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ep261 ング
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劇団商業ギルドばりのコントを見せてくれたロイさんたち。
何事か、と、駆けつけたのは他の職員さんたち。
そしてまた彼ら彼女らも、部屋の中で圧倒的な存在感を放つフレイムベアの死体を目撃して腰を抜かしてしまった。
「うわぁぁっ! なんで魔獣がっ!」
「お、おたすけ……」
「も、漏れ……」
悲鳴と恐怖が伝播して、さらに騒ぎは広がっていく。
(……やっべ、やりすぎたかも)
思ったよりも阿鼻叫喚なので、背中を冷たい汗が伝う。
すわ土下座か、と思い始めたとき。
「……うるせええええぇ!!!」
ロイさんが一括し、職員たちはビクッとして静かになった。
ふぅ、とため息をついたあと彼はカッと目を見開いて次々に指示を出していく。
「まずは解体場の予約だ! 一刻を争うぞ! 枠を押さえろ!」
「解体職人を確保しろ! ただし手際が良く、口の堅い連中だけだ。腕が悪い者を呼ぶな! 休んでるやつには手当を弾むと言っとけ!」
「それから……フレイムベアを欲していたお偉方を確認しろ! どの商家か、どの貴族か、名簿を片っ端から洗え! 優先順位を付けておけ!」
「スケジュールもだ! 解体から加工、納品まで、すべて最短で組み直せ! 他の案件は後回しで構わねえ!」
「フレイムベアは死んでもなお、魔力無効化フィールドを持っているから、それを念頭に行動しろや!」
「それと──空調を直しておけ!」
立て続けに矢継ぎ早の指示が飛ぶ。
一瞬前まで腰を抜かしていた職員たちも、その声に我に返ったかのように走り出す。
帳簿を抱えて駆け出す者、慌てて伝令を飛ばす者、書き付けを走り書きする者。
ギルド内に再び秩序が戻り、怒号が指示の声に変わっていった。
かつての彼とは思えないほど、課長としての貫禄と迫力がそこにあった。
「ふぅ……タネズ様。まもなく解体場が確保できるので、申し訳ないのですがそちらにすべてのフレイムベアを下ろしていただいても?」
「もちろん。運ぶのは大変だからね。このフレイムベアはしまっておくよ」
「ありがとうございます……もう、他にはありませんよね?」
ないよな? ないよな?
と笑顔ながらもその裏に鬼気迫った圧力を感じさせる。
あるんだけどね。
種分身作るときに亜人たちが競うようにして狩った、ヤバそうな魔獣の素材が、山のように……。
「うーん、どうしよう」
「タネズ様、それはもう『ある』寄りの言葉なんすよ」
とうとうロイさんの口調が崩れた。なんかこっちのほうが彼らしい気がするな。
「タネズ様。今俺はすごく怖いです。タネズ様、もうあるならあると言ってください」
「ロイさん」
「はい」
「ごめんなさい、まだありまぁす!」
ロイさんの首がガクッと落ちた。
ということで。
ロイさんは丁寧にブチ切れながら一つ一つ対処していった。
彼が僕を連れて応接室の外に出ると、『ズァッ!』と十人近くのギルド職員が脇を固め、彼の命令を受けては散り、散っては戻ってきた。
一個びっくりしたのは、
「だめだ、解体場が足りねえ……」
と呟いたあと、
「おい、適当な倉庫をいくつか買って来い。そこをタネズ様専用の解体場にする」
と部下に言ったことだった。倉庫をハコ買いとか規模がヤバい。そしてロイさんの決断力と彼の負う責任に、やっぱり会社勤めしなくてよかったと心から安堵していた。
で、隣でその切羽詰まったやりとりをのほほんと見ながら、彼の慇懃無礼だけど、どこか有無を言わせない口調に従って素材を置いていった。
死にたてホヤホヤのフレイムベアの死体十頭。
あとよくわかんないけどヤバそうな魔獣が百頭ちょい。この前の三百頭よりも数は少ないが、その分一体一体がデカい。規模で言うと今回のほうが上かもしれない。
解体場に全部出したときは、ちょっとした地震みたいのが発生して、職員たちが悲鳴をあげた。でもロイさんは慣れたのか、部下たちに発破をかけて指示を飛ばしていった。
最初は数人だったギルド職員はいつの間にか数十人規模まで膨れ上がり、ちょっとしたイベントみたいになってしまった。
悲鳴と怒号が入り混じる解体場にて、ロイさんはラフな口調で僕に提案する。
「タネズ様、もう商業ギルドに『特別口座』を作ったほうがいいと思いますわ」
