とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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最終ラウンド、開始

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 自分、ミリー、ロナちゃんはお互いを見あっていた。誰が最初に出るか、を決めたいのは言葉にする必要がなかった。しかも目の前でエリザの行った戦いを見て、誰もが闘志をみなぎらせている。ゆえに誰もが一番手になりたいと言う事もまた、互いに認識していた。

(まさかエリザがあそこまでやるなんてな……だからこそ、絶対に勝たねば。そのための初手として出たいが)

 エリザがなぜあそこまで無理をして相手の魔法使いを倒したのかは戦いが終わった今、よく理解できる。あそこまでエリザが己の身を削ってやっと倒せた相手なのだ。もしあそこでエリザが負けたとしよう。そうすると残りがカザミネとカナさんになる訳だが……そうなるとあの魔法使いの放っていた高火力の魔法で状況を一気にひっくり返されかねない。

 むろんカザミネやカナさんの実力を低く見積もっているわけではない。しかし、あの魔法使いプレイヤーの魔法の威力は間違いなく一級品だ。二人をあっという間に焼き尽くす事も可能なだけの火力を持っていることは疑いようがない。それを、エリザは強く感じ取ったのだろう。だからこそ、あそこまでの無茶をした。

 その判断が正しいか間違っているかなんてことは、誰にもわからない。あんな無茶をしなくてもよかったなんて意見だって当然あるだろうし。ただ、直接戦ったエリザは無茶をしようが自分が倒さねばまずいと判断した。だからこそ行動した、と言う事である。

(だからこそ、次のラウンドは絶対にとってエリザの行動を無為にすることだけは絶対あってはならない。その思いはミリーもロナちゃんも同じか──目がそれを訴えかけてくる)

 しかし、こうしていてもらちが明かない。だから口を開こうとしたのだが──ロナちゃんが先に口を開いた。当然内容は自分が最初に出る、という宣言だ。

「二人と比べてボクが一番体力回復量が少ない。だからこそ、初手はボクが行くよ。でもね、負けるつもりは全くないし、一人倒したら交代してもらう。向こうもボク達と同じく魔法使いが一人チームにいるみたいだし、魔法使いが出たらミリーが、違ったらなアース君が出る。それでいいと思うんだ」

 ──もしロナちゃんが負けたとしても、瞬殺という結果ではないだろう。その間に自分とミリーのHPはある程度回復するだろうし、相手の動きも観察できる。そこからはこちらが逆襲して勝ちをもぎ取る、か。ロナちゃんの描いた青写真はそういう感じだろう。自分は捨て石になっても構わないと。

「一つ条件があります~。もし向こうの一番手が魔法使いだった場合は、すぐに交代をお願いします~。交代支援は、アースさんにお願いしますね~」

 最後のラウンドに出てくる魔法使いのタイプは分からないが、遠距離攻撃に乏しいロナちゃんでは確かに分が悪いか。自分が出て射殺するという方法もあるが、あくまで自分は助っ人の立場だしな。それにやる気に満ちているミリーの勢いを削ぐような提案も好ましくないだろう。ミリーの中身はあの人なのだし、冷静に考えた上での提案だろう。

「了解、それで行こう。向こうも武舞台に上がったし、こちらが話し合える時間はもうない。ロナちゃん、頼んだ」

 もたもたしていると警告が飛んでくるからな。相手を待たせる理由もないし方針も決まった以上、さっさと行動に移らないといけない。武舞台に上がった一番手同士のにらみ合いがさっそく行われる。相手の一番手は、ワンモアでは珍しいレザーアーマーに身を包み、両手にはかぎ爪を装着し、一対の短刀を腰から下げている。なんだか、──嫌な予感がする。見たとき、背中に悪寒が走ったのだ。

(なんというか、自分やカザミネのように──相手の首を刎ねるのに慣れている、といった雰囲気を感じる)

 が、変に大きな声を出してそれを告げたら相手だって動きを変えるだろう。こればっかりは、ロナちゃんが今までの経験から感づいてくれることを願うしかない。

「なるほどね、素早そうだ。油断した相手はことごとく──って感じがするよ」「それはお互い様だろう? その拳には想像もできない威力と鋭さが秘められているし、何より突き刺さった時の相手の胴体へのめりこみ具合は恐怖そのものだ。屠られた相手のうめき声が耳から離れん」

