とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

文字の大きさ
559 / 765
連載

久々に振るう腕

しおりを挟む
 こちらが食事を終えると、言い争っていたはずの守護者とその分身の部隊長が自分を見ていた。具体的には自分の手元。

「──あげませんよ?」

 食べたそうにしているのが見えたので、しっかりと拒絶しておく。食べていたのは、残りわずかとなっていたドラゴン丼。この味も、ワンモアが終われば二度と味わえないんだよなぁ……

「──食べ物の恨みは恐ろしいという言葉を知らないのかな?」「知っていますが、それはそれ、これはこれ」

 部隊長の言葉も受け流す。どうせ恨みを買おうが買うまいが、全力でぶつかる事になる相手である以上わざわざ残り少ないドラゴン丼を分け与える理由はない。そもそも料理のストック自体がもう残り僅かなんだからなおさら分け与える事なんてできない。

「私が許すわ。全力で叩き潰しなさい」「了解している。あんなおいしそうな物を目の前で食べるとか最悪の挑発だからな」

 なんでこういう所では意見が一致するんですか? まあ、本体と分身だから一致するところがあるのは分かるんだけどさ……やっぱり欲が絡む所は意見が一致しやすいんだろうか。まあ、たとえ自分が食べ物を分け与えたとしても手心なんて加えてこないと思うんだよねえ。それこそ、それはそれ、これはこれだろう。なのでつい口に出てしまった。

「たとえ自分が食べ物を譲っても、試練の難易度は一切変わらないでしょうに」

 ボソッと呟いた形だったのだが、これが結構聞いたらしい。二人とも痛いところを突かれた! とばかりに押し黙ってしまったのである。当然と言えば当然だ、挑戦者から何かを送られて試練を手加減して通過させたとなれば、上から相当な叱責を貰う事となるだろう。??責で済めばまだよい、最悪消失させられてもおかしくない。こんな等を生み出せる存在が主なのだから。

「それはそうかもしれないけどさー……それでもこう、何というか」「言わんとすることは理解しますけどね……」

 反論がうまく出来ずに、頭をhぎねって言葉を探している守護者にそう返答しておく。言いたい事は分かるよ、うん。でもまあ、結局は諦めてもらう他ないけど。それに、食べたいならせめて食材を提供して欲しいよ。食材の提供があれば、調理して食べてもらうぐらいの器量は見せるさ。ここに閉じ込められて数か月、食材の補充もできないんだから。そう反論してみた所──

「「あ」」

 と二人そろってハモっていた……もしかしなくても、そういう所は完全に思考の外にあったのだろう。直後、守護者が姿を消した。残された部隊長に視線を向けると、少し待っててほしいと訴えられたので待つこと数分。再び姿を現した守護者が手に持ちきれないほどの……肉を持って帰ってきた。

「これで、何か作りなさい! 試練の難易度を下げる事は出来ないけど、試練終了後貴方個人に対して恩恵を与えるから!」

 何というか、すごく必死なんだよ。そこまで飢えているのだろうか……まあ、こちらへのメリットを提示してくるのならば作る事はやぶさかではない、が。用意された素材は見事に肉ばっかりだ。見た目は豚肉鶏肉牛肉……後、兎肉に鹿肉と猪肉もある。でも、なんで肉ばっかりなんだ? そう問いかけてみた所きょとんとした表情で──

「食べ物は、お肉の事でしょ?」

 そう、返答されてしまった。野菜は食料ではない、と? そんな言葉でぎろりと睨みつけてみた所、再び姿を消す守護者。待つこと数分後、今度は各種野菜を持って現れた。どうやら自分が睨みつけた時の表情がかなり恐ろしい物であると感じてしまったご様子。でもまあ、これで十分すぎる食材が揃った。久々に料理を行うとしますか。

(さて、スキル欄を少しいじってから……何を作ろうかな? 肉をメインに据えるのは良いとして……ある程度野菜も食ってもらいたいよなぁ。とりあえず野菜の品質を生でかじって確かめてみるか)

 適当に数種の野菜を生でかじってみた所、なかなか品質の良い野菜ばかりであることが分かった。更に野菜の下からハーブも姿を見せたのでに持ち込まれた事に気が付いた。その時自分の頭によぎったのは、ずっと前の記憶。ワンモアの最初に試行錯誤して作ったラビットステーキに野菜炒め。それに加えて、各種肉や野菜を入れてコンソメスープを作ろうと決めた。これならば肉がメインかつ野菜も食べてもらえる。

(そうと決まれば、まずはコンソメスープからだな。とにかく作るのに手間がかかるものだから真っ先に取り掛からないと。肉は適度な大きさに、野菜も細かくして……リアルのコンソメつくりにこだわる必要はない、持ってきたお肉は全種投入だ。無論、バランスは考えるけど……牛肉をメインとして、豚肉と鶏肉に脇を固めさせ、他のお肉はワンポイントって所かな。特に猪肉は主張が激しいから、量は僅かで十分だろう)

 各種お肉や野菜をひたすら煮込み、灰汁を取る作業を念入りに繰り返し、旨味をすべてスープに集約させるのがコンソメスープだ。現実じゃとてもじゃないが時間がかかり過ぎて挑戦する気力なんか欠片も沸かないが……ワンモアの世界ならば時間を短縮する手段がある為、こうして取り掛かれる。

