてつだいもした!」
「おー、えらいえらい」
「セラミナ姉ちゃんのスカートもめくった!」
「よれよれぱんつだった!」
「りぼんついてた!」
「よくやった」
その情報はちんちんに効くぜ。
「あのね~! 使徒様! ぼくね~、どろだんごたくさんつくった!」
「あたしも! 使徒様にあげるね!」
「ぼくのもあげる!」
ちびっこたちが数人わぁっと寄ってきて、ピッカピカに磨かれた泥団子を渡してくれた。こっちの子もやはり泥団子を宝として崇める文化があるんだね。
「ありがとう。ピッカピカだね。すごく嬉しいよ。大切にするね」
「うん! 使徒様は、お母さんたち、助けてくれたから! とくべつ!」
「とくべつだ! ケイの兄ちゃんだからな!」
「使徒様あそぼ~!」
「あー、ずるい! おれが最初にあそぼうとおもったのに!」
なんて純粋無垢な子供たちだろうか。汚れきった僕をこんなに慕ってくれるなんて涙が出てくる。僕は君たちがくれた泥団子よりもずっと価値のない人間なんだよ。でも、君たちが幸せでいてくれるならそれでいい。
わぁぁぁっ、と喧嘩になりそうな子供たちの頭を撫でる。
「よーし、じゃあいい子にしてたみんなにお土産があるよー」
そう言うと子供達は途端に顔を輝かせる。
「おみやげ!!!?!?」
「もみあげ!!!」
「すごい! なにくれるの!?」
「それはね……じゃーん!」
僕は魔法の鞄から、シュレアにもらった果物を両手いっぱいに取り出す。
「ケイお兄さんの家族が作った、世界で一番美味しい果物だぁぁぁぁぁ!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
「世界でいちばん!?!?」
「しゅごいしゅごい!」
「あまい? あまいの?」
「ほしい! ほしい!」
「たぶんめっちゃ甘いよー。はい、順番にね。あ、お母さんたちもどうぞ」
ぴょんぴょんと跳ねる子供達に、果物を手渡していく。りんご、梨、柿、ぶどう。ここらへんは僕も知ってる。あと、なんかよくわからんイボイボのやつ。これはたぶんこっちの世界の果物だな。
「ぼくこれにする!」
「あたしはこれ!」
小さな手が次々と伸びて、果物を抱きしめるように受け取っていく。
りんごを両腕で抱えた子は「おっも!」と顔をほころばせ、別の子はぶどうの房を宝石のように掲げてきゃっきゃと笑った。
梨をむしゃむしゃ食べ始めた子は、口の端に果肉をつけて「うっまっ! じゅわってなにこれ! あまっ! あまっ!!」と半ば叫ぶように繰り返す。
柿をかじった小さな女の子は、ほっぺを両手で押さえて「……あまい! おいしい! ほっぺおちる!!」と目をまんまるに。
謎のイボイボ果実を恐る恐る齧った男の子は、一瞬きょとんとしたあと「おおぉぉぉぉ……ジュースだこれ!!!」と驚愕し、周囲の子供たちが「え!? ジュース!?」と群がってくる。
お母さんたちは最初遠慮がちにしていたが、一口齧った途端に表情が崩れた。
「……なにこれ、香りがすごく上品……」
「こんなに甘いのに後味がすっきりしてる……!」
口々に感嘆の声を漏らしながら、子供に負けじと次のひと口を求めて果物にかぶりついている。
うんうん。幸せそうな母子の様子を見るのは最高だな。みんな笑顔が一番だ。
「はい、セラミナもどうぞ」
「……え? あ、はいっ! ありがとうございます……」
ぼーっとしていたセラミナにバナナを手渡す。
「え、これどうやって食べるんですか?」
あ、バナナ食べたことないのか。確かに初見だとよくわからん果物かもね。
「これはこうやって皮を剥いて食べるんだよ」
実演してあげると、セラミナは得心したようでおそるおそる皮を剥いてバナナを頬張る。
頰を少しすぼめて舌先がちょろっとバナナを迎えに行って……。
上目遣いで僕を見ながら顔を赤らめてかぷり。
(この子わざとやってるのか?)
