絶死の森で絶滅寸前の人外お姉さんと自由な異世界繁殖生活 転移後は自分のために生きるよ~【R18版】

萩原繁殖

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ep265 ルプネン・サムエルド

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「お待ちしておりました、タネズ様」

 いつものマダムジャンゴの慇懃な挨拶から始まる。今日も横にはマッチョの奴隷が控えていて、ジャンゴさんはそのケツを揉んでいる。

「どうも。例の奴隷が入荷したって聞いてね」

「はい。鮮度は悪いですが、その分性能スペックは保証できますよ。とはいえほぼゴミのようなものなので、使えなくなったら廃棄処分してくださって結構です。代わりの奴隷なぞいくらでもいますからな」

 クックック、と極悪人スマイル。

 とんでもねえ発言だ。そのあけすけな言い方に隣のセラミナも顔色を悪くしている。元奴隷の前でそういう事言うなよ。

「……」

 するとジャンゴさんが意味ありげにウィンクした。キモい。キモいけど、察した。そういうことか。

「ジャンゴさん、貴方にはお世話になっているがうちの大切な奴隷の前でそういう言い方は控えてくれ。とても不快だ」

「こ、これは、大変失礼しました。お、お許しを!」

 ジャンゴさんは、その場にひざまずいて頭を床に着けた。隣のマッチョ奴隷もだ。

「頭を上げてくれ、次から気をつけて欲しいな」

「タネズ様の寛大なお心遣いに感謝いたします!」

 彼は大仰に手を合わせ何度も頭を下げる。

「ご主人さま……」

 その様子をセラミナは目を潤ませて見ていた。僕の背中に顔を当てて、後ろから手を回してくる。

「ありがとうございます……」

 その頭を何も言わず撫でポンして一件落着。

 そしてセラミナが見えない角度でジャンゴさんがわっるぅい笑顔でニヤリ。なんというマッチポンプ。

 この人サイコパスなんだけどめちゃくちゃ気遣い上手くて戸惑うわ。アフターサービスがすごい。自分を悪者にしてまでやってくれるんだからね。自分がどんな風に見られていて、どんな立ち回りをすればいいのか理解している。おかげで僕の彼に対する信頼はギンヌンガカープ上りだ。

 さて、と彼は仕切り直す。

「最近私が処分寸前の奴隷を買い漁っているという噂が広まり、良い性能の奴隷が集まっております。今回の奴隷もその流れで購入したものです」

「確かクーシャルバーニア帝国の迷宮で活躍していたD級冒険者だよね?」

「左様でございます。オブシディアン迷宮にて、解呪が非常に困難な呪いを受けております。妻は夫を治してくれるなら夜伽も含めなんでもすると。さらに条件を付け足して、子を産んでもいいと言っておりますな。人権破棄契約にもサイン済みです。まあいくらD級でも、それくらいで死にかけた冒険者を治癒する物好きはいません。費用対効果が悪すぎます。一般的には、ですが」

 人権破棄契約て……。そんな非人道的なやつをサラッと言わないでくれよ。でもそれだけ買い手がつかないから切羽詰まってるのか。実際厳しい状況だよね。

「わかった。その奴隷たちと話せる?」

「妻はなんとか話せます。夫はほぼ完全に結晶化しているので不可能です」

 ファッ!?

「え、それ死んでるんじゃないの?」

 完全結晶化《パーフェクトクリスタリゼーション》って書くとめっちゃカッコいいけど、石化みたいなもんでしょそれ。

「普通なら死んでいますが、生きております。生死を確認する魔道具を用いて確認しました。また妻が魔法使いでして、活性リゲインの魔法と抗呪《アンチカース》の魔法を併用し、穢移しインピュアシフトの魔法を使うことで、夫の体力を回復させつつ自身に呪いを一部移すことで進行を遅らせている、とから説明がありました。もちろん夫本人の生命力の強さもありますが」

 ぬおっ、奥さん魔法使いなのか。いきなり来たな。
 それはますます興味が湧く。
 僕が使える魔法って、亜人魔法だけだから普通の魔法がどんなのか気になるよ。

「抗呪の魔法とか穢移しって高度な魔法なの?」

「まず魔法自体が大変高度な技術です、というのは置いておきましょう。そうですね。私はそこまで魔法に詳しくはないのですが、状態異常や能力低下の魔法というのは攻性魔法よりもはるかに習得難易度が高いと聞きます。この三種類を使いこなしている彼女は、かなりの腕利きと言って間違いないでしょう」

