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この店で一番頑丈な
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「誤解です。僕はアセンブラ教徒ではありませんし、どちらかと言えばジオス教徒の味方です」
「へっ、口だけならいくらでも言える。用心深いカリン嬢ちゃんが、ここを人に教えるとは思えねえ」
うう……話せば話すほど僕の立場が悪くなっていく。カリンさん、舞い上がって忘れてたんでしょ。そうとしか思えないよ。
「分かりました。では証拠をお見せすればいいんですね?」
「変な真似したら叩き斬るからな」
かちゃり、と両手剣を威嚇するように鳴らす。半身になって、見えないもう片方の手には何か隠し持ってそうだし、ガチで殺る気だよ。娘さんもさりげなく僕の死角に入ってるし、どんな親子だ。獣人って戦闘民族なのか?
「問題ありません。ではお見せしますね。
『プテュエラ、頼むよ。姿を見せてあげて。美味しい肉料理ご馳走するからさ』」
『止めはすまい』
ありがとう、プテュエラ。君の食欲に、先輩。
「召喚」
鍛冶屋の中に一陣の風が吹き抜け、プテュエラが姿を現す。キリッとしていて神々しい表情だ。いつもたくさんの肉を頬張って、口からはみ出させながら、もっちゃもっちゃ食べている姿からは想像できない。
「な、なんだぁ?」
「お父さん!」
熊耳娘ちゃんとゴドーさんが怯えたように寄り添う。
「我が契約者の求めに応じ……」
「わー! それはいいから」
じろっと僕を見て不服そうなプテュエラ。それマジで止めてくれよ。向こうには聞こえてないとしても、心がガリガリ削られるんだよ……。
「まさかその方は……亜人様か?」
お、分かるんだ。なんでだろう。
「あ、分かるんですね。よかった。そうですよ、彼女は亜人のプテュエラです。僕と契約して何かと助けてくれています」
「……その神々しい気配と姿を見れば分かる。すまねえ、俺の早とちりだ。許してくれとは言わねえ。ただ、ファイナは助けてやってくれねえか。それ以外なら全てあんたにやる。俺の命もだ」
「お、お父さんは悪くありません!」
土下座しようとする父と泣いて止める娘。
はあ、何だか似たようなやり取りをして、申し訳無いけど少し疲れるな……。今日はこの一件が終わったらゆっくり休もう。そう決めた。
「いいんですよ。気にしてません。それよりも、こちらの紹介状を見て頂けませんか?」
…………
……
しばらく、土下座し続けるゴドーさんを説得してやっと話を聞いてもらえるようになった。熊娘のファイナちゃんも謝ってくれた。不可抗力とは言え、怖い目にあったのに。優しくて良くできた子だ。
「……なるほどな、亜人様の防具を作って欲しいってことか」
ちなみにゴドーさんの口調もそのままでいいと伝えてある。無理矢理敬語を話そうとしてめちゃくちゃ変な話し方になったんだもん。
「そうです。できますか?」
「亜人様の防具を作ったことはねえが、理論的にはいけるはずだ。防具というより、その姿を隠す、魔力の放出を抑えるという方向でいけばそこまで難しくはない」
やっぱり亜人の魔力って分かる人には分かるんだね。僕には全然分からないけど。姿を隠しても魔力を抑えないと駄目か。でも、逆に言えばそこさえクリアできればいいのね。よし、光明が見えてきたぞ。
「ただ、魔力の放出を抑える素材は高価だ。ありていに言えば、金がかかるな」
あっ。
「……あんた、ケイと言ったか? 金がなきゃ流石に作れねえぞ」
熊フェイスをしかめる。凶悪な顔だけどただ困っているだけなのかもしれない。熊ったな。
……仕方ない。本当は商会に卸そうと思っていたのだけれど現物を卸すか。
「ゴドーさん。すみません、お金はないんですけどもしかしたら価値のありそうな素材があるんです。見て頂けますか?」
「俺は鑑定士じゃねえから、詳しくは分からんが。まあ大抵の素材なら分かる。見せてみな」
やっぱ、こういうのはプロに見せるべきだよね。
魔法の鞄から愛すべき先輩の毛皮を取り出した。
フレイムベア先輩、デイライトに立つ!