ちんちんふっくらしてくるんだが?
「……んーっ! お、美味しい……あ、甘いですぅ……」
幸せそうに目を細める。とろけた表情は否応なくえっちなものを想起させる。
「はは。気に入ってもらえたようでよかったよ。他にも新鮮な果物や野菜があるから渡しておくね」
「はいっ。ありがとうございます。
あ、でもたくさんもらいすぎると、悪くなっちゃうので小出しにしてもらえると助かります」
「あらら、食糧庫にはもう入り切らない?」
「いえ、まだ入るんですけど最近少し暑くなってきましたし、食材が傷みやすくなってきました」
え、冷蔵庫なのになんで。
と思ってハッとした。冷蔵庫じゃないわ食糧庫。いかん、前の世界の常識で考えてた。
「セラミナ、冷蔵庫って知ってる?」
「え、はい。魔石を使って食材を保冷する魔導具ですよね。前の御屋敷には大きなものが備え付けられていました。あれがあるとすごく便利なんですよねぇ……」
冷蔵庫自体はあるのか。よし、何とかして手に入れてみよう。魔石はダンジョンで乱獲すればどうにかなるっしょ。問題は本体だな。
そんなことを考えているとセラミナが僕のほうをじっと見ているのに気づいた。
「どうしたの?」
「へぅっ!? え、いや。何でもないです……えへへ。あの……家族っていいですよね?」
にへら、と崩れた表情で笑う。なんかすごく無防備な笑顔だ。家族に向けるような、純粋な好意が伝わってくる。
「そうだね。素晴らしいものだと思うよ」
「えへへ……私もそう思います」
にへぇっとまたもや崩れた笑み。
なんだその意味深な笑みは。家族作りたくなっちゃうだろうが。
セラミナに使う分だけの野菜と果物を渡し、バステンを探しに行く。シルビアはカリン、アルフィンと一緒にショッピングに行ってるらしい。お昼は外でランチとのこと。なんだかんだ仲いいな。あの三人が並んでおしゃべりしてると思うと、こっちも嬉しくなってくる。
バステンは宿舎にいるみたいだった。
軽くセラミナから聞いたけど傭兵たちは誰も欠けることなく帰ってきたみたい。よかったよ。
彼の部屋を見つけてノックする。
「バステン、おりゅ? タネズです」
「だ、旦那?」
ガタガタッと慌ただしい物音。
なんだ、もしかしてシコってたのかな。そりゃ悪いことした。
その数秒後に扉が開き、バステンが顔をのぞかせる。汗かいてるな。そんな激しくシコってたのか。さすがだな。オナニーとは全身全霊で行わなきゃいけないものなんだ。
……ってあれ?
「な、なんでルーナとニステルがいるの?」
バステンの部屋には、二人の頼れる愛すべき女奴隷がいた。
しかも二人とも薄着で汗ばんでいる。
物憂げでアンニュイな表情。
なんか部屋からいい匂いする香が焚かれている。
そして全員僕を見てびっくりしている。
この状況、間違いない。
「ファッ!?? 寝取られた!?!?」
「ばっ! 旦那、何言ってんだ! ちげーよ!」
バステンがものすごい勢いで否定してくる。
「バステン、主人の奴隷ちゃんたちを寝取るはいい度胸だなぁ~~~ッ」
「違う違う違う! そんな訳無いだろ!」
「でもよぉ~~ッ、寝取った現行犯はきっとみんなそう言うぜェ~~ッ!!!」
「そりゃそうだろうけど、相手を見てくれよ! ルーナと姐さんだぞ! 無理やりせまったらすり潰されるわ!」
……まあそれは確かに。
「ってことは弱みを握ったのか!?」
「なんでそうなるんだよ!」
後ろではルーナが何とも言えない表情を浮かべ、ニステルは腹を抱えて大爆笑している。
「御主人様……」
「いーーーーひっひっひィ!!! ね、ねとっ、ねとったってェ、はは、がははっ、はらっ、はらっいたいっ! くっくっく!」
な、なんだこの反応は。
「二人とも、旦那になんか言ってくれ。誤解なんだ」
バステンは困り顔で助けを求めた。
「……バステンの言う通りです。御主人様。彼は御主人様から私たちを寝取っていません」
「で、でも全員同じ部屋で汗かいて薄着で部屋からいい匂いしてるんだぞ!」
「クーックック! この前の任務について話し合っていたんだよォ。薄着なのは暑いからだね。いい匂いなのは虫除けの香を焚いてるからさ。少し考えりゃ分かりそうだけどねェ。いやー、笑わせてもらったよ。久しぶりにこんなに笑った……くく……」
ニステルが巨体をひーひー言わせて爆笑してる。このメス筋肉がぁ~~~っ!