 各種材料をデカい鍋に入れて、たっぷりの水を入れてとにかく煮込む。最終的にこの水の量は三分の二から半分ぐらいに減ってしまう。それぐらい長時間煮込む事になるのがコンソメスープという奴なのだ。ただし、その味は多くの人が知るところ。インスタントのコンソメスープだけでも十分に美味しいのだから……手間暇かけて作ったコンソメスープがまずいはずがない。

(よし、各種材料は良い感じになっているな。とにかくコトコトと煮詰めて煮詰めて煮詰め続けることが肝要だ。この火加減を維持させておいて……ラビットステーキ温水仕立てとお肉をたっぷり入れた野菜炒めの準備にかかるか)

 作るのは本当に久々だ……持ってきてもらった兎肉のよさそうな部分を選別し、臭みを抜いて香りをつけるために入れたハーブのお湯の中に入れてしばし煮る。程よく時間をかけて煮てから取り出し、そこからは普通のステーキのように塩コショウに少々のワインを加えて焼く。焼きすぎて肉が硬くなるようなドジを踏まないように気を付けたいところだ。久々に作ったが、腕と経験はつくり方の感覚を忘れていなかったらしい。

 ステーキが出来上がったら出来立てを維持すべくアイテムボックスに仕舞い、今度は野菜炒めに取り掛かる。と言っても野菜炒めの方も特殊な事はしない、野菜の質が良いのだから下手にあれこれいじるよりシンプルに炒めるだけで十分だ。入れたお肉は鹿肉と鶏肉。どちらも一口大に切ってから投入している。

 味付けも変にこだわらず塩と胡椒だけで済ませる。野菜と肉が持つ旨味を引き出すに留めれば十分だろう。過剰に手を入れればおいしくなるという物でもない……無論素材によってはあれこれ手を入れなきゃいけない事もあるが、今回持ち込まれた素材はそう言う事はしなくても十分な品質だ。

(これでステーキと野菜炒めは良し。後はコンソメスープの機嫌を損ねないように注意しながら仕上げないといけない)

 浮いてきた灰汁をひたすら処理しながら煮込み続ける。あまりに鍋の温度を上げ過ぎて激しく沸騰させてしまうと、過剰な油などが素材からしみだしてくるためスープが濁ってしまって台無しになりかねない。とにかく鍋の温度に最大の注意を払いながら慎重に煮込み続けなければならないのだ。ここが根気がいる所、アーツを使って調理時間を短縮させてもこの根気が必要な所だけは一切変わらない。

 そうして鍋とにらめっこをし続けてしばし、やっと琥珀色の透き通ったスープ……コンソメスープが出来上がった。この香り……まず香りは合格点だろう。では、味は……うん、そうだ。この味がコンソメスープだ。このスープ単品で十分にご馳走になる。今回制作した料理の評価は、全て八。自分の能力を考えれば十分に会心の出来と言っていいだろう。


 我流コンソメスープ  制作評価八

 一般的なコンソメスープよりも多くの種類の肉が投入された。しかし調和を崩すことなく成立しているコンソメスープ。特殊効果はないが、とてもおいしい。


 コンソメスープにはこんな説明がついていた。珍しく食べた時のバフが一切ついていない料理になったな。まあ、とてもおいしい事こそが一番大事だからそれでいい。これで出来上がったな……もう先ほどから早く食わせろと言う視線がこちらに飛んできているのが痛くてしょうがなかったが、これで解放されるだろうか。

「出来上がりました、では、盛り付けて提供させていただきます」

 各種皿に盛り付けて、守護者が用意したテーブルの上に三品の料理を置く。なんだか、後ろに控えている分身体達からの視線がますます痛くなってきた。でもそれらは強引に無視する。四三八四名分の料理を一人で作れとか、いくら料理のアーツがあっても拷問という物だ……流石にそれは勘弁願いたいよ。

 守護者と部隊長がお互い自分の作った料理に口をつける──直後、無言で凄まじい速度で食べ始めた。どうやら口に合わないと言う事は無かったようだが……無言でおかわりを要求してくるのは止めて欲しい。せめて一言欲しいよ、正直目が血走ってて怖いし。結局二人が食事の手を止める頃には、作った料理の九割九分がなくなっていた。

 特にコンソメスープはクリティカルヒットだったらしく、真っ先に無くなってしまった。いったいどこに入っていったのやら……更に食いつくされて、空になった鍋を二人に見せた時の落胆っぷりは半端ではなかった。まあ、それでも気を持ち直してステーキと野菜炒めをがっついていたんだけど。

「はあー、食べたわ。確かに肉がメインだったけど、野菜を炒めた奴も十分美味しかったわ。野菜も今後は食べる事にしましょう。しかし、あのスープは良かったわ。あらゆる肉の旨味に野菜の旨味も交じって……長く待たされただけの事はあったわ」

 守護者は満足したようである。そして部隊長の方は……

「確かにあのスープもそうですが、ステーキの方もかなり手間がかかっていましたね。焼く前に煮ていましたが、その煮る時間なども重要なのでしょう。まさか兎肉がここまで美味しい物であったとは……素晴らしいひと時を堪能させていただきました。無論野菜炒めも美味しかったですよ、野菜も良い物ですね」

 と、ステーキの方も評価してもらえた。でも……その感想を口にするたび、後ろに控えている分身体の皆さまの殺気が膨れ上がっているんだけど……これ、収集どうやってつけるつもりなのかなー? 自分は絶対手伝わないぞ、っと。
しおりを挟む
感想 4,905

あなたにおすすめの小説

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。