絶死の森で絶滅寸前の人外お姉さんと自由な異世界繁殖生活 転移後は自分のために生きるよ~【R18版】

萩原繁殖

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買食い品評会〜教会到着

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 帰り道、宿舎まではまだ少し距離がある。道沿いには朝市の屋台が並び、湯気と香辛料の香りが漂っていた。

「……お腹、空いてきたんじゃない? 歩きながらだけど、何かつまんでいこうか」

 僕が振り返ってそう言うと、ミゲルとセラミナは一瞬だけ視線を交わし──

「なら、“マルハ芋の炙り棒”と“カジナ蜂の蜜パン”が気になる」
「えっ、じゃあ、“キラゴの肝だんご”も追加でお願いします!」

 と、ほぼ同時に反応した。
 イレーナが「ちょ、ちょっと……もあなたたち……」と困ったように呟くけれど、僕はいいよいいよと許可した。

 まあ、料理人だからね。料理を前に興奮しないほうが心配になる。

 数枚の銅貨を渡して、二人が屋台で三品を買い集める。
 紙巻きに包まれたそれらは、どれも異国の香りがして、ちょっとワクワクする。もちろん、僕はどれも食べたことはない。デイライトって、マジでいろんな食料が集まるから当たり外れ大きくて、意外と食事が保守的になっていくんだよな~。

「じゃ、いただきます!」

 セラミナがまず齧ったのは、キラゴの肝だんご。
 健康的な白い歯で齧り付くと、ぷりぷりの練り物の中から、少し苦味のある肝がとろっと溶け出したようだ。

「……わあ、これ、ハーブが効いてて肝の臭み全然ない……! ほろ苦くてとろっとしていて、くせになりそう!」

 満面の笑みの地味顔美少女。
 ふむふむ、セラミナは苦くてとろっとしたのが好きっと。

 次にミゲルが口にしたのは、マルハ芋の炙り棒。
 でんぷん質の強い根菜を薄くスライスして、直火で炙っただけの一品らしい。

「……シンプルだが、皮を炙ったときの香りが活きてる。塩じゃなくて“サラリ草の粉末”を使ってるな。軽い渋みが芋の甘さを引き立ててる。安いが手間をかけているな」

 うわぁ、食べながら分析してる……。やっぱ料理人ともなると、ただ漫然と美味しく食べるわけじゃないんだね。
 と思っていたら、セラミナが最後にカジナ蜂の蜜パンにかぶりついた。この子、けっこう口が大きいみたいだ。ふむ。多少太くて大きくても、問題なく頬張れると。

「ふわふわ……! なにこれ、口の中でしゅわって消える……!」

「ああ、これは。卵白を泡立てて練ってるな。焼きの温度が絶妙だ。膨らませすぎると潰れるし、焦げる寸前で止めてる」

 味を楽しみながら歩く二人の様子は、仲の良い親でもあるし、長年厨房で働いた同僚のようでもあった。

 後ろでイレーナが僕に頭を下げる。

「申し訳ありません……ほんとうに食べることだけは我慢が効かなくて……」

「いいよ。料理人ってそういうものでしょ? これだけ情熱あるから美味しいものを作れるんだろうし、料理以外のことが多少出来なくても怒りはしないよ。僕なんて、大抵のことはダメダメだからね。気にしないで伸び伸びやって、才能と実力を発揮してくれたらそれでいいんだ」

 僕がそう言って笑って返すと、イレーナの表情がふっと柔らかくなった。

 その目元が、ほんのわずかに緩み、腕の中のユリオをそっと抱き直す。

「……うちの人たち、好きなことに夢中になると、つい他のことが抜け落ちてしまうんです。昔から、ずっとそうで……」

 イレーナは小さく笑って、セラミナとミゲルの背中を見つめる。
 その視線には、母としての優しさと、少しの誇らしさが混ざっていた。

「主人は料理一筋であの通り人付き合いが上手くありませんし、セラミナも愛想は良いんですが、昔かそんな主人を見て育ったせいか、料理以外はからきしなところがあります。同年代のお友達もいませんでした」

