とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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三戦目

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 三戦目。武舞台に上がったロナちゃんを、マッスル側の三人目が鋭く見据えている。三人目の獲物は騎士剣。背中に両手斧を背負っている。そして両足の太ももあたりに一対の短剣。短剣は間合いを詰められた時のために用意しているのだろうな。

「先の二戦で、そちら側の意地とこの勝負に掛ける気迫は嫌というほどに思い知らされた。だが、負けたくないのはこちらも同じ。全力で行かせてもらうぞ」

 騎士剣を構えながら、マッスル側の三人目がそうロナちゃんに宣言した。その宣言に応える形でロナちゃんも口を開いた。

「こちらも同じ気持ちだよ、やっぱりマッスルの皆は強い。でも、だからと言って泣き言を言っていられないから……ボク達も全力で戦うだけさ!」

 その後両者が示し合わせたようにむき出しの闘気を発し始めた。それを確認した運営役のプレイヤーが試合開始を告げた。直後、両者同時に相手に向かって突撃する。が、騎士剣を持っている相手側の方が攻撃の始動が早い。しかし、ロナちゃんはそれを意に介せず突っ込む。潜り込むつもりかな?

「そうはさせんぞ!」

 ロナちゃんを潜り込ませないようにするため、相手は騎士剣をより早く加速させながら袈裟懸けに振り下ろす。タイミング的にはロナちゃんの頭を切り裂く形となるが──これがロナちゃんの誘いだった。格闘家相手に懐に入られたら手数と間合いで圧倒的に不利になる剣士、戦士の思考をそうさせるように誘ったのだ。

 ロナちゃんに向かって騎士剣が振り下ろされるが──その騎士剣の切っ先をロナちゃんは内側から外側に流す形で受け流して見せた。ロナちゃんの行動はまだ終わっていない。受け流しつつ騎士剣を持っている相手の右手を掴み、地面に叩きつける形で投げ捨てた。そして思い切り地面を踏みつける震脚を繰り出す。ロナちゃんの足が武舞台の上に叩きつけられると武舞台が激しく揺れた。

「避けられちゃったか」「いきなりご挨拶だな!? 食らっていたらタダでは済まなかっただろう──」

 相手側が口にしたように、先ほどのロナちゃんの震脚で武舞台の一部が陥没していた。もしあれが相手の頭に突き刺さっていたら、一瞬でミンチになっていたかもしれないな。まさに一撃必殺、いや一撃粉砕か。相手の表情に汗が一滴伝ったのが見えた──肝が震えがった事だろう。そうならないように相手は地面に叩きつけられた直後にきりもみ回転をする形で抜け出していた。回避アーツなのかな、あの動きは。

 が、そんな攻撃をされても慎重にはならず、ロナちゃんに対して積極的に攻めてくる相手。むろん最初の攻撃のように全力を乗せた攻撃はないが──ああもきれいに受け流されてしまった以上、迂闊に力を込めて振る一撃を繰り出すと己を危険にさらすことを痛感した様だ。ゆえに手数重視での攻めを行っている。

 ロナちゃんも騎士剣のリーチを生かしつつ手数で攻めて来る形に切り替えた相手に攻めの機会を見いだせないようで防御に徹しつつ機会をうかがう形となった。うーん、さっきの震脚が決まっていればなぁ。あれが決まっていれば間違いなくロナちゃんの勝ちだっただろう。相手の頭部と兜を地面とのサンドイッチで潰せていただろうから。

 それからしばしの間、とにかくロナちゃんの間合いにさせないことを重視した相手の動きによって試合は膠着。ロナちゃんだってボケッとしているわけではなく、幾度もフェイントを交えた突撃を試みているのだが、その突撃の先には常に相手の刃が置かれている状態が続き、ロナちゃんはどうにも攻める切っ掛けを掴めていない。

「うーん、場数を踏んでるねー。やりにくいなー」「格闘家の連打やグラップラーの投げの恐ろしさは身に染みている。殴られて骨のきしむ音や、地面に叩きつけられて体を砕かれる痛みは何度も味わったからな」

 お互い一旦間合いを話した後に、そんな短いやり取りが行われる。相手の言葉は分かるよ、特に投げ技は本当にもろに食らったら危険すぎるからね。最初のロナちゃんの投げはまだ軽く投げる形だったからダメージはそうでもなかっただろうけど、プロレスの技なんかをしっかりとした形で決められたら大ダメージは避けられない。

 最初こそ誘われた相手だったが、その後はロナちゃんのフェイントにも誘いにも一切のらず自分のペースを取り戻しているように見受けられる。一方のロナちゃんだが、こっちは防戦一方という事もあっていまいちリズムに乗れていない。そのせいかか少し焦っているようにも見受けられる。