「ニステル、笑い過ぎです。これ以上御主人様に無礼を働くのは許しません」
「ふふ……あいよォ」
ルーナがぴしゃりと諌めてくれる。あーんもうルーナそういうとこホント好き。そう言えば弟妹とかいるのかね。過去が重そうだから訊けてないけど。
「ふぅ、わかった。どうやら僕の勘違いだったみたいだ。悪いことしたね、バステン」
「いや、いいんだ。確かに紛らわしかったと思う。俺も悪かった」
完全に僕が悪いのに頭を下げる。
見てくれ、これができる大人だ。僕とは人間力が違う。
ていうかあれか。傭兵団の事務所が無いからこうなってんのか。ふーむ。こりゃ増設したほうがいいな。メモメモ。冷蔵庫と事務所ね。
「……こほん。ご挨拶が遅れ申し訳ございません。おかえりなさいませ、御主人様」
そう言ってルーナが跪くと他の二人も跪く。ニステルはまだピクピクしているが。
「うん、ありがとう。ルーナ。それとバステン、よくみんなを無事に返してくれたね。ありがとう。お疲れ様」
「団長の職を拝命しているんだ、当然だ。と言いたいところだが、かなり危ない場面があった。俺もまだまだだよ、旦那」
およ?
バステンが苦り切った顔でため息を吐いている。
「なんかのっぴきならないことでもあった?」
「あぁ……。今まさにそれを話し合っていたところだ。正直、今回の任務はニステルの姐さんがいなかったら半分は死んでいたかもしれん」
「はい。おそらく私も殺されていたでしょう」
……マジ?
ニステルの方を見ると彼女も、この時ばかりは真剣な表情で頷いた。
「謙遜とか迂遠な言葉が苦手だからはっきり言うけどねェ……バステンの言う通りさ。やつの最初の奇襲で一人二人死んでいてもおかしくない。その後の追撃で良くて半壊っていったところだろうねェ」
うっそ。
大ピンチじゃんか。
初陣でそんな目に遭って、誰も死ななかったの奇跡じゃない?