「……ケイ、これは何の毛皮だ?」
ゴドーさん、顔が青ざめてる? 熊だからよく分からないんだけど。
「フレイムベアです」
ドヤァ。
これはベアではない。フレイムベアだ。本当なら逆だけど。
「早くそれをしまえ。店が燃えちまう!」
ゴドーさんがあわあわしだす。こうやってみるとちょっとかわいいな。口調はおっさんだけど。
「燃えませんよ? ほら」
ばっさばっさ。
毛皮を布団みたいにはためかせる。
フレイムベア自体は燃えてたけど、今はこの通り問題ないよ。問題ないよね?
「やめろ! 店を潰す気か!」
「ねえ、お父さん、大丈夫みたいだ……よ?」
大丈夫だよね? と上目遣いで熊娘ファイナちゃんが見てくる。これは将来男がほっとかないだろうな。
「なに? ……本当だ。フレイムベアの毛皮なのに触っても焼かれねえ。どうなってんだ?」
「そう言われましても。むしろ普通のフレイムベアは違うんですか?」
ここまで反応が違うと、フレイムベアにも色々いるのかもしれないね。どういうことだろう。
「普通のフレイムベアなんている訳ねえだろ。フレイムベアはフレイムベア。一体出没したら都市が非常事態宣言を出す、災害級の化け物よ。お前さん、これをどこで手に入れた?
俺も見るのは初めてだが、フレイムベアは死ぬ時に周りを焼き尽くし、その骸も燃え続けるって聞いたぞ」
うーん、それはおかしい。ベステルタん家には普通に飾られていたし。デマじゃないかな。まあ、数出回らないならそういう話が広がるのも仕方ないのかな?
『プテュエラ、フレイムベアって死んでも燃えたままなの?』
『そんなことはないはずだが』
プテュエラは不思議そうに首をかしげている。
だよねえ。
もしかして亜人は一撃で倒すからフレイムベアが、焼き尽くす準備? みたいのもさせないとか? それなら納得できるけど。
「本当にフレイムベアなのか?」
疑いの目で見てくる。
うーん、そう言われると自信がない。それなら実物を見てもらおう。確かベステルタが戯れに首だけ落としたフレイムベアがあったはずだ。頭だけでいいよね?
「確かにそうですね。なら実物をお見せします。それで判断してください」
「実物って……うおっ!」
「ひぃっ」
ドン! と毛皮の上にフレイムベアの生首を置いた。こうやってみると相変わらずでかいな。これだけで僕の上半身くらいの大きさがあるように見える。
「しまっ、早くそれをしまえっ」
「ひっ、ひっ」
親子がまた震えて固まってしまった。ファイナちゃんが息をひきつらせて可愛そうなので魔法の鞄にしまった。
「どうです? フレイムベアでしたか?」
「ふざけんな! おっかないもん出すんじゃねえ!」
熊顔をくわっとしかめて怒鳴る。
めちゃくちゃ怒られてしまった。ファイナちゃんはまだ腰が抜けているようだし、申し訳無いことをした。
「すみません、実物を見てもらわないと駄目かなと思いまして……」
「あんなでっかいベア系の魔獣なんてフレイムベアしかいねえよ。いやまあ、疑ったのは俺だけどよ。もう少し心の準備をさせて欲しいぜ」
少しは信じてくれたみたいだ。
ぼやきつつ毛皮を手に取り眺めるゴドーさん。プロっぽい目だ。
「……確かに冷静になってみりゃ、凄まじい毛皮だ。毛の一本一本に膨大な魔力が宿ってやがる。触り心地もいいし、驚くほど軽い。見ろファイナ、ナイフで切ろうとしても傷一つつかねえぞ」
「あっ、本当だ。すごいね!」
「そうだな」
無邪気なファイナちゃんに、顔を綻ばせる熊おっさん。これは将来、ファイナちゃんの婿は死を覚悟しなきゃいけないだろうな。