 断言するジャンゴさん。
 よし、そうと来ればさっさと行動だ。

「ご主人さま……その、奴隷のお二人は治るんでしょうか?」

 セラミナが心配そうに僕を見つめてくる。真っ先に見ず知らずの他人のことを心配できる彼女は、とてもいい子だ。

「なあに、心配いらないよ」

 むしろ僕はこっちの方が得意だからね。素人体捌きでへなちょこ大立ち回りするよりも。

 ていうかこれだって別に浄火を起動するだけだから、僕がすごいわけじゃない。ジオス神さまさまだ。僕はなんか、たまたまそこに居合わせた平均以下一般男性に過ぎない。

 ここまでたどり着いて耐え抜いたその夫婦たちの忍耐力と運がすごい、ということだ。



 僕たちはジャンゴさんに連れられ、その夫婦がいる部屋に案内される。

「この部屋?」

「そうです。これから扉を開けますが、ややショッキングな光景かもしれませんのでお気をつけくださいませ」

 これはセラミナ向けの言葉だな。彼女はぐっと拳を握って、僕に向かって頷いた。

 ぎぃ、とジャンゴさんによって扉が開かれる。

 まず鼻腔を何とも形容しがたい匂いが駆け抜けた。湿った土や石に肉がこびりついたかのような……。

 部屋自体は思ったよりもちゃんとしていた。
 地方のビジネスホテルくらいの清潔度な気がする。そこそこきれいなベッドがあって、机がある。

 ただしその夫婦はベッドを使っていなかった。

「ひっ!」

「こりゃあ……また……」

 セラミナが反射的に目を背け、僕は息を呑んで凝視する。

 部屋の中にいたのは、いや、 のは一体の結晶化した彫像と、半ば結晶化しかかった人だった。

「……あんたが、ごしゅ……さま?」

 奥さんと思しき異形の半彫像が言った。

「……いちおうその予定だよ」

 僕は冷静に返事をする。

 近付いてよく見ると、黒曜石のように黒く光沢を放つ結晶が、夫婦の肉体をむしばんでいるのが分かった。
 夫のほうはすでに完全に結晶化し、まるで不気味な彫像のようにベッド脇に横たわっていた。けれど、口元だけはかろうじて穴が開いており、そこから細く荒い呼吸が漏れている。
 それが、まだ生きているという唯一の証だった。

「ひゅぅ……ひゅぅ……」

 耳を澄ませば、苦しげな音が絶え間なく続く。

 妻のほうは、その隣で半身を黒い結晶に蝕まれ、動かせる右手で必死に結晶化した夫の腕を握っていた。豹柄の耳は無残に結晶に呑まれ、髪も皮膚ごと大部分が剥げ落ちている。顔の右半分と右目だけがまだ人として残っていた。

「……ほんとに……来てくれたんだ……あーしたちを……買ってくれる人……アハ……奇跡じゃん……」

 声はかすれ、かろうじて笑みを作ろうとするが、それも結晶に引き攣られていた。ペリペリと皮膚と黒曜石が剥がれて床に落ちる。

「……あーし、もう……半分以上、ほとんど石になっちまったけど……それでも……まだ生きたいんだ……」

 右目に涙を溜めながら、彼女は夫の腕を擦る。その指先も、じわじわと黒い結晶に侵されつつあるのが見えた。

「……なんでもするよ……あーしらを……助けて……ください……」

 その問いは震え、必死の希望と絶望の狭間にぶら下がっていた。

 ……とても悲壮な光景なんだけど、一人称が気になって仕方ない。もしかしてギャルなのか? この世界にギャルがいたのか? そう言えばまだ見たことない。肌も褐色だ。

 が、一旦スルーしよう。

「では奴隷の紹介に移ります」

 そんな懇願をバッサリ切り捨て、マイペースに司会進行するジャンゴさん。あまりにも居た堪れないので、早く浄火してあげたい。

「奥で結晶化しているのが夫のロッコ・サムエルド。今話していたのが妻のルプネン・サムエルドです。二人ともクーシャルバーニア帝国マルゾン子爵領ネテッリ村の出身で、夫のロッコはネテッリ村長の三男であるそうです」

 淡々とプロフ紹介していく間にも、二人は辛そうにしている。特にルプネンさんは半端に結晶化しているせいで、皮膚が剥がれかかっていたり、禿げちゃってるところもあってなかなか惨い状態だ。よく見ると瞳を濁っているし、失明しかかっているのかもしれない。

「彼らはオブシディアン迷宮にてD級冒険者パーティ「黒手帳ブラックアルバム」の一員として名を馳せていました。夫は槍使いで、妻は魔法使いです。夫は犬人族、妻は豹人族の獣人で双方人当たりはよく、特に夫は常に快活な笑みを絶やさない好青年だったようです。簡単な紹介としては以上になります」