「何かに特化してるとそういうこと起きちゃうよね。仕方ないよ。僕は気にしないし、むしろそういう人達を尊敬している」

 とりあえずセラミナに料理以外のいろんな体験をさせてあげたいな。もちろん健全なアクティビティだよ。

「御主人様……」

 イレーナは視線を僕に戻す。
 その瞳は、ほんの少しだけ潤んでいた。

「ありがとうございます。御主人様。……家族を“そのまま”にさせてくださって。ミゲルもセラミナも、きっと貴方様のお役に立ちます。もちろん……私も」

ーー

 食べ歩きの品評会がひと段落したころ、目の前に見慣れた建物が見えてきた。

「あれが……御主人様のおうち?」

「いえ……教会、ですよね?」

「そうだよ。マダムジャンゴから、改宗の話は聞いてるよね?」

「ああ」

 セラミナがぽつりと呟き、イレーナとミゲルがそれに続く。
 前身は“孤児院”として表向きに運営されているこの場所──だが実際には、数少ないジオス教徒たちの拠点、生活と再生の本丸だ。

「改宗はあとでしてもらうとして……とりあえず君たちが一日の大半を過ごす空間を紹介しておこうか」

 門をくぐると、中庭の向こうに石と木材で組まれた堅牢な本棟が現れる。
 まだ朝の光が斜めに差し込んでいて、壁の模様が柔らかい陰影を描いていた。

「ようこそ、リッカリンデン教会へ。今日から、君たちの家でもあるよ」

 僕が言うと、セラミナが小さく息をのんだ。

「……本当に、わたしたち、ここで……やっと……」

「もちろん。じゃあ、ちゃんと紹介するね。まずは……あっちが宿舎の本棟」

 中央廊下を挟んで左右に居室が並ぶ大部屋。現時点では、最大で五十人が生活可能な広さがある。

「あそこが食堂と台所。設備はまだ揃ってないけど、君たちの腕なら充分活かせるはずだよ」

「この構造……通気も導線も、考え抜かれてる。良い職人の仕事だ」

 ミゲルが小声でつぶやく。
 すでに頭の中では“最も効率の良い作業順”を思い描いているのかもしれない。

「ミゲル、欲しい設備があったら言ってね。なるべく揃えるから。ただ、お金はあるけど、際限無く注文するのはダメだよ」

「……そんなことはしない」

 彼は憮然とした表情で言い、イレーナとセラミナは顔を見合わせてプッと吹き出した。ミゲルは溜息をついては頭を掻いている。

「で、あっちは浴場。湯船はないけど、蒸し風呂になってる」

「え、蒸し風呂あるんですか……っ」

 セラミナがぴくりと嬉しそうに反応する。
 目を輝かせたセラミナが、ぱたぱたと両手を振った。
 「やったー! 汗も土も流せるっ……!」と、声まで弾んでいる。
 すぐに我に返って恥ずかしそうに手を引っ込めたが、頬のにやけた笑みは隠しきれていなかった。

 ここらへんは年相応の女の子だよね。でもまあ、ずっとお風呂とか入れてなかっただろうし、実際匂いは……なかなか香ばしかったし、本当に嬉しいんだろう。

「その裏に製造棟。この施設の肝だね。ポーション造るところだよ」

「……えっ、ポーションって、まさか」

「うん。さっきミゲルとイレーナが飲んでたアレ。ちなみにアセンブラポーションじゃないよ。コスモディアポーションって言って、アセポよりもずっと品質が良いんだ。で、僕とシルビアはポーション製造事業に取り組んでる。あっ、シルビアってのはこの事業の責任者ね」