「どうですか。こちらの品で代わりになりませんか?」
「……これだけの一品見せてもらって悪いんだが、価値が高すぎる。というか価値が分からん。この店売り払ってもこの毛皮一枚買えるか分からねえし、卸すにしても個人の手には余る。どこかのギルドか大商会クラスじゃなきゃ無理だ。
こう言うのも変だが、もう少し価値が低い素材はねえのか?」
すまなそうにするゴドーさん。フレイムベアやっぱ半端ない価値だった。流石に店売れば買えるとは思うけど、出回ってないから値段付けようがないんだね。先輩半端ない。
「なら、ダイオーク、マスキュラス、ダークエイプの素材ならありますよ」
そう言うとゴドーさんは見るからに機嫌がよくなった。
「ダイオークとマスキュラスか。ありがてえ。こいつらは良い素材になる。需要に供給が全く追い付いていないじょうたいだからな。ダイオークは肉も旨いらしいからな」
なん……だと……。
「ダークエイプは……正直手に余るがフレイムベアよりはましだ。どれ、見せてみろ」
『なんだ? どうかしたのか?』
プテュエラの肉センサーが働いたみたいだ。すごい精度。
『何でもないよ。もうちょっと待っててね』
『ああ、でも腹が減ってきたから手短に頼むぞ』
ばさばさ、と翼をはためかせる。あーあ、羽が落ちちゃうよ。それを拾い上げようとする。
「ちょっと待て。その、亜人様の羽、それも卸してくれねえか?」
あ、そうだ。亜人素材。それもあったんだ。
「もちろん構わないですよ。これ素材になるんですか?」
「いや、分からんがジオス教徒として……な」
「ファイナちゃん欲しい?」
「わ、わたしですか? ……はい、欲しいです。亜人様の御体を傍に感じられるのはジオス教徒として、この上ない喜びですから」
「そうかいそうかい」
「何でファイナに訊くんだよ」
今僕、気持ち悪い顔しているんだろうなあ。近所の子供に飴玉あげるおっさんの気分だ。
「なら、他にも素材卸しておきますね。有効に使って下さい」
「おい、まだあるのかよ……ってなんじゃこりゃ。この爪みたいなやつ、魔法剣か? こっちの枝みたいのは魔法の杖じゃねえか。素材じゃねえのかよ?」
素材だよ。
亜人がひょいってくれたやつだよ。
そろそろプテュエラの腹も限界そうだ。僕も正直お腹空いたし。まとめに入ろう。
「じゃあ、これらの素材で防具作ってくれますか? あとお金がいくらか欲しいです」
「おう、ダイオーク級なら問題ねえ。金貨十枚でどうだ?」
なんかすごそうだけど価値が分からない。
「すみません、田舎から出てきたので金貨がどれくらいの価値か教えて欲しいのですが」
絶死の森っていう超田舎からね!
「どんな田舎から来たんだお前さんは……」
「うへへ、すみません」
『ケイは何でたまに気持ち悪い笑顔になるんだ?』
プテュエラが不思議そうに言う傍らで、ゴドーさんが教えてくれた。
以下が貨幣の種類と、僕が類推した貨幣一枚辺りの日本円にした場合の価値だ。ちなみにお金の単位は「ソルン」と言うらしい。ソルン=円として考えれば分かりやすそうだ。
朱金貨 一億ソルン
黒金貨 一千万ソルン
白金貨 百万ソルン
金貨 十万ソルン
銀貨 一万ソルン
大銅貨 千ソルン 銅貨 百ソルン 石貨 十ソルン
金貨一枚で頑張れば家賃込みで一ヶ月暮らせて、あとは上にいけばおおよそ十倍、下にいけばおおよそ十分の一って感じらしい。
つまりゴドーさんが提示した額は金貨十枚=百万ソルンだから、日本円に換算すると百万円。
ひゃくまんえん……。
ひゃくまんえん……!? あれだけの苦労で?