かっちり来ていたギルドの制服はいつの間にか着崩され、ネクタイは緩み上着は脱がれ、シャツは腕まくりされている。全体的に不良っぽい。その姿の彼の、似合うこと似合うこと。
「特別口座?」
「はい。大口のお客様にのみ、商業ギルドが提供する口座っす。一般の商人に対して開く口座もありますが、特別口座はさらに大きな額を入れることができて、金利もいいっすよ。
特に今回のフレイムベアの素材なんかは、複数の組織と高位貴族のメンツが絡んでくるので、具体的に『この日に現金に出来ます』ってのが提示出来ないと思います。
だから特別口座を作ってもらって、お金が用意でき次第順次そこに振り込む、という形してもらえないですかね? その方がお互いに手間もないと思うので」
あー、ぶっちゃけ始めたロイさんの方が話早くていいや。
「分かった。じゃあそうしてくれる?」
「あざす。すんませんね」
「いえいえ。仕事増やしちゃってごめんよ」
「なあに。俺にもメリットある話ですから。この鉄火場乗り切ったら、ボーナスたんまり貰えますし、昇進にも繋がるんで」
疲労の色は濃いが、それ以上にやる気に満ち溢れている。ロイさんはまた二十代前半くらいだからな。体力気力ともに充実してるんだろう。回復も速いんだろうな。羨ましい話だ。
「ロイ課長すみません」
「ああ? どうした?」
とそこへ、明らかにロイさんより年上のおじさんギルド職員が近づいてきた。くたびれて頭がバーコード気味だ。ロイさんも余裕のタメ口で対応している。おっちゃんが才能ある年下の上司にペコペコするのななかなかキツい光景だが、ここはハイパー実力主義の商業ギルドだからな。しゃーない。
「アーサーギルドマスターがタネズ様をお呼びです」
「ギルマスが? 要件は?」
「ポーションの件、と言えば分かると。ブラタネリ商会の方々もご一緒されています」
あら。シルビアたちが? なんだ、こっちにいたのか。
「……そうか。分かった。タネズ様、申し訳ありませんがそちらまでご足労願えますか?」
「はーい。じゃあ、なんというか……素材の件お願いね。僕が言うのもあれだけど、無理しないでくれ」
「なあに、まだまだいけますよ。ここが無茶のしどころです。アルフィン副マスの背中はまだ遠いけど、いつか追いついてやりますよ」
ニッと不敵に笑うロイさん。商業ギルドはすげえなあ。野心あって有能な若者が後からポンポン出てくる。
というわけでお次はアーサーさんとの面会だ。ちなみに梨食いのリンタオ、クール怯えのランヤンの二人も付いてこようとしたけどロイに止められていた。『下手に首を突っ込むと物理的に首が飛ぶかもしれねえから止めとけ』と。ランヤンさんは蒼い顔で頷いて引き下がり、リンタオさんはちょっと残念そうにしていた。この人、度胸ありすぎだろ。どっかのネジが緩んでるよ。
ギルマスの部屋をノックして尋ねる。
「どうもー、タネズです」
ややあって、扉が開き中から優しげな美女が出迎えてくれた。
まるで頭頂部がすかすか♡なくたびれ系おじのような見た目だ。たぶん、苗字はジャックナイフさんだな。
「タネズ様お待ちしておりました」
「美女はどこ!?」
「美女、ですか? ああ、シルビア様たちならすでにいらっしゃいますよ」
ラークさんは首をかしげながら、僕を部屋に通す。
そこにはいつものように迫力が半端ない商業ギルドマスターのアーサーさんと、ブラタネリ商会三人娘がいた。シルビア、アルフィン、カリンだ。まあカリンは厳密に言うと商会所属ではないけど、同カウントていいだろう。一蓮托生だしね。
「あ、ケイ帰ってたんだ。おかえり」
「おかえりなさいませ、使徒様。ご尊顔を拝謁できてカリンは嬉しゅうございます」
「あぁ~っ! ボクという超絶可愛い奴隷をほったらかしにしてどっかいっちゃった、頭よわよわゴブリンフェイスのご主人さまだぁ! あ、いだっ」
三者三様の挨拶。アルフィンは強めにアーサーさんに頭をぶっ叩かれていた。
「タネズ様、お呼び立てして申し訳ございません」
「いえいえ。この程度のこと問題ありませんよ。ちょうど商業ギルドからの依頼を終わらせてきたところでしたから」
「その件ですが、申し訳ありませんでした。フレイムベアを欲しがる関係各所からの圧力が厳しく、躱しきれませんでした」
アーサーさんが大迫力の顔をムッと険しくさせる。おそらくだけど申し訳ない表情をしているんだろう。
「仕方ないですよ、商業ギルドにも立場があるのは分かっています。僕もある程度は覚悟してますから」
