とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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第五試合、決着

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 その後の展開も、カナさんは自分の優位性を維持したまま試合を進めていった。相手が突いてくれば突き返し、相手が払えば片手剣を振って払いのける。相手と同じ攻撃方法をあえて取り、そのすべてで上回って見せたのだ。

「なんで? どうして!? 片手剣と槍の相殺で、何故こちらがことごとく押し負けるの!?」「さあ、どうしてでしょうね?」

 ──単純に武器の威力などが同じとして、真正直に槍と片手剣がぶつかり合って相殺を起こせば両手武器である槍の方が打ち勝つだろう。だが、今はそうじゃない。カナさんの圧に負けてどこか及び腰になっている相手が振るう槍は、十全にその性能を発揮しているとはとても言えない。一方でカナさんは普段通りに力を振るえている。

 もちろん相殺で片手剣を使っているカナさん側が打ち勝っているのはそれだけが理由ではないだろう。だが、彼女はリアルでも鍛錬を積んでいる人だからな。彼女やカザミネじゃないと分からない技を使っている可能性はある。様々な要因で結果が変わりうるのがこのワンモアという世界だ。

 押され続けている相手の技が狂いだした。最初の方はまだしっかりと型が出来ていたのだが、徐々にその型が崩れ力を籠める事にばかり夢中になり出している。カナさんにことごとく相殺で撃ち負けている事も関係しているのだろう。力強さは上がったが、精密性と速度が明確に落ちている。

 だが、そんな相手の突きですらカナさんは相殺して押し返す。何度も何度も、あえて相手の突きを待ちそのことごとくを相殺して押し返している。押し返せば押し返すほど、相手もムキになってより力を込めた突きを放ってくる。ここで、自分はカナさんの狙いが理解できた。力こそ籠っているが、動きにキレが失われ、がちがちになった体から放たれる隙の多い突きをさそっているのでは。

(そんな力だけの突きを回避、もしくはパーリングすれば相手は大きく体勢を崩す。その崩れた体制はカバーしようがない……そこに心臓を狙った突きか首を狙った一撃を決めれば決着だ。自分の手札をとことん隠して勝つ手段か)

 むろんそれだけの行為ができる技量を持っている事自体はバレるが、逆に言えばそんな事が出来る技量を持った相手の手の内がほとんど明かされないまま戦うというのはかなりのストレスとなりうる。それに、これに勝ってもまだ決勝が残っている。そこまでできるだけ隠しておこうと考えての行動だろう。

 それからさらに数合ほど片手剣と槍の突き合戦は続いたが、そのすべてにおいてカナさんが上回った。更にはカナさんは涼しい顔だが相手は肩で息をする姿を隠せない。どちらがどれだけ優位に立っているかをまさに見せつけられている光景がそこにはあった。それでも、相手は槍を落として負けを認めたりはしなかった。再び突きを放つ構えを見せる。

「今度こそ、今度こそ突き破る……」

 そんな言葉が耳に届き、相手の両腕に力が入っていく。まるで槍を持つ手から血がにじみ出そうなほどに強く握りしめ、歯を食いしばって全力の突きを放とうとしているのが良く分かった──自分の想像が正しければ、完全にカナさんの術中にはまってしまっているな。カナさんはカナさんで再び突きで迎撃するような構えを取る。

(さて、これで答え合わせになるかな? 自分の予想とカナさんの考えが同じかどうか。もし同じであるなら、カナさんは相手の突きを突き返して相殺する以外の行動に出るはず)

 相手は数回呼吸を整えて、息を止めた。ああ、完全に突きを今から放ちますよと言わんばかりの呼吸じゃないか。カナさんにとってはいいタイミングを計る要素以外の何物でもないぞ。繰り出される突きは、力を籠めすぎて体の動きもばらばらで──隙だらけだった。完全に相手は己を見失っていた。カナさんに完全に己を壊されていた。

 カナさんはその突きに対して片手剣で迎撃するようなことはせず、大盾を使って受け流した。狙いを狂わされた突きはその勢いのまま止まらず、相手の体勢を壊滅的なまでに崩すことになった。当然、そこにカナさんの片手剣が振るわれる。