「すまん、納得はできねえだろうが今はこれで勘弁してくれ。うちもあまり裕福じゃなえんだ」
頭を下げるゴドーさん。
ひゃくまんえん、ポンって出せるのに? あー、でも確かに鍛冶屋ってお金かかりそうだもんな。自転車操業なのかもしれない。
「いいんですよ。僕も即金が欲しかったですし。防具の依頼は受けてもらったということでいいですよね?」
「ああ、もちろんだ。防具の代金引いての値段だ。ファイナ、金持ってこい。ケイはダイオーク出してくれるか?」
ファイナちゃんがとてとて奥に走っていった。かわいいなあ。
さて、ダイオークどれくらい出せばいいんだ? 魔法の鞄には群れ単位で素材が入っているし、十頭分の頭出しておくか。
どどどどどん。
「これで足りますか?」
「……ケイ、俺は一体で金貨十枚って言ったんだよ。どれだけ狩ったんだお前。こんなに受け取れねえよ」
呆れたように僕を見るゴドーさん。心がキャパオーバーで少し冷静になっている気がする。
「うーん、でも鞄の中に腐るほどあるんですよ。それなら投資ということにして下さい。僕も秘密を守れる鍛冶屋さんがいると何かと便利なので」
「……わかった。そういうことにしておこう。もうよく分からなくなってきたわ。だがそれじゃ俺も納得がいかねえ。お前の防具もこしらえてやる。寸法は亜人様と一緒に今ここで計っていくか?」
これ以上引き伸ばしたらプテュエラにマジ切れされそうだから遠慮しておこう。
「いえ、お腹空いたので後日にします。明日でいいですか?」
「ああ、問題ねえぜ。それと丸腰だと不安だろ。武器を一つ何でも貸してやるから持っていきな。使い潰してもいいぜ」
それはもうくれるってことなのでは?
有り難く選ばせてもらおう。
ふふ、でも、実はもう決まっている。もし僕に力があって金もあるならこれっていう武器がね。
「この店で一番頑丈な戦斧を下さい!」
「へっ、口だけならいくらでも言える。用心深いカリン嬢ちゃんが、ここを人に教えるとは思えねえ」
うう……話せば話すほど僕の立場が悪くなっていく。カリンさん、舞い上がって忘れてたんでしょ。そうとしか思えないよ。
「分かりました。では証拠をお見せすればいいんですね?」
「変な真似したら叩き斬るからな」
かちゃり、と両手剣を威嚇するように鳴らす。半身になって、見えないもう片方の手には何か隠し持ってそうだし、ガチで殺る気だよ。娘さんもさりげなく僕の死角に入ってるし、どんな親子だ。獣人って戦闘民族なのか?
「問題ありません。ではお見せしますね。
『プテュエラ、頼むよ。姿を見せてあげて。美味しい肉料理ご馳走するからさ』」
『止めはすまい』
ありがとう、プテュエラ。君の食欲に、先輩。
「召喚」
鍛冶屋の中に一陣の風が吹き抜け、プテュエラが姿を現す。キリッとしていて神々しい表情だ。いつもたくさんの肉を頬張って、口からはみ出させながら、もっちゃもっちゃ食べている姿からは想像できない。
「な、なんだぁ?」
「お父さん!」
熊耳娘ちゃんとゴドーさんが怯えたように寄り添う。
「我が契約者の求めに応じ……」
「わー! それはいいから」
じろっと僕を見て不服そうなプテュエラ。それマジで止めてくれよ。向こうには聞こえてないとしても、心がガリガリ削られるんだよ……。
「まさかその方は……亜人様か?」
お、分かるんだ。なんでだろう。
「あ、分かるんですね。よかった。そうですよ、彼女は亜人のプテュエラです。僕と契約して何かと助けてくれています」
「……その神々しい気配と姿を見れば分かる。すまねえ、俺の早とちりだ。許してくれとは言わねえ。ただ、ファイナは助けてやってくれねえか。それ以外なら全てあんたにやる。俺の命もだ」