(ロナちゃん、攻められない苛立ちは分かるが焦ったら相手の思うつぼだぞ。丁寧に相手の攻撃をさばいて機会を待つ方が良い)

 格闘家の間合いに入らせないように戦い、焦って無理なタックルなどで突っ込んできたところを迎撃するのは定石の手の一つ。格闘の試合でも相手のタックルを誘い、カウンターの膝を合わせて勝利をつかみ取った試合ってのもあったからな。ワンモアでは膝ではなく刃が振るわれる事になるんだが。

 もっとも、それはロナちゃん本人が一番わかっているだろう。騎士剣の間合いギリギリに陣取って、タックルのフェイントを交えた動きに移行しているが、無理な突進をしていないのがその証拠だ。相手が崩れるように何とか誘おうとしてる……むろん相手も崩されまいと身構えている。完全に我慢比べの時間に入ってしまったな。

 こうなると周囲からヤジが入りそうなものだが、二人の間に流れる緊張感がそれをさせない。お互いが拳や刃を交えていないだけで本気で戦っているのが嫌でもわかるから……見ているだけで汗が出てくるし、緊張させられる。それでもこのままではどうしようもない、そう判断したのはロナちゃんだった。相手に向かって一気に距離を詰める、両手で顔をしっかり守りながら。

 もちろん相手側は騎士剣の間合いに入った直後からロナちゃんに対して刃を振るう。が、ロナちゃんは一切回避行動をせずにその刃を受けた──直後、相手の騎士剣が派手にはじき返された! 相手の表情が同時に驚愕の色に染まる。その気を逃すロナちゃんではない。一気に間合いを詰めて──後ろに飛びのいた。

 後ろに飛びのいた理由は単純だ。相手ははじき返された騎士剣を潔く手放し、左手で太ももにあった短剣でロナちゃんの首を狙ったからである。相手は騎士剣を拾いなおさず、右手でも短剣を握った。うん? よく見ると左右の短剣の大きさ、長さが違うな? 右側の短剣は、短剣としては肉厚かつ長めの作りだ。左手の短剣は基本的な長さだな。

「そう来ますかー」「短剣がなかったら、終わっていたかもしれないな」

 剣士からアサシンのような構えに切り替えた相手に、ロナちゃんが短く言葉を発し、相手も冷や汗を流しながらも短剣を構えて戦闘態勢を撮りなおした。そこから一拍置いて、超接近戦が始まった。ロナちゃんのガントレットと相手の一対の短剣が激しく火花を散らす。どちらも手数で攻める事も、力を込めた一撃も繰り出せる武器だ。相手の隙を見つけたら容赦なく叩きこむだろう。

 もっとも、そんな隙をお互いが早々に作るわけもない。しばし戦っては見召し合わせたかのように少し引き、フェイントをかけあってからまた直接戦う形を取っている。この状況だと、迂闊にアーツは使えない。アーツは確かに強力だが、放ち終わった後にはどうしても隙が出来る。だから確実に入る時以外は使えなくなってしまう。

「一進一退だな」「どちらが相手の守りをこじ開けられるか、もしくは隙を作ってしまうか、ですね」「気迫で押される可能性もあるな。今の所はまさに競り合っている状態だが──崩れると一気に行きかねない」

 ツヴァイ、カナさん、レイジがそんな風に状況を見る。もっとも自分も同意見なんだけど。ここで主導権を握れるかどうか、大事な場面と言えるだろう。そして当然だが、そんなことは戦っている二人の方がよっぽど分かっている。経験豊富な両者だからこそ、主導権を握って相手を確実に削り、そして倒すことの大切さは身に染みている筈だ。

 ゆえに明確なクリーンヒットを先に出せるかは大切だ。そこから主導権を掴むきっかけ作りが始まる。お互い激しい攻撃のさなかにフェイントを入れてクリーンヒットを相手に叩き込む機会をうかがっているのが分かる。そして両者共にここまで引っかからないのもまたわかる。が、明確な大振りを交えたフェイントが増えてきた。均衡が破れるのはそう遠くない。

 その自分の感じ方は正しかった。ついに片方が相手の体に一撃を叩き込んだ。鮮血が舞い、入れられた側が後ろに下がる。主導権を掴んだのは──マッスル側だった。ロナちゃんの表情が苦痛に歪む、腹部辺りを右の短剣でざっくりと持っていかれてしまったのだから。そして当然相手の追撃が迫る。ロナちゃん、凌げるか!?



*********

とあるおっさんの最新刊販売は、今月二〇日以降になりそうです。
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