「……すごい……」

 セラミナがそっと呟く声に、畏敬と安堵が混ざっていた。

「……御主人様。アセンブラポーションってのはアセンブラ教の要だ。その縄張りを侵して、大丈夫なのか?」

 おお、ミゲル鋭いな。やっぱり長年貴族相手に仕事してきただけある。

「もちろん、リスクはあるさ。でも勝算もあると思っているよ。そうだな……商業ギルドにも話は通ってると思ってくれたらいい」

「し、商業ギルドですか? デイライトの商業ギルドと言えば、オルスフィン商会……確かあのアーサー・オルスフィンですよね?」

 イレーナがかなり驚いた様子で言った。すげーなアーサーさん。帝国まで名前轟いてるやん。

「そうだよ。アーサーさんもこの件は知ってる……あと、他にもいろいろあるけど……うーん、君たちは知らないほうがいいんじゃないかな?」

「……その通りだ。立ち入った話をしてすまない。イレーナ、セラミナ、今の話は忘れておけ」

「……ええ、そうね。私たちはお料理に集中しましょう」

「は、はい」

 うん、察しが良くて何よりだ。霊草のことやデイライト伯爵のことは、知ってもしょうがないし、変に知っている方がリスクになる。まあ、亜人のことは知っておく必要があるけどね。

 そして、最後に裏手の小さな厩舎を見せてから、僕は振り返る。

「以上。案内はこんなところかな。あとは、他の皆にも紹介しないとね」

ーー


「カリン~いる~?」

「これはこれは使徒様、どうなさいましたか? カリンはいつでもあなたのお側に」

 神官服をたなびかせ、奥の通路から現れたのは──金髪の聖職者、カリンだった。

 ふわりと歩み寄ってくるその姿は、まさに“清らかさ”と“艶やかさ”の狭間を漂っている。
 胸元の布地は控えめに見えて、動くたびにやわらかさがわかる。腰も細く、立ち居振る舞いには芯の強さと慎ましさがあった。

 カリンは最近、本当に綺麗になった。出会った頃は不幸オーラがあったけど、今はもう押しも押されぬ聖女オーラがある。日々迷えるジオス教徒たちを導き、まぁいちおう仕えるべき僕という使徒の側で手助けをしているわけだから、毎日めちゃくちゃ充実してるんだろう。

 彼女は一礼すると、いつものように慎ましく手を組み、そっと僕の横に立った。

「本日も、使徒様の御加護に触れられること……このカリン、心より光栄に思います」

 それは口上めいた言葉だったけれど、声の調子や目の奥には、言葉以上の“満ち足りた気持ち”が隠しきれていなかった。

 僕が何も言わずに目を合わせると、カリンはわずかに目尻をゆるめて、静かに微笑んだ。

 ああ、これはもう完全に幸福顔だ。
 敬虔な神官でありながら、ひとりの女としての“満たされてる感”が、全身からほんのりとにじんでいる。

 こんなふうに自分を絶対的に信じてくれて好意を寄せてくれる人ってさ、戸惑うこともあるんだけど、本当に有り難い存在なんだよな。

(うっ、今すぐにでも押し倒したいけど……がまんだ……)

 セラミナはその聖職者特有のオーラに圧倒されたようにたじろいでいた。

「新しい奴隷が来てくれたよ。料理を担当してくれる、ミゲル、イレーナ、セラミナ、あとまだ疲れて寝てるけどユリオだ。ザルドたちの遊び相手になってくれるかもね。折を見て改宗してあげて」

「なるほど、そういうことでしたか。はじめまして、カリンと申します。使徒様に仕えるジオス教の神官です。以後、お見知りおきください」

 流れるようなお辞儀のあと、カリンは柔らかい笑みを浮かべてセラミナたちに視線を向ける。

「……ミゲルだ。御主人様には命を救われた。これから毎日、あんたたち最高の料理を提供する。よろしく頼む」

「イレーナです。主人の調理補助を担当しております。他にも掃除、洗濯、薪割り、裁縫など、さまざまな雑事にも対応できます。もちろん、御主人様の夜のお務めも果たせます。何でもおっしゃってください」

「……綺麗……」

 幸せ聖女オーラを漂わせるカリンを見て、思わず口をついて出たセラミナの言葉に、イレーナがそっと背を押す。

「セラミナ、ご挨拶を」

「あっ、は、はいっ! せ、セラミナですっ。お父さんと一緒に料理を担当しますっ。でも、お母さんみたいにいろいろできます、そ、その、夜のお務めも……。こ、これから……よ、よろしくお願いしますっ……!」