「お、お父さんは悪くありません!」
土下座しようとする父と泣いて止める娘。
はあ、何だか似たようなやり取りをして、申し訳無いけど少し疲れるな……。今日はこの一件が終わったらゆっくり休もう。そう決めた。
「いいんですよ。気にしてません。それよりも、こちらの紹介状を見て頂けませんか?」
…………
……
しばらく、土下座し続けるゴドーさんを説得してやっと話を聞いてもらえるようになった。熊娘のファイナちゃんも謝ってくれた。不可抗力とは言え、怖い目にあったのに。優しくて良くできた子だ。
「……なるほどな、亜人様の防具を作って欲しいってことか」
ちなみにゴドーさんの口調もそのままでいいと伝えてある。無理矢理敬語を話そうとしてめちゃくちゃ変な話し方になったんだもん。
「そうです。できますか?」
「亜人様の防具を作ったことはねえが、理論的にはいけるはずだ。防具というより、その姿を隠す、魔力の放出を抑えるという方向でいけばそこまで難しくはない」
やっぱり亜人の魔力って分かる人には分かるんだね。僕には全然分からないけど。姿を隠しても魔力を抑えないと駄目か。でも、逆に言えばそこさえクリアできればいいのね。よし、光明が見えてきたぞ。
「ただ、魔力の放出を抑える素材は高価だ。ありていに言えば、金がかかるな」
あっ。
「……あんた、ケイと言ったか? 金がなきゃ流石に作れねえぞ」
熊フェイスをしかめる。凶悪な顔だけどただ困っているだけなのかもしれない。熊ったな。
……仕方ない。本当は商会に卸そうと思っていたのだけれど現物を卸すか。
「ゴドーさん。すみません、お金はないんですけどもしかしたら価値のありそうな素材があるんです。見て頂けますか?」
「俺は鑑定士じゃねえから、詳しくは分からんが。まあ大抵の素材なら分かる。見せてみな」
やっぱ、こういうのはプロに見せるべきだよね。
魔法の鞄から愛すべき先輩の毛皮を取り出した。
フレイムベア先輩、デイライトに立つ!
「……ケイ、これは何の毛皮だ?」
ゴドーさん、顔が青ざめてる? 熊だからよく分からないんだけど。
「フレイムベアです」
ドヤァ。
これはベアではない。フレイムベアだ。本当なら逆だけど。
「早くそれをしまえ。店が燃えちまう!」
ゴドーさんがあわあわしだす。こうやってみるとちょっとかわいいな。口調はおっさんだけど。
「燃えませんよ? ほら」
ばっさばっさ。
毛皮を布団みたいにはためかせる。
フレイムベア自体は燃えてたけど、今はこの通り問題ないよ。問題ないよね?
「やめろ! 店を潰す気か!」
「ねえ、お父さん、大丈夫みたいだ……よ?」
大丈夫だよね? と上目遣いで熊娘ファイナちゃんが見てくる。これは将来男がほっとかないだろうな。
「なに? ……本当だ。フレイムベアの毛皮なのに触っても焼かれねえ。どうなってんだ?」
「そう言われましても。むしろ普通のフレイムベアは違うんですか?」
ここまで反応が違うと、フレイムベアにも色々いるのかもしれないね。どういうことだろう。
「普通のフレイムベアなんている訳ねえだろ。フレイムベアはフレイムベア。一体出没したら都市が非常事態宣言を出す、災害級の化け物よ。お前さん、これをどこで手に入れた?
俺も見るのは初めてだが、フレイムベアは死ぬ時に周りを焼き尽くし、その骸も燃え続けるって聞いたぞ」
うーん、それはおかしい。ベステルタん家には普通に飾られていたし。デマじゃないかな。まあ、数出回らないならそういう話が広がるのも仕方ないのかな?