 笑みを絶やさない好青年の犬系獣人……。サモエドかな?
 奥さんはやっぱ豹系なのか。耳にわずかに残った毛並みが豹柄だったし。
 どっちも初めて会うタイプの獣人だな。

 人当たりも良くて、能力もある。奥さんは豹系人妻と来たら、ぜひともお買い求めたい。それにめちゃくちゃ苦しそうだし、早く楽にしてあげたい。

 でも、いちおうもう少し突っ込んで訊いておかないとな。

「ありがとうジャンゴさん。他に特筆すべき点は無い? 例えば……村を出ることになった理由とか」

 そう言うと、ルプネンの表情がピクリと少し強張った。

「はい。夫のロッコがたいへん自由で奔放な性格だったこともあり、三男として将来が決まり切った生活に嫌気が差して、幼馴染のルプネンを連れて冒険者になったとは聞いています。……ただ、ルプネンの方についてですが」

 ルプネンの息が荒い。明らかに動揺している。

 おいおい、なんかやばいことしたのか?

 ジャンゴさんは冷徹な声色で話す。

「どうやら呪術的な儀式に傾倒したようでして。身体に奇妙な奇怪な模様を入れたり、爪を長く生やして色を付けたり、身体に穴を開けてリングを通したり、奇抜な格好をしたりと村人に疎まれていたようです。呪術道具なども作っていたようですな」

 ルプネンさんは項垂れ、絶望の表情で聞いている。

「あ、あぁ……そうなんだ」

 そう聞くとなんかやばいけど、それって……シンプルにファッションなんじゃないか?

 しかもギャル系の。ここまでギャルな要素が揃ってるからな。ただ、容姿が確認できないので何とも言えないが。

 呪術道具ってのも、ただ小物作ってただけじゃないの? リングもピアスの類なんじゃ。

「呪術なんかじゃない……あーしは……自分のいいと思えること……やってただけだ……母さんしか分かってくれなかった……」

 彼女は怒りやら悔しさやら、いろんな感情の詰まった声を絞り出す。

 まあ村って保守的なところありそうだし、そもそも帝国自体がそういう自由な表現を許容する風土が無さそうだ。広い国土と幅広い人種を維持するためには仕方ないのかもしれないけど。

 そう考えるとソルレオン王国はまだマシな気がする。息苦しさとかないし。本だって高いけど一般人が買える。国王は意外と開明的な人なのかもな。

 彼女は独自のファッションを切り開いただけであって、疎まれるのはさすがに可哀想だね。

「あーしは……あーしは……自由に生きたかっただけだ……それだけなんだ……」

 ルプネンさんは慟哭し、さめざめと涙を流す。もうそれ以上何も言わない。自身の天命を悟ったようだ。落ちた涙が『シャリン……』と綺麗な音を立てて結晶化した。

「タネズ様、ご質問等はありますか?」

「うん、いくつかあるよ。ねえ、ルプネンさん。貴女って金髪?」

「……え? う、うん。金髪だ、です。今は禿げちゃってるけど……」

 そんなこと聞かれると思わなかったようで、滲む涙はそのままにきょとんとこちらを見る。

「ふむふむ。呪術道具作ってたって聞いたけど、どんなもの作ってたの?」

「じ、呪術道具なんかじゃない……! あ、あーしは……豹柄が好きだから……豹柄の財布とか……小物入れとか……イケてるアンクルを作ってたよ」

「なるほどね。身体に穴開けてたって言ってたけど、どこに開けてたの?」

「耳とか、唇とか……。ほんとは、鼻とかヘソにも開けたかったんだけど……」

「二人きりの時、旦那さんのことなんて呼んでる?」

「……『だぁ』だけど……」

「もし彼氏がいたらなんて呼ぶ?」

「うーん……『かれぴ』かな……」

 うん、ギャルだ。
 もしくはギャルの魂を持って生まれた女の子だ。限りなく透明に近いギャルだ。

「アハ……あんた、酷い人だね……どうせ買わないんでしょ……? 買わないくせに、変な質問ばかりして……あーしたちの、尊厳を、いたぶって……たのしいの?」

 おっといかん。ルプネンさん、さすがにBADに入ってる。そんなつもりはなかったんだけど。早く安心させてあげよう。

「ジャンゴさん」

「はい」

「買います」

「毎度ありがとうございます」

 え? と小さな驚き声が上がった次の瞬間、サムエルド夫妻の結晶化した身体を、浄火の炎が包みこんだ。
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