「御終いです」

 その一言と共にカナさんの片手剣が相手の首を刎ね飛ばした。首は武舞台の上を転がり、そして相手の体と共に武舞台の上から消えた。

『決着です! 次の順番の方は武舞台に上がる準備をしてください!』

 と、運営役のプレイヤーの声が響き渡る。こちら側の次の選手はノーラだったな。カナさんはゆっくりと武舞台を後にした。心を攻めた後に技術で攻めて完膚なきまでに叩きのめしたな……これ、相手はトラウマを抱えたんじゃないのかね? 自分の技が全く通じず、さらには首を刎ねられて負けるとか、ショックどころの話じゃないだろう。

「無事勝利を収める事が出来ました」

 と、穏やかに口にしたカナさん。そこにはすでに武舞台の上で相手を手玉にとって完膚なきまでに潰した夜叉の姿はない。

「お疲れ様、大体狙い通りに事を運べたという感じでいいのかな? 心を揺さぶって、その後に技で勝る事で相手の本領を発揮させずに勝つ。という事を最初から狙っていたと思えたけど」

 自分は正直に感想を述べた。と言ってもこれは、最後まで見たからこその感想なんだけどね。

「ええ、そう思っていただいて結構です。向こうも強者成れど、こういった手段に対する経験は浅かったようですね。少々やりすぎてしまったかもしれませんが、ここはまだ通過点。自分の手をあまり晒したくありませんから」

 カナさんの返答がこれだった。やはり自分の想像通りの狙いであったという事だろう。更にカザミネがここで口を開く。

「オサカゲさんの道場では、こういった事も武術の一つとして取り入れていますからね。こういったことも知らなければ対処できない。という理由です。もちろん暗器関連もありますよ。そういう意味では、アースさんの戦い方という物はいい学びを得られています」

 あー、やっぱり道場で教えていたか。通りでやり方がスムーズだと思ったよ。そして、知らなければ対処できないというのもわかる。特に暗器や言葉による挑発などは知らないと相手の狙いに乗ってしまいがちだ。だが知識があれば、相手の狙いが多少なりとも予想できる。予想がつけば、対処法を思い出して動ける。この差は大きい。

「言葉もまた、武器であると父は常に言っていますから。言葉で心を乱されれば、容易く人は折れるもの。故に言葉を学び、言葉を理解し、言葉に負けぬようにしなければならないと。その教えを、実際に仕掛けてみて痛感しました」

 ああ、そうだろうね。相手は本来の動きが出来ずに型も崩れ、終いには力のみを追い求めて本来の技を忘れてしまっていた。あれでは勝てるはずもない……今まで身に着けてきたものをすべて捨てた形になってしまっていた。

「相手の子、今日眠れないかもね。口惜しさと自分自身の無様な姿を大勢にみられて……寝ようとしてもフラッシュバックで苦しめられそう」

 ロナちゃんがそんなことを口にする。ああ、それは想像できるな。自分も同じようにやられて負けたら、悔しくて悔しくてたまらないだろう。それこそ目を閉じるたびに、自分の情けなさが襲い掛かってきそうだ。そして眠れない夜を過ごす、と。

「しかし、それも経験だ。誰だってそういう悔しさは味わった事があるんじゃないか? この世界じゃなくってリアルの方でもな。そういう悔しさをバネにして生きる外ないのが人間なんだろう」

 と、レイジ。まあ、そうかもしれない。リアルでもこっちの世界でも、悔しい思いをしたことがないという人はあまりいないんじゃないだろうか? むろんその悔しさの差こそあれど。自分も、ワンモアに限定するだけでも──エルを目の前で殺されてしまった時や、霜点さんを見捨てる外なくロスト・ロスの前から逃げかえった時などは特に悔しさや情けなさ、そして怒りを強く覚えた。そして、砂龍師匠の一件も──

(エルは今でも変身したときのみ使える弓の中にその魂の一部を宿しているが、やっぱり彼女には生きていて欲しかった。師匠も自分がやられなければ今でもきっとお世話になったあの場所で訓練をいろんな人につけていったんだろう)

 そう思い返すと、あの時の痛みが胸の中に蘇る。仇は討ったが、それですべてに納得がいくわけじゃない。真同化の世界で出会った霜点さんを始めとした人々の仇も討てたが……ああ、思い出すだけで胸が痛い。この痛みと悔しさは、ずっと消えることは無いんだろう。だが、それでいい。それだけ、大事に思っているという証拠になるのだから。
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