『プテュエラ、フレイムベアって死んでも燃えたままなの?』
『そんなことはないはずだが』
プテュエラは不思議そうに首をかしげている。
だよねえ。
もしかして亜人は一撃で倒すからフレイムベアが、焼き尽くす準備? みたいのもさせないとか? それなら納得できるけど。
「本当にフレイムベアなのか?」
疑いの目で見てくる。
うーん、そう言われると自信がない。それなら実物を見てもらおう。確かベステルタが戯れに首だけ落としたフレイムベアがあったはずだ。頭だけでいいよね?
「確かにそうですね。なら実物をお見せします。それで判断してください」
「実物って……うおっ!」
「ひぃっ」
ドン! と毛皮の上にフレイムベアの生首を置いた。こうやってみると相変わらずでかいな。これだけで僕の上半身くらいの大きさがあるように見える。
「しまっ、早くそれをしまえっ」
「ひっ、ひっ」
親子がまた震えて固まってしまった。ファイナちゃんが息をひきつらせて可愛そうなので魔法の鞄にしまった。
「どうです? フレイムベアでしたか?」
「ふざけんな! おっかないもん出すんじゃねえ!」
熊顔をくわっとしかめて怒鳴る。
めちゃくちゃ怒られてしまった。ファイナちゃんはまだ腰が抜けているようだし、申し訳無いことをした。
「すみません、実物を見てもらわないと駄目かなと思いまして……」
「あんなでっかいベア系の魔獣なんてフレイムベアしかいねえよ。いやまあ、疑ったのは俺だけどよ。もう少し心の準備をさせて欲しいぜ」
少しは信じてくれたみたいだ。
ぼやきつつ毛皮を手に取り眺めるゴドーさん。プロっぽい目だ。
「……確かに冷静になってみりゃ、凄まじい毛皮だ。毛の一本一本に膨大な魔力が宿ってやがる。触り心地もいいし、驚くほど軽い。見ろファイナ、ナイフで切ろうとしても傷一つつかねえぞ」
「あっ、本当だ。すごいね!」
「そうだな」
無邪気なファイナちゃんに、顔を綻ばせる熊おっさん。これは将来、ファイナちゃんの婿は死を覚悟しなきゃいけないだろうな。
「どうですか。こちらの品で代わりになりませんか?」
「……これだけの一品見せてもらって悪いんだが、価値が高すぎる。というか価値が分からん。この店売り払ってもこの毛皮一枚買えるか分からねえし、卸すにしても個人の手には余る。どこかのギルドか大商会クラスじゃなきゃ無理だ。
こう言うのも変だが、もう少し価値が低い素材はねえのか?」
すまなそうにするゴドーさん。フレイムベアやっぱ半端ない価値だった。流石に店売れば買えるとは思うけど、出回ってないから値段付けようがないんだね。先輩半端ない。
「なら、ダイオーク、マスキュラス、ダークエイプの素材ならありますよ」
そう言うとゴドーさんは見るからに機嫌がよくなった。
「ダイオークとマスキュラスか。ありがてえ。こいつらは良い素材になる。需要に供給が全く追い付いていないじょうたいだからな。ダイオークは肉も旨いらしいからな」
なん……だと……。
「ダークエイプは……正直手に余るがフレイムベアよりはましだ。どれ、見せてみろ」
『なんだ? どうかしたのか?』
プテュエラの肉センサーが働いたみたいだ。すごい精度。
『何でもないよ。もうちょっと待っててね』
『ああ、でも腹が減ってきたから手短に頼むぞ』
ばさばさ、と翼をはためかせる。あーあ、羽が落ちちゃうよ。それを拾い上げようとする。
「ちょっと待て。その、亜人様の羽、それも卸してくれねえか?」
あ、そうだ。亜人素材。それもあったんだ。
「もちろん構わないですよ。これ素材になるんですか?」
「いや、分からんがジオス教徒として……な」
「ファイナちゃん欲しい?」
「わ、わたしですか? ……はい、欲しいです。亜人様の御体を傍に感じられるのはジオス教徒として、この上ない喜びですから」
「そうかいそうかい」
「何でファイナに訊くんだよ」
今僕、気持ち悪い顔しているんだろうなあ。近所の子供に飴玉あげるおっさんの気分だ。
「なら、他にも素材卸しておきますね。有効に使って下さい」