ニステル……最初はルーナをボコボコにするし、輪を乱すし、とんでもないやつだと思ったけど。
いてくれて助かった。マジ感謝だ。
帰ってきてバステンやルーナの骸と対面なんてしてたら心が折れてただろうな。
「……ニステルぅ!」
「うわァっ! な、なんだい主殿」
僕はニステルのグラマラスタイガーボディにダイブし、感謝を述べる。
「ニステル! 僕の元に来てくれてありがとう! オボロ傭兵団を、ルーナやバステンを守ってくれてありがとう! 君がいてくれて本当によかった!」
「ど、どこに向かって礼を言ってるんだい」
「太ももの間」
タイガー太もものデルタゾーンに顔を埋めて圧倒的感謝の念を送る。
「……まったく、どうしようもない主殿だねェ」
すると後頭部に彼女の無骨で暖かい手が添えられた。
「まァ、感謝は受け取っておくよ。主殿」
……アッ。
なんかちょっと声色からママみを感じたぞ。意外と母性あるのかもしれん。ふぅむ。これはポテンシャルあるな。
「じゃあ、バステン。何があったか報告してくれる?」
「……切り替え早いな。俺は旦那のそういうところ尊敬してるぜ」
んんっ、と咳払いをする。するとルーナが何枚かの羊皮紙を持ってきて僕に渡した。なんだこれ。めっちゃ字が汚いな。あ、綺麗なのもある。
「それじゃ、旦那。詳しく報告するよ。渡したのは団員に書かせた報告書だ」
「字が汚くて申し訳ございません。今度書き取りの訓練をさせます」
「内容盛り沢山だからねェ。ちゃんと聞いとくれよ」
「あ、待って。美味しい果物もらってきたんだ。これ食べながらやろうよ。ルーナ、お茶用意してくれる?」
「承知しました」
ルーナは即座に席を立って、食堂に駆けていった。すごい速さだ。パシられ慣れている。
「果物剥ける人~」
「アタシがやるよ」
意外にもニステルが手を挙げて、器用にリンゴの皮を剥き始めた。
「じゃあバステンは……僕とにらめっこでもしようか」
「なんでだよ」
彼は微妙に嫌な顔をした後に、プッと吹き出した。
「わかったわかった」
元気いっぱいのセラミナに引っ張られ、お休み満喫中のスラムの人たちにあいさつする。
「た、ただいま~」
するとみんなの視線が一気に集まる。は、恥ずかしいな。
「……タネズさま!」
「使徒様! おかえりなさいませ!」
「あっ、ケイの兄ちゃんだぁ~!」
あっという間に老若男女のスラム民たちが集まって、歓迎してくれる。僕を蔑む目は一個もない。よかった。あと、みんな元気そうだ。初めて会った時は病気と餓えでボロボロだったけど、今はハツラツとしている。
「うん、ただいま。みんな何してるの?」
「お休みを頂けたので、皆で集まって何するかを話し合っていました」
「結局決まってないですけど、こうやって大勢で集まって話せるだけで楽しいです!」
「でも、せっかくなのに何もしてないのがもったいないんですよね」
未亡人の奥様や、一家を支える少女たちがニコニコと笑っている。たぶん一番上でも三十歳いってなさそうなんだよな。そんな人たちがこんな苦労して……助けになってあげたい。
ここらへんは娯楽もないからやることも限られるよなあ。
……いや、ここらへんに限らず娯楽があんまなさそうだよな。なんか娯楽施設でも作ってあげたほうがいいのかな。
「そっかそっか。まあ休日なんてリフレッシュできればいいんだよ。心身ともに息抜きできればね。さて、君たちはいい子にしてた?」
うずうずと今にも爆発しそうな子どもたちに話をすると、案の定元気いっぱいに反応した。
「いい子にしてた!」
「お母さん達のしごとてつだったよ!」
「おせんたくてつだった! マイア姉ちゃんのてつだいもした!」
「おー、えらいえらい」
「セラミナ姉ちゃんのスカートもめくった!」
「よれよれぱんつだった!」