「……そう言って頂けると幸いです」
彼は腰を折ってピシッとお辞儀をした。
「それに先ほど依頼されたフレイムベアは納入し終わりましたので、特に問題ないですよ」
「ば、ばかな。早すぎる」
ラークさんが初めて連邦の白い悪魔でも見たかのような反応をした。
「……もう依頼を完了されたのですか?」
アーサーさんは『ゴゴゴ』と手をゲンド◯組みして、めちゃくちゃ怖い顔だ。
「はい。さっと行ってさっと帰ってきましたよ。依頼は早く終わらせるに限りますからね」
「……フッ。そうですか」
「ね、お義父。ボクの言った通りだったでしょ? ボクのご主人様は残念なゴブリン脳みその持ち主なんだけどめっぽう強いんだよ。あと、なんだかんだ約束は守るからね」
「まー心配はしていたけど、やっぱりケイはケイだったわね。なんか最近驚かなくなってきたわ」
「当たり前です。使徒様にかかればフレイムベアの一頭や二頭、大した問題ではありません」
それなりに苦労したんだけどね。リンカとエンテラシアの力が無いとまず無理だったし。シュレアのアシストがあればこそだよ。
「そういうことです、アーサーさん。あと今回は調子が良かったのでフレイムベアは十頭ほど無傷で確保してきたので、詳細はロイさんに聞いてください」
「ング」
……なんか野太い喉に物が詰まったような音がアーサーさんの方からしたんだけど、気の所為だよな? 姿勢は微動だにしていないし。
「じじじ、じゅっじゅっじゅっ……」
ラークさんはロイさんと似たような反応をした。顔面蒼白で、声を震わせている。普通の人なら見えないと思うが、その震えによって頭頂部から毛がパラパラと数本落ちた。
「いや十頭って、ケイ……」
「ご主人様って国でも滅ぼしたいの?」
シルビアとアルフィンはバケモンでも見るかのような視線で、ドン引きしている。
なんでだよ! ほとんどエンテラシアたちがやったけど、僕もがんばったんだぞ!
「皆さん、何ですかその反応は。使徒様が手柄を立てられたんですよ。もっと褒めたたえ、崇め奉るべきです。
ああ、使徒ケイ様。さすがはジオス教徒を導く御方。強く美しく、神聖であらせられます。カリンはいつでも貴方様の味方ですよ」
「うおおおおっ、カリン~っ!」
カリンだけが手放しで褒めてくれた。抱きつくと豊満なるママ双丘がふにょん。まさに聖母の如き母性だ。包容力が半端ない。ママみがすごい。バブみでオギャりたい。
「そ、そうね……確かに今のはよくなかったかも。ごめんね、ケイ。偉い偉い」
「ボクという超絶可憐な奴隷を飼わせてあげてるんだから、これくらいはね。まーご主人様が強い分には安心できるからいっか。褒めてあげるよ。よしよし」
するとラークさんがギョッとした表情で、アルフィンを見た。なんというか……僕が初めてキョンを見た時のリアクションに似ている。
「……ラーク? その顔はなに?」
「い、いや副マス……いえアルフィンさん。貴女がそんな笑顔で人の頭を撫でる光景を、見れる日が来るとは思わなくて」
「は? 失礼だね。君の頭頂部もタワシでこすってあげようか?」
「非人道的な行いはやめてください」
アルフィン……なんて恐ろしい子。
ラークさんの非武装地帯をさらに広げる気か。そんなことしたら戦争ですよ。
「…………フッ」
あれ、ギルマス笑ってる? ゲンド◯組みしてるから口元が見えないんだよね。
「タネズ様、アルフィンはどうやら貴方様を大層気に入っているようです」
「ちょっ、ちょーっと、お義父様!?」
「この子は他人の話など、ましてやその場所にいない、同年代の男なんて一切したことがありません。他人に興味がないのです。
しかし最近のアルフィンは何かに付けて貴方の話題を出し、嘲笑し罵倒しては愉快そうにケタケタとはしゃいでいます。男っぽい話し方もなりを潜め、まるで近所の兄貴分に甘える娘っ子です。こんなこと、今までありませんでした」
アーサーさんの気配が厳格なギルマスのそれではなく、一瞬だけ娘を思う父親のような柔らかさを帯びた。
「……くっ、くそっ! なんだよ、こっち見るなよ!」
アルフィンは珍しく顔を赤くして、僕の方をチラチラ見ている。見てんのはおめーじゃねえか。
「おめー、ご主人様の陰口どんだけ叩いてんだよ!」
「うっさいな! いいだろ、別に! やーいやーい、低能前髪脳みそすかすかご主人様~ゴブリンヘッド~! 悔しかったら頭良くなってみろ~っ!」
「こ、このメスガキがぁ~~っ!