「おい、まだあるのかよ……ってなんじゃこりゃ。この爪みたいなやつ、魔法剣か? こっちの枝みたいのは魔法の杖じゃねえか。素材じゃねえのかよ?」
素材だよ。
亜人がひょいってくれたやつだよ。
そろそろプテュエラの腹も限界そうだ。僕も正直お腹空いたし。まとめに入ろう。
「じゃあ、これらの素材で防具作ってくれますか? あとお金がいくらか欲しいです」
「おう、ダイオーク級なら問題ねえ。金貨十枚でどうだ?」
なんかすごそうだけど価値が分からない。
「すみません、田舎から出てきたので金貨がどれくらいの価値か教えて欲しいのですが」
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「どんな田舎から来たんだお前さんは……」
「うへへ、すみません」
『ケイは何でたまに気持ち悪い笑顔になるんだ?』
プテュエラが不思議そうに言う傍らで、ゴドーさんが教えてくれた。
以下が貨幣の種類と、僕が類推した貨幣一枚辺りの日本円にした場合の価値だ。ちなみにお金の単位は「ソルン」と言うらしい。ソルン=円として考えれば分かりやすそうだ。
朱金貨 一億ソルン
黒金貨 一千万ソルン
白金貨 百万ソルン
金貨 十万ソルン
銀貨 一万ソルン
大銅貨 千ソルン 銅貨 百ソルン 石貨 十ソルン
金貨一枚で頑張れば家賃込みで一ヶ月暮らせて、あとは上にいけばおおよそ十倍、下にいけばおおよそ十分の一って感じらしい。
つまりゴドーさんが提示した額は金貨十枚=百万ソルンだから、日本円に換算すると百万円。
ひゃくまんえん……。
ひゃくまんえん……!? あれだけの苦労で?
「すまん、納得はできねえだろうが今はこれで勘弁してくれ。うちもあまり裕福じゃなえんだ」
頭を下げるゴドーさん。
ひゃくまんえん、ポンって出せるのに? あー、でも確かに鍛冶屋ってお金かかりそうだもんな。自転車操業なのかもしれない。
「いいんですよ。僕も即金が欲しかったですし。防具の依頼は受けてもらったということでいいですよね?」
「ああ、もちろんだ。防具の代金引いての値段だ。ファイナ、金持ってこい。ケイはダイオーク出してくれるか?」
ファイナちゃんがとてとて奥に走っていった。かわいいなあ。
さて、ダイオークどれくらい出せばいいんだ? 魔法の鞄には群れ単位で素材が入っているし、十頭分の頭出しておくか。
どどどどどん。
「これで足りますか?」
「……ケイ、俺は一体で金貨十枚って言ったんだよ。どれだけ狩ったんだお前。こんなに受け取れねえよ」
呆れたように僕を見るゴドーさん。心がキャパオーバーで少し冷静になっている気がする。
「うーん、でも鞄の中に腐るほどあるんですよ。それなら投資ということにして下さい。僕も秘密を守れる鍛冶屋さんがいると何かと便利なので」
「……わかった。そういうことにしておこう。もうよく分からなくなってきたわ。だがそれじゃ俺も納得がいかねえ。お前の防具もこしらえてやる。寸法は亜人様と一緒に今ここで計っていくか?」
これ以上引き伸ばしたらプテュエラにマジ切れされそうだから遠慮しておこう。
「いえ、お腹空いたので後日にします。明日でいいですか?」
「ああ、問題ねえぜ。それと丸腰だと不安だろ。武器を一つ何でも貸してやるから持っていきな。使い潰してもいいぜ」
それはもうくれるってことなのでは?
有り難く選ばせてもらおう。
ふふ、でも、実はもう決まっている。もし僕に力があって金もあるならこれっていう武器がね。
「この店で一番頑丈な戦斧を下さい!」
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しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
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ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
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