 ぺこりと頭を下げるセラミナ。その横顔には、わずかな引きつりと──気後れが見えた。

 その視線が、ちらりとカリンの豊かな胸元と艶のある髪に向けられ、そして自分の胸元へと戻る。
 控えめな膨らみを両手でぎゅっと抑えたその仕草は、明らかに大きさを比べている。

 心なしか、しょぼんと肩を落とした。

(セラミナはまだ成長途中だからあんまり気にする必要無いと思うんだけどなあ)

 けれど、カリンは微笑みながらその手にそっと触れ、優しく言った。

「セラミナさん……あなたのような清らかな方こそ、神は好まれますよ」

「っ……あ、ありがとうございます……!」

 セラミナの顔がみるみる赤く染まる。
 劣等感と安堵が混ざり合ったその表情に、カリンは静かに微笑み続けた。

 そして、続けて奥の調理場からドタドタと足音が響く。

「あ~っ、御主人様~おかえりなさいです~っ!」

 洗濯物をたくさん抱えて出てきたのは、ふわふわの髪を三つ編みにまとめた牛獣人、マイアだった。

 エプロン姿の彼女は、どたぷん、ずっしりとした胸と、張りのある太ももを揺らしながら駆け寄ってくる。
 そのふわふわした話し方とは裏腹に重量級の存在感は、見る者の目を自然と惹きつける。

「ありがとうマイア。新しい奴隷が来てくれたんだ。料理を担当するよ。君はきっとすごくお世話になるだろうから、仲良くするんだよ」

「ええっ、ほ、ほんとですかっ……!?」

 マイアの耳がぴょこぴょこと揺れ、抱えていた洗濯物をうっかりぽとりと落としてしまう。ルーナがいたら張り倒されていたかもしれない。
 でも拾うよりも先に、まんまるに見開かれた瞳と、ぷにっとした頬がぱあっと花開いた。

「ふわぁ~~! またお仲間が増えるなんて……すっごく嬉しいです~っ! それに、料理人さんだなんてっ、マイア感激感動です!」

 マイアは目を爛々に輝かせて嬉しさマックスだ。

「わたし、ずっと思ってたんです~……。もっといろんな美味しいご飯が食べられたら、もっと頑張れるって……! えへへ~じゅるり」

 マイアは牛人族の強い体幹を活かして、器用に洗濯物を片手で持ちながら、もう一つの手でぐっとミゲルたちの手を握りしめてお礼を言っていく。

 マイアはふわふわとした声で、でもしみじみと呟いた。

「……御主人様……やっぱり、約束、ちゃんと覚えててくれたんですね。い~っぱい、美味しいご飯を食べさせてくれるって……」

「もちろん、覚えてるさ」

「えへへ、嬉しいよぉ~~! マイア、御主人様のこと……だいっすきです~……!」

 ニコニコしながら飛び跳ねるように喜びを表現するマイアに、セラミナはまた目を見開いて、小声で呟いたようだ。

「……お、大きすぎる……っ」

 ふと自分の腰に手を当てる。そこには張りはあるけど、マイアのような“豊満さ”はない。セラミナの顔がまたもやしょんぼりしていく。

ーー

「あ、ケイ。戻ってきたんだ。おかえり」

 すると後から声がかけられる。声色は少し弾んでいて、優しい。

「ただいま、シルビア。料理ができる奴隷たちに来てもらえたよ」

「わ……さすが。早いね? よかった。これで明日からの製造もスムーズに行えるよ」

 シルビアはニコニコしながら、ミゲルたちに挨拶していく。

「よろしくお願いします、ミゲルさん、イレーナさん、セラミナさん。それと……ユリオくんね」

 シルビアはひとりひとりに丁寧に視線を向け、柔らかく微笑む。
 その所作はどこか慣れていて、それでいて気取らず、でも、どこか“華”がある。

 濃紺のスーツの裾がふわりと揺れるたびに、胸元と腰のラインがしなやかに浮かぶ。
 肩までの明るい髪と知的な顔立ち、そして何よりその堂々とした雰囲気は、セラミナの目に“すごく大人っぽい”と映っていた。

