とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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始まった最後の試練

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 翌日ログインしてベッドの上で目を覚ますと、こちらにつくと言っていた十二人が片膝を付いて待っていた。まるで王様とかにやる騎士の礼の様である……自分は深く考える事を放り投げて、よろしく頼むと伝えておいた。

「さて、今日は最後の試練を乗り越えて、いよいよ守護者の本体との対峙を目指します。そして試練の内容も六人を相手にして、相手を全員倒すか自分が倒されるかの戦いになるとも教わっています。それを鑑みて、自分はこうしようと思った方法を伝えます」

 自分の考えは、こちらも人数を六人にして拮抗した状態で戦う事。なので自分+協力してくれる分身体を五名の疑似パーティを組む。そして自分を除く五名が消耗したら、後ろで控えている残りの面子に適時交代してもらい消耗した面子は休んでもらう。こうする事で討ち取られて人数が減るリスクをできる限り抑えつつ、部隊長まで引っ張り出す。

 部隊長が出てきたら、そこから先は完全に自分一人で戦う。多分、分身達を連れて行っても何らかの手段で無力化してくるとかはやってきそうなんだよね。RPGのボスって、時々周囲を動けなくして主人公とのタイマン状況を作り出すって事をやってくる奴がいるのだ。多分、ここでもそんなことが出来るんじゃないかなと予想しているのだ。何せ、最後の部隊長だからね。それぐらいの力は備わっていてもおかしくない。

 自分のやり方を伝えると、分身体達からはすんなり了承を貰った。ま、向こうとしてはどんな手段を使っても従うという腹積もりだったようだから何を言っても反対するつもりはなかったようだけれどね。なので最初の五人を立候補制で選んでもらい、六人パーティになったところでいざ出陣。

 と、いきなり部隊長が出てきた。そうなると多分何か話があるんだろう。自分についた分身体の皆さんに、先制攻撃はしないようにと伝えておく。さて、部隊長さんは前に進み出てくると静かに頭を下げてきた。

「まずは、主に変わり貴殿の試練を試練以外の手段で足止めしてしまった事を詫びさせていただきたい。今後はあのような手段での足止めは一切行わない……それでは、試練を始めようと思うが宜しいか?」

 どうやら、料理関連で二日足止めしたことへの詫びだったようだ。それに対して別にこちらは苛立っていないが……謝罪は素直に受け取っておこう。さて、こちらの準備は整ったと告げると部隊長は下がっていき、向こうからは六人の分身体が前に進み出てきた。いよいよ、七五〇階の守護者と戦う前に立ちはだかる最後の試練が幕を開ける。

 互いに距離を詰めるが、お互いに最初は様子見からの静かな立ち上がりとなった。大きく踏み込むような事はせず、まずは牽制に専念。自分も最初はスネークソードを用いた近距離戦を行った。それと気が付いたことがある、向こうの分身体は、皆が大弓を背負っているのだ。こちらが少し下がって弓による射撃戦を始めれば、当然向こうも同じように立ち回ってくるだろう。

 一方でこちらについた分身体は、全員弓を持っていない。純粋に近距離戦を行う騎士のスタイルだ。なので、下手に射撃戦を始めると同向こうが動いてくるのかが読めない。だから最初は接近戦のみで戦う事にしたのだ。自分が近距離戦のみ行うのであれば、向こうは弓を使わないのか? それとも、何らかのタイミングで背負った弓を使ってくるのか? それを確かめたい。

 最初の立ち上がりこそ静かだったが、流石に静かなままでは終わらない。徐々に打ち合いは激しく、荒々しいものになってくる。だが、それでも隙は少ない。伊達に最後の試練を名乗っている訳ではないのだと言わんばかりである。騎士剣に盾というオーソドックスな装備は、手堅く戦うのに向いている。崩すのが難しいのだ。

 それに比べてこちらは出来る事を増やす代わりに一つ一つは専門職と比べるのはおこがましいぐらいに弱い。無論自分一人ではなく協力してくれる分身体もいるから今までより状況は良いのだが……それでもなかなか隙をつけない。ならば、強引に相手の隙を作るしかない。なので今のうちにいくつかできそうなことを試してみる。

 ──やはり、単純な力という意味では自分は勝てない。自分を一〇とするなら相手は二五ぐらいか? とにかくそれぐらい差があるので、力ずくでこじ開けるのはどうやっても無理だ。だが、だからこそ相手の力を生かしていなす行動は生きる。相手の技も悪くないが、どちらかと言えば剛剣、力を重視する太刀筋だ。

 一方で自分は言うまでもないが技を重視する方向だ。パワーで勝れないならテクニックで勝つしかない……ただ、テクニックを生かすためには一定レベルのパワーが無いと舞台に上がれないという問題は存在するが──それは、ここに至るまでの冒険と修行が解消してくれる。相手のパワーに抵抗できるだけのパワーと経験を、自分に与えてくれたものだ。