「りぼんついてた!」
「よくやった」
その情報はちんちんに効くぜ。
「あのね~! 使徒様! ぼくね~、どろだんごたくさんつくった!」
「あたしも! 使徒様にあげるね!」
「ぼくのもあげる!」
ちびっこたちが数人わぁっと寄ってきて、ピッカピカに磨かれた泥団子を渡してくれた。こっちの子もやはり泥団子を宝として崇める文化があるんだね。
「ありがとう。ピッカピカだね。すごく嬉しいよ。大切にするね」
「うん! 使徒様は、お母さんたち、助けてくれたから! とくべつ!」
「とくべつだ! ケイの兄ちゃんだからな!」
「使徒様あそぼ~!」
「あー、ずるい! おれが最初にあそぼうとおもったのに!」
なんて純粋無垢な子供たちだろうか。汚れきった僕をこんなに慕ってくれるなんて涙が出てくる。僕は君たちがくれた泥団子よりもずっと価値のない人間なんだよ。でも、君たちが幸せでいてくれるならそれでいい。
わぁぁぁっ、と喧嘩になりそうな子供たちの頭を撫でる。
「よーし、じゃあいい子にしてたみんなにお土産があるよー」
そう言うと子供達は途端に顔を輝かせる。
「おみやげ!!!?!?」
「もみあげ!!!」
「すごい! なにくれるの!?」
「それはね……じゃーん!」
僕は魔法の鞄から、シュレアにもらった果物を両手いっぱいに取り出す。
「ケイお兄さんの家族が作った、世界で一番美味しい果物だぁぁぁぁぁ!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
「世界でいちばん!?!?」
「しゅごいしゅごい!」
「あまい? あまいの?」
「ほしい! ほしい!」
「たぶんめっちゃ甘いよー。はい、順番にね。あ、お母さんたちもどうぞ」
ぴょんぴょんと跳ねる子供達に、果物を手渡していく。りんご、梨、柿、ぶどう。ここらへんは僕も知ってる。あと、なんかよくわからんイボイボのやつ。これはたぶんこっちの世界の果物だな。
「ぼくこれにする!」
「あたしはこれ!」
小さな手が次々と伸びて、果物を抱きしめるように受け取っていく。
りんごを両腕で抱えた子は「おっも!」と顔をほころばせ、別の子はぶどうの房を宝石のように掲げてきゃっきゃと笑った。
梨をむしゃむしゃ食べ始めた子は、口の端に果肉をつけて「うっまっ! じゅわってなにこれ! あまっ! あまっ!!」と半ば叫ぶように繰り返す。
柿をかじった小さな女の子は、ほっぺを両手で押さえて「……あまい! おいしい! ほっぺおちる!!」と目をまんまるに。
謎のイボイボ果実を恐る恐る齧った男の子は、一瞬きょとんとしたあと「おおぉぉぉぉ……ジュースだこれ!!!」と驚愕し、周囲の子供たちが「え!? ジュース!?」と群がってくる。
お母さんたちは最初遠慮がちにしていたが、一口齧った途端に表情が崩れた。
「……なにこれ、香りがすごく上品……」
「こんなに甘いのに後味がすっきりしてる……!」
口々に感嘆の声を漏らしながら、子供に負けじと次のひと口を求めて果物にかぶりついている。
うんうん。幸せそうな母子の様子を見るのは最高だな。みんな笑顔が一番だ。
「はい、セラミナもどうぞ」
「……え? あ、はいっ! ありがとうございます……」
ぼーっとしていたセラミナにバナナを手渡す。
「え、これどうやって食べるんですか?」
あ、バナナ食べたことないのか。確かに初見だとよくわからん果物かもね。
「これはこうやって皮を剥いて食べるんだよ」
実演してあげると、セラミナは得心したようでおそるおそる皮を剥いてバナナを頬張る。
頰を少しすぼめて舌先がちょろっとバナナを迎えに行って……。
上目遣いで僕を見ながら顔を赤らめてかぷり。
(この子わざとやってるのか?)
ちんちんふっくらしてくるんだが?
