とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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第八試合決着

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 それからしばし、レイジの荒い息だけが武舞台の上にあった。相手は全く動かない。明確に、レイジの息が整うのを待っていたのだ。

「情けのつもりか?」

 レイジは息を必死で整えつつ、そう短く相手に問いかけた。この問いに相手はすぐさま首を振った。

「次の激突が、俺達の戦いの最後になるだろう。だったら、相手の息が乱れていて十全に動けない所を突くなんてつまらない真似で終わりたくねえってだけさ。情けじゃねえ、俺のわがままだ。お前さんのような強い奴と、真っ向勝負が出る機会ってのはこの世界でもあんまりなかったんだ。有翼人の時は操られちまってたしな……」

 と、有翼人の一件でラスボスと戦えなかったことを悔しそうにしている様子が窺えた。それだけではなく、操られてしまった事に対して未だにいら立ちを隠しきれていない雰囲気もあるな。

「そういう事か。気持ちは分かる……普段ギルドメンバーには見せてこなかったが、俺も、そういう所はあるからな」

 レイジも息を整えつつそんな言葉をこぼした。レイジも相手の感情に理解を示し、だからこそ俺でもお前と同じ状況なら似たように待つだろうと肯定したのか。確かに普段のレイジからは違った雰囲気も多々あったこの戦いだが、そもそも人なんてそんなもんである。普段とは違う一面を持っているのもまた人らしい。

 そして徐々にレイジの息遣いが静かになっていく。そしてレイジが口を開いた。

「待たせたな……もういいぞ。最後に派手にやろうじゃないか」

 大盾を構えなおし、短剣を握りしめたレイジの言葉に相手は槍を構えなおした。

「ああ、派手にやろうぜ。このPVPの大会が終われば、塔を上りたい奴の支援にお互い回る事になるだろうから、こうして刃を交える事が出来る機会は二度とやってこねえだろう。お互い悔いがない様に全力でやろうぜ」

 相手がしゃべり終わってから数秒後、特に何かのきっかけがあったわけでもないのに両者が同時に動いた。二人だけにしか分からない合図みたいな物があったのかもしれないが──そこからは両者が激しくぶつかった。槍の二刀流で連撃をかけてくる相手に対してレイジは盾で必死で防ぎながらも間合いを詰めんとにじり寄っていく。

 どちらも声にならない叫びを上げながら、相手を討ち倒すべく全力で武器を振るっていた。そして一歩も下がらず、互いの技を競い合っていた。ここでまた、レイジが成長の兆しを見せる。相手の槍に徐々に対処し、受け流しながら確実に詰め寄る動きを見せ始めたのだ。相手もそれに気が付いたのか、驚きと同時に喜びの感情を周囲に撒き散らす。

「楽しそうですね」「ええ、本当に。全力を出し合える相手とぶつかるなんてことはそうそうないですからね。倒す事では無く戦う事に喜びを見出す人にとっては、好敵手と呼べる人と出会える事こそが喜び。今、あの二人は最高に戦いを楽しんでいるのでしょう。恨みつらみなど一切なく、ただ純粋にお互いの武を競い合えること自体が最高の喜びとなっているようです」

 カザミネの言葉にカナさんがそう答えていた。両者とも側面に回るとかの行為を一切せず、馬鹿正直に真っ向勝負を続ける姿勢を崩さない。それがお互いの美学なのかもしれない。しかし、その戦いもついに終わりを迎える。

 レイジが相手の槍による攻撃の合間を見計らってのシールドバッシュを行い前に出た。間合いが詰まったその瞬間、レイジは短剣を相手の心臓付近を目がけて突き出した。まさに最後の一撃だったわけだが──そのレイジの腕を片鎌槍の鎌が襲い掛かった。相手の左手に握られていた片鎌槍の鎌が、レイジの腕を横に斬り飛ばす動きを見せたのだ。

 完全に力を入れて突きを放っていたレイジは、対応する事が出来なかった。腕を斬られ、ナイフが手から零れ落ち、そしてだらんと腕を下げる。そして、全ての動きが止まった。アームブレイクが発生したことは明確であり、決着がついたと言っても差し支えない状況だった。

「楽しかったな」「ああ、本当に楽しかった」

 レイジの言葉に、相手も嫌みの一切ない正直な感想を口にした。そして、レイジが自分の負けを宣言したことで勝敗がつくことになった。

『ブルーカラー側の選手が敗北を認めたことにより、この勝負はマッスルウォーリアーの勝利となります! 次の選手は武舞台に上がる準備を整えてください!』

 レイジはゆっくりと戻ってきた後に、地面へと座り込んだ。疲労困憊であることは一目見れば誰にでもわかる、そんな姿を今のレイジは見せていた。本当に、精も根も尽き果てるところまで戦ったのだろう。

「すまん、負けた。あれ以上やっても無様な姿を見せるだけだったからな……負けを認めるしかなかった」

 レイジはゆっくりと頭を下げて謝罪した。その事を責める人は誰もいなかったが、カナさんがこう問いかけた。

「楽しかったですか?」

 この問いかけに、レイジも正直に答えてきた。楽しかった、と。

「ワンモアは初期からずっとやってきたが、ここまで楽しいと思える戦いは何時ぶりだっただろうか。 本当に、本当に楽しかった。あそこまで正面から互いに逃げず、引かずにぶつかり合う。楽しくて楽しくて仕方がなかった……後はこれで勝てればよかったんだな」

 と、一転してため息をつくレイジ。

「それと同時に、俺は最悪の相手を生み出してしまったかもしれない。感じていた事だが、俺たち二人は戦いながらより強く、より技術が磨かれていく感覚があった。そして俺は負けた……つまり、俺は相手を鍛えるための道具になってしまった可能性が高い。あいつが休息を取った後、どれほどの強さを発揮するのか全く分からん」

 それは、誰もが思っていた事だろう。戦いのさなかでどんどん強くなったレイジと相手。そして相手はそんな強さを身につけた上で勝ち抜いた。厄介な相手が生まれてしまった事は間違いないだろう。

「とりあえず、行ってくるぜ。俺が勝たなきゃマジでヤバいからな」

 そんな中、普段通りの声で武舞台に上がっていくツヴァイ。一週目最後の戦い、ツヴァイが勝たないとこちらは相当厳しくなる……相手の事もあるが、今はツヴァイを応援する事に専念しよう。
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