「……すごく、綺麗でかっこいい人……」

 思わずセラミナが小声で呟いたのを、イレーナがちらりと横目で見たが何も言わなかった。
 代わりに、セラミナはそっと自分の尻や胸に手を添えて、気にするようにぎゅっと握った。
 (……また……うぅ……)

 そんな様子には気づかぬまま、シルビアは軽やかにケイの隣に寄ってくる。

「……ねえ、ケイ。セラミナちゃん、可愛らしいわね?」

 耳元で囁く声は、仕事の声色とはまるで違っていた。甘えるようでいて、少しだけ棘がある。
 誰にも気づかれないように、そっと肩がケイの腕を軽くつねった。

「そうだね。でも、可愛いだけじゃなくて、芯の強さもあるいい子だよ」

「……そうなんだ。へえ~? ……じゃあ、ちゃんと報告聞かせてね?」

 その目には、ケイにしか分からない甘さが滲んでいた。

ーー

「は~、いろいろ根回ししてきたよ。疲れた~」

 コツコツコツ……。

 シルビアの後ろから、ブーツの音を響かせて現れたのは、短く整えたウルフカットのアルフィンだった。

 白いシャツをまくり、革製のベルトを巻いている。
 胸元は小さめ、でも肘を張って堂々と歩くその姿勢は、まったくもって“生意気そう”で“負けん気”が強い女性のそれだった。

「あ……御主人様だ。ボクの仕事ぶりを褒めに来たの?」

 アルフィンは僕を見つけるやいなや、すすっと寄ってきて、上目遣いで訊いてきた。

「それはまた今度ね。今は新しい奴隷が来てくれたからその紹介をしてるんだよ」

「……ふ~ん? ふ~ん? なるほど? 」

 そう言いながら、アルフィンはイレーナとセラミナを横目に見た。
 どこか試すような目線で、そしてちらりと、その腰や胸元を見比べるようにして──ふんっと鼻を鳴らした。

「君、名前は?」

「え、えっ、せ、セラミナです……」

「ふーん? セラミナねえ。ずいぶん地味そうな感じじゃない?」

 セラミナが一瞬たじろぎ、小さく背筋を縮める。

「ちょっと、アルフィン。いきなりそんな言い方しなくても……!」

 シルビアがたしなめようとするが、アルフィンは肩をすくめて、くるりと僕の方に振り返った。

「だって、御主人様ぁ? やっぱり、ボクみたいにクールなのに可愛くて超絶可憐で有能で、お仕えしてて、色々……“躾けられてる”子の方が、安心だし、満足できるんじゃない?」

 そう言って、腰を軽くひねりながら、僕にだけ見えるように、淫紋をなぞるような仕草を見せる。
 さらにちっぱいを揺らして、チリン、とした金属音を鳴らす。

「アルフィンにはアルフィンの良さがあるように、セラミナにはセラミナの良さがあるんだよ。見た目よりもずっと芯の強い子なんだ。ほら、アルフィンも自己紹介してくれる?」

 そう言うとセラミナは感激した様子で頭を下げ、アルフィンは面白くなさそうにふいっと目をそらして、セラミナたちに向き直る。

「……ボクはアルフィン。元々は商業ギルドにいたんだ。今は御主人様の奴隷、あと……そこのシルビアと一緒にポーション製造プロジェクトに携わってる。ま、シルビアはダメダメだからボクが実質責任者みたいなものかな。よろしく」

