とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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就寝前のやり取り

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 心臓に悪い時間はゆっくりとではあったが確実に過ぎて、ようやく一息付けた。ただ情報を聞き出し終えたミリーの周囲に何とも言い難いオーラが漂っているんだよなぁ。表現が難しいのだが、一言でいえば触ったらまずい事になる系のおどろおどろしい奴だ。もちろんそこをつつくような真似はしない。君子危うきに近寄らず、だ。

(まあ、不運な連中には合掌しておこう。もちろん心の中だけだけど)

 口は禍の元、口舌の刃を振るえばどうなるかを知るいい機会となるだろう。流石にミリーであっても二度と日の目を見る事がないなんて事まではやらないだろう。やらない、よね? 一抹の不安を覚えるが彼女のリアルは重い責任も背負っている立場。浅はかすぎるような真似はしないだろう。

「ま、まあその話は一旦置いておいてだ……装備の方はどうだ? 素材の方は気合を入れて良い物を持ってきたつもりなんだが」

 無理やりツヴァイが話の方向性を変えた。うん、妥当な判断だろう。これ以上続いたら怨念が渦を巻いて立ち上りそうだったし。このツヴァイの問いかけに対してブルーカラー生産者の方からは次のような返答が返ってきた。

「間違いなく一級品ですからね、今までのより二割り増しぐらいの性能は最低でも出せます」「後は特殊能力がどこまで乗るかですね。素材の品質からして五つは最低乗りそうですが」「ただ組み合わせの有効性に結構運が絡みますからね……幾つか作ってみないと何ともな所はありますがそれを見越しての素材要求量でしたからね。後はこちらが全力を出すだけです」

 との事であった。自分の装備もそうだが、ただ防御力が高いだけでは今のレベルでは残念ながらゴミ扱いされてしまう。性能の高い基礎ができているのは当たり前で、そこにどれだけ使い手に合う特殊能力をどれだけ乗せられるかが職人の腕の見せ所となる。自分の場合はもう初めから自分専用だったり、親方とか魔王領の職人さんだとかドワーフの師匠だとかが作ったとんでもレベルの装備だったりなので例外も良い所である。

「どう?」「ちょっと振りにくいかも? 少しだけ先端を短くしてもらえるかな?」「了解」

 なんてやり取りも行われる。使い手が使いやすいようにする為の調整も当然必須。ワンモアでは使い手に合わせたサイズ調整だとかはかなりのレア特性。なのでつく事を前提にすることはできない。事前にサイズや装着した時の具合などを確認してから本命の装備を作り始めるのが常識である──つくづく自分の装備は何といううかも、酷いよねって事を改めて感じるなぁ。

「なんにせよ、これで彼女達も攻略を再開できるな。素材集めに協力してくれた事に感謝するぜ。特にアースはギルメンじゃないのに手を貸してくれて助かった」「何をいまさら。ブルーカラーとの付き合いは長いんだから気にするな。無理な時は素直に無理というんだから……今回は時間に余裕があったから問題なし」

 ツヴァイに名指しで感謝されたのと返答を返しておく。そして生産者の皆さんが装備を作っている音をBGMに明日から始まる二次予選についての話し合いを始める事にした、と言っても──

「チームメンバーの変更は無し、でいいよな?」「ええ、変更せずで問題はないと思います。一次予選で妙にかみ合わせが悪いと感じたチームはありませんでしたし」「そうね、そこは変更しなくていいと思うわ」

 と、ほとんど第一次予選と基本的な所は変わりそうにない。実際特に不便さとかやりにくさを感じたシーンというものは無かったので反論する事は一切ないのだが。

「後は出場する順番でしょうか? 少々第一次予選ではアースさんがいるチームが初手であることが多かった気がします」「俺達が結構被弾したからだな……アース達は回避が得意な面子だからダメージを抑えやすかったんだよな。それでアース達に最初出てもらって俺達がHPを回復させてもらうという事は確かに多かったな」

 カナさんからの言葉に、ツヴァイが第一次予選を振り返ってそう言葉を口にしていた。これはまあ別に自分は構わなかったんだけどな。勝つためにはそれが良いと判断しての事だし。事実自分とロナちゃんは回避に長けていて、ミリーが要所要所で出る事で相手をかき乱すという形を取っていた。それが上手く回ったおかげで、ブルーカラーのチームの中では一番HPを温存できていた。