 だからこそ、相手の剣をいなす、崩すと言った太刀筋を生み出せる。相手の剣の速度とスピードが最大に乗る直前に、力の向きを変える事で相手の体勢を崩し、此方の一太刀を入れられる機会を生み出すのだ。そう、今まさに自分の崩しを受けて前方に倒れこむかのような姿を相手の分身体が見せたように。

 他の分身体は耐性を崩した分身体を守ろうとするが、それをこちらについてくれた分身体が阻止する。ならば自分がやる事は簡単だ、この崩した分身体に確実なとどめを入れる事。しっかりと首を捉えて刎ね飛ばす。首を飛ばされた分身体は消滅し、すかさず新しい分身体が補充されて六対六の状況は変わらない。これをひたすら続けて相手の残り四〇〇〇弱いる分身体を倒すのだ。

(それでも、一人で戦う訳じゃないのだからずっと楽だ。ご飯を食べさせてごく一部でも引き入れることが出来た分身体には感謝しないといけない。分身体と協力して、何とか乗り切ろう)

 とにかく、分身体の皆には状況が大きく相手に傾かないように粘ってもらう事を重視した動きをしてもらおう。無理に切り込む必要はない、それで帰って手痛いダメージを受けたら大きなマイナスだ。何せ相手とこちらでは兵力差が大きすぎる。向こうは一〇〇人二〇〇人失おうがかまわないだろうが、こちらは一人減るだけで大打撃であり、自分がやられた時点で失敗だ。

 なので、相手を崩す役は自分が受け持ち、残りの五名は先ほどのように相手のカバーを邪魔してくれれば十二分に助かる。それを最初は一人でやらなければならない予定だったのだ。この差は非常に大きい。

「先ほどのカバーは助かりました、今後もお願いします!」「「「「「了解!」」」」」

 お礼を口にすると、向こうもすぐに答えてくれた。今の連携で確実に削っていき、相手の焦りを誘う。相手に明確な意思がある以上、有利な兵数差を削られればきっと焦りだす。その焦りを利用して相手の数をさらに削ってもっと焦らせる──このサイクルを完成させられ里か否かが、この最終試練を突破できるか否かを大きく左右するだろう。

 が、向こうも当然こちらの意思を見抜く訳で……六体の内の一人が後ろに下がって、背負った弓を構える。なるほど、射撃を交える事で自分に崩しの動きをさせないようにするという行動なのだろう。だが。こちらも少し後ろに下がって八岐の月を構える。そして、相手が弦を引き絞って矢を放ってくるタイミングに合わせてこちらも弦を引く。

(明鏡止水の世界に入った状態なら……相手が放ってくる矢を自分の矢で相殺する事も可能──曲芸かもしれないけど、それでもやられた方はそのインパクトで怯むもの。最初の一発目が肝心だ、こいつで成功させられるか否かで相手の動揺を大きく誘えるかが決まる)

 普通のモンスターでも一定の意思があり、予想外の事をされたりすると動揺したりするのだ。分身の濃度が濃い彼女達なら、その反応はより大きいものになる。だからこそ、この一矢が重要になる。集中し、息を止めて──相手が放った直後にこちらも放つ。相手の狙いは自分の脳天だったので、その線上に矢が飛ぶように放った結果はどうなる?

 空中でぶつかった矢は片方が砕け散り、もう片方が相手に向かって飛んでいく。砕け散ったのは分身体の方が放った矢だ。大弓が放つ矢と言えど、こちらの弓はドワーフのクラネス師匠と共に作り上げた化け物弓。そして矢だってドラゴンの骨から作られた強靭な物。その合わせ技の前には、ほとんど無力である。

 飛んだ矢は、相手の脳天に深々と突き刺さっ──いや、貫通して後ろにいる分身体の所まで飛んでしまった。分身体達が慌てて伏せたり回避行動をとる姿が見えた。そして、回避した後に分身体が自分を見た、ちょっと怯えたような目で。よし、これで少しは動揺を誘うことが出来ただろう。自分が八岐の月を十全に使える状況で放たれた矢は、容易く自分達の鎧など突き破ってくると分かっただろうしな。

 そうして再び近距離戦に戻る。このまま前衛五人に耐えてもらう形で自分は後ろから八岐の月を撃ち続けるというのもありなんだが……それだとこっちについてくれた分身体への負担が大きくなるだろう。自分が射撃を続けると、相手側が無理をしてでも大技を連発してごり押しの強行突破を仕掛けて来る可能性が高くなる。そうなると基本スペックが多分同じである以上、こちら側の分身体が数の差で押しつぶされかねない。

 たとえ分身体と言えど、こっちについてくれた彼女達を使い捨てるような真似はしたくない。なのでそういった状況が起きるような事態は出来るだけ回避したい。あくまで相手が弓を使ってくる時のみ自分が弓で対応する形にするのが多分ベターだろう。先は長い、だからこそ状況を激変させる可能性があるなら今はまだやるべきじゃない。

 こうして、長い戦いは始まった。でも、やる事は変わらない。目の前に立ちふさがる壁を、ぶち壊して進むのみである。
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