言っていいことと悪いことがあるだろ! 親の顔が見てみたいわ!」
「申し訳ございません、タネズ様」
「あっ、うっす、ぃっす……」
勢いで親の前で親の顔が見てみたい発言しちまった。うわっ、これこんなに気まずい空気になるのか。
「アルフィン、その辺にしておけ。お前はタネズ様のご厚意で生かされ、飼われている身だ。これ以上の無礼は許さん」
「わ、分かってるよ……別にボクだって、誰にだってこういう態度とる訳じゃないんだよ。ごめんなさい、ご主人様」
ぺこり、と謝るアルフィン。なんだよ、やればできるじゃん。
「まあ……別に僕もそんなに怒ってる訳じゃないよ」
「え? ほんと? なぁんだ~謝って損した。じゃあ今後とも超絶可憐なボクのこと、きっちり飼って養ってね?」
アルフィンはけらけらと笑って、悪そうな顔で僕の腕をその細い身体で包みこんだ。ちっぱいのくせに、あったかくてムニュってしてやがる。タネズ棒が反応しちゃうだろうが。
何事か、と、駆けつけたのは他の職員さんたち。
そしてまた彼ら彼女らも、部屋の中で圧倒的な存在感を放つフレイムベアの死体を目撃して腰を抜かしてしまった。
「うわぁぁっ! なんで魔獣がっ!」
「お、おたすけ……」
「も、漏れ……」
悲鳴と恐怖が伝播して、さらに騒ぎは広がっていく。
(……やっべ、やりすぎたかも)
思ったよりも阿鼻叫喚なので、背中を冷たい汗が伝う。
すわ土下座か、と思い始めたとき。
「……うるせええええぇ!!!」
ロイさんが一括し、職員たちはビクッとして静かになった。
ふぅ、とため息をついたあと彼はカッと目を見開いて次々に指示を出していく。
「まずは解体場の予約だ! 一刻を争うぞ! 枠を押さえろ!」
「解体職人を確保しろ! ただし手際が良く、口の堅い連中だけだ。腕が悪い者を呼ぶな! 休んでるやつには手当を弾むと言っとけ!」
「それから……フレイムベアを欲していたお偉方を確認しろ! どの商家か、どの貴族か、名簿を片っ端から洗え! 優先順位を付けておけ!」
「スケジュールもだ! 解体から加工、納品まで、すべて最短で組み直せ! 他の案件は後回しで構わねえ!」
「フレイムベアは死んでもなお、魔力無効化フィールドを持っているから、それを念頭に行動しろや!」
「それと──空調を直しておけ!」
立て続けに矢継ぎ早の指示が飛ぶ。
一瞬前まで腰を抜かしていた職員たちも、その声に我に返ったかのように走り出す。
帳簿を抱えて駆け出す者、慌てて伝令を飛ばす者、書き付けを走り書きする者。
ギルド内に再び秩序が戻り、怒号が指示の声に変わっていった。
かつての彼とは思えないほど、課長としての貫禄と迫力がそこにあった。
「ふぅ……タネズ様。まもなく解体場が確保できるので、申し訳ないのですがそちらにすべてのフレイムベアを下ろしていただいても?」
「もちろん。運ぶのは大変だからね。このフレイムベアはしまっておくよ」
「ありがとうございます……もう、他にはありませんよね?」
ないよな? ないよな?
