とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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第三試合その二

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 とどめを刺すべく、相手の右側の短剣がロナちゃんに向かって一直線に迫る。だが──ロナちゃんはそれを待っていたのかもしれない。真っすぐに突き出された相手の短剣を相手の体の内側に入る様に回避し、すかさず右腕を掴んだ。そこから繰り出されたのは柔道の背負い投げ。ただし背中から落とすのではなく頭部から落とす形だ。

 流石に相手もそうはさせないと、左手の短剣を手放して体を必死に支えた。これにより頭部落下を相手は防いだわけだが、ロナちゃんの攻撃はまだ終わっていない。すかさず相手の右腕を掴みなおし、腕ひしぎ十字固めを仕掛けた。関節を一気に締め上げられることにより、相手の口からは絶叫が飛び出した。それと同時に相手の手にあった右側の短剣が武舞台の上に転がり落ちる。

「ぐあああああああ!?」「よいっしょっと!」「ぎゃあああああああ!?!?!?」

 腕をへし折る勢いで締め上げるロナちゃんの関節技に、相手の絶叫が止まらない。関節技の痛みはすさまじいからな、自分だって師匠に掛けられたときは悶絶した。その痛みがあるからこそ、プロレスなどでもフィニッシュになりうる攻撃方法なのだ。

『ギブアップしますか!?』「しない、しないぞ! ぎゃああああああっ!!」

 運営役のプレイヤーがギブアップの確認を取ったが、相手は拒否。その反応を確認したロナちゃんがさらに深く決めたんだろう、相手の絶叫のボリュームがさらに大きくなった。が、当然ロナちゃんが加減する理由はない。こうやって関節技をかけている間にも腹部からはまだ血が流れだしている。彼女も余裕があるわけではないのだ。

 相手は痛みに悶絶しながらも何とかロナちゃんの関節技を解こうとロナちゃんの腕や体を叩いているが、叩き方から相手は体術を持っていないことがまるわかりだ。あんなパンチでは、千発殴ろうがロナちゃんは関節技を解かないだろう。向こうもそれを理解したのか──なんと、無理やり立ち上がろうとしている。

 当然更なる痛みが相手を襲い、絶叫する。だがそれでも立ち上がる動きを止めない相手。半ばロナちゃんを引きずるような形で立ち上がった相手はある方向に移動を開始。その先には彼が左手で握っていた短剣がある。どうやら相手はその短剣でロナちゃんの関節技を外そうという考えのようだ。

 歩く速度からして、十秒以内に相手は短剣を掴むだろう。ロナちゃんも関節技を仕掛けながらも相手の歩く方向に短剣がある事に視界が向いたことで気が付いたのだろう。歯を食いしばって更に相手の右腕を締め上げる。いや、折りに行った。だが、間に合わず。相手は短剣を掴み、ロナちゃんの太もも付近を貫かんと短剣を振り上げた。

 ロナちゃんはここで関節技を諦めて解除し、相手と距離を取る。腹部を抑えるロナちゃんだが、どうやら出血は止まった様だ。まだ痛みはあるのだろうが、出血が止まったこと自体は良い事だ。再び両者がにらみ合うが、全く動かない。どちらも顔が歪み切っており、相当な痛みを堪えている事は容易に分かる。

「そっちの短剣、普通じゃないね? ここまで痛みが残り続けるなんて……」「普通じゃないのはそちらの関節技もだろう……? 半端じゃない痛みだったぞ。これでもしダメージ軽減のスキルがなかったらどうなっていたのか、考えたくもない」

 など言ったやり取りが行われていた。そのうちに徐々に痛みが引いてきたのか、両者構えるが──相手は左手の短剣だけだ。右の短剣、ならびに騎士剣が武舞台の上にいまだ転がったまま。かといってロナちゃんの素早く激しい攻撃の前に両手斧では捉えきれないと踏んでいるのか、取り出す様子はない。

 ロナちゃんにとってはかなり有利な状況になったはずだが、ロナちゃんはゆっくりと距離を詰めながらも仕掛けない。でも、その冷静さは正しいと思う。相手が暗器を仕込んでいたり、自分の様に何かを投げつけると言った手段を持っている可能性があるからね。下手にチャンスだと思って攻めかかったら返り討ちにあったなんて事になったら、取り返しがつかない。

(そういう自分の戦法をロナちゃんには何度も見せているから、警戒しているんだろうな)

 とはいえいつまでも見合っているわけにもいかない。そう判断したのか、ロナちゃんが地面を蹴って一気に相手との距離を詰めようと動いた瞬間、相手は右手から小さな袋をロナちゃんの顔に向かって投げつけた。ロナちゃんはその袋を無意識に左手の甲部分で勢いよく叩いてしまった。袋は一瞬で破けて黄色い粉末が漂い始める。