「……んーっ! お、美味しい……あ、甘いですぅ……」
幸せそうに目を細める。とろけた表情は否応なくえっちなものを想起させる。
「はは。気に入ってもらえたようでよかったよ。他にも新鮮な果物や野菜があるから渡しておくね」
「はいっ。ありがとうございます。
あ、でもたくさんもらいすぎると、悪くなっちゃうので小出しにしてもらえると助かります」
「あらら、食糧庫にはもう入り切らない?」
「いえ、まだ入るんですけど最近少し暑くなってきましたし、食材が傷みやすくなってきました」
え、冷蔵庫なのになんで。
と思ってハッとした。冷蔵庫じゃないわ食糧庫。いかん、前の世界の常識で考えてた。
「セラミナ、冷蔵庫って知ってる?」
「え、はい。魔石を使って食材を保冷する魔導具ですよね。前の御屋敷には大きなものが備え付けられていました。あれがあるとすごく便利なんですよねぇ……」
冷蔵庫自体はあるのか。よし、何とかして手に入れてみよう。魔石はダンジョンで乱獲すればどうにかなるっしょ。問題は本体だな。
そんなことを考えているとセラミナが僕のほうをじっと見ているのに気づいた。
「どうしたの?」
「へぅっ!? え、いや。何でもないです……えへへ。あの……家族っていいですよね?」
にへら、と崩れた表情で笑う。なんかすごく無防備な笑顔だ。家族に向けるような、純粋な好意が伝わってくる。
「そうだね。素晴らしいものだと思うよ」
「えへへ……私もそう思います」
にへぇっとまたもや崩れた笑み。
なんだその意味深な笑みは。家族作りたくなっちゃうだろうが。
セラミナに使う分だけの野菜と果物を渡し、バステンを探しに行く。シルビアはカリン、アルフィンと一緒にショッピングに行ってるらしい。お昼は外でランチとのこと。なんだかんだ仲いいな。あの三人が並んでおしゃべりしてると思うと、こっちも嬉しくなってくる。
バステンは宿舎にいるみたいだった。
軽くセラミナから聞いたけど傭兵たちは誰も欠けることなく帰ってきたみたい。よかったよ。
彼の部屋を見つけてノックする。
「バステン、おりゅ? タネズです」
「だ、旦那?」
ガタガタッと慌ただしい物音。
なんだ、もしかしてシコってたのかな。そりゃ悪いことした。
その数秒後に扉が開き、バステンが顔をのぞかせる。汗かいてるな。そんな激しくシコってたのか。さすがだな。オナニーとは全身全霊で行わなきゃいけないものなんだ。
……ってあれ?
「な、なんでルーナとニステルがいるの?」
バステンの部屋には、二人の頼れる愛すべき女奴隷がいた。
しかも二人とも薄着で汗ばんでいる。
物憂げでアンニュイな表情。
なんか部屋からいい匂いする香が焚かれている。
そして全員僕を見てびっくりしている。
この状況、間違いない。
「ファッ!?? 寝取られた!?!?」
「ばっ! 旦那、何言ってんだ! ちげーよ!」
バステンがものすごい勢いで否定してくる。
「バステン、主人の奴隷ちゃんたちを寝取るはいい度胸だなぁ~~~ッ」
「違う違う違う! そんな訳無いだろ!」
「でもよぉ~~ッ、寝取った現行犯はきっとみんなそう言うぜェ~~ッ!!!」
「そりゃそうだろうけど、相手を見てくれよ! ルーナと姐さんだぞ! 無理やりせまったらすり潰されるわ!」
……まあそれは確かに。
「ってことは弱みを握ったのか!?」
「なんでそうなるんだよ!」
後ろではルーナが何とも言えない表情を浮かべ、ニステルは腹を抱えて大爆笑している。
「御主人様……」
「いーーーーひっひっひィ!!! ね、ねとっ、ねとったってェ、はは、がははっ、はらっ、はらっいたいっ! くっくっく!」
な、なんだこの反応は。
「二人とも、旦那になんか言ってくれ。誤解なんだ」
バステンは困り顔で助けを求めた。
「……バステンの言う通りです。御主人様。彼は御主人様から私たちを寝取っていません」
「で、でも全員同じ部屋で汗かいて薄着で部屋からいい匂いしてるんだぞ!」
「クーックック! この前の任務について話し合っていたんだよォ。薄着なのは暑いからだね。いい匂いなのは虫除けの香を焚いてるからさ。少し考えりゃ分かりそうだけどねェ。いやー、笑わせてもらったよ。久しぶりにこんなに笑った……くく……」
ニステルが巨体をひーひー言わせて爆笑してる。このメス筋肉がぁ~~~っ!