と笑顔ながらもその裏に鬼気迫った圧力を感じさせる。
あるんだけどね。
種分身作るときに亜人たちが競うようにして狩った、ヤバそうな魔獣の素材が、山のように……。
「うーん、どうしよう」
「タネズ様、それはもう『ある』寄りの言葉なんすよ」
とうとうロイさんの口調が崩れた。なんかこっちのほうが彼らしい気がするな。
「タネズ様。今俺はすごく怖いです。タネズ様、もうあるならあると言ってください」
「ロイさん」
「はい」
「ごめんなさい、まだありまぁす!」
ロイさんの首がガクッと落ちた。
ということで。
ロイさんは丁寧にブチ切れながら一つ一つ対処していった。
彼が僕を連れて応接室の外に出ると、『ズァッ!』と十人近くのギルド職員が脇を固め、彼の命令を受けては散り、散っては戻ってきた。
一個びっくりしたのは、
「だめだ、解体場が足りねえ……」
と呟いたあと、
「おい、適当な倉庫をいくつか買って来い。そこをタネズ様専用の解体場にする」
と部下に言ったことだった。倉庫をハコ買いとか規模がヤバい。そしてロイさんの決断力と彼の負う責任に、やっぱり会社勤めしなくてよかったと心から安堵していた。
で、隣でその切羽詰まったやりとりをのほほんと見ながら、彼の慇懃無礼だけど、どこか有無を言わせない口調に従って素材を置いていった。
死にたてホヤホヤのフレイムベアの死体十頭。
あとよくわかんないけどヤバそうな魔獣が百頭ちょい。この前の三百頭よりも数は少ないが、その分一体一体がデカい。規模で言うと今回のほうが上かもしれない。
解体場に全部出したときは、ちょっとした地震みたいのが発生して、職員たちが悲鳴をあげた。でもロイさんは慣れたのか、部下たちに発破をかけて指示を飛ばしていった。
最初は数人だったギルド職員はいつの間にか数十人規模まで膨れ上がり、ちょっとしたイベントみたいになってしまった。
悲鳴と怒号が入り混じる解体場にて、ロイさんはラフな口調で僕に提案する。
「タネズ様、もう商業ギルドに『特別口座』を作ったほうがいいと思いますわ」
かっちり来ていたギルドの制服はいつの間にか着崩され、ネクタイは緩み上着は脱がれ、シャツは腕まくりされている。全体的に不良っぽい。その姿の彼の、似合うこと似合うこと。
「特別口座?」
「はい。大口のお客様にのみ、商業ギルドが提供する口座っす。一般の商人に対して開く口座もありますが、特別口座はさらに大きな額を入れることができて、金利もいいっすよ。
特に今回のフレイムベアの素材なんかは、複数の組織と高位貴族のメンツが絡んでくるので、具体的に『この日に現金に出来ます』ってのが提示出来ないと思います。
だから特別口座を作ってもらって、お金が用意でき次第順次そこに振り込む、という形してもらえないですかね? その方がお互いに手間もないと思うので」
あー、ぶっちゃけ始めたロイさんの方が話早くていいや。
「分かった。じゃあそうしてくれる?」
「あざす。すんませんね」
「いえいえ。仕事増やしちゃってごめんよ」
「なあに。俺にもメリットある話ですから。この鉄火場乗り切ったら、ボーナスたんまり貰えますし、昇進にも繋がるんで」
疲労の色は濃いが、それ以上にやる気に満ち溢れている。ロイさんはまた二十代前半くらいだからな。体力気力ともに充実してるんだろう。回復も速いんだろうな。羨ましい話だ。
「ロイ課長すみません」
「ああ? どうした?」
とそこへ、明らかにロイさんより年上のおじさんギルド職員が近づいてきた。くたびれて頭がバーコード気味だ。ロイさんも余裕のタメ口で対応している。おっちゃんが才能ある年下の上司にペコペコするのななかなかキツい光景だが、ここはハイパー実力主義の商業ギルドだからな。しゃーない。
「アーサーギルドマスターがタネズ様をお呼びです」
「ギルマスが? 要件は?」
「ポーションの件、と言えば分かると。ブラタネリ商会の方々もご一緒されています」
あら。シルビアたちが? なんだ、こっちにいたのか。
「……そうか。分かった。タネズ様、申し訳ありませんがそちらまでご足労願えますか?」
「はーい。じゃあ、なんというか……素材の件お願いね。僕が言うのもあれだけど、無理しないでくれ」