「なにこれっ!? 目が、目が痛いっ!?」

 目潰しか……あの手の袋は切ったり叩いたりせず、そっと掴むのが正解なんだがとっさにそれをやれと言うのは酷な話か。ロナちゃんは目を抑え蛾ながら後ろに下がることを余儀なくされ──その間に相手は地面に転がった騎士剣と右手用の短剣を回収してしまった。そこからさらに騎士剣を握ってロナちゃんに迫る。

「ロナ、相手が来ているぞ!」「すぐそこから動いて!」

 ツヴァイとカナさんの声がロナちゃんに向かって飛ぶ。それを聞いたロナちゃんは両眼から涙を流しながらも左側に転がるようにして回避行動をとった。しかし、回避行動をとるのが早すぎる! 当然相手はロナちゃんの回避した方向へと修正してから騎士剣を振るう。が、両目が見えていなくても今までの冒険で培った経験と勘がロナちゃんの体を動かした様だ。

 相手の騎士剣による攻撃が迫った時に、ロナちゃんは前に出た。その為相手の騎士剣はロナちゃんの肩部分を捕らえはしたが、当たった場所は騎士剣の根本。その為多少のダメージこそ入っただろうが、騎士剣のクリーンヒットを貰った時に受けるダメージに比べれば非常に軽微で済んだ。

 言うまでもないが、その距離であれば──目が見えていなくてもロナちゃんの拳が届く間合いであると嫌でもわかる。もちろん躊躇せずに振るわれたロナちゃんの左が捉えたのは、相手のレバー付近? ボクシングで言うレバーブローが深々と突き刺さっていた。これはさすがに効いたのだろう、相手は騎士剣を取り落としながら後ろにゆっくりと下がる。

「が、はっ……」

 悶絶、そして唾液を吐き出す相手。無理もない、先ほどロナちゃんが鎧に拳を叩き込んだ場所が深々と凹んでしまっている。しかし、ロナちゃんも追撃はできない。掛けられた目つぶしが相当に辛い様で再び目を両手で押さえて苦しみ始めた。両者ともに武舞台の上で痛みを堪えるための声を漏らす。

「なんて恐ろしい拳を放ちやがる」「あれはマズい、マジで効いてしまっている」「目潰しを効かせてなかったら、もう決着はついちまったぞ。なんて拳だ……あの一撃こそが、彼女の本気の拳って奴か?」

 マッスル側からそんな声が聞こえてくる。大きい声ではないが、自分の耳なら拾えてしまう音量だ。もっとも、音量よりも分かりやすいのは雰囲気。ロナちゃんの拳が見せた威力に焦った雰囲気が伝わってくる。気持ちは分かるぞ、あんな拳は喰らいたくないよね。ワンモアでは痛覚も再現されるからなおさら。

(しかもダメージ軽減のスキルがあってあの苦しみ様を見れば猶更か。自分みたいにダメージ軽減スキルを取れないビルドの人間からすれば、その恐ろしさは倍率が跳ね上がるよ)

 ロナちゃんは必死で目を開けようとしているが、その都度目を押さえてしまい涙を流す。相手もレバーブローの痛みから立ち直ろうと必死なのだが、体の力が入らないようで取り落とした騎士剣を拾う事すらできていない。

 目潰しさえなければ、この試合はロナちゃんが勝ったか? それとも目潰しが入ったからこそ近寄ってきた相手の動きがあったからこそ、ロナちゃんがレバーブローを決めるチャンスが巡ってきた?

 どっちにしろ、相手は相当なダメージを受けた、それは間違いない。ただロナちゃんの目潰しがいつ解けるのかが問題だ。完全にとは行かなくてもある程度目を開けられるようになってくれれば、ロナちゃんが勝つ道筋が見える。しかし、このまま目を開けられずにもうしばらく苦しみ続けるのであれば厳しい事になるだろう。

 そう気を揉んでいる内に相手が地面に取り落した騎士剣を拾いなおして構える。まだまだ痛みはあるのだろうが、それでも何とか剣を拾って振るう事が出来るようにはなってきたという事だろう。

 ロナちゃんの目は──まだ開いていない。まずいぞ、このままでは……もう相手も同じ手は食わないだろう。ロナちゃん、何とか目潰し状態から立ち直ってくれ!


*********

すみませんが、来週一週間はお盆の行事のためお休みいたします。
ご理解のほど、よろしくお願いします。
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