「ちょ、ちょっと。責任者は私よ! この生意気奴隷めぇ……」

「ふん、責任者っていうくらいならもっと有能さを示して欲しいもんだね」

 シルビアがきーっとしてアルフィンを追い回すが、意外と俊敏な彼女を捕らえることはできない。

 ……まあ、ぶっきらぼうな言い方だったけど、これでよしとしよう。

ーー



 そのとき、裏手から、かつっ、かつっと重さのある足音が響いた。
 革が擦れる乾いた音と、かすかに焦げたような獣の匂い。空気が、ぴりりと引き締まる。

「あら、賑やかになってると思ったら……新しい奴隷かしら?」

 現れたのは、ライダースーツをまとった亜人の女、ベステルタ。

 全身を覆う艶やかな魔獣革には、魔力の熱気の残り香が漂っていた。
 紫がかった体毛はしっとりと熱を帯び、朝の鍛錬を終えたばかりの生々しさを残している。

「ただいま、ケイ。師匠との朝稽古、ちょうど終わったところよ」

「おかえり、フェイさんはどうしたの?」

「うーん、伸びちゃった。師匠は人間としては鍛えている方だ、けれど、私にはついてこれないからね。仕方ないわ」

 フェイさん……すまん。

 冗談めかしながら笑うベステルタ。けれどその物腰とは裏腹にミゲルたちの背筋が、はっきりと緊張していた。

 ミゲルは無意識にセラミナの肩を引き寄せ、イレーナはユリオの頭を両腕で覆い隠すように抱き直す。
 それほどまでに、彼女の立っているだけで放たれる“圧”は別格だった。

 魔獣素材のライダースーツからにじむ魔力。
 隠しようもない野性と、本能に訴えかけてくる“種としての格差”。

「みんなに紹介しておくね。こっちはベステルタ。僕を……最初に助けてくれた、頼れる仲間だよ。ただ、いろいろあって言葉が通じないからそのつもりでいてね」

「ふふっ……“最初の”って言い方、ちょっと照れるわね」

 ベステルタは冗談めかして笑いながら、セラミナたちにゆっくりと視線を向けた。

 ミゲルとユリオは一瞥するにとどまり、イレーナとセラミナをしげしげと見やる。

「ふーん、……腰回りによく肉が付いてるわね?」

 ぐっ……と鋭い一瞥を送られ、セラミナの背筋がぴしっと伸びた。

「ケイ? この子たちもジオスの子になるのよね?」

「そうだよ。新しいジオス教徒だ。料理を担当してくれるよ。きっとベステルタが満足いくような料理を出してくれるんじゃないかな」

「……へえ、なるほど。料理人ね。それは楽しみだわ」

 そう言って彼女は突然僕をその豊満な亜人っぱいで包んだ。

「……ケイ、このあと空いてる?」

「うん、お昼までなら空いてるかな」

「よかった……じゃあ、繁りましょう? 昨日は結局繁れなかったし、私も修行で身体が火照ってるのよ。いいでしょ?」

 ベステルタの熱い息が顔にかかる。

「……もちろん。僕は君の契約者だからね」

「嬉しいわ。そしたら部屋で待ってるから、すぐに来てちょうだいね」

 ベステルタは身体から立ち上る濃い匂いを隠そうともせずに去っていった。


 全員の紹介が終わった頃には、朝の陽射しが中庭の石畳にくっきりと影を落としていた。

 新しい家族。新しい戦力。
 でも何より大事なのは、新しい日常が、ここでちゃんと始まるということ。

「と、こんなところかな。改めて、今日からよろしくね」

 僕がそう言って手を差し出すと、ミゲルが無言で頷き、セラミナとイレーナも深く頭を下げた。
 まだ戸惑いと緊張はあるけれど、その瞳にはほんの少しだけ、光が宿っていた。

「……がんばります。御主人様に、恥じないように……!」

 セラミナがそう言って顔を上げた瞬間、マイアが「わあ~っ! お仲間ですよ~っ!」と背後から抱きついて、すごい勢いで潰しにかかった。
 「ちょ、ちょっとマイアさん……重っ……あ、いえっ、ちが……っ!」

 周囲にふっと笑いが広がった。

 その空気に、イレーナの緊張も少し和らいだようだった。
 ユリオの寝顔を見ながら、彼女は小さく、けれど確かに微笑んだ。

 誰もが、それぞれの想いを抱えながら、このリッカリンデン教会に、一歩を踏み出していた。
 
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