「なあに、まだまだいけますよ。ここが無茶のしどころです。アルフィン副マスの背中はまだ遠いけど、いつか追いついてやりますよ」
ニッと不敵に笑うロイさん。商業ギルドはすげえなあ。野心あって有能な若者が後からポンポン出てくる。
というわけでお次はアーサーさんとの面会だ。ちなみに梨食いのリンタオ、クール怯えのランヤンの二人も付いてこようとしたけどロイに止められていた。『下手に首を突っ込むと物理的に首が飛ぶかもしれねえから止めとけ』と。ランヤンさんは蒼い顔で頷いて引き下がり、リンタオさんはちょっと残念そうにしていた。この人、度胸ありすぎだろ。どっかのネジが緩んでるよ。
ギルマスの部屋をノックして尋ねる。
「どうもー、タネズです」
ややあって、扉が開き中から優しげな美女が出迎えてくれた。
まるで頭頂部がすかすか♡なくたびれ系おじのような見た目だ。たぶん、苗字はジャックナイフさんだな。
「タネズ様お待ちしておりました」
「美女はどこ!?」
「美女、ですか? ああ、シルビア様たちならすでにいらっしゃいますよ」
ラークさんは首をかしげながら、僕を部屋に通す。
そこにはいつものように迫力が半端ない商業ギルドマスターのアーサーさんと、ブラタネリ商会三人娘がいた。シルビア、アルフィン、カリンだ。まあカリンは厳密に言うと商会所属ではないけど、同カウントていいだろう。一蓮托生だしね。
「あ、ケイ帰ってたんだ。おかえり」
「おかえりなさいませ、使徒様。ご尊顔を拝謁できてカリンは嬉しゅうございます」
「あぁ~っ! ボクという超絶可愛い奴隷をほったらかしにしてどっかいっちゃった、頭よわよわゴブリンフェイスのご主人さまだぁ! あ、いだっ」
三者三様の挨拶。アルフィンは強めにアーサーさんに頭をぶっ叩かれていた。
「タネズ様、お呼び立てして申し訳ございません」
「いえいえ。この程度のこと問題ありませんよ。ちょうど商業ギルドからの依頼を終わらせてきたところでしたから」
「その件ですが、申し訳ありませんでした。フレイムベアを欲しがる関係各所からの圧力が厳しく、躱しきれませんでした」
アーサーさんが大迫力の顔をムッと険しくさせる。おそらくだけど申し訳ない表情をしているんだろう。
「仕方ないですよ、商業ギルドにも立場があるのは分かっています。僕もある程度は覚悟してますから」
「……そう言って頂けると幸いです」
彼は腰を折ってピシッとお辞儀をした。
「それに先ほど依頼されたフレイムベアは納入し終わりましたので、特に問題ないですよ」
「ば、ばかな。早すぎる」
ラークさんが初めて連邦の白い悪魔でも見たかのような反応をした。
「……もう依頼を完了されたのですか?」
アーサーさんは『ゴゴゴ』と手をゲンド◯組みして、めちゃくちゃ怖い顔だ。
「はい。さっと行ってさっと帰ってきましたよ。依頼は早く終わらせるに限りますからね」
「……フッ。そうですか」
「ね、お義父。ボクの言った通りだったでしょ? ボクのご主人様は残念なゴブリン脳みその持ち主なんだけどめっぽう強いんだよ。あと、なんだかんだ約束は守るからね」
「まー心配はしていたけど、やっぱりケイはケイだったわね。なんか最近驚かなくなってきたわ」
「当たり前です。使徒様にかかればフレイムベアの一頭や二頭、大した問題ではありません」
それなりに苦労したんだけどね。リンカとエンテラシアの力が無いとまず無理だったし。シュレアのアシストがあればこそだよ。
「そういうことです、アーサーさん。あと今回は調子が良かったのでフレイムベアは十頭ほど無傷で確保してきたので、詳細はロイさんに聞いてください」
「ング」
……なんか野太い喉に物が詰まったような音がアーサーさんの方からしたんだけど、気の所為だよな? 姿勢は微動だにしていないし。
「じじじ、じゅっじゅっじゅっ……」
ラークさんはロイさんと似たような反応をした。顔面蒼白で、声を震わせている。普通の人なら見えないと思うが、その震えによって頭頂部から毛がパラパラと数本落ちた。
「いや十頭って、ケイ……」
「ご主人様って国でも滅ぼしたいの?」
シルビアとアルフィンはバケモンでも見るかのような視線で、ドン引きしている。
なんでだよ! ほとんどエンテラシアたちがやったけど、僕もがんばったんだぞ!