「と言っても、動き的にレイジ君やツヴァイ君が私のように動くのは無理があるでしょ? もしくはアース君のように動くのもこれまた無理でしょ? HPを温存して最初に出られる回数を増やす事もまた大事な動きだと思うから気にしないでいいと思うよー? アース君やミリーだって似たような考えでしょ?」

 ロナちゃんの言葉に自分とミリーはともに頷いた。どうしてもタンクという動きになるレイジや、多少の被弾を受けてでも重い一撃を叩き込めるチャンスがあるのならば大剣を振るう動きをする必要があるツヴァイなどは被弾が増えるのも仕方がない。二人とも過剰な被弾をしている訳でもないし、これ以上はどうしようもないだろう。

「それに変に回避を意識した戦いに切り替えた結果、回避以外がめちゃくちゃになっては意味がありません。今まで通りの動きをした方がいいでしょう。長い戦いで染みついた動きを急に変える事は無理です。それに回避を得意としていなくても、誰もが無駄な被弾をしてHPを減らしている所はなかったように見受けられます。気にし過ぎは却って毒になるかと」

 カザミネの言葉に自分は無意識に頷いていた。お互いをお互いカバーしあえている以上、変に新しい動きを取り入れても空中分解するだけとなるだろう。動きが悪いから改善する、ならともかくうまく動けているのにそれ以上を無理に狙うのは危険すぎる。ましてや戦いは明日からなのだ、いまさら急激なスタイル変更など出来るわけがない。

「そうですわ、カザミネさんの言う通りだと思いますわ。私達は誰もが出来る事を精いっぱいやってきた、そして予選を一位突破したという結果も出ていますのよ? 常に改善を考える事は大事ですが、足元を見失っては転ぶだけですの。ツヴァイさんは下手に回避よりも一撃の重さをより高め、レイジさんは盾の受け流しをより磨くとした方が良いと思いますわ」

 エリザからこんな言葉が出てきたな。が、間違っていないと自分も思う。自分が出来る事のレベルをより高める方が戦闘中でもできるレベルアップの方法だろう。そして、現実的でもある。

「自分もエリザの意見に賛成だ。新しい動きを無理に取り入れるより自分の得意をより磨く方が短時間で己を高められる事に繋がると思う。二人とも変に悩まず、自分の得意を相手が隙を見せたりしたときに目いっぱい叩き込む事に集中した方が良い結果が残せると思うぞ」

 自分もエリザの意見に賛成する意思を見せる。ちゃんと言葉にしないと伝わらないからな、はっきりとした口調でツヴァイとレイジに伝えておく。

「確かに、エリザやアースの言う通りだろうな。変に焦って今までのスタイルを崩壊させたら却って動けなくなるというのは間違いないだろう。時間があるならそこから組み立てなおすのもいいが、勝負は明日だ。エリザの考えが現実的にできる最良の案だろう」

 ゆっくりとレイジが呟くかのように言葉を口にした。ツヴァイも同意見の様で何度も頷いている。

「なら今まで通り頑張りましょうって事で良いわね。その中で各々が出来る事をより高めていく。これで行きましょう」

 ノーラの締めの言葉に皆で頷いた。そして九人で拳の先をぶつけあい、二次予選も勝ち抜くと気勢を上げる。こういった事をするのはいつの世も大事だ、こうやって気分を盛り上げて事に挑む方が上手くいくことが多いと感じる。

「ギルマス、こちらも装備が出来上がりましたので攻略班に渡します。後、このレベルの出来栄えになりましたので大雑把で良いので見て頂ければ」

 ここでブルーカラー生産者から声が掛かった。呼ばれたツヴァイは剣や鎧を見て、何度が頷いていた。

「この性能なら一〇〇〇階までに出会うモンスターを相手取っても問題なく勝てるだろうぜ。後は戦い方がだが、ここまで登ってこれたこと自体が実力を証明しているからな。あと半月もあれば全員登り切れるだろ、いい仕事をしてくれた」

 とツヴァイが口にした。業物が出来上がったんだろうな、という事は分かる。ツヴァイの言葉に生産者のメンバーは安堵し、別動隊は士気を挙げているのが見て取れる。

「じゃ、俺達は明日からギルド対抗戦二次予選に出るから支援は出来ないが、もう支援の必要は無いだろう。天辺を見てきてくれよ!」「「「「「はい!」」」」」

 ツヴァイの言葉に別動隊の皆さんは元気よく返事を返していた。これで心置きなく明日からの二次予選に挑めるな、二次予選も一位で突破できるように頑張ろう。
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