「ニステル、笑い過ぎです。これ以上御主人様に無礼を働くのは許しません」
「ふふ……あいよォ」
ルーナがぴしゃりと諌めてくれる。あーんもうルーナそういうとこホント好き。そう言えば弟妹とかいるのかね。過去が重そうだから訊けてないけど。
「ふぅ、わかった。どうやら僕の勘違いだったみたいだ。悪いことしたね、バステン」
「いや、いいんだ。確かに紛らわしかったと思う。俺も悪かった」
完全に僕が悪いのに頭を下げる。
見てくれ、これができる大人だ。僕とは人間力が違う。
ていうかあれか。傭兵団の事務所が無いからこうなってんのか。ふーむ。こりゃ増設したほうがいいな。メモメモ。冷蔵庫と事務所ね。
「……こほん。ご挨拶が遅れ申し訳ございません。おかえりなさいませ、御主人様」
そう言ってルーナが跪くと他の二人も跪く。ニステルはまだピクピクしているが。
「うん、ありがとう。ルーナ。それとバステン、よくみんなを無事に返してくれたね。ありがとう。お疲れ様」
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およ?
バステンが苦り切った顔でため息を吐いている。
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「はい。おそらく私も殺されていたでしょう」
……マジ?
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「謙遜とか迂遠な言葉が苦手だからはっきり言うけどねェ……バステンの言う通りさ。やつの最初の奇襲で一人二人死んでいてもおかしくない。その後の追撃で良くて半壊っていったところだろうねェ」
うっそ。
大ピンチじゃんか。
初陣でそんな目に遭って、誰も死ななかったの奇跡じゃない?
ニステル……最初はルーナをボコボコにするし、輪を乱すし、とんでもないやつだと思ったけど。
いてくれて助かった。マジ感謝だ。
帰ってきてバステンやルーナの骸と対面なんてしてたら心が折れてただろうな。
「……ニステルぅ!」
「うわァっ! な、なんだい主殿」
僕はニステルのグラマラスタイガーボディにダイブし、感謝を述べる。
「ニステル! 僕の元に来てくれてありがとう! オボロ傭兵団を、ルーナやバステンを守ってくれてありがとう! 君がいてくれて本当によかった!」
「ど、どこに向かって礼を言ってるんだい」
「太ももの間」
タイガー太もものデルタゾーンに顔を埋めて圧倒的感謝の念を送る。
「……まったく、どうしようもない主殿だねェ」
すると後頭部に彼女の無骨で暖かい手が添えられた。
「まァ、感謝は受け取っておくよ。主殿」
……アッ。
なんかちょっと声色からママみを感じたぞ。意外と母性あるのかもしれん。ふぅむ。これはポテンシャルあるな。
「じゃあ、バステン。何があったか報告してくれる?」
「……切り替え早いな。俺は旦那のそういうところ尊敬してるぜ」
んんっ、と咳払いをする。するとルーナが何枚かの羊皮紙を持ってきて僕に渡した。なんだこれ。めっちゃ字が汚いな。あ、綺麗なのもある。
「それじゃ、旦那。詳しく報告するよ。渡したのは団員に書かせた報告書だ」
「字が汚くて申し訳ございません。今度書き取りの訓練をさせます」
「内容盛り沢山だからねェ。ちゃんと聞いとくれよ」
「あ、待って。美味しい果物もらってきたんだ。これ食べながらやろうよ。ルーナ、お茶用意してくれる?」
「承知しました」
ルーナは即座に席を立って、食堂に駆けていった。すごい速さだ。パシられ慣れている。
「果物剥ける人~」
「アタシがやるよ」
意外にもニステルが手を挙げて、器用にリンゴの皮を剥き始めた。
「じゃあバステンは……僕とにらめっこでもしようか」
「なんでだよ」
彼は微妙に嫌な顔をした後に、プッと吹き出した。
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英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
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( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
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