「皆さん、何ですかその反応は。使徒様が手柄を立てられたんですよ。もっと褒めたたえ、崇め奉るべきです。
ああ、使徒ケイ様。さすがはジオス教徒を導く御方。強く美しく、神聖であらせられます。カリンはいつでも貴方様の味方ですよ」
「うおおおおっ、カリン~っ!」
カリンだけが手放しで褒めてくれた。抱きつくと豊満なるママ双丘がふにょん。まさに聖母の如き母性だ。包容力が半端ない。ママみがすごい。バブみでオギャりたい。
「そ、そうね……確かに今のはよくなかったかも。ごめんね、ケイ。偉い偉い」
「ボクという超絶可憐な奴隷を飼わせてあげてるんだから、これくらいはね。まーご主人様が強い分には安心できるからいっか。褒めてあげるよ。よしよし」
するとラークさんがギョッとした表情で、アルフィンを見た。なんというか……僕が初めてキョンを見た時のリアクションに似ている。
「……ラーク? その顔はなに?」
「い、いや副マス……いえアルフィンさん。貴女がそんな笑顔で人の頭を撫でる光景を、見れる日が来るとは思わなくて」
「は? 失礼だね。君の頭頂部もタワシでこすってあげようか?」
「非人道的な行いはやめてください」
アルフィン……なんて恐ろしい子。
ラークさんの非武装地帯をさらに広げる気か。そんなことしたら戦争ですよ。
「…………フッ」
あれ、ギルマス笑ってる? ゲンド◯組みしてるから口元が見えないんだよね。
「タネズ様、アルフィンはどうやら貴方様を大層気に入っているようです」
「ちょっ、ちょーっと、お義父様!?」
「この子は他人の話など、ましてやその場所にいない、同年代の男なんて一切したことがありません。他人に興味がないのです。
しかし最近のアルフィンは何かに付けて貴方の話題を出し、嘲笑し罵倒しては愉快そうにケタケタとはしゃいでいます。男っぽい話し方もなりを潜め、まるで近所の兄貴分に甘える娘っ子です。こんなこと、今までありませんでした」
アーサーさんの気配が厳格なギルマスのそれではなく、一瞬だけ娘を思う父親のような柔らかさを帯びた。
「……くっ、くそっ! なんだよ、こっち見るなよ!」
アルフィンは珍しく顔を赤くして、僕の方をチラチラ見ている。見てんのはおめーじゃねえか。
「おめー、ご主人様の陰口どんだけ叩いてんだよ!」
「うっさいな! いいだろ、別に! やーいやーい、低能前髪脳みそすかすかご主人様~ゴブリンヘッド~! 悔しかったら頭良くなってみろ~っ!」
「こ、このメスガキがぁ~~っ!
言っていいことと悪いことがあるだろ! 親の顔が見てみたいわ!」
「申し訳ございません、タネズ様」
「あっ、うっす、ぃっす……」
勢いで親の前で親の顔が見てみたい発言しちまった。うわっ、これこんなに気まずい空気になるのか。
「アルフィン、その辺にしておけ。お前はタネズ様のご厚意で生かされ、飼われている身だ。これ以上の無礼は許さん」
「わ、分かってるよ……別にボクだって、誰にだってこういう態度とる訳じゃないんだよ。ごめんなさい、ご主人様」
ぺこり、と謝るアルフィン。なんだよ、やればできるじゃん。
「まあ……別に僕もそんなに怒ってる訳じゃないよ」
「え? ほんと? なぁんだ~謝って損した。じゃあ今後とも超絶可憐なボクのこと、きっちり飼って養ってね?」
アルフィンはけらけらと笑って、悪そうな顔で僕の腕をその細い身体で包みこんだ。ちっぱいのくせに、あったかくてムニュってしてやがる。タネズ棒が反応しちゃうだろうが。
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そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
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( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
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