 こんな会話が二人の間で行われた。どうやら、ロナちゃんは気が付いているようだ。ならばあとは見守るだけか、こちらもだが、向こうだってこのラウンドは絶対に落とせない。そしてこのラウンドに負けたらほぼ準決勝への切符は手の内から逃げていく事になる。だからこそ、とてつもなく激しいぶつかり合いとなるだろう。

 両者が戦闘体制に移行したことを受けて、カウントダウンが始まった。そうなれば当然静寂と殺気が場を支配する。カウントダウンが終わって試合が始まった直後、相手が動いた。一瞬で腰の短刀を抜き放ち、ロナちゃんの首へと刃を滑らせる。しかし、ロナちゃんもボケッとなんてしていない。その刃の下をくぐりながら相手の腹部へ向けて右の拳を叩き込もうとする。

 相手は最初の攻撃がよけられたと判断した直後に上に飛びあがっていたらしく、ロナちゃんのカウンターはあまり効いていない。大げさにふわりと浮かんだ相手の体は何事もなかったかのように後ろに上がって静かに着地した。向かってきた力に逆らわずにうまく逃げたな。やはり、このプレイヤーのスタイルは忍者だ。

 それを補足すると言う訳ではなかったんだろうが、ロナちゃんに向けていくつもの武器が投擲される。ロナちゃんは横に回避したので投擲されたものは武舞台の上に突き刺さったのだが、それはどうみても棒手裏剣そのもの。投擲スキル持ちは一定数いるし、投擲武器も多々あれど──手裏剣となると話が違う。

 投擲スキルがなくても物を投げることはできるし、投擲スキルがあれば威力や命中率が上がる。だが手裏剣だけは忍者の専売特許だったはずだ。Wikiによると、だけど。忍者以外が手裏剣を投げたところで威力は出ないしめちゃくちゃな所にとぶらしい。だが先ほど投げられた棒手裏剣はしっかりとロナちゃんに向かって飛んでいた。だから、彼は忍者であると宣言したようなものだ。

「おっかないなー。あれだって当たり所によっては即死するでしょ? 使い手は少ないけど、少ない分戦うことになったら恐ろしい人ばっかりなんだよね」「同門かどうかは分からないが、経験者か。だからこそ驚いてはいない、と。知識と経験があるというのは厄介だな」

 口調は穏やかだが、空気はひりついている。お互いがお互いにこいつはここで確実に落とさねえと仲間がヤベエ! と完全に認識したのだろう。もはや性別とか一切関係ない、こいつは殺すという殺気が周囲に──放たれていない。いや、この表現は間違いか。両者ともに発しないようにしたと表現するべきだろう。

 二、三手やり合った事で、殺気を放っていたら狙いを読まれる相手であると理解しあった様だ。故に殺気は出さず、お互い静かに目やわずかな動きでけん制を行う形へと移行した。どちらかが引っかかってけん制に乗り、隙をさらせば互いに相手を一撃で倒そうとするだろう。ロナちゃんの拳がもろに刺さればレザーアーマーなどないようなものだし、向こうの短刀の切れ味はロナちゃんの首を容易く刎ねるだろう。

(周囲から見れば地味な動きが多くなるが、やり合っている二人からしてみれば一瞬の読み違えが己の負けに繋がる薄氷の上の戦いだ。どうしてもお互いのレベルが高いとこういう戦いになってしまうんだよな)

 互いに攻撃を迂闊に振れなくなってしまう、攻撃は一番の隙を生み出す行為なのだから。しかし攻撃をしなければ相手を倒せないというジレンマ。その中でどうやって相手の攻撃を無効化しながらこちらの攻撃を当てるか。こればかりはどうしても避けられない命題のようなものである。

 それでも、やらなければならない。やらなければ勝つ事は叶わないのだから。やり通せるのはロナちゃんか、それとも相手の忍者か。お互いの力量が高いレベルで競っているため、決まるときは間違いなく一瞬だ。必殺の一撃を決めた方がそのまま相手を倒すだろう。一回流れが傾いたら、こういう戦いでは流れを引き戻すことはほぼ不可能。緊張感が周囲から高まって武舞台の二人に伝わっていく。

 どちらが先に仕掛ける? そして相手に会心の一撃を叩き込むのは? 頬に汗が伝っていくのを感じる。見ているこっちの方がよっぽど追い詰められているような気分になるな──ロナちゃん、頼むぞ。勝ってくれよ。


****


今年の定期更新は、今日でおしまいになります。
来週からは年越しに向けてやらないといけないことが多いので、そちらで忙しくなりそうです。
時間が取れたら更新を行うつもりではありますが、あまり期待なさらないでください。
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